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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
26/124

ep24.代償

※話数を修正しました。

「か、かほりん~? どうしてお姉ちゃんと一緒に?」

 春奈が驚いて井上先生に声をかけてる。 "かほりん"は先生のアダ名みたい。 アダ名で呼ばれてるなんて、けっこう生徒たちに人気あるのかな?


 ボクはとりあえず、春奈にコトのいきさつを簡単に説明した。

 春奈は聞きながらボクを攻めるような、あきれるような、そして最後にはホッとした表情になって話を聞いてた。


 ボクの説明が終わって、話し出す井上先生。

「ふふ、ついさっきお友達にしてもらったばかりなのよ? 柚月ゆづきって名字、教えてもらったからもしかして? って思ってたんだけど、やっぱりあなたとご姉妹だったのね?」

 井上先生は、そう言って春奈とボクを見る。 今はもう車イスを押す役は春奈と交代していて、井上先生はボク達の隣を歩いていた。


「それにしても……、あなた、春奈さんが……妹なんだ?」

 井上先生は、やはりもっともなことを口にする。 ちょっと遠慮がちに聞いたのはボクを気遣ってくれてるのかな? それでもやっぱ聞きたくなっちゃったんだろうなぁ。

 

 春奈はそれを聞いて、"あぁ、そっか"って顔をし、ボクと目を合わせながら話し出す。

「うっ……はい、この人私のお姉ちゃんなんです」

 そう言ってボクのアタマらへんを指さしながら言う。 人のこと指さしたらダメなんだからぁ……むぅ。


「あ、まずは、お姉ちゃんを助けてもらってありがとうございます」

 ボクから事情を聞いた春奈がお礼を言った。 そうそう親しき仲にも礼儀ありだよね。 ボクが言うのもなんだけど――。


 いえいえ、どういたしまして、そして当然のことをしただけ……と、返す井上先生。

 それに笑顔で答え、続ける。


「えー、見た目はそのぉ、私のがお姉ちゃんのように見えるんですけど――」

 そう言いながらボクの方を見る。 ボクは気にせず言っていいよって感じでうなずく。


「私がほんと妹なんです。 お姉ちゃん、見てもらってわかる通りその、色々あって……、ちょっと人より成長が遅れちゃってて、見た目がお子チャマなんです」

 うぅ、最後の一言がちょっと気になるゾ!


 それだけの話で納得したのかどうかはともかく……、井上先生はうなずいて言う。

「なるほど……、春奈さんが妹さんなのね。 ――そういえば学校でも、よくお姉ちゃんが、お姉ちゃんがって、言ってたのは蒼空さんのことだったのね? ほんとに仲のいいご姉妹なのね?」

 ちょっといたずらっぽい顔で言い、春奈の顔を見る。


「ちょ! かほ……、先生! 変なコト言わないでくださいよぉ。 別に何も言ってないじゃないですか~」

 春奈が赤くなって井上先生に抗議してる。 春奈ったら学校でボクのこと何って言ってるんだろ? ボクは気になって春奈を見る。


「お、お姉ちゃんも、き、気にしなくていいからっ! 何もない、何にも言ってないって」

 春奈は、なんか誤魔化そうと必死だ。 そんな必死になるほどのこと言ってるんだろうか? むぅ……。

 

 そして春奈は話をそらすように、

「そ、そうそう、かほりん……井上先生は私の担任の先生なんだよ!」

「えっ? そ、そうなの?」

 は、春奈! そんな重大情報を今になって。 どおりで春奈がやたら、なれなれしいくらいに先生とお話ししてると思った。 だったらお姉ちゃんとしてココは……。


「井上先生、あの、妹……春奈がいつもお世話になってます」

 ボクはそう言って、感謝の気持ちを伝えた。


 井上先生は微笑みながらうなずき、言う。

「はい、ご丁寧にありがとう。 蒼空さんもいいお姉さんなのね。 でもこれからはご家族に心配かけないようにしなきゃね?」

 最後に先生らしく、注意の言葉もついてきちゃった。 はい、反省してますぅ……。



 ――そんな話をしながら歩いていくと、お家になんかあっという間についちゃうわけで。 実際普通に歩けば近いわけだけど……さ。


 今はお家の門の前だ。 


「先生、ここが私たちのお家です。 もしよかったら寄っていかれませんか? お母さんも会って話したいって言うと思うし……」

 春奈は、井上先生に寄ってもらうよう勧めてる。


「う~ん、ゴメンなさいね春奈さん。 せっかくだけど今日のところはこれで失礼させてもらうわ」

 それにもう暗くなるし、夕方はなにかとお忙しいでしょう……と、井上先生は春奈に言い、最後にボクに向って言う。

「蒼空さん、妹さんにあんまり心配かけちゃだめよ? それに自分の体ももっと大切にしないと……、今日は体をゆっくり休めてカゼとかひかないようにね?」

 そう言って最後にボクのアタマをなでる。 やっぱ最後には子供扱いになってきてるし……。

「は……い、気をつけます。 ありがとうございました」

 最後にもう一度お礼をした。

 うん、と井上先生はうれしそうにうなずいた。

 そして、

「それじゃ! 春奈さん、また明日」

 そう言って軽く手を振り、井上先生は帰って行った。


 いい先生だなぁ……、そう思いつつボクは今からのことを考えると、ちょっと憂鬱ゆううつになった――。



* * * * * *



「お母さん、ただいま! お姉ちゃんもちゃんと一緒だよ~」

 春奈が家に入るなり元気に言う。 そして車イスを床まで押し上げてくれているところで……、


「蒼空!」

 お母さんが緊張感あふれる声……と共に、ボクのトコロまで近づいてきた。

「お母さん……」

 ボクは恐る恐るお母さんを見る。

 

 ボクを見つめてるお母さん。 目が少し赤い……、ボクは心がチクリとうずいた。

 ちゃんと言わなきゃ――。


「お母さん……、勝手にお家から出ちゃって……ごめんなさい。 し、心配かけて……ごめんなさい!」

 ボクは、最後のほうはちょっと涙声になりながら……、お母さんに謝罪の言葉をつげた。


「蒼空!」

 お母さんはもう一度ボクの名前を呼ぶと……、ぎゅっと思いっ切り抱きしめてきた。

「この子ったら、ほんとに、ほんとに心配かけて!」

「ごめんなさい……」

 ボクは、再びあやまった。

 抱きしめられると、ボクもホッとしたのか今までの疲れがどっと出てきて、それと一緒に涙もあふれ出してくる。


 お母さんは、泣きながらもどうしてこんなことしたの? と聞いてくる。

 ボクは涙ながら答えた。

「あの、ね。 退屈で退屈でしかたなくって……、ついお外に出たくなっちゃって。 それに街の公園くらいなら近いし、すぐ行って帰ってこれると思って……」

 だけど、実際には外の道を車イスで進むことの大変さを思い知り、なんとか公園までたどりついたものの力つき……、

「車イスが溝にはまって出られなくなって困ってたトコロに春奈の学校の先生……、井上先生が偶然通りがかって、助けてくれたの。 すっごくうれしかった……」


 ボクは、今までのいきさつを話つつ、井上先生への感謝の気持ちもお母さんに伝えた。


 お母さんは話をするボクを、目を涙で潤ませながら見てる。

 ボクの顔は、お日さまの光を長い間あびたせいか赤くなり目も充血し、かなりひどいことになってるみたい。 体も無理がたたって、もう車イスから立ち上がるどころか腕を上げるのもつらい状態になってきてた。


「ほんとにあなたって子は……無茶をして」

 再びぎゅっと抱きしめて、アタマをなでてくれる。

「もうこんなこと2度としないでね? お願いよ。 お母さん心配で心配で……もう、生きた心地しなかったんだから……ねっ」

 言った最後にボクのおでこをペチっとたたいた。


 「井上先生にもまたお礼しなきゃね。 通りすがり……、見ず知らずの蒼空にそんなにやさしく救いの手を差し伸べてくれたんですもの。 でも春奈の担任の先生だったなんて……、不思議なものね?」


「うん。 あの時はホントうれしかった。 もうあの時はボクどうしようもなくて、泣いちゃってたんだもん……。 春奈の先生だって聞いたときはビックリしちゃった」


「あら、蒼空ったら公園で泣いてたの?」

 ううっ、しまった余計なことまで言っちゃった。 お母さん笑ってるし……、カッコ悪いなぁ、ボク。


「さぁ、蒼空。 お説教はこれくらいにして……まずはお風呂に入りなさい。 汗ずいぶんかいたみたいだし、寒い中ずっとお外にいたせいで体が冷え切ってるわ!」

 ボクの冷たくなった手を握りながら、お母さんが言った。


「春奈、母さんは着替えとか準備しておくから、あなた蒼空と一緒に入ってあげて? もうふらふらみたいだから、しっかり支えてあげてね?」


「は~い、じゃお姉ちゃん行こっ!」

 春奈は返事するなり、ボクの車イスをお風呂場の方へ押し始めた。


 お母さんは、気持ちを切り替え、テキパキと動き出した。

 ボクはというと、疲れ果ててもう春奈とお風呂に入るの恥ずかしいって、言う元気も残ってなかった……。



* * * * * *



 翌日、ボクは見事に熱を出し寝込んでしまった。

 日焼けの余韻と熱のせいでボクのお顔はまっ赤になってるらしい。 目もまだしみるように痛い……。 動くことも全然出来ない。 まるで8月の……目が覚めたときのよう。 手を目の前に持ってくることすらつらいんだ。


 こうなってボクは、昨日以上に昨日の行いを後悔し……、2度とあんな真似はしないとほんとに心に誓った――。



 そして……、今からお母さんに病院に連れて行ってもらうんだけど、ボクがほとんど動けないから移動が大変なのだ。 お母さん、ほんとにほんとに……



「ゴメンナサイ」



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