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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
25/124

ep23.冒険(後)

※話数を修正しました。

 ボクのお家から公園までは、ボクが男の子だったころで、歩いてだいたい5、6分くらいで着くくらいの、近いところにある公園だ。距離でいったら400mもないくらい。

 それくらいなら車イスでも充分いけるよね。ボクはそう思ってあまり深く考えもせず、家を出たんだ。


 でもそれは大きな間違いだった――。


 元気だったころはなんとも思わなかった道路のデコボコや、段差、石ころや砂利……。そんなちょっとした変化が、車イスで移動するボクの妨げになった。ボクが公園に行くのに選んだ道は、多少距離が増えても車がなるべく通らない道を選んだんだけど、それが余計に、そんなやっかいな所がいっぱい出てくる結果になっちゃった。


 途中、道行く人が不思議そうに見ていったり、何か言いたそうにする人(やっぱりボクの姿とか、車イスで一人いるのって相当な違和感?)とかもいたけど、とりあえずは何事も無くすんでいった。


 結局ボクは公園に着くまで、段差やデコボコに悩まされ、疲れては休憩しつつ……で、1時間以上かかってやっと到着したってありさまだった。ボクは途中で何度もあきらめて帰ろうかと思ったけど、なんに対する意地なのか? あきらめないで、結局公園まで到着したのだ。 

 

「もう、ダメ。もうヘトヘトで動けないよぉ」


 せっかく公園に着いたっていうのに喜ぶ余裕なんて全然なかった。小さく華奢な体が悲鳴を上げてる。この体になって、こんなに動いたのは今日が初めてだった。汗も多少なりともかいちゃってる。このままだと冷えてカゼひいちゃうかも? それにノドが乾いてしかたない……。


「どうしよう、まだ帰らなきゃいけないのに……」


 ボクは今さらながら自分のしたことに後悔してた。昔の……、男の子だったころの気分で、公園までのお散歩くらい簡単! と、甘く考えてしまってた。

 こんなにもボクは、力なく、ひ弱になってしまってた。わかってたことなのに……。


 ボクは落ち込んだ気分、それに疲れのせいで、しばらく、ぼーっとその場にたたずんでいた。


 「帰らなきゃ……」


 ボクは、ふと我に返ってそうつぶやいた。



 今になってようやく辺りを見回す。真冬の公園は人影もほとんどなく、着いたころには多少でも聞こえていた小さい子の遊ぶ声も、今は聞こえない。 

 いつの間にか日は傾き、夕暮れの気配がただよい始めていた――。


「寒い……」


 汗が衣服を濡らし、それが冷えて寒気を誘っていた。


 ボクはとりあえず公園のトイレ脇にあった自販機で、あったかい飲み物を買おうと前に向った。たった4、5mの距離だったけど腕が鉛のように重くて、自販機にたどりつくまで永遠にかかるんじゃないかと思えるほどだった。

 それでもなんとかたどり着き、おサイフからお金を出し、手を伸ばしてお金を自販機に入れ、選択ボタンを押す。ボタンは上から3段に分かれてあったけど、なんとか届くのは一番下の段だけ。あったかいの、コーヒーしかない……。苦いからいやだけど、しかたない……。

 出てきた缶コーヒーを取り出すのにも苦労しながらなんか手に取る。


「あたたかい……」


 しばらく、ゆたんぽ代わりにして暖まり、いざ飲もうと思うと今度はフタを開けるのにも一苦労。普段でもちょっと硬くて開けづらいのに、今は手の力も入らないから大変なのだ。


「もう、ふんだりけったりだよぉ……」


 フタと格闘し、なんとか開けてようやく飲めた――。


 暖かい飲み物で人心地ついたボクは、お家のことに考えが及ぶ。


「今何時だろ? 春奈もうとっくに帰って来て、ボクがいない事気付いてるよね……、怒ってるだろうなぁ?」


 それに心配してるだろうなぁ……。


「帰ろう!」


 ボクはようやく帰る決心を固め、重い体を無理矢理動かし、元来た方向に車イスを進め出した。

 

 西の空はすでに夕焼けに染まり始めている。


「早く帰らなきゃ日が暮れちゃう!」


 気は焦るけど、やっぱり疲れで全然力が入らず遅々として進まない。やっと進めたと思ってもちょっとした石一つでもあれば引っかかって止まっちゃう。行きはそんなのは避けながらいけてたんだけど、今はそんな余裕すらない。

 ボクは、情けなさとさみしさで悲しくなってきて、とうとう半泣き状態だ。

 ぐずりながらも、引っかかっては進み……を繰り返し、少しずつ、少しずつ進ませるボク。


 そんな時だった。


「お嬢ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」


 そう言って声をかけてくれた人がいた。

 その人はくぼみに引っかかって動けなくなってるボクのところに近づいてきて、車イスをその場所から移動させてくれた。


「あ、ありがとう……」


 ボクは戸惑いながらもお礼をいい、その人を見た。

 20代半ばくらいの女の人で、背は低め、すごい美人ってわけじゃないけど、かわいらしい感じのやさしそうな人だ。


「いえいえ、どういたしまして。それにしてもどうしたの? こんな夕暮れ時に……、お嬢ちゃん一人なの?」


 そう言いながらボクの方を見てくる女の人。

 その顔は、ちょっと驚いた表情を見せる。けど何も言わない。

 ボクはそれを見てちょっと安心した。興味本位でズケズケと聞いてくるような人じゃなさそうだ。そして素直に答えた。


「は、はい……。一人でちょっと公園までお散歩しようとしたんだけど、思うように動けなくなってしまって……、いつの間にかこんな時間になっちゃって」


「そうなんだぁ? 一人でお散歩かぁ、えらいねぇ。でもこの辺の道って裏通りのせいもあってか結構荒れてるでしょ? 車イスだと大変だと思うな。お嬢ちゃん、よくここまで一人でこれたね? すごいなぁ」


 小さい子に話しかけるような口調で話す女の人。

 この人、絶対ボクのこと小学生だと思ってるなぁ……、仕方ないけど。 


「それで、お家はここから遠いの? 車イスで来たんだからそんなこともないのかな? お嬢ちゃんさえよかったら、お姉さんが送っていってあげようか?」


「え? そんな、今さっきあった人にそんなこと……」


 ボクが戸惑っていると……、


「あ、私のこと変な人だと思ってる? 心配しなくていいよ、私こう見えても学校の先生してるのよ? ほらすぐそこにある国崎中よ。今学校の帰りなのよ?」


 そしてこれを見てと言って小さな長方形の紙を差し出した。


 ボクは、恐る恐る受け取って、それを見る。これって名刺ってやつかな? お母さんがいっぱい持ってたのと似てるし。

 ボクは書いてある字を読もうとしたけど小さくてよく読めず、目の前まで近づけて読もうとした。

 それを見た自称先生は、


「あらゴメンなさい、まだ読めなかったかなぁ? そこにはね、学校の名前と先生であること、それにもちろん私の名前が印刷してあるの」


 どうやらボクが漢字が読めないと勘違いしたみたいで名刺の説明をしてくれた。


「あ、遅れましたけど私は、井上いのうえ 夏帆かほっていいいます。国語の先生をやってるのよ? よろしくね」


 ついでに自己紹介までしてくれた。夏帆先生かぁ……、っていうか国崎中っていえば、春奈が通ってる中学じゃん!(ボクも1年だけ行ってたけど……、自主退学? てことになってるんだっけ?)


「あの、わ、私……、柚月 蒼空っていいます」


 ボクもちゃんと自己紹介した。ウソはいってなさそうだし、どう見ても悪い人に見えないし。


柚月(ゆづき)さんかぁ、めずらしいお名前ねぇ? ウチの学校にもそんな名字の女の子がいるはずだけど? ……まぁ、いっか。それじゃ行きましょうか?」


 どうやら、絶対ボクを送っていく気満々のようだなぁ。


「ほ、ほんとにいいんですか?」


 ボクはまだ、お願いしていいのか迷ってる。だって余りにも申し訳なさすぎるもん。


「いいの、いいの! 子供はそんなことで遠慮なんてしないの。こんなところにかわいい女の子一人で放っておくなんて、私にはできないわ?」


 そう言って井上先生(もう先生でいいよね)は、さっさとボクの車イスを押しにかかる。


「さぁ、どこに行けばいいのかなぁ?」


ボクは、もうあきらめて素直に家の住所と、とりあえずの方向を指差した。


「あら、なんだ、すぐ近くじゃない? こんな距離で遠慮なんてしなくて良かったのに」


 ボクは、ちょっとムッとした。どうせボクはこんな距離も満足に動くことも出来ないダメな子なんだもん……。


「…………」


 だまりこんだボクに、すぐ井上先生は自分の失言? に気が付いたみたいですぐさま、


「あ、ご、ゴメンなさい。こんな距離なんて言ってしまって。そうよね、柚月さんにとっては大変な距離だったんだものね。私ったらダメね」


 井上先生は、やっぱりいい人みたい!


「ううん、いいんです。私……こそ、無理して一人でお散歩したりしたから、いけなかったんだし……、ごめんなさい。助けてもらってほんとうれしいです!」


「ありがとう!」


 ボクはそういって、車イスを押してくれている井上先生を仰ぎ見た。


「か、かわいいっ!」


 井上先生は思わずそう口に出す。


「はぅ」


 ボクは慌てて正面に向き直った。

 これではいつものパターンに入ってしまう。これ以上刺激を与えないようにしておこう。(ボクも学習するのだ)

 井上先生は、ちょっと残念そうにしながらも車イスを押してくれている。

 ボクはさっきまでの緊張がウソのようにほぐれてきて、とたんに疲れが出てくるのを感じていた。 そしてちょっとうとうとしだしたとき――。



「お、お姉ちゃん!」


 うとうとしだしたボクは、はっとして声のほうを見た。


「は、春奈?」


 春奈はボクを見るなり思いっきり駆け寄ってきてこう言った。


「お姉ちゃん! もう一人で外に出るなんてぇ! 私、どれだけ心配したか……」


 そして、思いっきり肩から抱き寄せられちゃった。

 春奈はボクの背中をなでながら、


「ほんとに心配したんだから……、携帯にかけても出ないし、どんどん日は暮れてくるし」


 春奈、涙声だ……。


「ご、ごめん。ごめんなさい」


 ボクは、心から悪いと思い、……あやまった。


「もう、謝ったってそう簡単には許してやらないんだからぁ~」


 春奈はまだ怒りたりないようだ。でも仕方ないか、今回はボク自身も自業自得とはいえ大変な日になっちゃったし……。


「春奈? ほんとごめんね? ボク、もう2度とこんな勝手なことしないから……ね?」

「う、うん……、ほんとにほんとよ? うそついたら承知しないんだからね」

「うん、絶対。 約束!」


 ボクは、そう言って春奈のアタマをなでる。

 それを見て微笑みながらも、春奈の"お姉ちゃん"発言にちょっと不思議そうな表情を浮かべている井上先生。そりゃあ、ボクがお姉ちゃんって言われるのは変なのかもしれないけどさぁ……。


 そんなことはさておき――、ボクは先生を春奈に紹介しようとした。


「春奈、この人が困ってたボクを助けてくれたん……?」



 ん? 春奈?



「か、かほりん~?」


 春奈は井上先生を見て指さした。


「あら、柚月さんってやっぱり?」


 井上先生はどうやら、ボクの名字から気付いてた?



 でも、"かほりん"って?



ちょっと思ったより長くなって、まとまりきらなかった…

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