ep14.友達
女の子の体になって初めて……、友達が出来たみたい。
事故の前の、中学のときの友達とは会う勇気は持てないし、たとえその気になったとしても今はまだ会いに行くこともできないし――。
だから年の近い子の友達が出来る……、なんてことはまだ当分は無理って思ってた。
きっかけは、偶然だった。(出会いって、そもそも偶然から始まるものかな?)
日曜日の午後、めずらしく春奈が友達と遊びに出掛けた(春奈にはもっと自分の時間をとって欲しいんだ……)ので、暇してたボクは、リハビリもかねて病院内をお散歩しようと、車イスでウロウロしてたんだ――。
車イスを動かすには、両輪についてるハンドトリムを回転させなきゃいけないから、筋力がまだ充分でないボクには結構な重労働なのだ。(もう全身運動みたいなものだ)
土・日は、外来が基本お休みだから通路もあんまり人がいなくて動きやすい。
それに人が多いとチラチラと覗き見されて恥ずかしい……、ボクの姿は、やっぱめずらしいのか、相当目立つみたい。(まあ、あからさまにじっと見てくる人はそうはいないけど)
それでも、最近はこうやって一人で車イスを使っての、お散歩をよくするようになった。
春奈は最初、心配してなかなか一人でのお散歩をさせてくれなかったけど、香織さんも説得に協力してくれて最後には折れてくれた。
今では、行く前に一声かけさえすればよほどのコトがない限り、お散歩に行かせてくれる。 みんな、ずっと病院から出られないボクに、気を使ってくれてるのかなぁ?
話しが、それちゃった。
で、2Fの談話室方面に行ってから、そろそろ自分の病室の方へ戻ろうとした時だった――、その子に出会ったのは。
見た目はボクと同じくらいか、ちょっと年上(見た目だよ、見た目)に見える、背の低い、でもボクよりは高い女の子で、
――ボクはこの間身体測定されたら、140cmなかった……小さすぎてショック大きすぎ。
あ、またそれちゃった。
その子は、髪の毛をツインテールにした、ちょっとたれ目の、でもとってもかわいい女の子だったんだけど……ボクと目があったとたん――、すさまじいまでの "がん見" をされてしまった!
いや、たぶんその前から見られてた気がする……。
(ここまであからさまに見られると逆にすがすがしい気がしてくるよ……)
その女の子は、骨折したのか足をギプスで固定されてて松葉杖で歩いてたんだけど、気を(ボクの方へ)そらしちゃったせいか、つまずいて転びそうになっちゃった。
だからボクも思わず、危ないっ! って声を出しちゃった。
まぁ、なんとか立て直したみたいだったけど、ぼーっとした感じで動きが止まっちゃったから一応、大丈夫ですか? って聞いてみた。
問題なかったみたいで、平気……、ありがとう って笑って答えてくれたので、ボクも良かった って笑って答えたんだ。
でも、その後すごく青い顔になってきて、じゃ急ぎますから って感じで慌てて離れていっちゃった。
大丈夫なのかなぁ? 変わった子だなぁって、その時は思った。
* * * * * *
「ねぇ、吉田さん知ってるかな?」
私は検温に来た看護師さんに聞いてみた。
「どうしたのぉ? 沙希ちゃん」
「あのね、さっき車イスに乗ったすっごくかわいい女の子を見たんだけど……、その子の髪の毛がね、もう真っ白なの! キラキラしてすっごくキレイで、そんでもって目もキレーなルビーみたいな色してるの! ちっちゃくて可愛くてもう天使みたいな子だったの~」
私は興奮していっきにまくしたてちゃった。
看護師の吉田さんは、ははぁっといった感じで納得顔。
「なるほどぉ、その女の子が誰なのかはわかったよ。 けど沙希ちゃん? その子のこと聞いてどうしたいのぉ?」
「教えてあげてもいいんだけど、それはその理由によるかなぁ?」
興味本位だけで蒼空ちゃんのことを見て欲しくかった吉田はそう聞いてみた。
「もちろん、お友達になりたいの! さっき見かけたときもホントはそうしたかったんだけど、その時はちょっと、その、オシッコ漏れちゃいそうだったから……」
そう言って赤くなる沙希ちゃん。
「そうかぁ、お友達になりたいかぁ……う~ん」
吉田は、どうしようかと考える。
蒼空ちゃんは、あの外見からどうしても病院内で目立ちやすい。 最近は車イスで動き周れるようになったおかげで色々な人の目に触れるようになり、更に顕著になってきた。
中には不躾にジロジロ見たり、差別的なことを言う人がいたりするから、蒼空ちゃんがキズ付くようなことにならないか心配だ……、というのが看護師仲間の総意だったりする。
「どうしたの? 吉田さん」
沙希はだまりこんでしまった吉田を見て問いかける。 ついはしゃいじゃったけど、あの子のこと……言っちゃまずかったのかな? なんかわかんないけど――、ちょっと不安になってきた沙希。
「あ、ごめんごめん。 じゃあさぁ、私一度その子を担当してる看護師さんに聞いてみるよぉ。 お友達になりたがってる、かわい~子がいるんだけどどうですかぁって?」
不安にさせたようだったので、わざとふざけ気味に話す吉田。
「ホント? わぁい楽しみ~! なるべく早く聞いてくださいね~、吉田さん♪」
一気にテンション上がった沙希。
「うん、今日その人にあったらソッコーで聞いちゃうから安心して、結果期待しててネェ!」
「お願いしま~す!」
はいはぁい、といいながら吉田は沙希から体温計を預かり、確認するとバイバイと手を振りながら病室を出て行った。
* * * * * *
「蒼空ちゃ~ん、お客さま連れてきたわよ~!」
香織さんが、妙にテンション上げて入ってきた。
後ろにはもう一人看護師さんがいて、その人が、ちょっと離れたとこに居たらしいそのお客さま……を、手招きして病室の方へ呼んでる。
ボクとお友達になりたいって言ってくれてる子らしい。
ボクも出来れば友達は欲しかったから、会ってみてもいいっていい、こうして病室に来てもらうことになり、ベッドじゃなく車イスにすわって来てくれるのを待ってた。(なんかお見合いみたいだ……)
その子が看護師さんに連れられて入ってきた。
入ってきたのは、昨日の……ちょっと変わった、松葉杖をついたあの女の子だった。
だからボクは顔を見るなり――、
「あぁ!」
と言って指さし、そして自然と笑顔になった。
その子も、入ってきてすぐは緊張してたみたいだけど、ボクがすぐ笑顔になったので、つられたようにパァっと明るい笑顔になった。
「はじめまして? とはちょっと違うけど……はじめまして。 柚月 蒼空っていいます」
部屋の主らしく、まずは挨拶しっかりしなきゃね。
「お友達になってくれるって言われたからうれしくって! よろしくね?」
続けてこういって返事を待つボク。
「あ、はじめまして? こんにちは」
その子もそういいつつ思わずにやけてる。 昨日の今日だからやっぱそうなるよね……ふふっ。
蒼空の考えとは裏腹に、その内心は実は……、「きゃ~! て、天使ちゃんが、め、目の前に~!」な訳であるが。
「あの、私は、渡辺 沙希っていいます。 昨日は変な対応しちゃってゴメンなさい……、実はあのときすっごくおトイレに行きたくって……」
そういいながら顔をまっ赤にしてうつむく。
「そうだったんだぁ、良かったぁ。 だってあのとき、渡辺さん? お顔真っ青になりながら慌ててどっかいっちゃったから、心配しちゃったぁ」
ボクは真相を聞いて安心し、また笑った。(まぁ、そんなに心配してたわけでもないけど)
ボクは渡辺さんにイスを勧めて座ってもらい、香織さんともう一人の看護師さんを見た。
それに反応し香織さん、
「蒼空ちゃん、私たちはまだ仕事があるから離れさせてもらうわね、もう大丈夫よね?」
「沙希ちゃん、そういうことだからぁ。 あとは若い二人に任せるから――、私たちは仕事に戻るねぇ?」
うふふっ、ともう一人看護師さんもいう、でもなんか言い回しがヘンだし。
「よ、吉田さん? なんかその言い方、おかしいぃ!」
もうっ、とふてる渡辺さん。
「渡辺さんは骨折しちゃって入院したんだよね、痛くなぁい?」
ボクは、何をしゃべっていいかわからないのでとりあえず、見たままに感じた質問をして見た。
「あ、沙希でいいよ、沙希で」
「それじゃ、ボクも蒼空でいいよ!」
「ぼ、ボク?」
「あ、いや……」
しまった、ついボクって言っちゃった。
渡辺さん、もとい、沙希ちゃんは、ボクの質問そっちのけでボクのボク発言? に食いついてきちゃった!
「ボク、ぼく……、ボクっ娘ぉ?」
きたーー! 何この拷問! 白髪、赤目のファンタジー、おまけにボクっ娘~!? もう、私に死ねとぉ~? ああダメもう限界よぉ〜!
「さ、沙希ちゃん?」
なんか、沙希ちゃんの雰囲気が――、ボク……身の危険を感じるのは気のせい、なのかな?
「そ、蒼空……ちゃん?」
「は、はい?」
「ごめん、まだ知り合ったばかり、なのに、でも――、もう限界ぃ!」
「え、ええぇ~!?」
沙希ちゃんが、ボクに飛びつくように抱きついてきて、
「あ~ん、蒼空ちゃん! かわいぃ~! かわいすぎるぅ~~!」
ボクの胸のあたりで頬をすりすりする。
結局またこうなってしまった……。
なにこの、この既視感。 いやハッキリ覚えてるんだからそうじゃないかぁ。
麗香さんに続き、今度は沙希ちゃんですか。
やれやれだよ……。
沙希ちゃん…気に入りました。