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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
21/124

ep20.やすらぎ

※話数を修正しました。

 ボクのお家は、T市内にある病院から南へ12km、車で30分ほど走った所にある、湖に流れ込む川沿いに作られた街の中にある。 街の近くには緑も多く、運動公園や学校、公共施設も結構あって、なかなか住みやすい、いい街なんじゃないかなぁと思ってる。 東に2kmくらい行くとJRの駅があって、その周辺はいろんなお店が立ち並び賑わいを見せてる。


「さぁ、着いた! 春奈、先に行って玄関開けてきてちょうだい?」

 お母さんが車の後ろから車イスを出す準備をしながら言う。


「りょうか~い! お姉ちゃんはとりあえずそこでおとなしく待っててね? 準備するから」


「は~い、よろしくお願いしま~す」

 ここはおとなしく言うことを聞くボク。

 迷惑かけたくないって思う気持ちはまだあるけど、それを言えば逆にお説教くらっちゃう。 家族なんだからあたりまえでしょ? って。 だからボクも甘えちゃおうと思うんだ……遠慮なしにさ。

 でもいつか2人にお礼ができたらなぁ……とひそかに考えてる。 ふふ、絶対実現させてやるんだから楽しみにしててね? お母さん、春奈!


「蒼空、準備できたわよ?」

 お母さんが車イスをドアの脇に寄せてくれる。 ボクは車のシートからドアのそばまでいざって足を下ろし、お母さんに支えてもらいながら車イスに移動する。


「よし。 それじゃ、お家に入りましょう!」


「うん!」

 お母さんの呼びかけに元気に答えて、ふとお家のほうを見る。

 2階建ての洋風のお家で、2階には大きめのバルコニーもある。 玄関を挟んで両側に車2台分の駐車場と、キレイに整えられたお庭があって……、見ていると懐かしさがこみ上げてくる。


 帰ってきたんだなぁ――。


「ほら、行くわよ?」

 つい懐かしさに、ぼーっとしてしまってたボクに声をかけるお母さん。


「あ、うん。 行こう行こう。 お願いしま~す!」


「よし、久しぶりのお家。 見て驚かないでよ?」

 そう言いながらお母さんは勢いよく車イスを押し玄関に向かって行く。 なんだろ? 驚かないでって? 何かボクを驚かすイタズラでも考えてるのかな?


 玄関では、春奈がドアを開けて待っててくれた。

「お姉ちゃん、おそ~い! 待ちくたびれちゃったよぉ」

 春奈が文句を言う。


「ごめん、ごめん、つい懐かしくってお家を眺めちゃって……」


「……そっかぁ、ごめんなさい。 久しぶりなんだもんね……、それなのに私ったら」

 しょげる春奈。


「ああ、そんな気にしなくていいから、さあ入ろう?」

 思わずふさぎ込む春奈に、声をかけて促す。


「……うん。 じゃ行こ~♪」

 あっさり気持ちを立て直す春奈。 やっぱ女の子は強いや。(ボクも今はそうなんだけど……ね)


 お家の中に入ると、玄関の土間から床にはスロープが付けてあって車イスでそのまま入れるようにしてあった。 お母さんはボクを乗せたまま床まで押し上げてくれた。

「お母さん、大丈夫? 重くない?」


「平気よ、これくらい。 蒼空は軽いから片手でも大丈夫なくらいよ?」


 いくらなんでも片手は危ないと思う。 でも、

「ありがとう、お母さん。 ちゃんとこんなの、準備してくれてたんだ」


「どういたしまして! 中もちゃーんとしてあるわよ? お母さん、まだ荷物持ってこないといけないから先に入っててね」

 車イスのタイヤを拭きながらお母さんが言った。


「うん、わかった。 中もどんなか見せてもらうねぇ」

 中は何がしてあるのかなぁ? 驚くことってこれのことだったのかな? ボクはそう考えつつ、春奈とリビングのほうへ向かった。


 お家の中は、カベには要所要所に手すりが付けてあり、床も段差にはスロープが、開閉で邪魔になるドアも引き戸に替えてあった。 ボクのためにここまでしてくれてあったなんて……。

 

「すごいでしょ? お母さんが、お姉ちゃんがお家に戻ってきたとき、なるべく不自由しないようにってリフォームしちゃったの。 2階にあったお姉ちゃんのお部屋も1階に移したんだよ? 私も手伝ったんだから~」

 驚いてるボクに春奈が説明してくれた。


「ほんとすごいや、これなら車イスで移動するのも楽だし歩くときにも安心だね! お部屋まで1階に下ろしてくれてるなんて……ありがとね、春奈!」


「えへへぇ、どういたしましてっ」

 うれしそうに微笑む春奈。


「さっ、リビングで休も! ショートケーキ買って来てあるんだ♪ もちろん苺もあるよ。 私準備するからそこで待っててね」


「うん、いいねぇ! よろしく~」


 ウチはリビングダイニングだから春奈がうれしそうに準備しだす姿がよく見えた。 ボクはソファーまで車イスを横付けすると、気合を入れて移動した。 これくらいの小移動なら伝いながらなんとか出来るのだ!

 ケーキを待ってる間、テーブルの上に置いてあったTVのリモコンを操作し、適当につけて時間をつぶす。 よく知らない芸人の人達が出てるバラエティー番組をやってた。


 ボクは、ソファーにぽすっと体を預け、人心地つけた。


「はぁ、やっぱお家は安心するなぁ」

 


 帰ってきたんだ。


 ボクのお家、ボクの居場所へ。


 家族のもとに。


 …………。


 ボクは安心したせいか、急に眠たくなってきちゃった。 まだこれから苺ショート食べなきゃいけないのに……。


 でもあまりの気持ち良さに、もう耐えられそうにないや……。



 

 日向が荷物の片付けを済ませリビングに入ってくると、そこにはすでにソファーで気持ちよく寝入っている蒼空の姿があった。


 日向はその隣に座り、蒼空のかわいらしい頭をやさしくなでる。 その真っ白な雪のような髪。 今では肩よりも長いほどに伸びたキラキラと輝く、そしてさらさらなキレイな髪。

 そのキレイさと裏腹に蒼空の体は、普通の子と違うハンデを背負わされてしまっている。 そんな蒼空が不憫でならない。 でもそれを蒼空に悟らせていけない、不安にさせないよう家族でしっかり支えてやらなくては……。

 日向はかわいい顔をして寝入っている蒼空を見て改めてそう思うのだった。


「あれ、お母さん? お姉ちゃん……は、寝ちゃったんだ?」

 春奈は日向の横で眠っている蒼空を見る。


「なぁんだぁ、せっかくケーキとお茶、用意したのになぁ」


「まぁそう言わないの。 蒼空ったら、病院からお家に帰ってくるまで、言わないけど相当緊張してたんだと思うわ。 だからきっと疲れちゃったのよ」

 日向はそう言って春奈を慰める。 ケーキは、お母さんが代わりにいただいちゃうわ? といたずらっぽく言い、春奈から受け取る。


「蒼空には、私の分を後でまた出してあげてね」


「はーい」

 春奈はそう言うと、ケーキとお茶をテーブルに置き、向かいのソファーにボスンっと座り日向と食べはじめた。 蒼空は日向の横で、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てて眠っている。


 その表情は、無防備で、安心しきった、やすらぎに満ちたかわいい顔。


 日向と春奈は、そんな蒼空を見て2人でしっかりと守ってやらなければ……と、やさしい表情で見つめる。 


「ううん。 もう食べられないよぉ……」

 蒼空が突然寝言を言う。


 日向と春奈は、その寝言に思わず見つめ合い……、


「うふふっ」


 2人して幸せな気分になり、微笑み合うのであった。



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