表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
2章
24/124

ep22.冒険(前)

※話数を修正しました。

 市内の病院を退院してから2週間がたった――。


 退院してからのボクは、朝、春奈を学校へ送り出したあと、お母さんに病院まで送ってもらいリハビリに励んでる。 3時間ほどのリハビリをこなしお昼には、お母さんが迎えに来てくれるから、一緒にお昼ごはんを食べてからお家へ送ってもらう。

 昼からはボクにとって、これといってする事もない退屈な時間が待っている。 春奈が帰ってくるまではホント誰もいなくて、ちょっとさみしかったりする。 春奈の中学の教材を使って勉強をしてみたりもするけど、一人でやっても全然身が入らないし……。

 でもお母さんが時々、様子を見に戻って来てくれるときは、すごくうれしかったりする。

 お母さんは、パソコンソフトやCAD?とかのオペレーターさんを派遣したりする会社を経営していて、オフィスはJRの駅のすぐそばにある。 お家からでも10分かからずに行けるからとっても便利なのだ。 社長であるお母さんは、要所要所で重要な指示だけすれば、あとは部下の人に任せておけるので、案外自由な時間がとれるんだって。 それに緊急な要件があっても携帯もあるからなんとかなるみたいだ。

 

 はぁ、それにしても退屈……、早く春奈帰ってこないかなぁ?


 ゲームは、やれば出来なくはないけど元々あんまり好きじゃないし、目がすごく疲れる。 読書も同じで、文庫本とかって字が小さくて、ずっとルーペで追わなきゃいけないからやっぱ疲れちゃう。 みんな教科書なみに大きな字になればいいのに? 教科書は別の意味で疲れちゃうけどね……えへへっ。


 ボクは、することもなくお部屋のベッドに女の子らしくない、だらしないカッコで横になってる。 誰も見てないんだからかまわないんだもんねっ。


「ああ、退屈。 毎日退屈で死にそうだよ〜」

 思わず声を出してしまった。

 退院してからの数日は、お家に帰れたうれしさで毎日が楽しかったけど、それを過ぎるとたった一人、することもなく、外に出ることも出来ず、ただお家にいるだけ――。 


「お外、行きたいなぁ……」

 ボクは、外に行きたくてたまらなくなってきた。


 そして、そう思うとその考えが止まらなくなってきた。


「…………」


「行っちゃおっか?」


 ついにガマンしきれずに行動を起こすボク。


 ベッドからむくりと起き上がり、ベッド脇に作り付けてある手すりを使って立ち上がる。 ここまでならもうバッチリ出来るのだ。

 次に脇に置いてあった松葉杖を使い、よたよたとクローゼットまで行きなんとか扉を開けることに成功。

 しかし問題発生。 ハンガーまで手が届かない!

 お気に入りのファー付きのコートは、はるか上のハンガー(かなり大げさ)にかかっていて、松葉杖をつきながら上に手を伸ばすのは無謀を通り越して無理です……。


 ――ちなみに、今リハビリは平行棒から一歩進んで、歩行補助具を使った訓練もしてるのだ。 松葉杖を使った歩行も多少出来るようになったけど、腕がすぐつかれちゃうから大して進めもしないけど。 お家の中をよたよた歩く分には充分! 残念ながら、まだ手すりだけで歩くのはすぐ腰砕けになっちゃうんだけど――。

 

 仕方が無いから、コートのスソを引っ張って、無理やり引きずり下ろす作戦で行く。

『バササッ』

 コートがクローゼットの下に落ちてくる。 作戦セイコ~!


 あとはニット帽を棚から出して……。 あ、日焼け止めも一応塗っとかなきゃ、冬の日差しにも油断しちゃダメって香織さんから言われてるし。


 準備が整ったボクの姿は、タートルネックのニットカットソーにショートパンツ、裏起毛のあったかレギンスにファー付きのコートを羽織り、念のためにブランケットも準備、足元もファー付きのブーツで行くつもり。

 よし、眼鏡(度付きのサングラス)も掛けたし、いよいよ出発だ!


 ボクは、車イスにうんしょと乗り移り、意気揚々と玄関まで進んだ。

 しかし、ここでまた問題発生!

 お家の床と、玄関の土間の段差にスロープがあるんだけど、そこを一人で降りるのって……。 どうしよう。

 うーん、ここはちょっとかっこ悪いけど――。

 ボクは車イスから降りて、まず車イスをスロープを使わずに土間に落とした。 ちょっと車イスさんには、かわいそうなことしたけどカンベンしてね。 それで土間に下りた車イスに乗り込んで、クリアだ! やれば出来るじゃん、ボク。 えへへっ♪


 こうしてボクは、ちょっと苦労したけど玄関のドアを開けて外に出て、モチロンきっちりドアに鍵をかけてから、とうとうお家の外に出ることに成功した!


 お家の外は、勝手知ったる自分の庭だった街。 とはいうものの自分の体と、車イスってことで今日のところは、すぐ近くにある公園を目指してお散歩することにする。 時間かけ過ぎると春奈も帰ってきちゃうといけないし。


「よし、公園まで冒険開始だ~!」

 ボクは、ワクワクしながら車イスを公園に向けて進めた。



* * * * * *



「お姉ちゃん、たっだいま~!」

 春奈は、家に入るとすぐ蒼空に呼びかける。


 ………………。


「あれ? 寝ちゃってるのかな?」

 春奈は、蒼空からの返事がないため部屋で寝ているのかと思い、自分の荷物はリビングのソファーに放り投げると、そのまま蒼空の部屋へと向かう。


『コンコン』

 部屋の扉をノックしつつ、返事も聞かずに引き戸を開く春奈。

「お姉ちゃん、ただいま。 寝てるのかなぁ?」

 蒼空が寝ているといけないので控えめな声で、呼びかけながら部屋に入る春奈。

 

 静かに声をかけながら……、

「おねぇ……ちゃん?」

 ベッドを覗き込む春奈。


「……?」


「お、お姉ちゃん?」


 蒼空の姿はそこにはなかった。


 慌てて部屋中を見渡すも、やはり姿は無く……。

「え、ええぇ~! お姉ちゃんがいないぃ~?」

 

 もしかしてトイレかも? と思いそこも確認したが……、蒼空の姿は無かった。 念のため2階も確認したが、そこにもやはりいない。


「ちょ、お姉ちゃんったら、どこに? どこに行っちゃったのぉ~?」


 しばらく動揺していた春奈だったが――、よくよく冷静になって考えてみると……、まず車イスが無い。 そして、お気に入りだったファー付きの白いコートも無くなっている。 そもそもクローゼットの扉が開きっぱなしで、しかもそこには松葉杖も転がっている。

 玄関のほうに行ってみれば、案の定、下駄箱からお姉ちゃんのブーツも無くなっている。 


「むむぅ、お姉ちゃんめぇ。 さては外に散歩にでも行きやがりましたねぇ!」

 春奈は、なんともいえない口調で蒼空の行動を攻め立てた。

「ったくぅ! 自分の体のことちっともわかってないんだからぁ……、一人でどこにいっちゃったのよ~」

 春奈の口調からは、勝手に外に出た蒼空に対しての怒りよりも、心配のほうが大きくなってきていた。


 春奈は蒼空が行きそうなところを考えてみる。 答えは簡単だった。


「公園ね……」

 蒼空の足(車イス)と体力で行けるところといえば限られてくるし、落ち着けるところという意味でも公園がイチバンだ。


 春奈は、目星を付けるととりあえず、お母さんに電話を入れた。

「あ、お母さん? 今大丈夫? 仕事中ゴメンね。 でも緊急事態なの!」

 そう言って蒼空が家から抜け出したことを伝える。 そして行き先の目星も付けたからとりあえずそこを見に行くと告げる。


 日向は、また何かあったら連絡ちょうだいね、といい電話を切ると、自分も仕事を切り上げて部下に早退を告げ会社から家に向かうのだった。


 お母さんに連絡を入れて人心地ついた春奈は、再度気合を入れて言う。

「よし、とっととお姉ちゃんを連れ戻しにいくぞ~!」

 言葉とは裏腹に、蒼空が一人でそんなところに行っていることが心配でならない春奈は、学校から帰ってきたそのままの姿で、家を飛び出していくのであった。



 公園に向かいながらも春奈は心配でつい考える――。


 もう、お姉ちゃんったら……、もうちょっと自分の姿に自覚持って欲しいよぉ。 車イスに乗った11、2才くらいにしか見えない、あんなキレイで真っ白な髪した、かわいい女の子が……、いくら住宅街の中の公園っていったって、一人で……。


「あぁん、もう! お姉ちゃん、無事でいてよね!」



 時間は、いつしか16時をまわろうとしている。 真冬であるこの時期の日暮れは早い。 春奈の心配が杞憂である……と祈るしかない――。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ