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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
13/124

ep12.目標

※話数を修正しました。

「思ったより時間、かかっちゃったわね。 蒼空ちゃんごめんね、疲れちゃったでしょう?」

朝比奈さんがそう言いながらボクのアタマをなでる。


「それに今さらの言葉になってしまうんだけど、目が覚めてほんとに良かった……、こうして蒼空ちゃんとお話することが出来る日が来るなんて夢のようだわ!」

 朝比奈さんは目に薄っすら涙を浮かべながら言い、続いて春奈にも話しかける。


「春奈ちゃんも良かったね、お姉さんの目が覚めて。 あきらめずにずっと見守ってきた気持ち……報われたね?」


 労わりの言葉をかけられた春奈は、うんうん とうなずきながら泣き、お母さんにぎゅっと抱きついてる。 午前中のはしゃぎようがウソのようだよ。 心配……かけてたんだなぁ。

 


 ボクはお母さんや春奈、香織さん、それに朝比奈さんがこうして涙を流してくれてる姿を見て、どれ程みんなが心を痛めてくれていたのかがわかった。 そして、目が覚めて良かった、みんなを安心させることが出来て良かった……と、心の底からそう思った。


「みんな――、今まで心配かけてごめんね。 助けてくれてありがとう!」


「こうやってお母さんや春奈にまた会えて、ボク……」


 最後は言葉が出なくなって……ボクも涙が止まらなくなり、そばに来てくれたお母さんに抱きよせられて、そこで思いっきり泣いてしまった。



* * * * * *



 みんなで泣きあった? あと、香織さんが遅めになっちゃたけど "おやつ" を食べましょう と提案してくれたので、そのまま談話室でのお茶会へと早変わりした。


 暗くなった雰囲気を拭い去るいい提案、香織さんグッジョブです!


 香織さんは、あらかじめ準備してくれてたみたいで、すぐテーブルにケーキと紅茶(朝比奈さんはコーヒーだ)を並べてくれた。

 春奈もそれを手伝って、ボクには昔から好きな苺のショートケーキを手渡してくれた。

 ちなみにお母さんと香織さんはモンブラン、春奈はボクと同じ苺、朝比奈さんはチョコレートケーキ、……みんなおいしそうだなぁ。


 さっきまでの暗い話しからガラリと変わって、楽しそうに話を始めるみんな。


「蒼空ちゃん、私のことも名前で呼んで欲しいな?」

 朝比奈さんがそうボクに要求してきた。


「え、名前でですか? いいのかなぁ、そんな初対面で」

 ボクが遠慮してそういうと……。


「いいのいいの! 私も蒼空ちゃんって呼んでるんだし、香織のことは名前で呼んでるのに私は呼んでもらえないなんて、なんか不公平っ」

 そういって拗ねたふうの朝比奈さん――、あなた子供ですか?


「じゃ、じゃあ、麗香……さん?」

 恐る恐る呼んでみる。


「そうそう、それでいいのよ~、うふふっ」

 目を細めて、うれしそうに笑う麗香さん。 かっこいい女の人が笑うとすっごく魅力的だよ。


「もう強引なんだから、あまり蒼空ちゃんを困らせないでくださいね? 麗香さん」

 それを見て呆れる香織さん。


 そんな中、ケーキを味わうボク。

 目覚めてから初めて食べるケーキ。 味は以前(の体で食べたとき)と同じでおいしく感じて安心した――、と言うより以前より更においしく感じるようになった気がした。 これって、すっごく久しぶりに食べたせいなのか? それとも女の子の体になったせい?


 まぁ、どうでもいっか。 ……おいしいんだしっ♪


 食べながら楽しい話に花を咲かせてるみんな……、いいなぁこういうのって。

 すごくホッとして、気持ちが落ち着くよ。


 そんな安心感からつい気楽に――、

「あ、そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

 ボクは最近疑問に思いだしたことを、せっかくみんなそろってるんだからと聞いてみることにした。


「ん? なにかしら? 蒼空」

 お母さんが聞き返す。

 みんなのボクの方を注目する……、そ、そんなに注目されると恥ずかしい。


「あのね、ボクって男の子から女の子に変わってしまったわけじゃない?」


「それにボクは今14才で、10月には15才になるんだけど、そのぉ……見た目は、よくて中学生になったくらいの子、なわけでしょ?」


 だから――、


「僕の性別とか、それに学校……とか、どうなるのかな? って思って」


 ボクのその思いがけない質問にみんなは一瞬かたまって、シーンとなってしまった。


 いち早くお母さんが立ち直り、

「そ、そうねそのことはお母さんもどうしようか悩んでたんだけど……」

 ちょっと動揺しつつもお母さんは、香織さんや麗香さんの方を見ながら話しを始める。


「まずね、男の子から女の子になってしまったことに関しては、もう女の子として認められてるから安心して」

 そう言ってボクのアタマをなでる。

 

「前例のないことだったから色々大変だったけど、裁判所との対応や手続きなんかは、警察や病院の方々から、色々手を尽くしていただいたのよ」


「麗香さんや石渡先生、もちろん香織さんにもね」

 お母さんはお礼の意を込めて、軽く二人に頭を下げる。


 それを受けたように香織さんが、ちょっと補足してくれる。

「まぁ、"性同一性障害" とかと違って、蒼空ちゃんの場合、ほんとに体は女の子なんだから認めてもらうのは当然で、簡単なほうだったと思うよ。 蒼空ちゃんの気持ちはともかくとして――、なんだけど」

 

 ボクの気持ちかぁ……、女の子になる決心はしたけど、そう簡単には割り切れないよね、やっぱり。


「それでね、学校のことなんだけど……」

 お母さんが続きを始める。


 そう、学校! これ大事だよ。 どうなっちゃうの?


「蒼空は中学1年の終わりくらいから今までずっと授業を受けてなくて、今はもう3年生の途中の時期になってるのね。 つまり義務教育の半分以上を受けてない状況なの」


「それに、まだまだこれからリハビリをして歩けるよう頑張らなきゃいけない状況の中で、残りの期間を中学に通うなんてこと無理でしょう?」

  

 ボクはそれを聞いて愕然とした――。


 先の高校のことはともかく、このままじゃ中学すら卒業出来ないのかな?

 ボクは悲しい表情を浮かべてしまったのだろう、それを見てお母さんが言う。


「心配しないで、蒼空」

 そう言ってボクをなでてくれるお母さん。


「中学の勉強については、家庭教師をつけて勉強を教えてもらうようにするわ。 かなり詰め込みの勉強になってしまうと思うけど……蒼空、頑張れる?」

 そう聞いてくるお母さん。


「うん! ボク、がんばるっ!」

 

「そう、良かった。 ちゃんと頑張れば中学を卒業したって資格も、もらえるのよ。 もちろん中卒認定試験(正確には中学校卒業程度認定試験)っていうのを受けなきゃいけないんだけど」

 

 中卒認定試験……、そんなのあるんだ?

 

「ただ、その試験があるのは11月なの。 蒼空、さすがに今年の11月に受けることは難しいと思う。 ホントなら来年から高校生の歳だけど、1年我慢してその次の年から……、春奈と一緒に高校に行くことを目標に頑張らない?」


 ううっ、1年遅れの高校入学かぁ……。 でも仕方ないよね、今のボクの状態じゃそもそも外にも出れないわけだし――。

 春奈と一緒に高校入学かぁ? それもいいかもしれないなぁ……ふふっ。

 あっ、でも、入学試験ってのもあるんだ。 ……ああ先が思いやられるなぁ。


「蒼空? どうしたの?」


「う、うん。 そうだよね、今年いきなりそんな試験受けられないし……」


「お母さんの言う通り、今年はあきらめて来年、中学卒業の資格取れるようがんばる。 そして、出来れば――だけど、春奈と一緒に高校に行けるよう努力するよ」


「お姉ちゃん、私も応援する。 私もお姉ちゃんと一緒に高校行けたらうれしいもん。 一緒にがんばろっ?」

 そう言いながら春奈は近寄ってきて、ボクの手を握った。


「春奈、あ、ありがとう!」


 なんだか、おやつ時のちょっとしたお話から、すごい展開になってしまった。

 まぁ、元々話を振ったのはボクなんだけど――。


 でも、これから漠然と、目標もなくただ過ごすよりはよっぽどいいよね。

 リハビリするにも、勉強するにも、何か目指すものがないとやる気が出ないもんね。


 でも勉強かぁ……。 ちょっと、というか、かなりいやかも。


「蒼空ちゃん、いい目標が出来たじゃない? 私も応援するからね、何かして欲しいことがあったらいつでも言ってね!」

 麗香さんが言うと、


 「あ、私もモチロン応援しますよ! リハビリもビシバシいきますからね? 覚悟しといてね~」

 香織さんも負けじと言う。

 ビシバシは勘弁して欲しいです。



「みんなありがとう、ボク……がんばります!」


 そんな感じで話しはまとまり、お茶会はお開きとなったのだった。


 



 勉強――、憂鬱ゆううつだなぁ……。


 はぁ。

 


 


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