ep26.伯母さんの作戦
※話数を修正しました。
お母さんが出かけてから、ボクと春奈はお昼ごはんを食べたり、春奈がお洋服を着替え(タンクトップの上にトレーナー、コーデュロイスカートにレギンス……と普通にカジュアルなカッコだ。 ずるい!)たり、リビングでTVを見たり……と、適当に時間をつぶしながらすごした。
2時間半ほど過ぎ、TVにも飽き、やることもなく退屈になってきた頃、お母さんの車が帰ってくるのが窓から見える。
「あ、お姉ちゃん! お母さん帰ってきたよ」
春奈がそれにいち早く気付いて言う。
「え、ホント? 良かったぁ、ボクもう退屈でどうにかなっちゃうかと思ったよ~」
「よし、それじゃお姉ちゃんはココで待っててね? 私出迎えてくるから!」
「えぇ? ボクも行ったほうがいいんじゃない?」
ボクが疑問に思って聞くと、
「いいのいいの! お姉ちゃんが行くと玄関で抱擁劇が始まっちゃうじゃない? そんなことになったら面倒じゃん」
春奈、なにげにひどいこと言ってる気がするなぁ……、でも一理ある、かな?
「……う、うん、わかった。 じゃそうする」
「じゃ、そういうコトで~」
春奈が、手をヒラヒラ振って玄関のほうへ向かって行った。
ボクは車イスに座ったままで、ソファーには座らず伯母さんが来るのを待っていた。
しばらくすると玄関のほうから騒がしいくらいの声が聞こえてくる。 春奈のもう悲鳴に近いんじゃないか?っていうくらいの声も聞こえる。
一体何が起こってるの? ボク、やっぱりこの場から逃げたくなってきた……。
その声はだんだんリビングに近づいてきて……、その女の人としてはかなり高い身長の……お母さんのお姉さん、瑞穂伯母さんが春奈と腕を組みながら(引きずりながら?)入ってきた。
お母さんはその後ろから苦笑いしながら付いてきてる。
伯母さんは、リビングに入るとすぐボクに気付き、春奈と組んでいた腕をほどき、そのままの流れでボクに近づいてきて、以外にも落ち着いた感じで話しかけてきた。
「蒼空……ちゃん、ほんと蒼空ちゃんだわ!」
そう言うと、伯母さんは背の高いその体をかがめ、ボクの顔に両手を添えて……そのお顔を近づけてきた。
伯母さんはもう40を越える年のはずだけど、肌はまだ若々しく30代前半でも通用しそうで、面長ですっきりした目鼻立ちのその顔は、姉妹だけあってお母さんにソックリですごくキレイ。 すっきりお顔に沿うようにきめたショートヘアが活発な伯母さんに良く似合ってる。
そしてそのままボクのおでこにまずキスをする。
「蒼空ちゃん。 蒼空ちゃんはあの時、お眠りしてたからもちろん覚えてるはずないんだけど、あの時も私、蒼空ちゃんのおでこにキスしたのよ? ……今こうしてかわいらしい目を開けてる蒼空ちゃんにキスできるなんて……、ほんと夢のようだわ!」
そう言うと伯母さんは、再びボクにキスをする。
おでこ、アタマ、ほっぺ、耳……、次々キスをする。
ボクは恥ずかしいけど、伯母さんのその気持ちもわかるから素直にキスを受けてる。
でも次に伯母さんは力技をしかけてきた。
ボクの両脇に手を差し入れ、そのまま抱き上げちゃったのだ。 ボクは落ちないよう伯母さんの首に手を回してぎゅっと抱きつくカッコになる。 それがまた伯母さんを喜ばせたようで、そのままクルクル回りだしちゃった。 いくらボクが小さくて軽いっていっても30キロちょっとはあるのに……。
「蒼空ちゃん、ほんと目が覚めてよかったわ! こんなかわいらし~子なんですもん。 ずっとベッドに寝かしとくなんてもったいないわよね? うふふっ」
「それにしても、なんてかわいらしいお洋服! 日向ったらずいぶんおめかしさせちゃって」
そう言って、回りながらもボクのほっぺにキスしまくる伯母さん。 ボクはもう、落ちないよう伯母さんに抱きつくのに必死だ。 そしてだんだん目も回ってくる。
お母さんが見かねて、
「ね、姉さん! 蒼空が目を回しちゃうわ! いいかげん下ろしてあげて?」
「あらあら、いやだっ、私ったら!」
伯母さんは、お母さんの言葉でやっとボクの様子に気付いてくれたようで……、ようやく車イスに下ろしてくれた。
ボクは、軽くアタマを振って落ちつかせた。 そんなボクの様子を見ながら、伯母さんは今度はボクのアタマをいたわるよう、なでだして言う。
「でも蒼空ちゃん、前もかわいかったけど、今のかわいさは、ほんと他に比べるものがないレベルだわ! 国宝級?」
お、伯母さん……。 身びいきもココまで来るとすごいよ。 ボクはもう人ごとのように関心してしまった。
「日向から、蒼空ちゃんが目を覚ましたって聞いた時は、私神様に感謝したのよ? ……普段は無神論者なんだけどね。 で、それを聞いたらもう、早く蒼空ちゃんの顔が見たくて見たくてしょうがなくなっちゃって。 でも仕事の区切りがなかなか付かなくてねぇ……」
――色々表情を変えつつも話しを続けてる伯母さん。 もう独壇場です。
今は伯母さんはソファーに座ってるんだけど、ボクはというと、その伯母さんの膝の上に座らされてる状態で……抱えられてます。 正直、相当恥ずかしいです。 見た目はともかく精神年齢15才のボクにはつらいです。
そんな中、ボクはふと春奈のほうを見てみると、やつめぇ、肩を軽くすくめながらニヤっと笑い、小さく口を動かし……(かわいいよ、お姉ちゃん。 あきらめなよ) と言いやがりました。(いや実際にはっきり聞こえたわけじゃないんだけど、絶対そう言ってる)
ボクは思わず春奈に向って "いぃ~" って顔をしてやった。 それを見た春奈は……、"ふっ" って、"ふっ" って鼻で笑ってきたよ! 悔しい~!
そんなやり取りをしてたら話がまたボクに振られてきた。
「蒼空ちゃん、中学卒業の資格とらなきゃダメなんですって? それに高校のこともあるものね?」
「う、うん」
ボクは突然の学校の話にちょっとついていけない。
「今、日向と話してたんだけど、私の娘の千尋が国立の大学に行っててね、教育学部の確か今2年生かな? その千尋に蒼空ちゃんの学校の勉強みさせたらどうかって、勧めてるとこなのよ?」
え、千尋姉さん? 従姉の千尋さんには、小さい頃、春奈と一緒によく遊んでもらった記憶はあるけど……、ここ数年は全然会ってなかったなぁ。
「へぇ~、千尋姉ちゃんがお姉ちゃんにお勉強を? それすごくいいよ! 春奈は賛成~♪」
春奈が先手を打って伯母さんに言う。
「まぁ春奈ちゃん、ありがとう! 蒼空ちゃんはどう?」
「もう、姉さんったら、まだ本人の了解も得てないんだから。 気が早いわよ」
お母さんも伯母さんには頭が上がらないみたい。 伯母さんに完全にペースを握られてるよ。
「ぼ、ボクは、お母さんがいいならそれでいい。 千尋さんも好きだし」
ボクはお母さんにお任せだ。 どうせボクの意見なんて通らないだろうしさ……。
「よし、それじゃこの話進めちゃう! 日向? 私、千尋に確認取るから、あなたこの家にあの娘を住まわせたらどうかしら? どうせ勉強教えるなら、住み込みでやらせたほうがお互い楽でしょ? それにあの娘もその方がアパート代やら食費とか浮いて助かるだろうし、家庭教師を引き受けさせるいい"エサ" になるわよ?」
伯母さんってスゴイ。 あのお母さんに有無を言わせない、圧倒的なパワーだよ。
やっぱ伯母さんオソルベシ――。
「ね、姉さん……、住み込みって。 私は別にかまわないっていうか、むしろ家に人が増えること自体は、その歓迎なんだけど、……ほんと千尋ちゃんの了解、キッチリ得てからにしてちょうだいね? それに無理強いも絶対しない! それさえ守ってくれるなら……」
お母さんはここで一呼吸おき、それから改めて言った。
「こちらこそ、ぜひお願いします」
「うん、了解!」
伯母さんは満面の笑みでそう言って、更に言う。
「まあ千尋は間違いなくこの条件なら乗るから、日向は準備、進めといていいわよ?」
「蒼空ちゃん、千尋じゃ頼りないかもしれないけど、しっかりお勉強してちゃんと高校行けるようになれるといいわね?」
伯母さんは、そう言ってボクをぎゅっと抱きしめた。
「うん! ありがとう、伯母さん。 ボクがんばる!」
ボクはいつの間にか決まっていった、千尋さんの住み込みでの家庭教師の話に、すごく気持ちが高ぶっていき、知らず知らずのうちに笑みがこぼれ出していた。
その後、お母さんと伯母さんは今後の打ち合わせをしばらくしていて、ボク達はようやく解放されていた。
春奈と一緒にボクの部屋に戻ると、千尋さんが来るかもしれないと思うとワクワクし、その話で大いに盛り上がった。
――用件が済み、夕食を一緒に食べたあと、帰る段階になって伯母さんはボク達にプレゼントをくれた。 どうやら話に夢中になって渡すのを忘れてたらしい。
ボク達は大喜びでプレゼントを受け取りお礼を言った。
「それじゃ伯母さん、千尋と話しつけたらまた(海外の赴任先へ)戻っちゃうから、当分あなた達とも会えないわね。 次はたぶん夏季休暇のとき帰って来るから、その時は二人共かわいいお顔見せてちょうだいね?」
そう言って伯母さんは、ボクと春奈のおでこに次々とキスをし、手を小さく振りながら玄関から出て行く。
「「伯母さんありがとう! また遊びにきてね」」
ボクと春奈は、伯母さんにそう言って手を振りながら、さよならの挨拶をした。
お母さんは、伯母さんを車で送るため再び一緒に出て行った。
* * * * * *
ボクは今まで伯母さんが、……すごく苦手だったけど、今日一日で大好きになっちゃった。 瑞穂伯母さんがまた次に会いに来てくれるのが今からすごく楽しみだ!
今日はホントいい一日だった。
気持ちよく眠れそうだよ……、それにしても家庭教師かぁ、楽しみだけどちょっと不安かも? お勉強ちゃんとできるかなぁ……。
――そんなことを考えながらうとうとし出し、いつしか眠ってしまった蒼空なのであった。 お風呂もまだ入っていないというのに。
その表情は、とても幸せそう……、そんな寝顔を見せていた――。