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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
3/124

ep2.困惑と過去

※ep3.とep4.を合わせました。

それに伴って話数を修正しました。

 母親は、長い眠りから目覚めたばかりの可愛い愛娘、蒼空を見つめている。


 そして指先でその愛らしい蒼空の、綺麗な瞳、その目じりから溢れ出た涙をそっとぬぐう。


 蒼空もそんな母親をじっと見つめ返す。


 色白な肌、すっきりとした目鼻立ちの中にも、やわらかさを感じさせる面長で綺麗な顔、自然な感じにウェーブさせた髪を背中に届こうかというばかりに伸ばしている。女性の中では背の髙い母親の姿は覚えていた姿よりも少しやつれて見える。けれど蒼空に見せている表情はどこまでも優しい――。


 じっと見つめてくる蒼空に、母親の手がふたたび伸び、小さくてかわいらしい頭をやさしく撫でる。


 蒼空は、気持ち良さげに目を細める。


「蒼空……、本当に目が覚めてよかった!」


 母親がふたたび声をかけ、やさしい笑顔を見せる。

 蒼空もその愛くるしい顔にまだぎこちないながらも、かすかに笑顔を浮かべ……、


「おかあ……さん、……お母さん!」


 そう声に出し、うれしさを精一杯表現する。

 そして母親に撫でられながらも、蒼空は次第に考えはじめる。目が覚め、頭痛はまだするものの……思考がハッキリしだすと、どんどんその考えがアタマを占めるようになってくる。

 蒼空は、まだまだ微妙にこわばる表情ながらも、その考えの答えをもとめ母親に問いかける。


「お母さ……ん? ぼ、ボクっていったい……」


 なぜこんなところに?

 なんでこんなに自由がきかない……。

 どうしてこんなに……。


 そう、意識がハッキリとし母親に撫でられたことで、自分自身もお母さんに手を伸ばし、触れようとした。

 けどその意思とは裏腹に、自由のきかないカラダ。顔を横に向けるのにも苦労をするほどの無力なカラダ。


 何なのコレ?

 まるっきり自分のカラダじゃないみたい……。


 目覚めて間もないながらも蒼空は、だんだんと自分のカラダへの違和感がにじみ出てくる。


 そんな蒼空の問いかけ、様子に母親は表情を曇らせる。

 先ほどまでの笑顔がだんだん沈んだものへと変わっていく――。


柚月ゆづきさん」


 今まで後ろに控え沈黙を守っていた医師が母親に声をかける。

 医師の方を見る母親にうなずきながら医師が言う。


「柚月さん、ここからは私のほうから蒼空くんにお話しましょう」


 少しほっとしたよな表情になる母親。

 蒼空に問われたことを、自ら話すには自身もまだつらい……、たとえ1年以上の時が経っていたとしても……。


「お願いします……」


 そう医師に答えつつ、軽く頭をさげる。


「ええ、それじゃ」


 そう答えながら医師は蒼空の寝るベッドへと近づく。

 看護師の西森が不安げに医師の顔を見るが、医師は気付かないそぶりで蒼空の方を見て声をかける。


「やぁ、蒼空くん。はじめまして」


 医師は蒼空にそう話しかける。

 蒼空もようやく医師に気付き、かすかに驚くがそれでも挨拶を返す。


「はじ……め、まして?」


「うん、はじめまして。


 とは言っても、私達にとっては長い間君のこと見守っていたから、初めましてという感じではないんだけどね。


 でも、そう。君にとっては……、はじめましてだね」

 

 根がオシャベリなのか余計なことをいう医師。


「私の名前はイシワタ、石渡徹っていうんだ。君を担当している "脳神経外科" の医師だよ」


 よろしくなと、優しい笑顔を蒼空へ向ける。

 蒼空は、一瞬目を見開くも言葉を発することもなく石渡医師を見つめている。石渡は肩をすくめつつ話を続ける。


「と、その前に蒼空君……、今の体の具合はどんなもんかな? 気持ち悪いとか……ない?」


 蒼空は、その問いに素直に頭が少しうずくように痛いこと……を告げ、でもガマンできないようなものでもないから――という感じで、先を促すように医師に話す。


「そっか、頭が痛いねぇ……(意識が戻って脳の活動が活発になった……とかかな?)、まぁ……、いいでしょう」


 石渡は、気持ちを切り替え再び話しはじめる。


「とりあえず君の体に起こったことを端的に説明するよ。

 ホントは今すぐじゃなく……君がもう少し落ち着いてからにしようと思ったんだけど、ね」


 石渡の中では長い間担当してきたからか、妙に馴れ馴れしい話し方であるが、そんな様子から一呼吸置き、表情を引き締めると話を始める。

 母親は心持緊張を深め、蒼空の方を心配げに見やる。看護師の西森は緊張からか思わずゴクリとつばを飲み込んだ。


「まず、君の今おかれている状況なんだけど……」


 そういいながら、石渡はベッドの脇にあった丸イスを持ってきて座る。

 そんな様子を伺いながら、不安そうな表情を浮かべつつも話を聞こうとする蒼空。


「君は……1年と、え~5ヶ月ほど前になるかな? 事故にあったんだ。覚えているかい?」


 蒼空に質問したように聞こえたが返事は期待していないのか、そのまま話し続ける。


「その事故で君は大変な怪我を負ってしまってね。そのままではとても助からないと判断されるくらい重症だったらしいんだ……」


 蒼空はおとなしく、じっと聞き入っている。


「もっとも私自身がその時、その場で直接関わっていた訳ではないんだけどね。その当時……の"関係者"が、ある方法で君の命を、もてあそ……いや、助ける手段を持っていてね」


 石渡はそう言った時、一瞬表情をゆがめ――、すぐに何もなかったかのように話を続ける。


「で、その関係者……の元で治療・・を重ねた結果、君は一命をとりとめたんだが、さっきも言ったように、それは1年以上前の話なんだよ……」


 色々話を端折っているような説明ぶりだが、蒼空はまだそこまではとても頭がまわらず、気付くこともない。

 そんな蒼空の様子を見て、苦々しい表情をしながらも石渡はさらに続ける。


「君は非常に難易度の高い手術を受けたものの、無事手術は成功した――。


 成功はしたんだけど、君の意識が戻ることは残念ながら無かった。


 色々、本当に色々、手を施されてはいたようなんだが、ね」


 ここでもまた石渡は顔をしかめながら話している。


「その後、またひともん……ゴホン、色々あって……病院も変わって、最終的に私の居るここ "国立医療研究中央病院" っていうんだけどね。

 ここに移ってきてからも可能な限りに治療を施していたんだが、結局、力及ばずでね――」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる石渡。

「だけど……」と続ける。


「ご家族のみなさんにもほんと申し訳なかったんけど……。


 今こうやって、君は1年5ヶ月ぶりに目を覚まし、お母さんと言葉を交わすことが出来ている」


 そう言いながら、そっと手を伸ばし蒼空の頭をやさしく撫でる。

 蒼空は、一瞬びくりと身じろぎするが……蒼空なりに感謝しているのだろう、おとなしく撫でられている。


「君が今になって目を覚ましたのは何が原因なのか? は、わからない。

 始めから時間が解決することだったのかもしれないし、今までの治療が遅まきながらも効果を現したのかもしれない……」


 やるせない気持ちで話す石渡。


「あと、君は手術後ずっと目を覚まさず1年以上寝たきりだったからね。体が動くことにそもそも慣れていない……。

 それに、例え動く機能が完全であった・・・・・・……、としても、筋力も衰えているからいずれにせよ動けないだろうしね」


 今度は少々意味深な発言をする。


「ま、これから少しずつ体を慣らして、焦らずゆっくりとリハビリをすることだ。

 大丈夫! 必ず普通の生活が出来るようなるし、私たちもその為なら誠心誠意、努力は惜しまないつもりだよ」


 下がったところで話を聞いていた西森もうんうんと、一人うなずいている。そして石渡はポンっと蒼空の頭を軽くたたき、これで話はおしまいというように丸イスから腰を上げる。

 蒼空は、まだまだ聞きたいことはたくさんある……という面持ちで石渡をぎこちなく見上げる。


「今日はもうこれくらにしておこうな?

 まだ目が覚めたばかりだというのに無理してはいけないよ。これから色々検査もしなくちゃいけないし……、君自身もいろいろと……ね」


 石渡の口調には、さきほどまでの重苦しさはすでに感じられない。


「は、はぃ……」


 残念だけどまだ頭も痛いし、お母さんも気になるし……、と納得し返事を返す蒼空。


 ――まだまだ肝心なコトの説明が大きく抜けているのだが、今その話をすることは酷過ぎるだろう。

 彼女、いや彼には今しばらく、母親と目が覚めたばかりのこのひと時を、穏やかに過ごす時間が必要だろう……。石渡はそう考えるのだった。


「じゃあ、私は一旦失礼させてもらうよ? こう見えて結構忙しい身でね……」


 軽く微笑みながらも看護師を見て言う。


「西森君、あとのことはよろしく頼むよ? 蒼空君は目覚めたとはいえまだまだ安静が必要だしね」

「はい、わかりました。任せてください!」


 胸をポンっとたたきながら石渡に答える。

 うん、と西森にうなずきながら石渡は、「じゃあ」と蒼空に軽く手を振りながらベッドから離れ……、母親についでのように声をかける。


「柚月さん? ちょっと……」


 入り口近くで手招きをする石渡に母親が近づいていき、その母親に石渡はいくぶん声を落として告げる。


彼の姿・・・のこと……ですが、まだ目が覚めたばかりで彼自身、周りのことは見えてないし、自分のこともしかりでしょう。

 今すぐそのことを彼にいうのはショックが大きすぎると思いましたので言いませんでした。それに事件のこと……についてもね」


 一旦言葉を切り母親を見、そして続ける。


「このことは、明日改めて私から話してもいいし、あるいは……」


 と、いいかけたところで母親がさえぎりながら言う。


「そのことは私から伝えます。あの子にはゆっくり……おびえさせないよう、落ち着いて話してみよう……と、そう思います」


 母親は毅然とした態度で、しっかりと石渡医師に告げる。


「そうですか……、うん、それもいいでしょう。

 ですが何かあったときはいつでも相談してください。西森君も、もうしばらくは専属でつけますので、そちらもなんでも使ってやってください」


 そう言いながら看護師の西森の方を見る。

 笑顔を見せながらうなずく西森。


「ありがとうございます」


 感謝の気持ちをこめ、お礼をする。

 石渡医師、そして西森へと……。


 そんなやり取りの後、石渡が去りぎわにもう一言。


「明日からは忙しくなりますよ? 蒼空君の検査、今後のリハビリ、ご家族もいろいろあるでしょう?


 ……蒼空くんの妹さん、彼女にも早く教えてあげなきゃ、ね? よろこびますよ、きっと」


 最後の言葉を聞いて母親は優しい……満面の笑みを浮かべる。


「それじゃ!」


 その表情に笑顔を返し、妙にさわやかな雰囲気を残しつつ、石渡は去って行ったのだった。



読んでくださる方々がみえるようでウレシイです、ありがとうございます。


そういうのってすごい励みになるものなんですネ。


書いてみて初めてわかった気がします。

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