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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
110/124

ep103.蒼空の大切な人たち

投稿ペース遅くてすみません。

 あの恥ずかしい出来事から数週間がすぎ、いつの間にか3学期も残すところ2週間。

 これまでにいやぁな期末考査、6年生の卒業式などがあり色々忙しい学校生活が続いてた。


 卒業式では合唱部で卒業生を送る歌を合唱し、その一員であるボクも多少お手伝いとして参加した。まぁ合唱自体には体のこともありみんなと一緒に歌うことは出来なかったけど……、それでもお世話になった部長さんや副部長さんを送るその場所で少しでも役に立てたのはうれしかった。

 で、それで済めばよかったんだけど……式の後、ボクは6年生の先輩方に声をかけられ、昇降口前や正門前とかで、それはもういーっぱい一緒に写真を撮られてしまった。

 そんな撮影会の首謀者は元生徒会の人たちで、生徒会長だった笹宮ささみや 優希奈ゆきなさんを筆頭に、すっごく背の高い副会長さんだとか、春奈の友だちの亜理紗ちゃんのお姉さんだっていうもう1人の副会長さん、その3人が揃ってボクに声をかけてくれたの。

 先輩たちは揃ってすっごく大人っぽい美人さんで、チビでやせっぽちのボクとは違い、とってもスタイルもよくって、それでいてどこかかっこいい……理想の女の人って感じ。

 そんな先輩たちと自分を比べるとボクはちょっと悲しい気持ちになって……、そんなボクを見た先輩たちに、ぎゅっと抱きしめられたりしてボクはあたふたしちゃったり。一緒に付いて来てくれてたエリちゃんも呆気にとられて見てた。


 もーエリちゃん、見てないで助けてよぉ!


「柚月さーん、こっちにも来て来て~」

「ああっ、ちょっと~! こっちもまだ終わってないのにっ、もう少し待ちなさいよ~」


 ボクは6年生の先輩たちにあっちこっち、腕を引っ張られ、果ては抱きしめられちゃったり。それはもうなんというか……ひっぱりだこになってしまってた。

 元合唱部の藤村先輩や今井先輩もいつの間にかその場に現れてて、一緒に写真撮ったりした。もちろん以前に部室でもいっぱいお写真撮ってたけど、これはこれでまた別みたい。でも、そうだよね。この日は、ほんとのほんとに最後の日だもんね。

 だからエリちゃんも一緒になって撮ってもらったりして……ボクも自然と笑みがこぼれちゃった。



 それにしても……、正直、どうしてこんなチビでやせっぽちで病弱なボクと一緒に写真撮りたがるのか、よくわかんなかったけど……みんなして楽しそうに写真撮ってる先輩方を見てると、まぁどうでもいっかって気持ちになった。


 こんなボクでも人の役に立つこと出来るのなら……それはきっとうれしいことだもん。


 その日はお天気がとっても良かったこともあり、日差しに弱いボクのことを考えてくれたのか、お外での撮影会はそう長くは続かず、最後はその場に集まった先輩方全員と一緒に写真を撮ってお開きになった。ちなみに最後の集合写真はちゃんと写真屋さんが撮ってくれてて、後でみんなに配ってもらえるみたい。

 

 ガッコも結構気が利いたことしてくれるよね、えへへっ。


「蒼空ちゃん、元気でね!」

「体大事にしてね!」

「また会えたらいいね!」


 最後にお別れするとき、先輩たちは口々にボクの心配をしてくれた。主役は先輩たちなのに……変なの。でもなんか胸があったかくなって、ちょっとうるっときちゃったのはナイショだ。

 そんでもって次々アタマを撫でられたのはちょっとアレだったけど……、でもいつしか涙を浮かべながらボクのアタマを撫でてくれてる先輩たちのお顔を見てると、あんましイヤな気分ってわけでもなかった。


 先輩のみなさん、就職する人や大学へ進学する人、色々だと思うけど……。この先も元気でいてくださいね!


 心からそう願ったボクだった。



* * * * * *



 「うわぁ、蒼空ちゃん。信じらんなぁい! どーして2学期ずっと休んでたのに私より順位上で居られるの~?」


 色々思い出深かった卒業式から数日後、期末考査の結果が廊下の掲示板に張り出されたのを確認してきた沙希ちゃんが、ちょっとふて腐れぎみに声を出しボクの席までやってきた。ボクは弱い視力のせいで掲示物の文字を読むの苦手だから、沙希ちゃんはボクの分まで確認してきてくれたんだけど……どうやらボクより順位が下だったみたい。

 まったく、ずっとガッコに通って授業を受けられるっていう、ボクから見ればとってもうらやましい環境でお勉強してきたはずなのに……なにやってるんだか。


「そ、そうなんだ? それで……とりあえずボクの順位はどの辺だったの?」


 ボクより下っていっても、それによってずいぶんレベルが違ってきちゃうもんね。まぁ、1学期みたいな順位は期待出来ないと思うけど……。

 ボクのその言葉に「あ、そうだった」と照れ笑いしながらボクのすぐそばまで寄ってきた沙希ちゃんが、ぼしょぼしょと耳打ちしてくれる。そしてそのあと、「フッ」とボクの耳に息を吹きかけてくれちゃった。


「は、はわっ!」


 思わず耳を手で覆うようにし、ちょっと顔を赤らめながら「何するのっ」って感じで口元をぱくぱくし、沙希ちゃんの方をにらむボク。そもそも外に順位が貼り出してあるんだから、こそこそ耳打ちする必要もないのに。


「にゃはは、ごめんごめん~。蒼空ちゃんがあまりにかわいかったからつい~。でも蒼空ちゃん、ほんとガンバったんだねぇ、ほんと感心するよ。やっぱ元がいいのかなぁ?」


 そうなんだ。沙希ちゃんが耳打ちしてくれたボクの順位……、思ってたよりかなり上で30位以内に入ってた。沙希ちゃんもあんな言い方だったけどボクと5つしか違わなかった。

 3学期が始まり、補習のおかげもあり無事進級出来るようになったボクは、そのあともみんなに遅れないようガンバってお勉強を続けてた。瑛太との勉強会もあの恥ずかしい出来事のあと……2回ほどやったし……、そんな努力が実ったのかも。まぁ瑛太とのお勉強は中学のだけど……復習にはなるよね。

 それにこの体になってからのボクって、記憶力がとっても良くなったみたいで、一度聞いたことって忘れないんだもんね!


「ありがと、沙希ちゃん。なんか思ってたよりもずっとか良くて、ボクうれしい。それにさっ、沙希ちゃんだってほとんど変わんないじゃない~、もう言い方紛らわしいんだから~」


「あはっ、だってぇ~。そうは言ってもブランクのある蒼空ちゃんより下なんだよ? ずっと休まず授業受けてたのに負けちゃうだなんてさ、もー悔しいんだから~。えーい、こうしてやるぅ」


 沙希ちゃんったらそう言ったかと思うとボクの正面に素早く周り、ほっぺを両手でむにゅっとつまんだかと思うと、広げるように引っ張った。


「ふぇ、さ、さきちゅあん、はにしゅんのぉ~」


 ほっぺを引っ張られてるボクの声はなんともおまぬけさんだ。もぉ、ほんと沙希ちゃんったら!


「きゃー、蒼空ちゃんかわいいです!」

「沙希ったらなに一人で楽しんでるの~!」

「でもちょっとかわいそです。でも写メ撮るです」


 はわっ、優香ちゃんに、ひなちゃん。あと莉子ちゃんったらもー、写メなんて撮らないで~!

 タイミングよく席に戻ってきた3人に変な顔してるとこバッチリ見られちゃった。


「み、みんなひどいよぉ」


 ようやく沙希ちゃんのほっぺた引き伸ばし攻撃から解放されたボクは、涙目でみんなを軽くにらむ。もちろん沙希ちゃんを重点的に!


「てへへっ、ごめんね蒼空ちゃん。でも後悔はしていない! りこ~、後でさっきの写メ、私にも送ってねぇ~♪」

「は、はえ? うん、いい……けど。あはっ、その前に沙希、蒼空ちゃん……なんとかした方が?」

「へ? 蒼空ちゃん?」


 沙希ちゃんが莉子ちゃんに言われてボクの方を振り返ると……。


 そこには見事に口をとがらせながらほっぺをぷくりとふくらまし、眼鏡越しにもわかるほど赤い目をキッとして、沙希ちゃんをにらみ付けてるボクが居るのだった。


「あ、あはっ、あははっ、あのぉ、蒼空ちゃん?」



 その後ボクの機嫌をとりなすのに沙希ちゃんが半日かかったのは、もうどーでもいいことだ。



* * * * * *



3月はボクたち家族にとって大事な日が2つある。

 10日がお父さんの4回目になる命日。

 そして17日が春奈の16才の……お誕生日だ。


 お父さんの居なくなった日から1週間後が春奈のお誕生日だなんて……春奈は内心つらいんじゃないかなと思う。もちろんそんな素振りをボクに見せたことはないけど……。

 お母さんやちーちゃん、もちろんボクも気分入れ替えて春奈のお誕生日はきっちりお祝いするけど……春奈のほんとの気持ちがどうなのか? なんてわからない。


 まぁ案外、春奈が一番気持ちをすっぱり切り換えて、それこそきっちり楽しんでるのかもしれないけど。それでも余計なこと言って春奈を刺激しないよう気をつけなきゃ……なんて誕生日が来るたび、いつも考えてるボクだった。


 で、3月の17日。

 その日は金曜日だったので、翌日の土曜日、18日のお昼からお誕生日のパーティーを催した。

 参加メンバーはあまり多くても大変なんで、中学からの親友、亜由美ちゃんと優衣ちゃん。それにボクと共通のお友だち、沙希ちゃんを招いてのお誕生日パーティーになった。他には従姉のちーちゃんも、もちろん参加してくれた。

 今日呼ばなかった男の子たちとは、きっと以前みたいにまたカラオケパーティーでも開くに違いない。


 ボク……はまだ、お外での長時間の遊びはお母さんの許可が出ない。だから、残念だけど行けそうもないけど――。


 みんなで囲んで座ったダイニングテーブルの真ん中には、ボクの大好きないちごがたくさん乗った生クリームでキレイにデコレートされたホールケーキが鎮座してて、それを見たボクの、小さな胃がきゅーってかわいく鳴ってちょっと恥ずかしかった。


 誰にも聞かれてないよね?


 そんなおいしそうなホールケーキの上にはかわいらしいローソクがきっちり16本並んでて、先っちょで揺らめく炎は春奈が息を吹きかけるのを今か今かと待ってるみたいだ。


 お部屋を暗くして今日の主役、春奈がそのローソクの炎をぷぅっと消すと、



「「「「春奈~!(春奈ちゃん!) お誕生日おめでと~!」」」」


「みんな、ありがと~!」


 クラッカーの破裂音と共にみんなの祝福の声があがり、春奈もうれしそうにそれに答えてた。


 その後はお母さん自慢の手料理や、みんなが持ち寄ったファーストフードやドーナツとか、色んなごちそうに舌鼓をうちつつお誕生日恒例の、主役である春奈へのみんなからのプレゼント。


 ボクももちろん用意したもんね。まぁお母さんに一緒に付いて行ってもらってだけど――。


 初めて行ったスポーツ用品店で、陸上の……単距離走専用のシューズを選んだんだけど……、その時はボクがお店に入ったとたん、そこにいたお客さんや、お店の人までしばらくじーっとボクの方見つめてきちゃったりして大変だった。

 そのシューズは普段ボクがはいてるローファーやスニーカーとは全然違って、すっごくほっそりとして裏にはとんがったピンがいっぱい付いてるやつ。その中でもまっ赤な色したシューズを選んだ。きっと元気な春奈にはピッタリだと思う。

 ボク、お小遣いだけはいっぱい貯まってるし、春奈にはいっぱいいっぱい迷惑かけてるし、奮発していいもの贈りたいんだもん。(ちなみにどんなのがいいかっていうのは、春奈の陸上仲間でクラスメイトでもある成瀬さんに、春奈にはナイショで教えてもらった)


 ラッピングしてってお店の人にお願いしたら、「お姉さんへのプレゼントですか?」なんて言われて、ちょっとむっとしちゃったけど。


 春奈、喜んでくれるといいな――。



 みんなからプレゼントを渡され、うれしそな顔をしてる春奈。

 そしてトリはお姉さんのボク。(文句は言わせないもんね)


「はい、春奈。ボクからのプレゼント! 大事に使ってね」


 キレイにラッピングされた四角くて細長い箱をちょっと不器用に渡すボク。(だって思ったより箱がおっきくて手に余っちゃうんだもん……)

 大事そうに受け取る春奈。


「ありがとー! お姉ちゃん。その、開けていい?」

「うん、もちろん!」


 めずらしくちょっと照れた顔でボクに聞いてきた春奈に、当然、めいっぱいの笑みでOKを出した。

 早く見たいのか、ガサガサとちょっと雑にラッピングを剥いでいく春奈。えへへっ、慌てちゃってさ、かわいいんだから。


「あー! ええっ? う、うっそー!」


 とうとう箱を開け、中身を見た春奈が驚きの声をあげた。

 その顔は、ここ最近見た中では最高の表情をしてるように……ボクには見えた。


「お姉ちゃん、こ、これ、ほんとにもらっていいの?」


 つぶらでかわいい瞳をキラキラさせながらボクに確認してくる春奈。


「もちろん! 春奈へのプレゼントだもん。

 がんばって喜んでもらえるもの選んだつもりなんだけど……、気に入ってくれた?」


 ボクはそう言いながらちょっと不安げな表情を浮かべて見せた。(あはっ、ちょっと演技入ってるけどね)


「も、もちろん! これ、このスパイク、春奈とっても欲しかったやつなんだよ! でも、これさぁ、そ、そのぉ……すっごく……高かったでしょ?」


 うれしそうな顔をしながらも、そのシューズの値段を知っていたせいか、ちょっと心配げな表情を浮かべる春奈。その顔はボクから脇でサポートしてくれているお母さんの方へと移ってく。


「春奈。遠慮しなくっていいのよ。それは蒼空が今まで春奈にたくさん面倒かけたからって感謝の気持ちも入ってるの。

 それにそのシューズは蒼空がずっーと貯めてたお小遣いを使って買ったものよ。お母さんは1円だって出してあげてない。蒼空だけからのプレゼント。

 大事に使ってあげなさいね」


 お母さんのその言葉にうなずく春奈。

「うん」って言ったその声はなんとなくうわずってた気がする。


「お姉ちゃん! ほんと、ありがとう! これ大事に使うから……。それで、それでさ、きっといい記録出しちゃうからねっ! 期待してていいよ」


 ちょっとうるうるした声でボクにお礼を言ってくれた春奈だったけど、最後の一言はやっぱ……春奈だった。


「うん、期待してる。がんばってね!」


「うわぁ~、ほんと麗しい姉妹愛だけどさぁ、なんかここら辺だけ暑っくるしくない? ねぇ?

 え、あれぇ、私だけっ?」


 やたら長かったボクたちのやり取りに、とうとう我慢出来なくなったのか、優衣ちゃんが突っ込み入れてきた。


「優衣、あなたもっと空気読みなさいよ? ったく」

「あんた、ほんと気が利かないよねっ? せっかく妹思いの蒼空ちゃんの、心のこも~ったプレゼントだったのにさ。あんたの一言で台無しじゃん」


 亜由美ちゃんがちょっと呆れて突っ込んだのに続いて、沙希ちゃんまで。

 ううっ、その突っ込みはちょっと危険な予感がぁ……。


「ぬわんですってぇ~! ○×△□~!!」


 沙希ちゃんの突っ込みに音速で反応した優衣ちゃん。最後はもう何言ってるかわかんなかった。


 その後はもうお祭り騒ぎ。

 やっぱ優衣ちゃんと沙希ちゃんは水と油。一緒にしてはいけない組み合わせだったんだー!


 そんなことを思うボクだったけど、そう思ってるのはどうやらボクだけみたいで……、春奈は面白そうに見てるし、亜由美ちゃんですら呆れながらも笑ってた。お母さんはキッチンに戻っちゃうし、ちーちゃんは笑ってるだけで我関せずって感じだ。


 あーん、ボクもう知らない。

 好きにすればいいよっ!


 ボクは騒いでる2人に見切りをつけ、キッチンに行っちゃったお母さんにまだまだいっぱい残ってるケーキを切ってもらおうと呼びかけた。目の前にあるいちごのホールケーキ。これだけはどんだけ食べても平気なんだもんね。


「あっ、蒼空ちゃん、私が切ったげるよ。任せて~」


 優衣ちゃんとケンカしてたはずの沙希ちゃんがそんなボクを見て、あっさりボクの方へと関心を切り替えてきた。


「あ、私ももう一切れケーキ食べたいな~!」


 優衣ちゃんまでそんなこと言ってるし。


 ああもう!

 ボク、生理も来ちゃってもう完全な女の子の仲間入りしちゃったかなぁ……なんて思ってたけど。


 やっぱ違う。


 ボクにはまだまだ女の子の気持ちなんてわからないよ~! つうか、無理!


 がっくりうなだれてしまったボク。


 そんなボクの背中をちーちゃんが優しく撫でてくれたのが唯一の救いだった。

 はぁ、もう疲れちゃった。



* * * * * *



 騒騒しかった春奈のお誕生日パーティーもなんとか終わり、みんなを見送ったあと。

 パーティーで色々食べたこともあり軽い夕食で済ませたボクたちは、ようやく静かなひと時を過ごしてるって感じだ。


 いつものお薬を飲んだボクは、リビングのソファーで昼間のパーティーのおかげでちょっとぐったりしちゃった体をゆっくりさせるべく寝そべってる。

 だらしないって言われようが気にしないもんね。このかっこで横になるのが最高に気持ちいいんだもん。


 春奈は自分のお部屋で今日もらったプレゼントでも見てにやけてるに違いない。うん、きっとそうだ。

 ボクはそんなことを思いながらもぼーっとしてお風呂に入るまでの時間、ゆっくり過ごしてた時のことだった。


「蒼空ちゃん、ちょっとお話あるんだけどいいかな?」


 夕食後にめずらしくちーちゃんがリビングまで出てきた。ここのところずっと忙しそうにしてたちーちゃんが今の時間にお家にいること自体珍しいけど。

 ボクはだるいカラダをなんとか起こし、ちーちゃんの方へカラダを向けた。


「うん、なぁにちーちゃん。何かお話?」

「そう、大事なお話。春ちゃんも呼んでるから……ちょっとダイニングテーブルのほうまで来てもらえるかな?」


 ちーちゃんの真面目な表情にちょっといやな予感がしてしまうボク。


「う、うん。わ、わかった……」


 なんか聞きたくない気持ちがわきあがってくるけど……、ちーちゃんのお願いを聞かないわけにもいかないもんね……。

 ボクは疲れに加え、重くなった気持ちですっごくだるだるのカラダに鞭打って、ダイニングテーブルまでよたよた歩いていった。ちーちゃんはそんなボクを見てちょっと苦笑いっていうか、微妙につらそうな顔をしてた気がする。


 テーブルに付き、ほっぺたをテーブルに添えるようにしてうなだれてたら春奈が来て、更にお母さんまで食事のお片づけを中断してやってきた。


「お姉ちゃん、だらしなさすぎ!」

「蒼空! 千尋ちゃんからお話って聞いてるんでしょう? しゃきっとなさい」


 ううっ、2人に一斉に叱られちゃった。もうボク、カラダだるだるなのにぃ……むぅ。

 ボクはちょっとふて腐れながらも、ちーちゃんの手前、ちゃんと座りなおした。


「ゴメンね蒼空ちゃん。疲れてるんだよね。お話、すぐ終わるからちょっとだけガマンしてね?」


 ちーちゃんがふててるボクに、優しく話しかけてくれて、ボクはコクリとうなずいた。

 ごめんなさい、ちーちゃん。ボクまじめにお話聞きます……。


「うん、じゃ、お話するね。

 あのね、叔母さんにはすでにお話はしてるんだけど……、実はね――」




* * * * * *



 うそっ!


 うそだよっ!



 ちーちゃんがお家から出てっちゃう。

 居なくなっちゃうだなんて……。



 大学出るまでの約束だからって――。


 そんなの別に気にしなくたっていいじゃん!

 お仕事するようになったって……ボクん家からだって、お仕事に行けるっ!

 きっと行けるもん。


 どーして出てっちゃうの?


 我儘なボクがきらいになっちゃったの?



 いやだよ~!!



 ボクはちーちゃんのお話の途中にもかかわらず、その場から逃げ出し、お部屋に引きこもった。

 そのままお風呂にも入らずベッドにもぐりこみ、目をつむって何も考えずに眠ってしまおうと思った。


 でもそんなにうまくいくはずもなく……、アタマの中でちーちゃんとの思い出が浮かんでは消えていく。


 とはいえ、そんなことをぐるぐる繰り返しているうちに昼中の疲れからか、枕を涙で濡らしながらも、いつしか眠りの世界へと落ちていった。




読んでいただきありがとうございます。

お気に入りに入れてくださった方々にも感謝です!

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