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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
4章
118/124

ep110.合唱部裏話

お久しぶりです。

なんとか投稿です。

 高等部には、中等部を含め清徳では知らない人なんかいないと言ってもいいほど有名で、一風変わった先輩がいる。

 見た目とか、はっきり言って中等部から上がったばかりの私たちのほうが間違いなく歳上に見えるほど幼く見えるわけだけど、中でもこれが一番その先輩を有名にしているのは間違いないと思う。


 そう、白い。

 真っ白なんだ、その先輩は!


 髪は降ったばかりの新雪のようにとってもきれいでけがれのない白。肌もその髪の白にまけないくらい……信じられないほど白くって、きめ細やかでなめらかそうに見えるそれは女の子の私から見てもうらやましいくらい。

 それだけでも十分以上に目立つんだけど、その先輩にはもう一つ驚くべき特徴がある。

 小顔でかわいらしいその顔の中でひときわ目立つ、くりっとしたつぶらな瞳。その瞳の色がまた変わってるわけ。なんとも日本人にあるまじき、っていうか日本人以外でもまず見ることは出来ないと思える色。ルビーのようにどこまでも深く澄んでいて、まるで吸い込まれそうな赤色をしてるのだ。

 百歩譲って髪が白いっていうのは、時々見ることもあるけど。(と言ってもまぁ、それは年配の人のそれで……、先輩みたいにきれいな白となるともう別格!) でも瞳、目が赤いってなるともうレア中のレア。ほんとビックリ。どこのファンタジー小説なの?って感じ。

 

 そんな見た目なうえに、最初にも言ったけどその先輩はとっても小さい。中等部の後輩だって言っても十分通用するのは間違いない。私の友達つれにも小さい子が1人いるけど、たぶんその子より低いのは確実。しかも聞いたところによると4年生の夏休みくらいに、命にかかわるかもしれない病気を患ったとかでず~っとお休みしていて、結局登校できるようになったのは3学期になってからだそうで……、ううっ、なんてかわいそうな先輩。まさに薄幸の美少女。

 

 そんな先輩の名前は柚月蒼空って言って、清徳大付属の高等部5年生。ほんとに信じられないけど5年生。学年でも先輩なうえに、なんと合唱部に入部することになった私と、同じく一緒に入ることになった友だち2人の、クラブでの先輩にもなるわけで……。でもほんと良かった、また学校に戻ってきてくれて。おかげでこれから一緒にクラブ活動することが出来るわけだし。


 そうクラブと言えば……、体育館であったクラブ紹介の時にもステージ上で一生懸命歌っている、うわさの柚月先輩の姿はとてもかわいらしかった。全身で萌えを体現していた! くぅ~!

 で、後日、友だち2人と一緒にさっそく合唱部の練習をのぞきに行ったわけだけど……。さすがにいきなり入るのは勇気がいるので音楽室のドアを少し開け、柚月先輩もいるかなぁ? とばかりに中の様子を窺おうと3人で覗き込んでいた時、後ろから声をかけられた。かけられた声は多少幼さは感じるものの、とっても澄んだきれいな声。鈴の音がなるように涼やかでやさしい声音。とは言うものの、覗き見に集中してた私たちはそりゃもうビックリ、慌てて振り返った。


 なんと声をかけてくれたのは、先輩。柚月蒼空先輩、その人だった。

 私たちは驚きのあまり、つい常日頃思っていたことをぽろりと口に出してしまった。


「あっ、いたっ!」

「うわぁ、まじしっろ~い!」

「白雪姫さん~!」


 最初に口を開いたのはひいらぎさやか。次が私、下山公乃しもやまきみの、最後が目の前の先輩並に小さい桃園凛ももぞのりんだ。さやかの身長はごくごく普通、私はコンプレックスになるほど高く、その逆に凛はとても小さい。なんとも不揃いな3人だけど、共通項としては3人が3人とも合唱なんてやったことのない"ど"素人ってことかな。


 しかし、事態は最悪!

 な、なんてことを口走ってしまったんだろ、私たち3人は。きっと先輩の中で私らの第一印象は最悪なものになっているに違いない。ああっジーザス!


 そんな私たちの不躾な言葉に先輩がとっさの言葉を漏らした。


「はえっ?」


 先輩が小さな口から漏らした言葉はなんともかわいらしくってキュート! うん、ちょっと得した気分。

 とかなんとかこっそり思ってたら先輩の隣の人、うわぁ、この人もでかい! 私といい勝負? いやへたしたら私より大きい? ――ってすぐ脱線、だめだめ。その大きな先輩が私たちのことをキッとにらんでた。


 こ、こわい。


 上背があってちょっと目つきが鋭いその先輩。

 私たちをにらみつつも自分の体を前に出し、柚月先輩を私たちから隠す位置取りになる。なんというお付の騎士さま! って、また脱線。だめっ、ふぉ、フォローしなきゃ。


「ご、ごめんなさい。急に声をかけられてビックリしてしまって。その、えっと、私たち、合唱部の見学に来たんですけど……」


 そうそう、私たちは見学に来たんだもん。それをアピール、アピール。私の言葉に両隣の2人もしきりにうなずいてる。ちっ、あんたたちもなんとか言いなさいっての。私にばっか押し付けるな!

 で、私たちのその言葉に目つきの怖い先輩のその表情が少し柔らかくなり、続けて言葉をかけて来た。


「ん。まぁいい。でも言葉使いには気を付けて。柚月さんは見世物じゃ、ない……んだから」


 先輩、もしかして人前でしゃべるの苦手なんだろうか? 妙にたどたどしい話し方に多少違和感は覚えたものの、私たちは慌てて言葉を返す。


「「「はっ、はい! ほんとごめんなさい!」」」


 こういうときはしっかりきっちり謝るのがポイントだよね。私たちは息もピッタリに頭をしっかり下げて謝った。

 かわいい、しかも新入部員になるかもしれない後輩が素直に謝ってるんだもん、ここまでしてしかめっ面続けられる先輩なんていないよね? と思いつつこわそうな先輩を窺い見ると、なんてこと、まだ微妙にむすっとした表情してる。ううっ、先輩、どんだけ柚月先輩のこと大好き人間なのよ~。

 その様子に私たちが3人して困り顔で見合わせていると……、


「まぁまぁ、もういいよ。それよりせっかく見学来てもらったんだもん、早く中入って見てもらお?」


 またもや聞こえてくる鈴の音がなるように涼やかでやさしい声音。

 しかも可憐でけがれない天使のような笑顔付き!


 私たちはこわい先輩のことも忘れ、柚月先輩に見とれ3人して間抜け面をさらしてしまってた。


 そんな私たちをみてあのこわい先輩が一瞬、ほんの一瞬だけど……、


 「くくっ」って、ほんと小さな声でだけど……そう笑ったような気がした。


 ジーザス!



* * * * * *



 柚月先輩につられたのか元々興味あったのかわからないけど……、ここ1週間の間に14、5人くらいの見学者はあったみたい。けど、結局合唱部入部を決めたのは私たち3人を含めて全部で6人。多いんだか少ないんだか微妙な人数だなぁ。

 それでもこうして私たちが入部したのがうれしかったのか嬉々とした表情で色々説明してくれたのは6年生で部長さんの大野先輩。と、同じく6年生で副部長の辻先輩。

 大野部長は、細面でおっとりした感じの人で背は私並に高い。部長さんらしく真面目で部活の内容についてもすっごく丁寧に説明してくれて、やさしそうな感じの方だった。それとは正反対にぽっちゃりぎみで、連れのさやかと同じくらいの160を少し越えるくらいの普通の背丈の辻副部長は、普通とは程遠い、かわいい顔とは裏腹に面倒くさそうな先輩みたい。まだまだ少ない部活動の中でもいつも姫っち、姫っちと、何かと柚月先輩にちょっかいをかけてる。まぁ、好意的に見れば病み上がりで体力的にも不安をかかえている柚月先輩のことをそれだけ気にかけてる、って言えないこともないけど……、やっぱいじって楽しんでるって感じのが正解のような気がする。

 そんな副部長からけなげに守ろうとしているのは最初ちょっと悪い印象もたれちゃったこわい先輩……渡里先輩だ。副部長が何かしら柚月先輩にからみに行くたびに渡里先輩が間に入って一生懸命フォローしようとしてる。その姿はやっぱお付の騎士さまって感じで、背が高く、きりっとしたキレイ系の顔をしてる渡里先輩なだけに、それはもう私たち新入部員の中で変な妄想を掻き立てるくらいには十分なネタを提供してくれてる。

 それくらい渡里先輩は柚月先輩にべったりで、みんな陰でソラ姫とエリカ様(先輩の名前は絵里香っていうらしい)、禁断のナニが……どうとか言って、キャーキャー騒いで盛り上がってる。正直私には少しついていけない……。まぁ、さやかや凜は一緒になって盛り上がってるけど。



* * * * * *



 そこそこクラブ活動になじんだ頃。

 私たち新入部員6名は、顧問の向井先生(もう1人山中って男の先生も居るらしいんだけどまだ会ったことはない。先輩方によるとすごいひげもじゃワイルドさんらしく、たまに柚月先輩と並んで立ってるとまさに美(小)女と野獣だって笑って言ってた)に、ちょっとお話がありますと……、お昼休みに第2音楽室の隣、部室として使ってる準備室に集められた。そこには部長と副部長の姿もあって私たちは、何事が始まるのか? と緊張し、思わず息を飲んだ。


「せっかくのお昼休みに来てもらってごめんなさいね? とりあえずみんなそこに座って?」


 そう言いながら私たちをいつも部活で使ってる長机の席を勧めて座らせ、先生たちもそれぞれ個別にイスに座ると改まった表情になり、みんなを見渡して再び話し始めた。


「早速だけど、みなさんが合唱部に入ってくれてそろそろ3週間くらいたったかしら? 合唱部って言ってもすぐに歌えるようになるわけでもないし、基礎体力つくりとか……あまり楽しくないでしょうけど、ここまで辞めずにいてくれて先生とってもうれしいわ」


 向井先生がそう言って、私たちのことを労ってくれてというか、褒めてくれて、私たちはなんと返せばいいのかわからず、曖昧な笑顔を浮かべた。


「あらごめんなさい? 別に困らせたいわけじゃなかったんだけど……。その、実はね、ここまで頑張ってくれてるみなさんを信頼して……、ちょっとお話しておきたいことがあるのよ」


 先生はそう言いつつ、先生側に座ってる部長と副部長の顔をちらっと見て更に話を続けた。


「お話しっていうのはね、あなた方の1年先輩である柚月さんのことなの。ここまで辞めずに頑張ってくれたあなた方を見込んで、これからのこともあるし……、ぜひ知っておいてもらいたくて、こうして集まってもらったの」


 先生のその言葉に私たちはお互い顔を見合わせ、なんだろうという表情を浮かべる。さやかなんて今時の女の子らしく、もうすっごく興味津々って顔になってるし、凜もかわいらしい顔でぽかーんと口を開け、それなりに興味を示してはいるみたいだ。のほほんとしてるように見えるけど凜の表情を読ませたら私の右に出る人なんていない! ってそんなことはどうでもいいか。せ、先生のお話きかなきゃ。


「まずみんなも初めて柚月さんを見たときは驚いたかもしれないし、それ以前に色々うわさとかで聞いたこともあるかもしれないけど……改めてきっちり説明しておくわね。まず柚月さんの見た目からなんだけど……」


 向井先生が話してくれたのは柚月先輩のあの特徴的な体のこと……から始まり、昨年の夏合宿での出来事。そしてその先の長い闘病生活のこと。そして今に至る学校への復帰と、もちろん合唱部部活の活動再開までのこと。


 もちろんうわさでは色々と聞いていた。


 アルビノっていう色素の病気なんだってこともよく聞こえてくるうわさだし、再生不良性貧血っていう、なんだか難しい血液の病気なんだってことももちろん聞いた。それ以前にも事故で長い間入院していたって話も聞くし……、一個人の情報がよくもまぁこんなに飛び交ってるものだと呆れもしたけど……、ことあの柚月先輩に関してのそう言った話は清徳中、それこそあっという間に広まってしまうみたいだ。しかもそれは高等部だけに収まらず、中等部にまで広がっちゃう(事実、私たちも頻繁にうわさを耳にした)んだから……、なんだか先輩が気の毒になってしまうし、ちょっと怖いくらい。

 中には心ないことを言う人も居るらしく、柚月先輩に触ったら病気が移っちゃうなんてうわさが広がりそうになったこともあったみたい。もちろんそんなことは当然あり得ないし、更にはそんなデマが広がったりしないよう、どこから圧力がかかって来るのか、そんなうわさの発信元は風紀委員会とかでしっかり取り締まられているらしい。……ってもっぱらのうわさだ。


 でも改めてこうして事実として聞かされると……、

 いつもにこやかに笑って、居るだけで部室が明るくなって幸せな気分になれる……、そんな柚月先輩が――、死ぬかも知れなかったような大病を患って、ここ数年ずっと、ほんとに大変な苦労をしていただなんて……、そんなこと聞かされると。

 ハンデがいっぱいあるにも関わらず、あんな小さな体でよく頑張って、今また私たちと一緒に部活動出来るまでの努力をしたんだなぁと思うと……、

 聞いてて涙が出てくるのを止めることなんてとても出来やしなかった。


「……ということだから、みんな彼女のこと理解してあげて、そして協力もしてあげて欲しいの。もちろん協力と甘やかすことは別だから、必要以上に手を貸してあげたりする必要はないし、きっと本人もそれを望んでたりしないと思うわ。

 ああ、それとそう言うわけだから1年先輩の柚月さんだけど、部活動自体は4年生のあなたがたと一緒に練習したりすることもあると思うから……その辺は理解してもらえると助かるかな? まぁ、各パートごとで分かれてする練習が多いでしょうし、そう気にはならないとは思うけど……」


 向井先生のその言葉に私たちはそろって頷いた。うん、頷かないわけがない。そっとみんなの顔を窺ってみればその目元はみんな赤くなってたし。凜なんてもう周りなんてお構いなしにぽろぽろ涙流してるし……。ほんと凜、いい子いい子。


 そんな私たちをみて多少苦笑いぎみの向井先生。

 もうほっといてください。私たちは感受性の強い年頃なんです~! ま、おばさんにはわかんないかも、だけどね。なんて私の考えてることなんてわからない向井先生は最後にもう一言。


「ありがとう、みんな。先輩とはいえ、柚月さんのこと、よろしくね。

 ほんと、先輩に見えないかもしれないけど……って、あら私ったら失言だわ。お願い、今のは聞かなかったことにしてね? 彼女、一度機嫌損ねちゃったらフォローするの大変なのよ……ってこれも失言。いやだわ、私ったら……どうしましょ」


 なんか私たちに大事なお話して気が抜けちゃったのか、向井先生の1人ぼけつっこみが続く。ほんとおばさんはこれだから。これどうしたらいいの?

 私たちは向井先生側にいる部長と副部長の顔を窺った。


 大野部長が目線で副部長にお前がやれって言ってる。さすが部長! おっとりしてるように見えてもあの辻副部長に指図するとはすごい!

 みんなの視線を一身に浴び、仕方なさそうにため息をつきつつ、辻副部長が言った。

 

「シホちゃん、それいつまで続くの? みんな呆れてますよ……」


 うおおっ、副部長、直球すぎ。つうか馴れ馴れしい~、いいのそれ?

 私たちはその後の展開がどうなるかわからず身を固くした。


「へっ、あ、はいはい。そ、そうね、もうお昼休みも終わっちゃうし。

 みんな教室に戻ってもらっていいわよ。それと放課後、部活の方もよろしくね」

 

 向井先生は無事我に返り、解散を告げた。

 そして私は見た。その手をそーっと副部長の背後に回し、後頭部辺りをこつんと叩くのを。

 叩かれた副部長は一瞬きょとんとした表情になり、すぐ舌をペロッと出して笑ってた。


 なんか合唱部っていいかも。


 最初は半ば柚月先輩見たさに合唱部見学に来たと言っても過言ではない私だけど。(さやかはともかく凜は真面目にやる気満々のようだけど)こんなとこ見せられるともうちょっと頑張ってみようかな?って思ったりしてきちゃうよ、うん。


 柚月先輩のこともなんかほっとけないって感じするし。

 これからも合唱部、マジがんばってみますか!


 などとがらにもなくそんなことを思う、私、下山公乃なのであった。





 ん。


 でも、このあと出番あるのかな?


 なんて、誰に向かって言ってるんだろ私。


読んでいただきありがとうございます。


久しぶりの投稿にもかかわらず主人公が出ていない件……。

次回はちゃんと蒼空も出ますので、はい。

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