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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
4章
117/124

ep109.姉妹の思い

大変大変遅くなりました。


久しぶりに投稿します。

 4月も終わりが見えてきたころ。

 昨年も受けて大変な目にあったスポーツテストがまたあった。まぁ、あれがきっかけでエリちゃんともお話するようになったから、悪いことばかりってわけでもなかったとはいえ……やっぱボク的にはうれしくない催しだったりする。


 とは言っても今回ボクは、はなから見学組にまわされちゃったんだけどさ……。

 あ、もちろん午前中の身体測定は普通にボクも受けた。


 受けたんだけど――。

 身体測定の時のできごと……、今思い返しても恥ずかしい。


「はうぅ……」


 ボクはその日何度目になるかわからないため息をつき、これも何度目になるかわからないくらい、自分のやったことを思い返しては恥ずかしさに身を悶えさせていた。


 ああ、ほんとにほんと。あんなこと言うんじゃなかった――。




「はい、柚月さん、もう降りていいわよ。ふふっ、いい結果が出たみたいで良かったわね?」


 身長を測ってくれた担当の先生が測定表に記録を書きながら、ボクの顔を見てそう言った。

 ボクはもう満面の笑みを浮かべ、先生に「はいっ、ありがとう!」ってお礼をいいつつそれを受け取った。


 ボクは自分の耳で聞いたその数字が間違いなくそこに書かれているか確認しようと、ぼやける視界ながら必死に目を見開いて書き込まれた数字を見つめる。


 聞いた記録(ことば)と一文字たりとも違わない、その数字の羅列を確認すると、自然とまた笑顔がにじみ出る。


「あはっ、むふふぅ」


 うーん、このうれしさを誰かに聞いてもらいたいっ!


 いつも控えめなはずのボクだったはずなのに、その時はなぜかそんなことを思ってしまった。

 そう、ボクはその時、その日最大の判断ミスをしてしまっていた。


 ああ、あのときのばかなボク。きっと浮かれちゃってて正常な判断が出来なくなってたに違いないよ――。



「くふふっ、ねぇねぇ、聞いて聞いて~! ボクね、背がね、身長がね、伸びちゃった~!」



 ボクはうれしさのあまり、一緒に回ってた沙希ちゃんたちに測定表をフリフリさせてながら、ついつい結果をアピールしてしまってた。しかもおっきな声で。

 おかげでそれ以外の、周りにいた他のグループの子たちにまで聞かれてしまい、ボクのその様子に「なになに?」って感じでどんどん広まり、結局みんなの注目を一身に浴びてしまう羽目になってしまった。


「ひうぅ……」


 結果、うれしい気分から一転、一瞬にして縮こまってしまうことになっちゃった。

 うー、ボクのばか。


「えー、蒼空ってば背、伸びたの? そうは見えないけど……、ほんとかな~?」


 更に追い打ちをかけるようにひなちゃんが疑わしそうな声でそう聞いてきた。

 で、それを聞いて萎えかかっていたはずのボクの口から、思わぬ言葉が反射的出た。ううん、出てしまった。


「ほ、ほんとだもん! 伸びたんだもん。み、見てよこれ。ボクうそなんかついてないんだから~!」


 もーほんと、ボクのばか。なんで反論なんてしちゃったの? だまっとけばよかったのに。


「ふーん。じゃ、見せてもらおうかなー?」


 そう言うや素早く近づいてきたひなちゃんが、スパッとボクの手から測定表を抜き取り、書かれてある内容に目を落とした。


「ふわっ、ひ、ひなちゃん! 返してっ!

 あっ、ちょっと、そ、そんなにじっくり見ないで~!」


 やたらじっくり見つめてるひなちゃんに危機感を覚えたボク。これ以上見られたらまずい気が……。


「はわっ、余計なとこまで見てない? 見るのは身長だけ、他はダメ、だめだなんだから~!

 ふぇーん、ひなちゃん、もう返して~!」


 取り返そうと、測定表を持つひなちゃんに追いすがるボク。

 そんなボクをひょいひょい身軽によけるひなちゃん。弓道部は伊達じゃない……ってあれ? 弓道ってあんまし動いてるイメージない……かな。まぁともかく! 身のこなし、切れまくり。ぜんぜん歯が立たない……、ぐすん。


「へぇー、蒼空ったら。まだまだ子供だと思ってたのに……、ふむっ、いつの間にやら、うん、思いのほか……色々成長してるんだー?」


「わーわー、ダメダメ、言わないでー!」


 測定結果を見て、なんともしゃべりたそうな雰囲気を漂わすひなちゃん。

 それを興味深そうに見てるみんな。見てないで止めてよー!

 ボクはそれ以上思うようにさせてなるものかとなけなしの力、元男の子の意地を見せ、「えい!」とばかりに腕を伸ばし取り返そうとし……、


 でもやっぱ、奮戦実らず……、


 ついには足がもつれ転びそうになってしまった。


「はわっ!」


 ボクはもうダメって思い、倒れながらぎゅっと目を閉じ、来るであろう衝撃と痛みに身構えた。

 今のカラダじゃ鈍すぎて受け身とることすら間に合わないんだもん、そうする他どうしようもなかった。はぁ、後で絶対お母さんに叱られちゃう……。


「「「あっ!」」」

「「「危ないっ!」」」


 周りのみんなが口々に叫ぶ声が聞こえてきた。

 ほとんど同時、誰かに腕をぐいっと力強く引かれた。しかも両腕。


「ふぇ?」


 かっこわる……、思わず変な声出しちゃった。


「「おおー! ナイス~!」」 

「「さすがです~!」」


「「蒼空っ!(蒼空ちゃん!) 大丈夫?」」


 みんなが騒ぐ中、両脇を抱えるようにして支えてくれてたのは沙希ちゃんとエリちゃんだった。

 ボクは一瞬呆けてすぐ答えられなかったけど――、それでもなんとか気を取り直して2人の顔を順番に見て言葉をかけた。


「――だ、だい、じょうぶ。大丈夫だよ。その、ありがとう!」


 急につかまれた腕がちょっと痛かったりするけど……、

 ボクはほんとうれしくて、そしてホッとして……2人に精いっぱいの笑顔を向けた。

 2人はなんかちょっと顔を赤らめ、はにかんで笑ってた。

そんでもって元気なところを見せようと足に力を入れて1人で立とうとしたところで……、


 かくっと膝が折れた。


「はれれ?」


「うわっ、蒼空ちゃん!」


 沙希ちゃんがとっさに支えようとしてくれたけど間に合わず。

 ボクはその場に崩れ落ちるようにして、床にぺたんと座り込んでしまった。


「蒼空、どうしたの? どこか打った? 痛いの?」


 エリちゃんが不安そうな顔をしてボクに聞いてきた。


「その、姫、ごめん。悪乗りしすぎた。ほんと大丈夫?」


 続いてひなちゃんも少しバツが悪そうにしながらもそばに来て心配してくれた。


「ったく、ひなっち。何してくれるのよ~、私の蒼空ちゃんになんかあったらどうするのさ?」


 沙希ちゃんがちょっと語気を強めてひなちゃんに食って掛かる。

 困り顔のひなちゃん。(つか、今何気に姫って言った?)

 で、それをゆかちゃんがフォロー。


「確かに……。ちょっと今のはやりすぎかも、ですね。……でも、私たちもそれを笑いながら見ていたわけですし……。あ、もちろん悪気があったわけじゃなく……、その、微笑ましいなって思って見てただけなんですよっ?」


 みんながそんなやり取りを見てまたわいわいざわめき出す。


「そ、そのっ、大丈夫だから!

 け、ケガとかもしてないし……、ひなちゃんのこと……怒ったりもしてないし。その、あのぉ……、い、今は、腰が抜けちゃっただけだから。……びっくりして。


 だから、そんなにひなちゃん責めないであげて?」


 ボクはぺたりと床に女の子座りをしたまま、だから自然上目使いになってみんなを見上げつつ、そう言ってひなちゃんのフォローをした。

 ほんと、どこも打ってなんかいないし全然平気なんだもん。(まぁつかまれたとこがまだ痛いけど……それはちょっと言えないよね)


「「「「「か、かわいいっっ」」」」」

 

「はえっ?」


 あーだこーだと騒いでたみんなの声が一つになった瞬間だった。


 び、びっくりした……。



 そんなこんなで、なんとも騒がしく気恥ずかしかった身体測定はいちおう無事??? 終了した。


 ほんとボク、何やってんだか?

 口は禍の元ってこと、つくづく思い知った出来事だった――。



* * * * * *



「で、この青あざなわけだ? ったくもう。最近お姉ちゃん、ちょっと体調がいいからって気が緩みすぎなんじゃない?」


 ボクの二の腕にしっかり出来てた青あざを見て、春奈がボクにお小言をたれる。

 あーあ、まずいやつにまずいとこ見られちゃったなぁ。

 お風呂上り、ダイニングテーブルについてお母さんに入れてもらったホットミルクを飲んでたんだけど……。

 Tシャツの袖からほんの少し、ちらりとのぞく『あざ』がしっかり春奈の目に留まったみたいで、そこからどうしてそうなったかの説明を延々しゃべらされた。


「蒼空ったら。お母さんもそんなこと一言も聞いてないんだけど?」


 はわっ、まずい、お母さんまで参戦だ。

 もー、春奈がおっきな声でぎゃーぎゃー言うからお母さんにまで聞こえちゃったじゃないさぁ。せっかく無難にやりすごせるかと思ってたのに……。

 ボクがそう思って、ついつい春奈を恨みがましい目つきで見つめると、


「あ、お姉ちゃん。私が余計なこと言って……とか思ってるでしょ? でも、そんなの当然じゃん! お姉ちゃんは普通の体じゃないんだもん。

 そりゃ、入院してたときのこと思えば今は元気になってきてすっごく良かったと思うけど。

 でもまだまだお薬に頼ってて、お医者様にも通わなきゃいけない体だっていうのは変わらないし、それはお姉ちゃんもわかってるはずだよね?」


 ううっ、手痛い反撃くらっちゃった。


「そ、そんなこと春奈に言われなくたって当然わかってるもん! ぼ、ボクのカラダのことはボクが一番わかってるんだから! 春奈ったらイチイチうるさいっ」


 ボクはついかーっとなってそんな言葉を春奈に投げつけた。

 一瞬だまりこむ春奈。その顔はなんだかちょっと寂しそうに見えた。


「あ、っそ。わかった。もう言わない。ごめんね、口うるさくておせっかいで。

 

 お母さん、私、今日は疲れたからもうこのまま寝るね。お風呂ももういいから、お母さん入ったらお湯抜いちゃっていいからね」


 春奈はそう言うとボクの方は一瞥もせず、そのまま自分のお部屋に向かって歩いていった。

 いつもなら必ず言ってくれてた……、「おやすみ」の言葉もなしで――。


「蒼空、いいの? このままで。……春奈、相当ご機嫌ななめみたいよ?」


 春奈の別れ際の様子から、お母さんが思案顔をしてボクにそう問いかけて来た。

 ううっ、そんなことボクに言われたって……。


「そ、そんな……、ボク、知らないっ!

 ボク何も悪いことしてないもん!

 は、春奈が勝手に怒って、勝手にお部屋に戻っちゃっただけだもん」


 ボクはつい勢いで、そう言葉を返す。


「……そう。

 

 ……ま、今は何言ってダメか……」


 お母さんはボクに聞こえないくらいの小さな声でぼそっとつぶやき、


「もうしょうがない。

 ほら蒼空、あなたももう寝なさい。明日も学校あるんだからきっちり髪もとかして、それに明日の支度を整えるのも忘れずにね」


 お母さんは、気持ちを切り替えたのかそう言うとボクの背中を軽くたたき、お部屋へ戻るよう促してきた。


「う、うん、わかった……。

 

 その……、


 おやすみなさい」


 ボクはやっぱ春奈のことが気になってて、すっごくしょぼくれた声でそう言い……、テーブルから離れた。


「はい、おやすみ」


 お母さんがそれに静かに答え、部屋に戻るボクを見送ってくれていた――。



* * * * * *



 翌朝。

 

 いつも朝の弱いボクを元気いっぱいの声で起こしに来てくれる春奈はついに現れなかった。


 ボクは見事に寝坊をし、お母さんに叩き起こされるまでお布団にくるまって眠っていた。

 そして、久しぶりに……これも見事お熱を出してしまっていた。


「やれやれ。幸い熱はたいしたことないけど……。今日は学校、お休みするしかないわね。

 お母さん、学校に連絡しておくから、今日は一日、しっかり体を休めること! いいわね?」


 体温計を見ながらボクにそう言うお母さん。


「うん……。わかった。ごめんなさい、お母さん。

 

 そ、それと……さ、その、は、春奈……は?」


 ボクのその言葉に静かにため息をつくお母さん。そして言う。


「春奈は朝練に行くって言って早くに出ていったわ。昨日聞いて……るわけないか。

 ったくしょうがない、早く仲直りしちゃいなさい? あなた、お姉さんでしょ? こんな時は年上が折れなきゃ。それに、今回のことは……ね、蒼空もわかってるでしょ?」


 そう言いながらボクの額を指でこつんと突いてきた。


「……う、うん。わかってる。わかってるけど……」


 ボクは微熱でちょっとぼーっとした気分の中、それでもお母さんの言葉に素直になりきれないでいた。だって、だってさ。ボク自分では別に何も悪いことなんてしてないし……。


「ま、ゆっくり考えなさい。


 じゃあ、おかゆ作って持ってきてあげるから、それ食べたら横になって眠りなさい?

 あとお薬もきっちり飲んで、しっかり休んで、早く学校に出られるようにならないとね」


 そう言いながらベッドに横になってるボクのアタマを優しく撫でてくれるお母さん。――けど、その手がぴくっとしたかと思うとそのまま固まったように動かなくなった。


「蒼空~? あなた昨日、髪を乾かさないで、とかすこともしないで寝たわね?」


 声のトーンを一段低くしてお母さんがそう聞いてきた。


「はわっ」


 ボクはびくっとし、思わずお布団をたくし上げて顔を隠しお母さんの視線から逃れるようにした。


「蒼空っ! あなたはもう……ほんと、しょうがない! そんなことしてたら熱を出しても仕方ないでしょう!」


 とうとうお母さんのカミナリが落ちた!


「はひっ!」


 ボクはお布団の中で縮み上がった。


「昨日春奈が言ったこと、今日はお母さんがもう一度言ってあげましょうか?」


 ううっ……、そ、そんなぁ。


「いい。言わなくてもいいよぉ……。


 ごめんなさい!


 ボク、ちょっといい気になってた。ガッコに通えるようになって……、友達とも会えて……、部活もまた始めらて……」


 一度謝り出したら、それまで意地になっていたのがウソのように次々と自分の口から言葉があふれだした。


 ようやく素直になれた。



「……もういいわ。

 

 春奈にもそう言ってあげなさい?


 お母さんから今日は学校お休みするって、春奈にも連絡しておいてあげるから……。帰ってきたら、ね?」


 やさしい口調に戻ったお母さんがそう言いながら、ボクのお顔をお布団からむき出し、頬を撫でてくれた。……お母さんの手は冷たくって気持ち良かった。


「うん!」


 今度はボクも元気に答えた。ま、お熱でぼーっとしながらだから元気でっていうのは変かも? だけど。



 こうしてボクの騒々しい朝が過ぎていく。



 はぁ、なんか久しぶりにお母さんのカミナリが落ちちゃったなぁ……。

 そんなことを考えながらおかゆさんを食べ、お薬を飲んだボクは、お熱からか、お薬がきいたのか? そのまま眠りの世界へと落ちていった――。



* * * * * *



 その日の夕方。


 けっこう早い時間に学校から帰ってきた春奈は一目散にボクの部屋にやって来た。

 この時間に帰って来たってことは部活、しないで帰ってきたんだよね?


 

「お姉ちゃん、大丈夫? 熱はまだあるの? 青あざが痛んで来たりしちゃった? それとも、その……私のっ」


「春奈! 大丈夫! 大丈夫だから……。


 その、ごめんなさい!


 いろいろ……、色々こめんなさい!


 お熱はボクの自業自得。春奈は全然悪くない。だから……」


 ボクは部屋にかけ込んできた大事な妹のお顔を見つめて一気に言った。


 春奈は無言でうんうん頷いた。

 そしてベッドで横になってるボクに思いっきり抱き付いてきて……言った。



「ばかっ。


 心配、心配かけて……さ。


 でも、うれしい、よ……」



 そう言った春奈の声はちょっと震えてた。

 そのお顔はお布団に埋もれてて見えない……。


 けど、きっと泣いてるんだろう。



 ボクは、思った。


 こんな優しい女の子。



 春奈……が、ボクの妹でいてくれて良かった……って。



なんだか、だらだらとしたお話になってしまいました……。


読んでいただきありがとうございます。

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