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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
4章
114/124

ep106.新たな日常の始まり

新章開始です。

 寒かった冬もようやく終わり、街やガッコの桜並木も、場所によってはちらほらと咲き始めているらしい。うん、やっぱ春はいいよね。

 ボクはといえば、相変わらずお家の外に出るにはお母さんの許可が必要で、しかも1人でだなんて絶対に出してもらえない。思い返してみればボク、このカラダになってから一人だけでお外に出たのってあの・・車イスで黙って出かけて叱られちゃったときくらいなんじゃないかな?


 あーあ、ぼくも今年で18才になるんだもん、もっと1人で色々出来るようになりたいなぁ。


 ――む、無理……かな? はぁ。


 ご、ごほん。


 で、短い春休みはあっという間にすぎ、明日からはいよいよガッコが始まる!

 ボクは留年もせず、なんとか5年生として新しい年度を迎えることが出来たし、後輩だって入ってくる。4年生のときは病気のせいで出来なかったことがいっぱいある。せっかくガッコにまた通えるようになったんだもん。ほんとにほんと、今年は色々出来るようになりたいなぁ……。


 よし、がんばろっ。


 それにしても春休みは短かったとはいえボクにとっては一大事な出来事があった。それはもちろん、ちーちゃんが家からとうとう出て行ってしまったこと。

 お引越しはボクも少しはお手伝いした……つもり。

 その後、優衣ちゃんや亜由美ちゃん、それに沙希ちゃんも招いての送別会とかもしたりして、ちーちゃんとお別れした。ボクは泣かずに笑顔で送り出そうとガンバってみたけど……、やっぱ泣いちゃった。なんか最後までボクって頼りない女の子のまんまだ。元は男の子だっていうのに……ほんと情けないや。


 はぁ、最後くらいちーちゃんにいいとこ見せたかったのになぁ……。


 でも、6月の結婚披露宴にはボクも絶対出るつもり。その時は、いいとこ見せるんだもんね。それに備えて体調バッチリ整えておかなきゃ。


 ただ、6月は退院からちょうど半年ってことで、またマルクしなきゃいけないからそれがちょっと気がかり……。

 通院するたびにしてる血液検査のほうは相変わらずで、なかなか元気だったころ(まぁいつが元気だったの? ってとこもあるけど……)の数値には戻ってくれる気配がない。村井先生いわく、少しずつ気長に治療していきましょうってってことだし、焦っても仕方ないんだろうけど。

 それにしたって、ボク、骨髄移植すればもっときっちり完治してくれるのかと内心期待してたのに……、そこのところはちょっと残念。


 まぁともかく、お薬さえ忘れずに飲んでさえいればとりあえず問題ないはずだし、その辺は余り深く考えないようにしよ。それより今は明日からのガッコに備えてきっちり体調整えて、準備万端で臨まなきゃ!

 

 ちなみに今はお風呂上り。

 お風呂上りにはお顔や全身に化粧水を塗り、それから保湿のためにクリームも塗る。もちろん唇にも乾燥させないようリップクリームを塗るようにしてる。もちろんそんなの、ボクが自分から始めたわけじゃなく、みんなお母さんや春奈からのつよーい指示によるものなんだけどさ。

 それは退院してから特にうるさくなった。(退院したてのボクのカラダの状態に相当ショックを受けたみたい……。まぁ確かに長い治療のせいで色々ボロボロだったけど)

 でもそうやってお肌のお手入れをキッチリするようになった(させられた)おかげか、最近は自分でも驚くくらい、すっごくツヤツヤすべすべ、触ってて気持ちいいお肌になったと思う。


 うん、お手入れはめんどくさいけど……その辺はお母さんたちに感謝しなきゃいけないかな?(ボクが若いってのもとーぜんあるけどね、えへへっ)


 お肌のお手入れの次は髪の毛だ。ほんと女の子ってやること多いよね。男の子のときとは大違いで、すっごく時間がかかっちゃう。おかげで今みたいに色んなこと考えてしまう時間もたっぷりある。

 お風呂場から自分のお部屋に戻るわけだけど、アタマにターバン巻き、そしてめんどくさいからって、パンツだけ履いてカラダにはバスタオル巻いただけの姿でお部屋に戻ることを最近覚えた。だってほんとめんどくさいんだもん、やること多過ぎてさ。


 ただし、これは気をつけないと……、


「蒼空っ!」


 はわっ!

 しまった、見つかっちゃった。


「もう、あなたったらいつも言ってるでしょ? そんなカッコでうろついちゃダメって! もういい歳の女の子なんだからもっと慎みを持ちなさい。っとにもう、変なとこばかり春奈に似てくるんだから」


 ううぅ、お母さん、目が恐い。


 出るタイミング誤まっちゃった……。そうこれのお手本は春奈。あいつなんていっつもこれだもんね。それにしても春奈に似てくるって。ボクがお姉さんなんだから、普通言い方逆なのにぃ。


「う、うん、わかってる。そ、その、今日はたまたま。たまたまなんだもん……」


 それにお家には男の人もいないんだし、別にいいじゃんかぁ。ボクは心の中で反論する。もちろん口になんかは絶対出さない。理由は言うまでもないよね。


「たまたま……ねぇ? ふーん、わかった。蒼空はまだ子供だっていうことね?

 なるほど、それなら仕方ないわよねぇ? なにしろ子供だから、まだ恥ずかしいとか、はしたないとか関係ないものね~?」


 お母さんが薄い笑顔を浮かべ、そんなコトを言ってきた。でもその目は全然笑ってない。こ、恐い~っ。


「ううぅ、そんなぁ。ボクもう子供じゃない……もん」


 弱々しく反論するボク。


「だったら、家の中でもキッチリしなさい!」


 ぴしゃりと言いつけてくるお母さん。


「は、はーい!」


 ボクはかろうじてそうお返事すると、お母さんの小言をそれ以上聞かないためにも、早々にその場から退散した。



 なんとかお部屋に戻り、ベッドに腰かけながら早々に部屋着に着替えるボク。


「ふぇ~、お母さん、恐かった~」


 部屋着に着替えて人心地ついたボクはさっきのお母さんのことを思い軽くカラダをすくませた。ほんと、怒ったときのお母さん、半端なく恐い。春奈なんかしょっちゅう怒られてるけど、平気なのかな? だとしたらあいつはきっと大物になるよ。でもボクには無理。


 はぁ、めんどくさいけど今度からは気をつけよっと。

 

 落ち着いたところでドレッサーを前に座り、アタマにターバンみたいに巻いてたタオルを取って今度は長い髪のお手入れをしなきゃいけない。あーあ、ほんとにやること多いなぁ。

 お風呂ターバンは以前合宿の時に藤村部長がキレイに巻いてくれたのがすっごく印象に残ってて、結構練習して、今じゃ自分でもキレイに巻けるようになった。まぁ、お母さんにも手伝ってもらいながらだったけど……。


 長い髪はとっても面倒だけど、長くてつらい治療にも耐えてくれた髪なんだもん、やっぱ大事にしなきゃ。それにお母さんや春奈も、雑に扱ってたりするとすっごくうるさいし……。っとにさ、ボクの髪なんだからそんなのボクの勝手だと思うんだけどなぁ。

 でも。人とは違う、こんなまっ白な髪の毛だけど……みんなはキレイだって言ってくれる。親しい人は優しくなでてくれたりもしてくれる。それはすっごくこそばゆいけど、でもすっごくうれしい。

 白い髪、おまけにこの赤い目のせいでちょっと、というか、かなり不気味に見えちゃうんじゃないか?って、未だに知らない人の前に出るときは不安に思うこともあるけど……。

 今のトコ、そんな風にボクのことを見る人に会ったことはなくって(っていうか、逆にやたらとかまわれまくっちゃてるし)、目立つことは仕方ないことだろうけど、気にしないようにしてる。


「よし、こんなとこでいっか」


 ヘアオイルをがんばって毛先まで塗り、ドライヤーでゆっくり丁寧に乾かして、最後にゆるい三つ編みにしてようやく全てのケアが完了。


 な、長い。全部終わるのに軽く30分以上はかかっちゃう。


 でもまだこれで終わりじゃない。

 今度は明日着ていく制服の準備、それに持ち物チェック。とは言っても、制服はお母さんがきっちり準備してくれてるから、その確認を再度するだけ。それより大事なのは持ち物だったりする。ウチのガッコはお化粧とかはもちろん禁止。だけどそんなガチガチっていう訳でもなくて結構ばれないようにお化粧してる子たちも多い。ボクはもちろん、お化粧なんてしないし、したこともない。……けど、ボクの場合、お肌がとっても弱いからその保護のために、それに似たことはしなきゃいけない。

 ってことで、それに関する持ち物が多い。乳液や日焼け止め、あとファンデーション。それにリップクリーム。アルビノであるボクのお肌は日焼けにはただでさえ弱いから大変。だから冬でも手放せない。でそれはお化粧品なんかを入れるかわいらしいポーチにしまってある。化粧ポーチは春奈が買って来てくれたのを使ってるけど、濃いピンク色しててちょっと派手めで恥ずかしい。

 あと眼鏡や単眼鏡、目薬に、ほとんど使ったことないけどカラコンとかもある。ここ最近だと、そ、その、生理用品とかも持ち物の中に加わった。

 そこに更にガッコで使う筆記用具に手帳、おサイフにケータイ。授業が始まったら教科書にノート。


 ううっ、なんか考えてみるといっぱいある。


 と、とりあえず明日は授業はないから教科書なんかはいらない。確認がすんだらスクールバックに詰め込んでこれで明日の準備は完了だ。


 ふぃ~、準備だけで疲れちゃう……。

 

 明日は朝も早いことだし、早く寝ちゃおっと。


 ボクは目覚ましをセットし最後にケータイのメールチェックだけ済ませ、そそくさとベッドのお布団にくるまる。

 


 それじゃ、おやすみなさーい。



* * * * * *



『コンコン』


 毎朝のいつもの風景。

 春奈が蒼空の部屋をノックする。


『コンコン!』


 そしてこれもいつも通り?

 蒼空から返事は帰ってこない。


『ガンガン!』


「お姉ちゃん! 起きてる~? もうっ、初日からこれ?」


 返事のない蒼空に切れる春奈。これもまぁいつも通りと言えるのかもしれない。


「入るからねっ!」


 そう言うや、ドアを勢いよく開け中に突入する春奈。

 厚いカーテンがひかれ薄暗いままの蒼空の部屋。カーテンを開けることもぜず、そのままベッドを確認する春奈。

 そこには未だ気持ちよさそうに眠る相変わらず小さな姉、蒼空の姿。薄っすらと開いた、そのかわいらしい小さな唇からはなんともだらしなくよだれが垂れている。

 どうやら目覚ましはすでに止めてしまっているようで、その役目を果たすことは最早なさそうだ。


「はぁ……。まったく、お姉ちゃんってば。どーなのよ、これ」


 そんな様子を見て呆れ果てる春奈。

 そして目元が怪しく光り、口角がついと上がっていく。


「お姉ちゃん――」


 ここから先。

 またいつものお約束、春奈のいじわる目覚ましタイムが始まるのだった。



 それにしても毎度懲りない蒼空である。



* * * * * *



「もう春奈ったら、もっと優しい起こし方できないのぉ~!」

「文句言うくらいなら、自分でちゃんと起きればいいだけじゃん」


 毎度、春奈の起こし方に文句をつける蒼空。

 そしてそれにイジワルな笑顔を貼り付けて言い返す春奈。


「ううぅ、そ、そうだけどぉ……」


 それに言い返すことが出来ない蒼空。

 見事にいつも通りの日常である。


 いつも通り。


 それはなんと幸せなことなのだろう。

 ほんの数ヶ月前、柚月家に蒼空の姿はなく、重く沈んだ空気がただよっていたことを思えば、なんとも変れば変るものである。


「「お母さん、おはよう!」」


 2人して騒騒しくも食堂に着くや、食事の準備をしている日向に朝のあいさつをする。


「おはよう、2人とも。なぁに、また朝からケンカ? ほんとしょうがないんだから。ほら、食事の準備、出来てるから早く食べなさい。

 蒼空、今日から学校でしょう? しゃきっとしなさい」


 そう小言を言う日向の表情も、その言葉とは裏腹に優しさに満ちている。

 そしてそう言葉をかけられた蒼空はといえば、


「はわぁ、うん、わかってるぅ、任せといてよ~。準備は昨日バッチリしたんだから、心配いらないよぉ」


 たどたどしく自分の席に付きながら、まだまだ眠たげに答える蒼空。答えながらも卓上に出されたお味噌汁の香りに小ぶりな鼻をひくひくさせていて、なんともかわいらしい。

 そんな蒼空の様子を見て笑みを深める日向。春奈もそんな2人を見て自然笑顔になる。


 「なるほどね、まぁ信用してあげる。それで蒼空、今日は髪、どうする? 自分でポニーテールにして行く? それともまた三つ編みカチューシャにする? ん?」


 はむはむとご飯を食べ出した蒼空に日向がそんな質問をする。


「はぇ? んーとねぇ、んー。今日は対面式と始業式があるし……やっぱお母さん、お願いしてもいい?」


 食べながら、そう答える蒼空。

 ずいぶん自分で髪を結うのにも慣れたとはいえ、たくさん人がいるとこに出るんだし、やっぱ自分でやるよりお母さんにしてもらったほうが確実で、丁寧――。

 何より特別な日にはお気に入りのヘアスタイルで出たい。そんな思いからの判断だった。


「こらっ、お口の中に物を入れたまましゃべらない!

 まぁ、ともかくわかったわ。時間もあんまりないんだし食べたらすぐ編んじゃおうか。あ、でも、慌てて食べちゃダメよ? ゆっくりしっかりとお食べなさいね」


「ふぁ~い」


 またも口の中にごはんを入れたまま返事する蒼空。危うく吹き出しそうになる。

 それを見て日向の目付きが鋭くなる。


「はみゅ」


 慌てて口を手で押さえる蒼空。


「「はぁ」」


 そんな蒼空を見て日向はおろか、春奈まで一緒にため息を付く。


 今日から清徳大付属高校の5年生。

 対面式では後輩たちの前に立つというのに相変わらず子供っぽい蒼空。街に出れば未だに中学生と間違われることも多い。(これは蒼空のせいにだけするのは酷ではあるが)


 こんなことで大丈夫なんだろうか?


 なんともこれから先が心配な、いや心配すぎる、日向と春奈なのであった。


 


これを最後の章とするか、まだ悩んでます。


読んでいただきありがとうございます。

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