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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
113/124

番外編.ある訪問者の一日

まさかの連投です。が、番外編です。


※10/4 言い回しをいくつか修正しました。大筋に変化はありません。

「いい英明ひであきさん、くれぐれも蒼空ちゃんを刺激しないようお願いね?」

「ああ、そう何度も言わなくてもわかってるって」


 こう言って何度も同じことを注意してくるのは、俺のかわいい婚約者、千尋だ。


 今は千尋が住まわせてもらってる叔母さんの家から、引越しの荷物を運び出すための準備をしてるところだ。

 段取りとしては、俺の実家から軽トラを借りてきて新居になるアパートで待ち合わせ、そして千尋の軽と入れ替わりで叔母さんの家へ行くって感じなわけだ。


 結婚前でもう同居か? だって?


 いやまぁ、それはごもっともだが、千尋も身重になっていくことだし、それに、俺以上に千尋の母親が同居に積極的で、とっとと一緒に生活してしまえってなもんで……、とんとん拍子に住むところまで決まってしまったわけだ。いや、それにしても千尋の母親ってのはすげぇパワフルで驚いた。さすが有名広告代理店勤務は伊達じゃないって感じで、人の扱いに慣れてるつもりだった俺もタジタジだった。


 そうそう、肝心な俺たちの関係だが、大学の常勤講師とその生徒っていうありがちな関係だったわけなんだが……、こういっちゃなんだが千尋から結構積極的に声をかけてきて(もちろん最初は講義がらみだが)、いつの間にやら付き合ってたというわけだ。

 講師と生徒という立場は多少面倒だったけど、まぁそこはお互い大人だ。中学や高校のガキとは違って公私の使い分けはうまくやっていた。そうその辺は間違いなくうまくやってたんだ――。


 それなのにまぁ、とんだ初歩的なミスをしてしまったもんだよ……、やれやれ。


 だがまぁ、これは言っても仕方が無い。責任はキッチリとらなきゃな。

 それにもちろん、お互い結婚を意識して付き合ってはいたんだし、それがちょっと早まってしまっただけのことさ。(まぁ、まだまだ講師って立場じゃたいした甲斐性もないかもしれないが)


「ちょっと、英明さん? 私の話し聞いてる?」


 おっと、俺のかわいい婚約者さまがお怒りだ。

 身贔屓と言われるかもしれないがあえて言おう。千尋はべっぴんさんだ! 大学のキャンパスでも5本の指に……は、まぁ言い過ぎかもしれんが、それくらいの美人だと自負している。それに身長180を優に超える俺の横に立ってもそんなに見劣りしない背丈(確か170近くはあるはずだ)もいい。お互いスリムで背も高いから、なかなかかっこいいカップルに見えることだろう! うん。(まぁ俺の顔のことはこの際置いといてくれ)


「ああ、もちろん聞いてるともさ。任せておいてくれ。これでも高校の先生をやったこともあるんだぜ? 子供の扱いもバッチリだ」


 千尋が何を心配してるのかしらんが、その対応は過保護すぎるってものだろう?

 柚月 蒼空ちゃんだったか? 

 千尋の従妹で、今は女子高の1年生ってことだからもう来月には2年生だ。確かにそのくらいの歳の女の子は難しいのかもしれないが、おおげさすぎだろ。

 ま、もっとも写真を見せてもらったときにはさすがに驚いたが。

 アルビノ……っていうんだっけ? 実際そういう人に会ったことはないが、ほんとにまっ白でちょっと病的に見える感じはするな。それに、なにより見た目高校生にはとても見えんよなぁ。とは言え、なかなかかわいい子で将来が楽しみな美少女だ。


「もう、ほんとに大丈夫かなぁ……。蒼空ちゃん、大変な病気患って体もすっごく弱くて、まだまだ歩くときも杖を使って歩いてるんだからね? 気を使ってあげてね?」

 

 まだまだ心配そうに話しを振ってくる千尋。蒼空って子のこと、ほんと、気にかけてるんだな。


「ああ大丈夫、大丈夫。病気で入院してたって話もしっかり頭に入ってる。そう心配するなって」


 俺はそう言って千尋の頭を強めに撫でつけ、


「さ、準備は出来たんだろ? さっさと出発しようぜ」


 そう言って今度は千尋の背中をポンとたたき、柚月家に向うべく先をうながした。



* * * * * *



 千尋の叔母さんの家、柚月家ははっきりいって大きかった。

 落ち着いた感じの住宅街で、けっこう大きな敷地面積を占めるその家は、豪邸って言うほどではないものの、それなりの存在感を周りに示していた。駐車場に停めてある車も外国車だし、けっこう裕福な感じだよな。(この考えも古いか……)


「へー、立派な家だなぁ、いいよなぁお前。こんなとこから大学へ通ってたのかよ? 俺の安アパートとはえらい違いだぜ」


 思わずそんな感想をつぶやく俺。


「ふふっ、なあに言ってるんだか。でもまぁ、私も最初はその安アパート生活だったのよね。そこに運良く……って言うと語弊があるけど、蒼空ちゃんの家庭教師のお話が私の方にあってね。しかも住み込みでどう? ってお話だったから、一も二もなく私飛びついちゃった。あっ、この車の横に停めてね」


 そう言いながら俺に笑顔を向ける千尋。うーん、やっぱ俺の婚約者さまはかわいいぜ!


「ふーん、なるほどねぇ……。でここに停めるっと」


 俺は千尋の指示にしたがい駐車場の外国車の横に軽トラを停める。ぶつけないようにしないとな。しかしまぁ、ここに全然似合わねーよな、こいつ。


「じゃ行こっか? きっとみんな英明さんが来るの首をながーくして待ってるよ? 例のお話……も、もうしてあるし。だから、その、くれぐれも注意してね?」


 千尋がちょっと顔を赤らめながらそんなことを言う。なんだよ注意してね? って。


 しかし――。


 やりずれー! 超やりずれー! 身から出たサビとはいえ……。この家は一家3人、全員女だって話しだし。味方いね~!


「うう……、ま、まぁ、なんだ。任せとけ!」


 俺は冷や汗を背中にかきながら、それでも虚勢をはってそう答えた。


「うん。まぁ期待せずに応援してる、がんばって!」


 俺たちはそんな会話をしつつ、とうとう玄関前までたどり着いてしまった。


# # #


「叔母さ~ん、ただいま戻りました~! さ、英明さん、入って」


 千尋が躊躇なく玄関を開け(まぁずっと住んでたんだし当然か)、大きな声でこの家の主人に帰宅の報告をする。

 ここって4年前に事故で旦那さんを亡くしてて、今は、千尋の叔母さんが一家の柱として家族を支えているらしい。なんでもコンピュータ関連の派遣会社の社長だって話だから、気ぃ、引き締めていかないとな。


「あ、ああ。それじゃお邪魔しま――、うっ!」


 玄関をくぐり家の中を何気に見ると、そこには出迎えてくれている人影があった。

 だがそれだけならこんなに驚いたりしない。


 そこで待ってくれていたのは2人の女の子だ。


 1人はまだ初春だと言うのにずいぶん日に焼けた、小麦色の肌をしたポニーテールの女の子だ。

 160半ばはありそうな身長で、千尋に迫るくらい背が高い。すらりと伸びた手足といい、なかなか活発そうな子に見える。かわいらしい顔を笑顔にしてこちらを興味深そうに見ている。そういうとこ、やはり子供は遠慮がないな。


 まぁ、その子はいい、その子は。問題はその隣りに立ってる子だ。


 白い――。


 それが間違いなく、その子が目に入った時の第一印象だ。写真を見せてもらってはいたが……、正直これほどまでとは思ってなかった。

 髪の毛から肌まで、まるで透き通るかのように白い。そしてなんとも弱々しげな雰囲気のする、だが息を飲むくらいの美少女だ。こりゃ、千尋があれだけ俺に念を押すのもわかる気がするぜ。


 するんだけど、今はそれが問題じゃないわけだ。


 改めてその子を見る。隣の女の子の手をしっかり握ってるその子――。身長は140あるかどうか?ってとこだろう。ほんと子供だよな。


 ううっ。

 しかし、なんだ? なんなんだ、このやたら鋭い視線は?


 確か蒼空ちゃん……だったよな?

 さっきから、どーしてこの子は俺をそんな、にらみ付けるように見てくるんだ? せっかくの可愛らしい顔をしかめっ面にして、その澄んだ赤い目で見つめられると、なんというか、ちょっと――、


 入ってすぐ、そんななんとも言いようのない出迎えを受けた俺が戸惑っていると、背の髙い方の女の子が動いた。


「ちょっとお姉ちゃん! 何その態度。さっき言ってたのウソだったの? ほらっ、一緒に言おう」


 その子は語気を強め何か注意してる。そ、それにしてもお姉ちゃん……ってか?

 これもまた千尋から聞かされてはいたけど、い、違和感ありすぎだろ! 俺が困惑の極地に居る中、女の子2人が改めてこっちを見てきた。


「ちー姉(ちーちゃん)お帰りなさーい!! そして、神谷さん、いらしゃいませー!(い、いらっしゃ……い)」


「うん、ただいま、蒼空ちゃん、春奈ちゃん」


 多少ちぐはぐながら、2人して歓迎の挨拶をしてくれた。白い子の方はまだちょっと時々にらんだりしてくるが……。まぁ、気にしないことにしよう。


「こんにちは、お2人さん。今日は千尋の引越しの手伝いに来たから、その、ちょっと騒がしくしてしまうかと思うけど、よろしくな?」


 俺も挨拶を返す。初対面にしては少々馴れ馴れしいかもしれないが、相手は高校生、これくらいでちょうどいいだろう。


「はい、私も手伝いますから何かあったら遠慮なしに言ってくださいね~!」

「ああ、こちらこそよろしく」


 春奈ちゃんって言ったっけ。彼女はなかなか友好的で明るくて、とっつきやすそうだな。それに比べて……、ううっ、またこっちにらんでるよ。こりゃ、やっぱり、あれか、俺が千尋を――、


「じゃ、英明さん、とりあえず上がって叔母さんに挨拶しましょう!」

「あ、ああ。そうだな、そうしよう」


 一部微妙な空気が漂う中、千尋の一言でようやく家の中に俺たちは上がりこんだ。まぁ、蒼空ちゃんの方はそのうち、なんとかなるだろうさ。……たぶんな。


 それにしてもこの家、さっきの玄関のスロープもそうだが、そこかしこに手摺りとか造りつけてある。蒼空ちゃんが不自由しないようにってことなんだろうけど……、すごく大切にされてるんだな。


 そんなことを考えながら千尋や女の子2人に付いていく。

 白い子、蒼空ちゃんは黒い子(はは、白と黒のコントラストで分かれる姉妹ってか、ちょっと面白いな)春奈ちゃんに手を引かれて歩いてて、なんとも微笑ましい。こりゃどう見ても姉妹のポジション逆だろ? まぁ、こんなこと口に出しては言えないけどな。

 しっかし、蒼空ちゃんマジ小せー! 俺の胸元どころか、鳩尾みぞおちくらいまでしかないぜ。


「あ、叔母さん、ただいま戻りました。今からちょっと騒がしちゃいますけどよろしくお願いします~!」


 千尋がキッチンに居たここの主人を見つけ挨拶する。


「はいはい、千尋ちゃん、おかえりなさい。

 家は女手ばかりでたいしたお手伝いも出来ずにごめんなさいね? でも春奈はせいぜいこき使ってやってね? 体力はあり余ってるみたいだから」

「お母さん、ひどい~! まるで体力バカみたいじゃん、こんなピチピチの女子高生つかまえてさ?」


 ふくれっ面する春奈ちゃん。この辺、まだまだ子供だよな。まぁそりゃそうか、高1だもんなぁ、うらやましい。


「それで、そちらの方が?」


 俺のほうを向いてそう聞いてくる千尋の叔母さん。うーん若々しいな。確かもう40代って話だけど、30代前半でも十分通用しそうだぜ、美人だし。


「はい、婚約者の神谷かみや 英明ひであきさんです。

 英明さん、こちらが私の叔母さんで、柚月 日向さん。今までずっとお世話になってきたの、ご挨拶よろしくね」


 千尋がそう言って俺に振ってくる。マジか。うおぉ、なんか、めっちゃ緊張する!


「ど、どうも、初めまして! 神谷 ひでっ、英明ですっ。

 そ、その、この度はまことに、急で、その、なんといいますか、め、姪っ子さんと、け、結婚することになりましてぇ! えー、その、あぁ、赤ちゃんが出来たことに関しましては、その、まことにぃ――」


「ぷっ、ぷふっ、あははっ」

「くすっ、くすくすっ」


 うお? な、なんだ? 俺が一生懸命挨拶してるってのに、どこのどいつだ、笑いやがるのは?

 テンパってた俺は少々荒っぽいことを考えながら声の方を見る。

 笑ってたたのは春奈ちゃんと……、なんと、あのずっと俺をにらみつけてた蒼空ちゃんだった。小さい顔の赤い目を細め、心なしか目じりに涙浮べてないか? ど、どんだけだよ!

 でも、なんだよ、ちゃんと笑えるじゃんか。ずっとにらんでたからそれが普通の顔かと思いだしてたとこだぜ。


っていうか俺、そんなに笑われるほどおかしかったのか?


「くすくすっ、じ、自分の名前……、かんでた……」

「おっかしぃ~、お兄さん、テンパリすぎ~! あはっ、あはは、ぷふふ~」


 な、なんだよ、この姉妹! 失礼なやつらだ。


「ふふっ、神谷さん。もういいわよ。ごめんなさい、娘たちが失礼なことして。

 ほら、蒼空、春奈! いつまでも人様のこと笑ってるんじゃありません。初めて会った方にそんな態度、失礼でしょ!」


 日向さんが笑顔から一転、真剣な顔で2人を叱る。

 その一声で2人はビクッと体を震わせたかと思うと、居住まいを正し、まるで何ごともなかったかのように澄まして見せる。


 こえー! 女こえー! 子供といえどもこえー!

 

「「神谷さん、ごめんなさーい!」」


 そして2人して素直に俺に謝ってきた。も、もういいです、俺に言うことなんて何もないともさ。


「ああん、2人とも気にしないで。叔母さんもそれくらいで許してあげてください。ねっ、英明さん、いいでしょ?」


 千尋の言葉に俺は必死に頷く。

 な、なんだかすでに疲れてきた気がするぞ。な、なんてとんでもないアウェーなんだ、ここは。


 それでもさっきまでやたら俺のことにらんできてた蒼空ちゃん……が、笑ってくれたのは唯一の収穫か。おしっ、これを機に親睦を深めていくとするか?

 その後、蒼空ちゃんや春奈ちゃんを改めて紹介してもらい、お茶をいただき一通り世間話をした後、ようやく引っ越し作業開始だ……。


 な、長かった。

 ほんと、こんな時女ってめんどくせーよな?


 2階の千尋の部屋へと向い、荷物のまとめにかかる。


 とはいうものの大まかにはすでに千尋がまとめてあったから、俺がするのはまとめてある荷物や大物のキャビネット、テーブル運びくらいだ。タンスや収納棚、ベッドなんかはこの家のものらしい。

 余り小物を集めることとかもしない千尋の荷物は軽トラ1台で楽勝だった。一部壊れ物とかは宅配業者に任せたっていうし、ほんと要領いいな? いい奥さんになってくれそうだ。っていうか、どう考えても尻にしかれそうだ。


 今日、ここで半日過ごして俺はそう確信した。


 全てが済んで、またもお茶、そしてデザートを頂く。ほんと女って好きだよなぁこういうの。


 蒼空ちゃんなんかすっごく幸せそうな顔して、いちごのショートケーキ食べてるし。

 君、何にも手伝ってないよね? って思わず突っ込みたくなるけど、それはさすがに言っちゃまずいよな。彼女だってほんとならもっと一緒に手伝いたかったはずだし。

 ま、この子はその美少女っぷりから居てくれるだけで十分癒されるし、ある意味役に立ってたとも言えるかもな?



「「じゃ、どうもお騒がせしました!」」

 

 俺と千尋が軽トラの窓から、見送りの日向さんたちに声をかける。

 すると日向さんから返しの言葉がくるわけだが、


「千尋ちゃん、今日は別に帰ってこなくていいから、新居で荷物整理がてら、ゆっくりしてらっしゃい」


 こんな発言をしてくれるわけですよ。

 途端、ようやく俺にも普通に笑顔を見せてくれるようになってた蒼空ちゃんの目つきが鋭くなるわけだ。


 俺は理解したね。


 蒼空ちゃんにとって俺は千尋を連れ去っていく敵だったってことを。

 まぁ、なんとか打ち解けて敵認定は下ろしてくれたみたいだけど……、完全に認めてもらうにはまだだ時間、かかりそうだなぁ?


 でもまぁいいか。


 ほんとの最後、蒼空ちゃんが赤い目を細め、笑顔で見送ってくれたとこ、見れたしな。


 あの笑顔は最強だな、うん。




 P.S.

 言っとくが俺はロリコンじゃないからな。


読んでいただきありがとうございます!

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