ep13.幕間
※話数を修正しました。
== 甘えんぼ ==
夏休みが終わり、学校が始まってからの最初の週末。
いつものように蒼空のリハビリが終わって家に帰ってきた春奈が、晩ご飯の支度している日向のところに向かう。
「ただいま~」
「お帰り春奈、リハビリのお手伝いご苦労さま!」
ううん、そんなの当然のことだもん と健気なことを言いつつ問いかける。
「ねぇお母さん?」
「ん? どうしたの?」
「あのねぇ私、お姉ちゃんが目覚めてからずっと、なんとなく思ってたんだけど……」
「何を思ってたの?」
「うん、えっとね、お姉ちゃんってさぁ……、来月には15才になるって割りにはさ、子供っぽ過ぎないかなぁ? なんて思って」
妹の私が言うのもなんだけど、といって続ける。
「それってやっぱ、13才のころから眠り続けてたのとか、女の子の体になったのとか……が原因なのかなぁ?」
「それにお姉ちゃんの体の年齢って、まだ11才くらいなんでしょ?」
まじで子供だもんねぇ……とため息。
日向はそれを聞いて、ちょっと考えるそぶりを見せてから答えた。
「そうねぇ、確かにちょっと甘えんぼさんだなって感じることは多いわね……。 普通14、5才の子供なら、反抗期でけっこう大変だったりするのかもしれないけど――」
「ウチの場合はちょっと色々あったし、春奈もそうだけど反抗期ってものとは無縁だったしね?」
と春奈を見ながら言う。
「やっぱり1年半近く眠っていたことが大きいのかも知れないわね……、蒼空の中では13才の時のまま止まっていて、まだ気持ちはあの時のままなのかも?」
途中から、ちょっと寂しそうな顔をして話す日向。
「それに目が覚めてすぐ、いろんな環境の変化や、事件のこと、なによりやっぱり女の子として生きて行かなくちゃならなくなったんだもの……、不安な気持ちが大きくなって、どうしても甘えたくなってしまうんじゃないかしら?」
春奈は日向の言葉を受けて、
「うん、そうだね――、そうだよね? 不安に決まってるよね?」
自分に聞かせるように繰り返し言った。
「体の年齢は確かに11才ちょっとらしいんだけど、それに心が引きずられることがあるのかどうか? は、お医者さまに聞かないとわからないけど――」
「いずれにしても――私たちは、家族なんだから蒼空のことしっかり支えてあげなきゃね?」
そう言って日向は、隣まで来た春奈をそばに寄せ、腕のあたりをやさしくなでてあげる。
「私、お姉ちゃんが不安に思わないよう出来る限りのことする!」
「春奈はホントいい子ね? いい子に育ってくれてお母さんうれしい……」
そう言って今度は頭をなでる。
「えへへぇ」
うれしそうに満面の笑みを浮かべる春奈。
「あと、女の子のしゃべり方とか、おしゃれの仕方とか色々覚えてもらわなきゃいけないね?」
とちょっと意地悪そうな顔をして言う。
「まぁ、春奈ったら!」
そういいつつ更に、
「蒼空ったらこの先、やること山積みで大変そうね?」
と一言。
そして二人は顔を見合わせて――、「うふふっ」 と笑うのだった。
* * * * * *
==プレゼント==
10月27日――、この日はボクの15回目の誕生日。
目が覚めてから3ヶ月近くが過ぎ、リハビリは苦労しながらも少しずつ進み、車イスでの移動くらいは一人で出来るようになり――、今は立ち上がることまでは出来るようになった。
(まだふらついて、すぐこけそうになっちゃうけど)
そんなボクのがんばり(自分で言うのもなんだけどがんばってるよ、ボク)に対するご褒美もかねて、誕生パーティーをみんなが開いてくれた。
病室での、ささやかではあるけど心のこもったパーティー。
モチロン石渡先生の許可はキッチリもらってるから問題は何もないのだ。
おいしいケーキや、お菓子、もちろん"プレゼント"も、貰って楽しく充実した日を過ごすことが出来てすごく幸せな気持ちになった。
プレゼントなんだけど、ボクにとってはとてもありがたい病院の方々ならでは、の品物ももらった。
一つは杖、そしてもう一つは携帯用のルーペだ。
杖は、まだまだふらついて危なっかしいボクが、体を支えるのに重宝しそう。
カーボンっていう、すっごく軽くて丈夫な素材で出来てて、長さ調整も出来、しかも折りたたむことまで出来ちゃう! 見た目もけっこうカッコいい……とても杖といってバカに出来ない逸品なのだ!
携帯用のルーペは、視力がかなり弱いボクのために(ホントはしたくないけど)勉強するときや本を読む時なんかに字を大きくして見れるようにと贈ってくれたんだ。
これって暗に勉強しっかりやれって言われてるのかななぁ?
ちなみに、杖が石渡先生、ルーペが香織さんだ。
普段から色々お世話になって迷惑かけてるのに、こんなプレゼントまで貰っちゃうなんて
ボクはホント、感謝の言葉くらいしか返せなくて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だからせめて心をこめてお礼をいいたいと思います。
お母さんに春奈、石渡先生、香織さんに麗香さん、いつもボクが迷惑をかけているいろんな人達……、こんなボクをいつも助けてくれて――、
「ありがとう!」
* * * * * *
== ある少女の煩悩 ==
私は、病院で天使を見た!
その子を見たのは、私が自転車で転んで左足の腓骨(膝と足首の間)を骨折し手術のため入院したときのことだった。
あ、私は、渡辺 沙希 ちょっとドジっ娘? の13才、中学2年の "かわいい" 女の子!(自画自賛っ)
そんな私は、手術が終わってしばらくは安静にしてないといけないってことで、2週間の予定で入院することになってしまってて。
4人部屋だったんだけど、うまい具合に居るのは私一人。(これも私の人徳ってやつかなぁ?)
骨折の痛みはなかなか治まってくれず、気を紛らわすために何かする? っていっても、そこは病院、見事にすることは何もない。
まあやろうにも足はキッチリ固められちゃってるから大したことも出来ないし。 結局TVを見るか、雑誌を読むかってことくらいなわけで……。
誰かお見舞いにでも来て、私の暇をつぶしてくれないかなぁ?
まぁ、来るとお約束のギプスに落書き、なんかされちゃうんだろうけどさっ。
ママもまだ来ないしなぁ。
はぁ、とりあえずおトイレ行ってこよ。
入院して1週間も経つと松葉杖の使い方なんかはもうお任せ! って感じになってるんだもんね~、うふふ。
そしてトイレに向かってひょこひょこ歩いていく途中……、日曜日で閑散としてる通路で私は "天使" を見た~!
その子は、年の頃は私よりちょっと下くらい?
車イスに乗ったその子は、すっごく小柄で、かわいくてキレイな女の子、なんだけど何より驚くのはその髪!
真っ白! 真っ白なの~!
それはもう雪のように白くてキラキラしてて、それにお肌まで透き通るように白くて……もう信じらんない!
マジ天使~♪
ああ、触ってみたい、なでなでしてみたい、ハグしてみたい~!
私は、根性だしてちょっと挨拶でもしてみようと近づいていったの。
そしたら更に驚きの発見!
目が、目が~、赤いの、ルビーみたいに赤いのよぉ~!
なにそれ、ファンタジー? ありえない――、か、かわいすぎるわぁ♪
私は脳内で妄想が爆発してしまい、思わずその子の前でよろけて、もう少しで転んでしまいそうになってしまった。(は、恥ずかしい)
「あ、危ない!」
天使ちゃんが声を出す。(今よりこの子は天使ちゃんと命名♪)
きゃ~、声までかわいぃ~! (天使ちゃんは私がうまく歩けないからよろけたと思ったんだろうなぁ……)
「だ、大丈夫ですか?」
天使ちゃんが、なかなか現実復帰しない私を怪訝な顔(その顔もカワイイ!)で見ながらも心配してくれてる――、いけない、このままじゃあやしい子だ。
「あ、ごめんなさい……驚かせちゃって」
私は思いっ切り、猫を3匹くらいかぶって……かわいい声で言葉を返した。
「ちょっと、つまずいただけだから全然平気です! 心配してくれてありがとう」
にこっとスマイル、これでも私はクラスでもかわいいと評判の子なのだ、エヘン。
「そうですか、良かった」
天使ちゃんも安心したのか、そう言いながら微笑みを返してくれた。
すごいよ私、初対面でいきなり会話までしちゃったよ!
天使の微笑みまでもらっちゃったよぉ!
もう私の脳内煩悩はMAXです。
でも……私の、ボウ○ウもMAXです。 ひぃ~!
私は、挨拶もそこそこに慌てて(でも松葉杖なのでよたよたと)トイレに駆け込んだのだった……。
今度はコレをネタにもっといっぱいしゃべって、絶対お友達になってもらうんだから!
あ! 名前……聞いてない――、がっくり。