ep107.新学年と変らない友だち
お久しぶりです。
なかなか投稿が出来ずすみません。
ぽかぽか陽気に恵まれた始業式当日。
2週間ぶりにガッコの正門近くにあるバス停に降りたったボクと春奈は、満開に近くなった見事な桜の花たちに出迎えられ、思わず2人して微笑み合った。残念ながらまだ杖を突いての登校ってとこがちょっと残念だけど。
目の前で華やかに咲き誇ってる、ガッコの敷地沿いの桜並木――。
あぁ、ボクがここ、清徳大付属に入ってからもう1年経っちゃったんだなぁ……。
1年前も同じようにこの桜たちに出迎えられて……、お母さんにい~っぱい写メ撮ってもらったんだよね。そーいや、あの時は沙希ちゃんも一緒になって撮ってもらってたんだ。
ふふっ、なんか懐かしい。
でもっ、1年経ったっていうのにボクったら何も変ってない……。
背だってほとんど伸びてないし、そ、それどころかまた杖突いて歩いてるし。どっちかというと昨年より悪くなってる……。
「はぁ……」
進歩ないなぁボク。悔しいなぁ――。
――あ、成長? してるとこあった。
せ、生理……。
1年前はまだ来てなかったもんね、これ――。
あはっ、でもあんまし嬉しいもんでもないもんね。痛いし、つらいし、滅入っちゃうし……。でもまぁ、こんなボクでもちゃんと大人になっていってるってこと、分かったんだもん。喜ぶべきことなんだろうけど。
ボクはそんなことを考えながら、眼鏡越し、にじむ視界ながらも改めて桜を見つめ、軽くため息をついたりする。
「ちょっとお姉ちゃん、桜見ながら何百面相しちゃってるの?」
そんなボクにきっちり春奈から突込み入った――。
「ふあっ? あ、うん。その、別に何でもない。ただ……、1年経ったんだなぁって。そう思ってただけ」
ボクのそんな言葉に笑顔だった春奈の表情が微妙にまじめなものに変った。
「……そうだね。1年……経ったんだね」
そう言いながらボクの方を見つめ、黙り込んでしまった春奈。でもそれはほんの少しの間だけ。
「よしっ! じゃ、今年も桜バックに写メ撮ろう! いっぱい撮ろ~!」
「はわっ、ちょ、ちょっといきなり~」
ついさっきのちょっとふさいだ感じはなんだったの? ってくらいテンション上げた春奈がボクの背中から両肩を掴むと、そのままガッコの敷地側、桜並木の元へと押し進めてくる。
ボクはそんな春奈にむくれた表情を見せ、文句を言う。
「もう、春奈ったら! 写メ撮るのはいいけど、いきなり後ろから押さないでよ~!
でも、写メ撮るにしても2人だけだから一緒に撮れないよ? どうする……の」
ボクはアタマに手をやり、髪が乱れてないか確認しながら文句をたれる。(せっかく写すんだもん、ちゃんとしなきゃ) そして2人きりの今、一緒に撮れないことが気になったボクはついそんなことを聞いちゃったんだけど――、
「ふふっ、おっはよー!
困ったときのお助け人、ラブリー沙希ちゃんだよー!」
それはいらぬ心配だったみたい。
春奈の後ろからぴょこんと現れたのは沙希ちゃんだった。どうやら春奈はボクより早めに気付いてたみたいで、そんな沙希ちゃんとお互い顔を見合わせ、男の子みたいに「よっ!」っとか言ってハイタッチしながら挨拶交わしてた。
そ、それにしても"ラブリー沙希ちゃん"だなんて自分で言っちゃう?
「沙希ちゃん、おはよう。そのぉ、いつも元気だね?」
ボクはジト目になりながら、多少含みを持たせた言葉で沙希ちゃんに挨拶を返した。
「うんっ! そりゃもう、今日からまた蒼空ちゃんと一緒に学校に通えるんだもん、うれしくって」
「ふぇ? そ、そ、そうなんだ。あ、ありがとう……」
ボクの言葉なんて意に介さず、まったく恥ずかしがる素振りもなくそう言いきった沙希ちゃん。ボクは対照的にお顔をまっ赤にし、なんとかお礼を返した。
ううっ、ほんと沙希ちゃんには参っちゃう。は、恥ずかしい……。
そんなボクたちをにやけた顔をして見てくる春奈。
「いやぁ、5年生になっても相変わらずよねぇ? あんたのそのぶれなさ加減、ある意味尊敬しちゃうよっ!」
うんうん頷きながら、満面の笑みでそんな言葉を沙希ちゃんにかけ、更に続ける。
「さ、ともかく写メ撮ろ! あんまりのんびりしてるとどんどん注目浴びまくっちゃうよ?」
春奈のそんな言葉に、ボクと沙希ちゃんはふと辺りを見まわす。
「わぁ姫ちゃんだ、相変わらずカワイー、小さ~い」
「もう体調いいの~? 無理しないでね~」
「桜バックの姫ちゃんいただき~」
先輩方が桜の前で話しこんでるボクたちを見つけ、足を停め、色んな言葉をかけてくれたり、手を振ったりしながら前を通りすぎて行く。ボクのこと心配してくれる人もいっぱいいて、なんだかこそばゆい。
そ、それに遠巻きに、新らしい制服が初々しい4年になったばかりの子たちなんかもこっちを不思議そうな表情で見ていったりする。ううっ、ボクは違うからね。僕は君たちと一緒じゃない、先輩なんだからね?
なんか勘違いされてそうで先が思いやられる……。
「えへへっ、人気者だね~っ! さっすが私の蒼空ちゃん」
さ、沙希ちゃん。私のって……、ボク物じゃないし。
相変わらずの平常運転の沙希ちゃんに呆れつつ、やっぱ今年もなんだか色々と騒がしくなりそうな感じがして思わず苦笑いしてしまうボク。
「ほらぁ、わかったらさっさと並んだ並んだ!」
待ちきれなくなった春奈が再びボクらに声をかけて来る。うわっ、ちょっとイラついてる?
ボクと沙希ちゃんは顔を見合わせ、お互い舌をぺろっと出し、
「「はーい、ごめんなさーい。それじゃよろしく~!」」
2人して笑顔でそう言う。
沙希ちゃんがボクの手を取り、ボクもそれを握り返し、2人並んでポーズをとる。春奈はそれを見るや、ふくれ気味の表情からあっと言う間に笑顔に変わり、ケータイを覗き込んで写メを撮りだした。もちろん交代交代でいっぱい撮った。
そんな風に新学年最初のイベント、桜並木を前にしての短い時間の撮影会を3人で楽しんだ。
* * * * * *
新しい教室でのSHRのあと始業式があるわけなんだけど、その前にうれしいことを一つ報告しちゃう。
何かって言えば、一学年進んだことで教室の場所が3階から2階へ移ったこと! これは足元に自信のないボクにとって、とても助かるうれしい変化だった。2階までなら難敵の階段もゆっくりと気をつけて上り下りすればなんとかなるに違いない。うん、いい感じ!
ちなみにそれ以外はまぁ4年生の時と全く変らず。担任の先生も来生先生のままだし、クラスのみんなも相変わらずで、久しぶりに会った友だちと再会を喜びあった。
慣れた雰囲気に緊張感も余りなく、今日の予定とかたかちゃんから聞いた後、始業式のため体育館へと移動。
始業式は中等部と合同で行なわれるから広い体育館も女の子でぎっしり。とはいっても4月になったばかりの体育館は底冷えしていてとっても寒い。ボクは手に持ったお母さんが用意してくれてたひざ掛けを使い、寒さを紛らわす。淡いピンク地に猫のかわいいキャラクターがワンポイントで入っててとってもかわいらしい。
元男の子のボクだけど、かわいいものは昔からけっこう好き。これも数ある春奈のからかいのネタの一つになってたけど、今のボクは女の子。なにもおかしいことないから堂々と使えちゃうんだもんね!
ボク以外にも同じようにひざ掛けしてる子はけっこう居る。ま、春奈は使ってないんだけど。あいつは元気の固まりみたいなやつだから平気なんだろうけど……見てるこっちが寒くなっちゃう。信じらんない。
そうやって寒さをごまかしつつ、時折り挨拶のため立ったり座ったりし、最後は定番の校長先生の長い挨拶で、ただただつらくてつまらない印象しか残らない始業式がやっと終わる。
「……はぁ、やっと対面式だよ……」
「……ほんと校長の話って長いだけでぜんっぜんつまらないよねぇ……」
ボクの周りでみんながひそひそ愚痴りながらも対面式のため、今まで向いていたステージ方向から新入生と向き合うように座りなおす。
中等部の新1年生、そして高等部の新4年生。まぁ高等部の方は中等部からのスライド組みも多数いるから全員が新入生ってわけではないけど……、それでも心気一転ということもあり、みんな緊張した面持ちで、先輩たちの前に座ってる。
迎える上級生はと言えば、後輩たちの様子や姿を見ながら、「あの子かわいい」「あれちょっと生意気!」なんて言い合いながら、ひそひそボソボソ……言い方悪いけど、下級生の品定めみたいなことやってる。ボクの周りも当然のごとくヒソヒソやってて、さっきまでの始業式の雰囲気とは大違い。まったく、みんな不真面目なんだから。
ああほら、たかちゃんが睨んでる。ボクの目で見てもわかるくらい露骨にこっち見て、恐い顔してるのがわかる。
ああ、これ絶対後で怒られる。もうっ、ボクいい子にしてるのにぃ!
「はぁ」
一緒になって怒られるに決まってることを思い、こっそりため息をつく。
でも、そんなボクの小さな思いはともかく、対面式はなんとか混乱もなく進んでいく。
先生方の簡単な挨拶、なんだか自信たっぷりな様子の新入生代表の挨拶、そして最後の締めくくり、在校生代表として生徒会長さんの挨拶が始まる。
そんな姿を見て、3学期になってガッコに出てみれば、ボクが休んでた4ヶ月と少しの間に会長さんを筆頭に色んな人が代替わりしてて、さみしい気持ちになったことを思い出す。
――うん。
今年は絶対ちゃーんとガッコに出る。4年生の時出来なかったことも、きっちりこなしてやるんだから!
生徒会長さんが後輩に向けて話す激励の言葉を、まるで自分に向けられた言葉のように聞きながら、ボクはそう気持ちを新たにし、これからのことを思い表情をきりっと引き締めた。
* * * * * *
式典が終わり、教室に戻ってみれば――、きっちり来生先生……たかちゃんのお説教が待っていた。
「まったく、5年生になってあなたがたは先輩になったの。今日対面した新入生たちの模範となる姿を見せなきゃいけないのに、ほんと、あなたがたときたら!」
そんなことをボクたちに言いながら、お説教を続けること5分少々。
いつも優しいたかちゃんにしては、けっこう長めのお説教だった。
よっぽど式でのみんなの私語が悲しかった? のかもしれない。ボクはこれっぽっちもおしゃべりなんてしてないけど……注意をしなかったのも事実。
ってことでみんなと一緒に少々うんざりしながらも静かにお説教に聞き入ってたボクたちだった。
「はーっ、今日のたかちゃん、気合入ってたよね~? もう終わんないんじゃないかって思っちゃったよ」
新学期初日の行事が全て終わり、SHRもなんとか終わったところで、帰宅の準備をしてたボクのところに沙希ちゃんが愚痴りながら近づいてきた。ひなちゃんや莉子ちゃんも帰り支度を進めつつ、沙希ちゃんの言葉にうんうん頷いてる。ゆかちゃん、エリちゃんは帰っちゃっててもういない。
ちなみに席順はとりあえず4年生の時と同じ。ただ、このあと入れ替えとかも考えてるらしく、長ーいお説教の後、そんなお話も聞かされたからみんな必要以上に盛り上がってた。
「新しい席、どこになるかなぁ? 出来れば蒼空ちゃんのそばがいいんだけどなぁ」
沙希ちゃんがそんなことを言う。
ボクはその言葉を聞き、ちょっといじわるな表情を浮べ、注意を促してみる。
「えへっ、沙希ちゃん。わかってる? ボクのそばに来るってことは教室の前の方に来るってことなんだよ? ボクの席が後ろに下がることはないんだもん。それでもそばにくる?」
「うぐっ、そ、そうなんだよねぇ。前に移って先生とバトルをしながらも蒼空ちゃんを愛でるか、諦めて草葉の陰から見守るか……。むぅ、究極の選択だよ~」
そんなことを言ってうーんと悩みだす沙希ちゃん。っていうか!
「さ、沙希ちゃん、草葉の陰じゃもう死んじゃってるから! 使い方間違ってるから」
ボクは沙希ちゃんのとんでもない言葉の誤用に慌てて突っ込みを入れる。
「へっ、そ、そうなの?」
「沙希ったら、ばかねぇ。草葉の陰っていえば、草の葉の下。要は土の中。お墓の中ってことじゃない。沙希ったらもう死んじゃうわけ? ほんと抜けてるんだからっ」
ボクの言葉を引き取って説明をしてくれたのはひなちゃん。けっこう手厳しい。
「うへぇ、私まだ死にたくないよ~。蒼空ちゃんの魔法少女コスプレ見るまでは死んでも死に切れない~!」
そう言いながらお化けの真似をして腕を伸ばし手首をだらっとたらし、そばに居たひなちゃんや莉子ちゃんにしな垂れかかっていく。
「ああんもう、うっとうしいっ!」
「やー、沙希ちゃん、やめるですー!」
「おーおー、愛いやつ。ちこーよれっ」
ひなちゃん、莉子ちゃんにめいっぱい嫌がられながらも懲りずにじゃれつく沙希ちゃん。それにしても今何気に変なこと言わなかった?
と、そんなバカなことをしつつ(言っとくけどボクはなんにもしてないから)、みんなで騒いでたんだけど。
「こらっ、あなたたち何覗いてるの? 見たところ4年生よね、誰かに用でもあるの?」
半数近くが帰った教室でまだ残っていた1人、暫定クラス委員長(年度が変ってまだ今年の新委員長が決まっていないもんね)の小林さんが、その目元の眼鏡の収まりを、スチャっと音がしそうな手つきで直しつつ、凛とした声でそう問いかけてた。
その声は廊下に響きわり、教室のドアから中を覗き込んでた女の子たちはびっくりしてきょとんとした表情を浮べてた。そして少しして我に返った子たちが慌てて答える。
「「「は、はいっ! 4年生です。勝手に覗いてすみませんでしたっ!」」」
声をかけられたのはどうやら新4年生の女の子3人みたい。
その子たちは大きな声で謝って、「きゃー、やっぱうわさ通りだった~」とか言い合いながら、怯えてる感じじゃ全然なく、どっちかというとイタズラがばれちゃって慌てて逃げるみたいな……、そんな感じで走り去っていった。
「あれ、絶対柚月さんを見に来たんだわ。ったく! 先輩の教室、始業式初日から覗きに来るなんていい度胸してるわっ」
小林さんがボクの方を見てそう言いつつ、さっきの新入生の子たちのことをぼやいてる。
「はえっ? ぼ、ボクを見に? な、なんでまた?」
つい素っ頓狂な声を上げてしまうボク。でもそう言ってからボクはいやでもその理由に思い至る。
「あはっ、ボク変わってるもん……ね。珍しいもの見たさってやつかな……?」
ボクは自嘲ぎみにそう言ってしまった。
「蒼空ちゃんはかわいい! それは120%間違いない事実! だからきっとあの子たちもそれが気になって見に来ただけ! それだけだよ」
沙希ちゃんがそう大きな声で言うなり、ボクの手を取りぎゅっと握ってくれる。
他のみんなも沙希ちゃんのその言葉に、ちょっと呆けて間が開いたとはいえ、うんうんと頷き笑顔を見せてくれた。
「ま、有名税ってとこで、諦めたほうがいいかもね?」
小林さんが沙希ちゃんのノリに呆れた顔をしつつ、素っ気なくそう言った。でも冷たいとかそう言うんじゃなく……、うまく言えないけど……。
「あやねっち! 蒼空ちゃんは私が守る! だからのーぷろぶれむ。大丈夫だよー!」
そんな中、沙希ちゃんは相変わらずマイペース。
委員長の名前も勝手にあだ名をつけて呼んじゃうし。つうかなんでも"っち”や"りん"ってつけてるだけって気もする。
「ふん。誰があやねっちだっていうの。馴れ馴れしい。――ま、いいけど。
じゃ、私も帰るから、柚月さんたちも今日くらい早く帰りなさいよね?」
小林さんは沙希ちゃんの呼びかけにちょっと顔をしかめつつ、それでも特に何を言うってこともなく、"元"委員長らしくボクたちに早く帰るように言ってから教室から出て行った。
ボクたちはしばらく小林さんが出ていった方を見つめ、そして誰からともなくクスクスと笑い出した。
「ふふっ、小林さん、素直じゃないよね」
「そですねー」
ひなちゃんと莉子ちゃんが笑顔で言う。
「そこが萌えポイントじゃん~! やっぱ、コスプレさせたい眼鏡っ子委員長ナンバーワンだ」
「だぁ、沙希はもう黙れ!」
「やーん、ひなっち、ひどい~!」
「だ、誰がひなっちだ!」
なんか概視感たっぷりなやり取り。
ボクはなんとなく心があったかくなった気がしてつい頬がゆるんでしまう。
「お姉ちゃん、何にやけた顔してんの?」
「ふぇ?」
聞きなれた声にふと前を見上げる。
そこには相変わらず日に焼けて真っ黒なボクの大きな妹、春奈がいた。
「よーし、春奈も来ちゃったし、みんな帰ろう!」
沙希ちゃんがようやくまともに戻り、まともな発言をした。
「「「「「おー!」」」」」
みんな一斉に声をあげ、席を立つ。
ボクはといえば、しっかり春奈に手を取られカバンも取られ、手には杖を持つだけ。
「……ほんと、過保護なんだから……」
ボクは誰にも聞こえないくらいの小さな声でそうつぶやき、春奈の手をぎゅっと握り返して席を離れた。
今年1年……。
何ごともなく、無事過ごせますように。
ボクはみんなと一緒に歩きながら、そう思わずにはいられなかった。
読んでいただきありがとうございます。