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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
18/124

ep17.充実

 お家に帰れると聞いてからのボクは、今までにも増してリハビリに励んだ。


 ついつい、いつもの時間以上にがんばってやろうとするものだから、理学療法士の先生に、あまり無理しちゃダメって叱られちゃった。


 無理して体壊しちゃったら素も子もないから気をつけなきゃね。


 この日は、沙希ちゃんも病院に来てたんだけど、ようやくギプスも取れて、これからリハビリも始めるらしい。 なんか普通に歩けるようになるまで、2、3ヶ月はかかるみたい。

 どっちが早く歩けるようになるか競争だね? って言ったら、ちょっと間を置いてから笑顔で そうだねって、言ってくれた。 ――あれは絶対自分のが早いのにって思ってるよ……、がんばって早く歩けるようになって見返してやるから見てなよぉ~。


 そんなことを考えつつ、リハビリを終えて病室に向かう。

 自分一人でも移動は出来るけど、いつも香織さんが押してくれている。 リハビリで疲れたあとに無理しちゃダメだって。


 最近はけっこう顔見知りの人も出来て、声をかけてくれる人もいたりする。


「やあ蒼空ちゃん、リハビリだったのかい? いつも頑張っててえらいねぇ」


「蒼空ちゃん、今日もかわいいね」


「お菓子あるよ、ちょっと寄っていかないかい?」

 ――お菓子もらえるのはうれしいけど、"おせんべい"とか"あられ"とか、ボク苦手……かといっていらないともいえず――、最近の微妙な悩みの種なんだよね。


 みんなカンペキ、ボクを子供扱いしてるのが不満なんだけどいい人ばっかりで、こんなこともリハビリの励みや、お散歩するときの楽しみの一つになってる。


「蒼空ちゃん――、みんなやさしくていい人たちね」

 香織さんが、車イスを押しながら話しかけてくる。

「うん!」

 ボクは、目を細め笑顔で答えた。



 病室に戻ると香織さんが一通りボクの体調を確認する。(検温とか脈拍とか、そんなの)


 それも終わり一息ついてると春奈がやってきた。 いつも学校が終わるとその足でここまで来てくれてる――、ホント春奈にはアタマが上がらない。


「お姉ちゃん、ただいま! もう今日のリハビリ終わった? 無理してない?」

「おかえり、春奈!」

 春奈もボクもなんだかここがお家みたいな感覚でお話しする。

「リハビリ終わったよ! ……大丈夫、ボク無理なんかしないもん」

 ホントは、無理して叱られたけどナイショだ。


 そこに香織さんが……、

「あら、蒼空ちゃん? 確かリハビリの先生に無理しちゃダメって叱られてなかったかしら?」

 ニヤリと笑いながら言う。

「なっ、香織さん!!」

 ボクが目を見開いて香織さんを見て、それからそっと春奈の方を……、

「お姉ちゃ~ん?」

 そこには、笑顔なのになぜか怖いボクの妹さまが――、ひぃ~!


「もう、無理しちゃダメだっていつもいってるのに聞かないんだから!」

 そう言いながら、持ってきたトートバッグをごそごそしてる。

「そんなお姉ちゃんには、コレはお預けかなぁ?」

 春奈はバッグから、かわいい取っ手の付いた小さめの箱を取り出し、掲げながら軽く振る。

「あ、銀月堂の箱ぉ! もしかして苺のショートケーキぃ?」

 ボクが思わず期待を込めて聞く。


「えへぇ、さあてどうでしょう? でも言うこと聞かないお姉ちゃんにはぁ……、どうしよっかなぁ?」

「そ、そんなぁ……」

 ボクは思いっきりしょぼくれる。 どうにも甘いものに目がなくなってしまった今日この頃なのだ。

 そんなボクを見て春奈が言う。

「今度から絶対無理しないって約束してくれたら……」

 言いつつ、また箱を軽く振る。

「あげてもいいんだけどなぁ?」

 思いっきり子悪魔のような顔をして笑う春奈。


 ううっ! は、春奈めぇ、人の弱みに付け込んでぇ~。


 でも背に腹はかえられない。

「うん、約束! 約束するよ? 今日だってホント、大して無理はしてないんだもん」

 約束すると言いながら、今日の言い訳もするボク。

「ふ~ん、ホントかなぁ?」

 ボクの表情を伺うように覗き込んでくる春奈。


 その春奈の目を必死の表情で見つめるボク。


「ぷっ」

 春奈が思わず吹き出す。

「えへへっ」

 ボクもちょっとバツ悪く笑う。

「もう、しょうがないいんだからぁ……、今日は特別。 特別だかんね?」

 そう言って春奈はベッド脇のテーブルに箱を置いて、ケーキの準備を始めた。

「うん、まかしといて! ボクは約束は必ず守る、お、女の子だよ」

 ……そうそう、女の子、女の子。 アブナイ、あぶない。


「あ、香織さんの分もありますからぜひ食べてくださいねぇ~♪」

「あら、そうなの? うれしいわ! 銀月堂のショートケーキ……おいしいのよねぇ、ありがとう、春奈ちゃん」

 

 どういたしましてと笑顔を返す春奈。


 そうして3人でプチお茶会を楽しんだ。



* * * * * *



 苺ショートを食べて幸せいっぱいになった後――、春奈の学校の話しや友達との話しを聞いてたら石渡先生が現われた。 先生、またケーキの時に登場だ。 実は一緒に食べたかったりして? うふふっ。


「やぁ、蒼空ちゃん! お、それに春奈ちゃんもいらっしゃい。 いつもえらいね!」

 今日も先生の口は調子いいみたいだ……。


「こんにちは、先生。 今日はどうしたんですか? 何かありましたっけ」

 とりあえず聞いてみる。

「あれ、なんだか冷たいな? 用がなきゃ来ちゃだめかい?」

 そう言ってニヤリと笑う先生。 ……いつも楽しそうだなぁ、この先生。

「そ、そんなことないけどぉ……」

 思わず言いよどむボク。


「ま、もちろん用があるから……来たんだけどね?」

 

 むぅ…ホント、この先生は――。


「で、今日はだ。 プレゼントを持ってきた!」

 そう言って、ポケットから小箱を二つ取り出す。 細長いのと四角いの、二つだ。

 そしてそれをボクに手渡してくれた。

「あ、ありがとう?」

 ボクは戸惑いながらもお礼を言うと、小さい手で落としそうになりながらもそれを受け取り、説明を求めるように先生の顔を見る。


 春奈も興味深そうに覗き込んでくる。


「開けてみてごらん?」

 先生がやさしく言う。


 ボクはうなずいて、それから手渡された小箱を開てみける。――まずは細長いやつだ。

 ぎこちない手つきで紙の小箱を開けると中にはピンク色の皮ぽい素材で出来たケースが入ってた。 これってもしかして!


 ボクは、先生の方をパッと見上げた。


 先生はうなずいてる。


 そのケースをパカっと開けると――、淡いピンク色をした細めのフレームが横長に太目の微妙に四角ぎみの楕円を描いてレンズを収め、テンプル(つる)も、それに合った細長いラインを描いている――、かわいらしい眼鏡が入ってた。


「うわぁ、眼鏡だぁ。 これってこの間、検査して作ってもらってたやつですよねぇ?」

 もう出来たんだぁ! そう言いながらボクはかけてもいい? と、問うように先生を見る。


 先生は もちろん と、掛けることを促す。


 ボクは、そっと眼鏡をケースから取り出し掛けてみる。

「うわぁ! お姉ちゃん、すっごく似合ってる。 かわいいよぉ♪」

 まずは春奈が一言。

 ボクは、春奈を見る。

 髪の毛を高めのポニーテールでまとめ、全体的にふわっと、くしゅくしゅした感じにしてる。 そのかわいらしい顔のつぶらな瞳で、ボクを見てる。 ――多少見えるようになった? でも相変わらずのぼやけた視界で、やっぱ目が良くなったって感じ……じゃない。

 検査の時も言われたけど、やっぱり無理なのかなぁ。


 眼鏡のレンズは、薄く茶色がかった感じでパッと見、これで効果あるのかなぁ? と思ったけど、掛けてみるとけっこう光を減らしてくれてる感じがする。 きっと紫外線も防いでくれるんだろう? わかんないけど。


 眼鏡を掛けてあちこち見てたら、香織さんが以前も使った鏡を持ってきて、ボクに手渡してくれた。

 小さな顔に華奢なフレームのかわいらしい眼鏡……、すごく似合ってる気がする。 付け心地も悪くない気がするし……、ボク的にはスゴクいいんじゃないかなぁ? と思うんだけど。


「どうだい? 蒼空ちゃん」

「は、はぁ……、えっとカタチや付け心地はとっても気に入ったんですけど……。 あのぉ、やっぱり視力は良くなった感じ……、しないです」


「なるほど……」

 うなずく先生、そして続ける。

「……残念だけどね、蒼空ちゃん。 君の目は、視力の矯正がすごく難しらしいんだ。 眼鏡をかけてもほとんど変化がないらしい。 視力はそれで"0.3"あるかどうか? ってとこで、眼鏡を掛けるのはどちらかっていうと紫外線……太陽の日差しや、いろんな光のまぶしさから目を守るってことが主な目的だってことを理解して欲しいんだ」


 石渡先生は一気に説明して、ボクの頭をなでる。

「期待させちゃったかな?」

「ううん、そんなことはない……です。 これで外に出られるようになると思えば、うれしいもん!」

 ボクは、残念だけど色々やってもらって感謝してるので本心からそう答えた。

「そうか……」

 先生は、静かにうなずいた。


「もう一つの方も見てくれよ? あまり使わないかもしれないけど」

 うなずいてボクは、もう一つの小箱も開けてみた。 もちろんカラーコンタクトレンズだった。

 奇をてらわずに、普通に黒色のカラコンだ。 度付きだから眼鏡代わりに出来るけど、目を傷めやすいからあまり使わないほうがいいんだって。


「付け方はこの前にも聞いてると思うけど、不安だったら西森くんに聞いてもらってもいいし、説明書も付いてるからお母さんか春奈ちゃんに読んでもらうのもいいかもね」


「あぁ! それと一度病院の中庭や屋上とか……、短時間なら出てみてもかまわないから。 西森君にでも連れて行ってもらうといい」


「え?」


「それじゃ、いそがしいんもんでこれで失礼するよ」 

 じゃあ! といながら、言いたいことだけ(放り投げるように)言って、いつものごとく去っていった。 先生! ぜぇ~ったい、わざとやってるよね?


 ボクと春奈は、香織さんに説明を求めるように視線を送る。


「あはははは……、こ、困ったものだよね? 先生ったら」

「私も今さっき聞いたのよ? ほんと、黙ってたわけじゃなく……ね?」


「「はぁ…」」

 ボクと春奈、二人でためいき。


 でもその表情はみるみる笑顔に変わっていく。


「お外に出てもいい……かぁ」

 貰ったばかりの眼鏡を掛けたまま、ボクはにやけてる。



 ようやく外に出られる。



 ボクは、そのことでアタマがいっぱいになり――。

 春奈や香織さんが、声をかけてくれていることにも気付かず、外への想いをめぐらせていた――。


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