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心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
3章
103/124

ep97.日向の心配と春奈の決意  ☆

遅くなりました、投稿します。


3/17 挿絵追加です。

『ジリリリリリ……』


 枕元に置いてあった目覚まし時計が、ほのかに明るくなった部屋の中で静けさを破るように鳴り響く。 


「ふわ……?」


 ボクは心地よい眠りを妨げる耳障りなその音を止めようと、暖かいお布団の中からモゾモゾと手を出し、手探りで目覚ましのところまで手を伸ばす。

 ピンク色の、丸みを帯びたハート型した目覚まし時計。文字盤の上、ハートの上側に小さなベルが二つ並んでてとってもキュートでかわいらしい。けど……そこからそのうるさい音が打ち鳴らされてる。

 これ使うの、今日が初めてだったけど……ちょっとうるさすぎだよぉ……。 目覚ましをプレゼントしてくれた春奈に自分勝手な文句を心の中でつぶやく。

 ボクはまだ寝ぼけてはっきりしないアタマでそんなことを考えながらも、なんとかそのけたたましい音を止めることに成功し……静けさを手に入れた功労者の手を再びぬくぬくのお布団の中へと引き入れ、その心地よさを全身で堪能する。


「はうぅ……いい気持ぃ……」


 冬場のお布団の中の心地良さってほんと……天国みたいだよね。

 ボクはそのあまりの気持ち良さから再び眠気に誘われ、そのまま流されるようにまぶたが落ち、眠りの世界へと誘われる……、


 ことはなかった。


『ガンガンッ』

『スラッ』


「こらーお姉ちゃ~ん!」


 ノックとは思えない打撃音と共にお部屋のドアを開け、大きな声でもってボクに呼びかけながら、妹、春奈さまが勢いよく入ってきた。


「もうっ、やっぱり~! せっかく目覚まし買って来てあげたのに……これじゃなんの意味もないじゃん?」


 春奈はボクがベッドでお布団にくるまって眠ってるのを目の当たりにし、怒りの声をあげてる。

 ボクはその声を聞いていっそうお布団の中にアタマをうずめ、小さく丸まって現実逃避する。


「あっ、この、お姉ちゃん! ったく、今日から学校でしょ? お姉ちゃんだって楽しみにしてたじゃん? 何ぐずぐずベッドの中で丸くなっちゃってるわけぇ?」


 容赦なく追求してくる春奈。


「はうぅ、そ、そうだけど……。その、寒いし……、まだ眠いんだ……もん」


 お布団の中からのくぐもった声で答えるボク。


「あ、っそ。それはそれは気が回りませんで。じゃ、もうしばらくゆっくり眠っとけばいいよ。……なぁんて言うわけないでしょっ!」


 その声と同時に春奈のやつ、ボクの楽園を構成する大事な大事な掛け布団を”がばぁっ”と、遠慮なんて一切なしにめくり上げてくれちゃった。


「や~ん、もう春奈っ、なにするのさぁ!」


 ボクはいきなりお布団を剥ぎ取られたことに文句を言いつつ、急にお部屋の空気にさらされた寒さから更に小さくカラダを縮こまらせる。


 そんなボクを見て空調の温度をちょっと上げながら、呆れ気味に春奈が言う。(でもお布団は返してくんない)


「や~んじゃないっつーの! そもそも久しぶりに自分の足で学校に行くの不安だからって、いつもより早めに出てくって言ってたのお姉ちゃんじゃありませんでしたか~?

 だからお母さんも私もちょっと早めに準備してるってのに……肝心のお姉ちゃんが起きてこないって、一体全体どーゆうことっ?」


「あうぅ……、そ、それは……その……ご、ごめん……なさぃ」


 ボクは春奈のその言葉にぐうの音も出ない……。そういえば昨日の夜、そんなこと言ったような……。

 でもそれでもなお、ベッドで丸まって無駄なあがきをしようとしてたら、


「ふ~ん、そうなんだぁ。ふぅん……」


 ううっ、なんか嫌な予感。


「そっちがその気なら~、こっちで脱がしちゃうんだから~!」


 そう言うなり素早い動きでベッドの際まで近づくと、膝を抱えるように丸まってたボクの足元、部屋着のパンツの裾を掴み、おもっきし引っ張りだした。


「はわっ、は、春奈、なにすんのっ? ちょ、や、やめて~! やめてってば~」


 ボクは自分でも恥ずかしいくらいうわずった声を上げ、ずり下がらないよう腰に手をやり必死に抵抗する。そしてそんなボクに春奈がしたり顔で言う。


「だってほっとけばお姉ちゃん、いつまでたっても動かないじゃん? だったら私が手伝ってあげようかと思って。っつうことで、そりゃ」


 その声とともに……あっけなく……ボクは素肌丸出しの下半身パンツ姿にされちゃった。


「やっ、もう春奈っ、返してよ~! もう起きる、起きるから~」


「むっふふぅ~! 初めからそうやって素直にしてればこんなことしなくていいんだけど? それにしてもお姉ちゃん。かわいらしいパンツ……はいてるねぇ? すっごく似合ってるよ」


 春奈ったら、ボクから剥ぎ取った部屋着をこれ見よがしに右手でかかげ、振りながらもそんなこと言ってきた。その顔はもうとんでもないくらいイジワルな顔だ。


「も~! 何言ってるのさぁ、これ買ってきたのって春奈じゃん。だいたい昨日だってお風呂一緒に入って、出たときこれはいてるのも見てたよね? 白々しいんだからぁ」


 ボクはぷーっとほっぺを膨らませ、春奈にめいっぱい抗議した。


「くふっ、そうだっけ? そう言われれば、そんな気もするかも?」

「お願い、もう勘弁してよぉ……くちん!」


 春奈が入ってきたとき空調の温度、上げてくれてたみたいだけど……さすがに下がパンツ1枚だと冷えてきちゃったのか、いきなりくしゃみが出ちゃった。


「いっけな~い、ごめん、お姉ちゃん。ハイこれ、とりあえず穿いて顔洗ってきなよ。朝ごはん、もうすぐできるし、しゃーないから着替えは後にしてすぐ食堂に来てよね?」


 矢継ぎ早にそう言った春奈は、手に持ってた部屋着をボクの足の上にぽいと置いて、嵐のように去っていった。


 ボク、もう呆然と見送るほかなかった。



「くしゅん……。

 はわっ、いっけない、まじカゼひいちゃう。ちょっとシャクだけど……春奈の言う通りお顔だけ洗って、ごはんたーべよっと」


 今の騒ぎですっかり眠気も吹き飛んだボクは、脱がされた部屋着をぎこちない動きでうんしょと着込み……ようやく3学期の初登校に向けて準備を始めたのだった。



* * * * * *



「蒼空、くれぐれも無理しないようにね。ちょっとでも違和感や疲れを感じたら変に遠慮しないで周りのお友だちや先生にすぐ助けを乞うこと。帰りもつらかったら絶対お母さんに連絡なさい。我慢するなんてもってのほかよ。

 けっして無理して帰ろうとしないこと! わかった?」


 朝ごはんを食べ、お薬を飲んで登校の準備も万端、あとは出るだけってとこで、昨日から散々ボクに言って聞かせてる言葉をまた繰り返すお母さん。

 まだまだ万全っていえる体調じゃないボクのことが心配なの、わかるけど……いい加減ウンザリした気分になってきちゃう。


「お母さん! その言葉……今日だけで、もう3回は聞いた。その……ボクのこと心配してくれるのはほんと、ウレシイんだけど……さすがにもう勘弁してよぉ、それにそろそろガッコ……行かなきゃだし。ね、春奈?」


 ボクはダイニングテーブルの向いっ側で、こっちのことなんかまるで人ごとみたいにして携帯をいじってる春奈に話しを振った。


「んふっ? ま、それもしゃーないんじゃない? お姉ちゃん信用ないもん。今までが今までだけにさ」


「ふぇ? なっ、この、春奈ってば、うらぎりモノ~!」

「何言ってるんだか? 裏切るもなにも、私、お姉ちゃんとなぁんにも約束とかしてないし、それにお母さん敵になんてまわしたくないし? なら、どっちに付くかなんて考えるまでもないよね~」


 な、なに、このにくったらしい生物いきもの

 これがボクの妹だっていうの? く、くやし~!


 くやしさのあまりキッとにらみつけてやっても、春奈はしれっとした表情で……でもしかたないとでも思ったのか、言葉を続ける。


「とはいうものの、お母さん。お姉ちゃんが”よちよち”なのは学校のみんなや先生たちもちゃんとわかってるし、色々協力してくれるよ。それにエレベーターだってまだ使わせてもらえるんだし……、きっと大丈夫だよ。

 当然、私も目を光らせとくし、なによりお姉ちゃんのクラスにはあの・・沙希ちゃんもいるんだしさ。

 ってことで! バスの時間も近づいてきたし、余裕もって出ないとお姉ちゃんもつらいし。これくらいにしといてあげてよ、ね、おかーさん!」


 ううぅ、色々突っ込みたいとこいっぱいだけど……フォローしてくれたのは間違いないとこだし、ここは素直に便乗しよ。


「そ、そうだよ、お母さん。ボク、大丈夫だから。安心して?」


 春奈、そしてボクの言葉にお母さんは軽くため息をついて言う。


「ふぅ、……そうね。お母さん、もう心配で心配で仕方ないんだけど……そうも言ってられないわね。……春奈、ほんとにくどいようだけど、くれぐれも蒼空のこと、よろしくね?」


 お母さんのそのどこまでもボクを心配する言葉に、春奈もさすがにちょっと困った顔をしてる。でも、


「うん、まっかせといて! じゃ、そろそろまじ時間だし行くね。お姉ちゃん、いこっか」


 お母さんの願いにそう元気に答え、続いてボクにも声をかけてくれる。


「うん! いこっ、春奈。じゃ、お母さん、ボク行くから」


 ボクは腰かけてたイスからそろりと降り、3学期初日のまだ中身のほとんどない軽いスクールバッグを手にとり、先に玄関の方へと向かった春奈をゆっくり追いかける。

 お母さんもそんなボクたちを見送るため一緒についてくる。手には寒い中カゼひかないようにと用意してくれてたダッフルコートを持ってる。ちなみに春奈はスタイリッシュなピーコートを買ってもらってた。


 あっ、そういや、ちーちゃんはといえばお正月以降、大学の卒業論文が佳境だってことで夜遅くまで(っていうか朝まで?)かかって書いてるらしく、起きてくるそぶりもなかったのにはもう笑うしかなかった。



 玄関ホールでボクにコートを羽織らせてくれながら、ガマンしきれなかったのかお母さんが言う。


「蒼空、その……遠慮しないでいつでも携帯に連絡いれていいからね? ほんとに無理しないでね」


 いつも自信たっぷりで、優しいお顔で安心させてくれるお母さんだけど……、今はその面影がどこかにいってしまい、心配げな表情ばかりが印象に残る。


 ボクは思った……。


 それほどまでに、こんなになるまでにボクはお母さんにずっと心配ばっかかけてたんだって――。


「うん! その……お母さん、ありがとう。ボク、ほんと気を付けるから! 疲れたりつらかったりしたら、ガマンしないですぐみんなに助けてもらうよう……お願いするから!」


 ――だから、そんなに心配しないで?


 ボクは心からそう思い、今の気持ちを精一杯こめた笑顔をお母さんに向けた。

 そんなボクの笑顔にお母さん一瞬きょとんとした表情になったけど、すぐ同じようにさっきまでと違う……いつもボクに向けてくれる、とびっきりやさしい笑顔を向けてくれた。



「「それじゃ、行ってきま~す!」」

「はい、行ってらっしゃい」



 お互い挨拶をし玄関を出ると、お母さんは出て行くボクたちを見送りに外まで出てきてくれて……春奈に手をひかれ、たどたどしい足取りながら一緒に歩いてくボクの様子をやさしい顔でずっと見続けてくれてた――――。



* * * * * *



「お母さん、なんか今日は特別心配してたね?」


 バス停に向い、お姉ちゃんのペースに合わせてとってもゆっくり歩きながら私は言う。

 カーボン製の赤い色したとっても軽い杖を突きながら、私に手をひかれて一生懸命歩いてるお姉ちゃん。きっとこのペースですらお姉ちゃんにとっては十分ハイペースなんだろうけど……私の問いにがんばって答えてきた。


「……う、うん、そうだね。やっぱボク、そんなに頼りなく見えちゃうのかなぁ……」


 ちょっとさみしげな表情を浮かべてそう言ったお姉ちゃんに私は更に言う。


「うーん、まぁ、どっちかっつうと、頼りないっていうより危なそうっていうか? やっぱほっとけないって感じ、どうしてもしちゃうよね」


 ――正直いえば、はかなげっていったほうがいいかも……だけど、それはちょっと言えない……言えばほんとに消えてしまいそうだから……。


 改めて隣りを歩くお姉ちゃんを見ながら私は思う。


挿絵(By みてみん)


 退院して以降、少しずつ元気を取り戻しつつあるお姉ちゃん。まっ白できれいな髪……を編みこんでカチューシャにする最近のお姉ちゃんお気に入りの髪型をしてる。

 赤く澄んだ色をした……でも色んな意味で弱い目には、それを守るため赤いフレームした保護用の眼鏡をかけてる。でもそれで視力が良くなるってことはほとんどないんだそうだ。

 お姉ちゃんの目から見た世界っていったいどんな感じなんだろう? 見るもの全てがぼやけ、にじんでるだなんて……両目1.5の視力を持つ私にはとうてい想像もできない。

 背の高さだって私がどんどん伸びてってるのに比べ、長い眠りから覚めて以来、ほとんど伸びてないような気がする。(お姉ちゃんも気にしてるから今いくつ? なんて聞けないけど……)おかげで今やお姉ちゃんの頭は私の首元くらいで、とっても頭を撫でやすい。たまらず撫でると口をとんがらせてムッとした表情を見せる。


 でもそれがたまらないんだよね――、お姉ちゃんには悪いけど。


「そっか……」


 おっといけない、お姉ちゃんがまた何か言ってる。考え込んだりしてちゃダメじゃん。


「そうだよね……。うん、でもこれからボクがんばって強くなるもんね。お母さんが心配しないで良くなるくらいにさっ。……だからね、春奈。面倒かけちゃうかもしんないけど……また協力してくれる?」


 お姉ちゃんがそう言いながら上目使いで私を見つめてくる。お姉ちゃんは目が弱いせいか……そういう時の視線は半端なく強く、そらされることが無い。 


 か、かわいい。

 な、なに、このかわいらしい生物いきもの


 これが私のお姉ちゃんだっていうの? も、もう悶え死んじゃいそう~!


「も、も、もちろん! 何かして欲しいことあったらいつでも言ってよ。私で出来ることだったらなるだけ協力するし」


 なんとかそう答えたけど……変な態度になんかなってないよね?

 ったく、何やってんだろ私。

 お父さんはもう居ない、お母さんにばっか負担、かけられない。

 

 だから……、だからこれからは私がしっかりしてかなきゃ。

 

 そして、私がお姉ちゃんを守ってやるんだ――。


 相変わらず私の隣りでよたよたと、でも一生懸命歩きながら、かわいらしい声でお話ししてるお姉ちゃんを見ながら……私は心の中で密かにそう思った。



* * * * * *



 いつもより一本早めのバスに乗ったおかげか……中はすっごく空いてて、先輩たちに気を使わせることもなく春奈と並んで席に座れた。(まぁ例のごとく先輩たちの視線は痛かったけど)

 普通なら5分とかからず着けるバス停に10分近くかけて歩き、バスに乗ったときにはボクの息はかなり荒くなってて……かるく春奈に心配かけちゃった。だからこうして席に座れてほっとしてる。

 ボクの足はこうやってなんとか車イスなしでも歩けるようにはなったけど、まだまだ入院する前までの状態にはほど遠い。杖つくくらいじゃとてもじゃないけどガッコの階段の上り下りは出来そうもなくって……、だから車イスの時みたくエレベーターを使わせてもらうことになってる。


 そ、それにしても、疲れる。

 まだガッコにも着いてないのに……。


 ボクは自分のあまりの体力のなさに、やるせなさを覚えるほかなかった。



 それでもボクはこれからのガッコ生活が楽しみで仕方ない。



 沙希ちゃんやエリちゃん、優香ちゃんたちクラスのみんな。


 それに合唱部の面々……。



 ほんとこれからのことを思うとわくわくが止まらない。

 まぁ補習の仕上げの小テストとかもあったりするし……、通院もしなきゃいけないわけだけど。

 それでもこの気持ちは治まらないもんね。


 バスの窓から移り行く景色を見ながら……ついついそんなことを考えてたボク。

 春奈によると、ボクのお顔はニヨニヨとしたちょっとあやしい笑顔を浮かべていたらしい。


 いいんだもんね、そんなこと。


 ボクは開き直りぎみに、今の気持ちをおもっきしストレートに表情に出し、春奈に向って笑って見せた。



 いつもいたずらっぽい表情をする春奈の……ちょっと赤く染まったそのお顔。

 


 ふと見せてくれた……そのやさしい表情が、とても印象に残った――。




これだけ文字数さいて朝が済んだののみという……。


展開遅くてすみません。

次回からは少しは物語り早く進む……かも?

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