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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
4章
121/124

ep113.ちーちゃんの結婚(前)

前後編になります。

 ちーちゃんの結婚式は人前式。

 よくある結婚式場での挙式はしないんだって。


 ちーちゃんから届いた結婚式への招待状を見ながらお母さんがボクと春奈に説明してくれた。


 人前式って、牧師さんや神主さんの前で、その、あ、愛を誓うんじゃなく、そこに来てくれた家族や友だち、知人さんなんかが結婚の証人になる式なんだそうで、会場も郊外のレストランを貸し切ってやるみたい。レストランウェディングとか言うみたい。

 おっきな結婚式場とかでやる、やたらかたっ苦しい雰囲気や式を進めるうるさいルールもほとんどないっていうか……、ちーちゃん達で式の進め方とかも決めるらしくって、気安く楽しめる式にするって気合入りまくりらしい。まぁもちろん、式にお金をかけるよりそのあとの暮らしにこそお金をかけたほうがいいって二人の考えや、それを聞いた伯母さんも快くっていうより積極的に同意してくれたっていうのも大きい。


 式に向けて、レストランのスタッフと相談したり、友だちとかも一緒になって協力してくれたり……、準備自体もすっごく楽しみながら進めてるって、お家に顔を出してくれた時、お母さんと嬉しそうにお話してたらしい。


 みんなで一緒になって式に向けてがんばってるんだ。

 いいなぁ、なんかすっごくステキ!


 っていうか。


 ボクも一役かって欲しいってちーちゃんから話があった。

 最初はお母さんから聞かされて……、

 で、恥ずかしいからって……ボクが難色示してたら、今度はちーちゃんから直々にお願いの電話がかかってきた。


「蒼空ちゃんの歌声、聞かせて欲しいの。ダメかな? もちろん体調のこともあるから……無理にとは言えないんだけど……」


 ちーちゃんにそう言われればボクとしては無碍に断れない……。

 だって、ボク、ちーちゃんには散々お世話になってる。今こうして高校に通えてるのだってちーちゃんが住み込みで家庭教師をしてくれたからこそ。


 だからボクは悩んだけど結局……、


「うん、わかった。ボクも協力する! その……、長く歌うのはちょっと無理だけど、それでも良ければ……ボクがんばる」

「ほんとに? ありがとう、蒼空ちゃん。でも、ほんと無理しないレベルでいいからね。

 ――ああ、みんな喜ぶだろうなぁ? 蒼空ちゃんに会いたがってる子多いから……。ふふっ、楽しみにしてるからね? どんな歌聞かせてくれるのか。また決まったら教えてね?」


 そんな感じで披露宴でボクもお歌を歌うことが決まってしまった……、ううぅ、安請け合いしちゃったけど……大丈夫なんだろうか。


 は、はやまっちゃったかなぁ。


 後になってそんなこと思っちゃうボクだけど、今更後には引けない。元男の子としても、一旦引き受けたからには責任持ってがんばらなきゃ。



* * * * * *



 時間ときが過ぎるのはあっという間。


 明日はとうとうちーちゃんの結婚式。

 ボクのほうも一応準備は万端、整ってるはず。披露宴で歌うお歌はお母さんや春奈とも相談して、せっかく合唱部にいるんだしカラオケとかじゃなく独唱で行くことになった。ピアノの伴奏はちーちゃんの大学の友だちで、音楽科の人が居たのでその人にお願いしてもらった。

 お歌自体は、合唱部の大野部長に事情を説明して、放課後の部活の中で先輩たちに教えてもらいながら練習した。みんなノリノリでボクの練習に付き合ってくれてうれしかったけど……、案外スパルタでボク泣きそうだった。ここ最近ボクの体調がいいこともありみんな変な気遣いとかもなく、すっごくしごかれた。


 別にコンクールや発表会とかじゃない、ただの余興なのに~。


 でも、おかげで短期間とはいえそこそこ聞いてもらえるレベルにはなったかと思う。まぁ、基礎体力のついてない根本的に練習不足なボクなりのって……、注釈はつくけど。


 いいよね?


 ボクの気持ちを込めて歌えば多少のミスとか問題ないよね……。

 ちーちゃん、ボクなりにがんばって歌うから勘弁してね。




 瑞穂伯母さんも仕事が忙しい中、ぎりぎりになっちゃたけど日本に帰って来た。お出迎えはお母さん。そんでもって自宅に帰っても1人だとすることもないし、式をするレストランもこっちのが近いからって……、なんとボクん家までそのまま付いてきちゃった。


「伯母さん、ちーちゃんに付いててあげなくていいの?」


 荷物の片づけを簡単に済まし、ダイニングテーブルに腰を落ち着け、お母さんが入れたコーヒーを飲んでる伯母さんにボクや春奈がそう聞くと、


「あら、今更私の出る幕もないでしょ? それに英明さんと2人、仲良くやってるんでしょうから私が行っても邪魔なだけ。本番楽しみにしてるわよって、電話だけはしておいたし……問題ないわよ」


 にやりと、ちょっと意地悪な表情を浮かべながら答えてくれた。


「ふーん、そ、そうなんだ」


 ボクはちょっと顔を赤めながらそう答える。

 でもそれでいいんだろうか? ちょっと疑問が残る。けど、伯母さんだし……、いいのかな?


「ありがと、蒼空ちゃん。気にしてくれて。


 ずっと女で一つで千尋を育てて……、ぐれることもなく真っ直ぐ成長して。

 ふふっ、ちょっと気が早いところがあったにせよ、無事ここまでこぎつけてくれて……。


 ほんと良かったわ」


 さっきまでと違い、ちょっとしんみりとした表情を見せる伯母さん。


 ちーちゃんにはお父さんがいない。

 ボクらにも居ないけど……、ちーちゃんは生まれたときからずっと居ない。

 

 いわゆるシングルマザーってやつで、伯母さんはずっと1人でちーちゃんを育ててきたんだ。

 お父さんは伯母さんがまだ身重のとき、事故で亡くなったって……そう聞いてる。なんかボクらのお父さんのこととダブってしまって悲しくなる。


 だから……、いつも元気な伯母さんだけど、きっと色々思うところはあるんだと思う。


「さ、今ここに居ない幸せいっぱいの我が娘のことは置いといて、ほら蒼空ちゃん。私にあなたの元気な姿、よーく見せてちょうだい」


 そう言うや伯母さんはすっくと立ち上がり、テーブル脇に立ってたボクの両肩を優しく……その両手で……撫でるようにしながらゆっくりとつかむ。そして膝を折ってボクと目線を合わせて、


「ほんと、元気になって良かった……。


 顔色も随分良くなったし……、痩せてた体も……まあまあ女の子らしくなってきて。ほら、ほっぺもぷにぷにして、ほんとかわいいわ~」


 ボクのこと頭の先から足元まで、まるで品定めするような目で真剣に見てから、甘く優しい声をかけ、その細く長い指先でほっぺをツンツンつついて……、それから指先でふにっとつままれちゃった。


「お、おばひゃん?」


 つままれたまま伯母さんに問いかけるボク。伯母さんはそのまま無言でボクを見つめてる。


「ほんと良かった。心配した。心配したのよ……?」


 そう言うや、ほっぺから手を離し、そのままボクの背中にその手を交差するように回す――。


 ボクは伯母さんにしっかり抱きしめられてしまった。伯母さんの頬がぼくのほっぺに当たる。

 

「伯母さん……、その、ありがとう。心配、いっぱいかけちゃってごめんなさい。


 でも、もう大丈夫だから……。えっと、その、心配しないで?」


 完治はまだまだだけど……、それでもきっと、きっともうあんなことにはならない、はず。

 ボクは伯母さんの背中に手を回し、小さな自分の手で伯母さんの背中を撫でた。


 いつも自信たっぷりな伯母さんの背中。

 でもこの時は少し小さくなったような……、そんな気がした――。



* * * * * *



「おっはよー、お姉ちゃん!」


 ちー姉の結婚式当日。

 私はお姉ちゃんを起こすべく、自分の身だしなみもそこそこのにまずは問題のお姉ちゃんの部屋へと突入した。


 敵は難敵。


 いきなり熱出してうんうん唸ってる可能性もある。それでなくとも朝が弱いお姉ちゃんはなかなか動き出すまでに時間がかかる。覚悟して挑まなきゃならない、まさしく難敵なのだ!


 私はノックする時間も惜しんでガツンと、そうガツンと突撃してやった。



 ――部屋の中はまだ薄暗い。

 アルビノであるお姉ちゃんは日差しに弱いからお部屋の窓のカーテンも厚く、朝の日差しくらいではそう易々と明るくはならない。

 それにしても……、私の突撃に声もあげないとは……どんだけぐっすり眠ってるの?


 ここからの私は刺激を与えないよう静かに敵に忍び寄る。

 ベッドからはすやすやと、気持ちよさそうに眠ってるお姉ちゃんの寝息が聞こえて来る。


「ったく。今日という大事な日にも関わらず……あまりにもいつも通り。お姉ちゃんには早起きするって気持ち、早めに準備するって心構えはないの?」


 私はいつまでもあまりに子供なお姉ちゃんにしばし呆れ、つい思いを口に出す。

 とは言ってもこれはほんと、いつものこと。想定内。幸い熱とかも出してないようだし……、私はいつも通りことを進めるだけだ。

 私は今から起こす自分の行動から見せるだろうお姉ちゃんの様子を想像し、顔に浮かぶ意地の悪い笑顔を抑えることもせず、さっさと思いを実現すべく行動に移した――。




「はわぁ~!」




 蒼空の部屋からかわいい叫び声が上がる。

 

 それをキッチンで聞きつけた日向はまたかと呆れ、ダイニングテーブルで新聞片手にコーヒーを飲んでいた瑞穂は一瞬ビクリとし、そして少しばかり考えたのち、にやりと笑いながら日向を見る。


 年頃の娘を持つ、先輩姉妹はお互いの顔を窺い、満面の笑顔を見せあう。


「幸せね、日向。

 これからもそれ、逃さないようがんばらないとね」


 姉、瑞穂の短い言葉に笑顔で答える日向。そして、


「姉さんも同じよ。今日これからのこともあるし、それに、じき孫の顔も見せてもらえるでしょうしね? くすっ、だから一緒にがんばりましょう」


 お互いに声をかけあい、再び笑顔を見せあう。

 子供たちが来る前の静かな時間、2人はその幸せを噛みしめ分かち合うのだった。



* * * * * *



「まぁかわいらしい。蒼空ちゃん、まるでお姫様みたいよ?

 日向ったらこれ、いつものところで買ったの? ほんと蒼空ちゃんの真っ白な白い肌や髪がよく映えてステキだわ。それにすごく初々しくてかわいらしいし……」


 伯母さんがボクの姿を見てさっきからずっと褒めまくり。

 なんかすっごく居たたまれない気分。元男の子とはいえ、女の子生活もそれなりに長くてなり、生理もきちゃったから色々あきらめもついてるとはいえ……、さすがにこのドレスは恥ずかしい。

 以前、伯母さんにこの姿になってから初めて会うときに着せられたスーツも恥ずかしかったけど……今回はそれの何倍も恥ずかしい。しかも今からこの姿で大勢の人の前に出なきゃならないんだからたまらない。


「ほらお姉ちゃん、恥ずかしがって俯いてないでこっち向いて? 写真とるんだからきっちり笑顔でお願いね」


 春奈がボクの気持ちなんか無視してそんなこと言ってくる。ったく、こいつには朝から散々な目にあっちゃった。そりゃボクが起きないのが一番悪いんだけど……、ほんとにほんと、あんな起こし方ってないよ。

 ボクはぶつぶつ文句言いながらも春奈の言うことを聞いて顔を上げる。正面にはきれいに着飾ったボクの家族たち。お母さんも伯母さんも派手さはないもののすっごく大人っぽいドレスで着飾ってる。お母さんは黒系、伯母さんは濃い青系のふくらはぎくらいまで丈のあるスラっとしたワンピースで、2人とも上に白色した……ボレロっていうのを羽織ってる。


 かっこいい!

 さすがボクのお母さん。みんなに見せて自慢したくってうずうずしちゃう。


 春奈もボクと一緒にドレス作ってるから今はそのかっこだ。

 日焼けした肌にドレスはどうなんだろ? なんて思ったけど、悔しいことによく似あってた。さすがお母さん行きつけのお店の人が見立ててくれただけある。

 濃い目のピンクが春奈の焼けた肌にも負けないアピールをしる。でもパフスリーブになった肩口からは焼けた腕がきれいに出てて、ドレスを着てても活発さが滲み出てきちゃってる、あはは。

 胸からウエストまではフィット気味で大きく育ってきた胸が結構目立つ、ふーんだ。ウエストには引き締めるように小さめのリボンが付いてて、その下からは膝丈ちょい上くらいのフレアスカートがふわっと広がって女の子らしいかわいさでいっぱい。春奈は鬱陶しいからってボレロやストールなんかは付けなくっていいって言い張ってるけど、屋内は空調が効いてて寒い時もあるからって、羽織らなくてもいいからって無理やり持たされてる。


 で、ボクだけど……、恥ずかしいことに肩がしっかり出てしまうドレスを着せられちゃった。

 店の人はプリンセスドレス風ね、なんて呼んでたけど……、なんか肩が出てるからスースーする。サラサラキラキラした淡い青の生地の上に花柄のレースが重なった素材で出来たドレスで、首筋から肩までしっかり肌は出てるものの胸はちゃんと覆われてる。そんな胸元の両サイドを細い紐で肩から吊るしてる感じ。おかげでブラも紐なしで、多少胸も成長してきてるとはいえ、こんな大人っぽいかっこ、ボクにはまだ早いんじゃ? ずっとそう訴えてたけどもちろん聞いてもらえるわけもなく今があるわけで……。


 ま、もういいんだけど。……かわいいの、結局きらいじゃないし。


 それでこのドレス、背中はレースアップになってて、おかげでやたら細いボクのウエストでもぴったり。お店の人にも細すぎて驚かれちゃった。でも着るときは横のファスナーを開ければいいようになってるからそれほど面倒ってわけでもない。

 最後にスカートなんだけど、丈は春奈と同じでちょい膝上くらい。でも中にパニエってスカートをふくらますための下着をつけてるから、春奈のドレス以上にふわっとしてて、裾の部分にチュールなんかもあしらわれてることもあって、ほんとかわいらしく仕上がっちゃってる。

 あ、ボクの場合、肩が出てるドレスだからボレロとかは必須だそうで、白いレース地のかわいいボレロを上から羽織ってる。ちなみにお母さんたちも羽織ってるし、更には春奈とはお揃いなんだけど、さっきも言ったように鬱陶しがって春奈は羽織ってない。

 ボクのドレスも春奈みたいなのにすれば羽織らなくてもいいのに……って思うけど、お母さんたちにも譲れないところがあるのかもしんない……。それに、どっちにしたって、着せられるみたいだし。

 髪の毛は結婚式ってことでお母さんがまたいつもと違うのにしてくれた。

 ねじりハーフアップって言ってたかな? 髪の長いボクならではの髪型で、華やかに見えるしとっても気に入っちゃった。後ろ髪をまとめるクリップも淡い青色したリボン型しててかわいいし。

 眉毛も整えてもらって、うすーくメイクもしてもらったし。こんなにきれいにドレスアップしてもらうなんて女の子になってから初めて。

 おまけにボクと春奈にって、伯母さんがパールのネックレスと、色違いのお揃のバッグをプレゼントしてくれた。バッグの色はボクはピンク、春奈は白。もちろん2人してお礼を言った。ネックレスについてはお母さんが高価なものだし、そもそも高校生にはまだ早いって、さすがに困ったお顔してたけど、「今時の子はそれくらい普通よ、それなら逆にまだ大人しいくらいよ」とか言ってお母さんは言いくるめられてた。

 結局今、ボクらはそのネックレスを付けてここにいる。伯母さんがボクら親族の中で、ピラミッドの頂点なのは間違いない事実だ。


 というわけで、そんなカッコをしたボクたちはみんなしてお家の前で記念写真となったわけで。

 しかもいつもと違って写メじゃない。伯母さんがどこからか持ってきた"いちがんレフ"とかいうごっついカメラなのだ。三脚をしっかり立ててそのカメラをセットし準備万端な伯母さん。

 写真撮る間だけ、まぶしいのは我慢して眼鏡を外してるボク。帽子もかぶってない。だから急がなきゃ。


「ほらお姉ちゃん、前見て、前」

「はい蒼空ちゃん、撮るわよー!」


 さっきまでの騒ぎから一瞬にして静かになるボクたち。

 お母さんを真ん中に3人一緒に並んで立ってる。杖は今はいらない。


「イチたすイチはー?」


 伯母さんが声をかける。

 掛け声がなんか……あれだけど、



「にー!」



 ちょっと笑いを含んだ、ボクと春奈の髙い声が……、


 梅雨の中休み、晴れ渡りきれいに澄んだ青空に吸い込まれていった――。








 ――もちろんその後、伯母さんも一緒に撮ったのは当然のことだよ?



読んでいただきありがとうございます。

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