表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心のゆくえ  作者: ゆきのいつき
1章
10/124

ep9.羞恥心

※話数を修正しました。

 8月も終わりが見えてきた頃……。


 日々のリハビリは大変だけど、みんなボクのために一生懸命協力してくれている。


 ボクもそんなみんなの気持ちに答えられるよう……いや、ボク自身も早く自由に動きまわれるように……。


 何よりも懐かしいあの家に……、家族で暮らしていたあの楽しかった家に、早く帰れるよう――。


 ガンバって苦しいリハビリを続けてる。



 初めは車イスに乗り移るのも、抱えてもらっての移動だったけど、今では自分でベッドの上を這いながらだけど……なんとか車イスへ乗り移ることができるまでなった。


 車イスを押してくれるのは、主に香織さんだけど春奈が来ているときはその役は春奈がしてくれてる。 なので夏休み中は、ほぼ春奈がその係りになってる。


 トイレに行くのにも大変だ。


 今ではもう食事も、固形物の食事も出されるようになってきた(やっぱ普通のごはん、いいよね♪)ので早い話、もよおしてきちゃうのだ。

 その時はもちろん、トイレまで車イスを押していってもらう。 ボクはまだ自分で車イスを動かすことはキツイんだ……。 それで春奈ったら心配して、中に入ってもなかなかボクを一人にしてくれない。


 病院のトイレはボクのように体が不自由な人でも使えるよう、考慮されてるんだから大丈夫って言ってもダメなんだ。

 もちろん、ホントはまだまだとってもキツイけど……やっぱ、恥ずかしいもん。


 いつもそんな感じで、舌戦を繰り繰り広げつつ最後は出て行ってくれるけど……いいかげん勘弁して欲しいなぁ。



 恥ずかしいといえば……、今さらながらなんだけど――。



 この体。



 女の子になっちゃったんだよね……。


 目覚めてすぐのころは、そんなこと気にする余裕もなく……まぁ気にしようにも、動くこともままならなかったから仕方ないといえば、そうなんだけど……。


 そんなことから、とまどうことが多々あるのは……まぁ、仕方ないことだよね?

 元、男の子……としてはさ。


 最初にその違いを実感させられたのは、寝たきりだったボクの体を拭いてもらうとき。


 モチロン今までもずっとそうしてもらっていたんだろうけど、今まではボクに意識はなかったわけで……、でも今やボクにはバッチリ意識もあるわけで……。


 そのとき体を拭いてくれたのは、いつもホント、お世話になっている香織さん。


 春奈はその時は居なかったんだけど、逆に居なくてほんと……良かったよ。

 居たら絶対、私がやる! とかいって聞かないはずだ……、そうなったらボクは恥ずかしくていたたまれないもん。


 いくら同じ女の子になったからって、この歳で妹にハダカを見られるのは恥ずかしいし……、っていうかボク自身、自分のハダカを見るのは初めてだったわけだし……。


 ううっ、なんだか自分でも何考えてるんだかわけわかんなくなってきた。



 自分の体は、キレイだった。

 透けるような白い肌で、うっすらピンク色に染まってた。


 まだまだ痩せて華奢な体つきだったけど……、ボクが目覚めるまではもっと、ずっと骨ばってて痩せてたらしい……。 今は食事をすこしずつでもキッチリとるようになって、ずいぶんマシになってきたんだって。


 胸……は、まだほとんど、ちょっぴり膨らんでる程度……しかなかった。


 香織さんいわく、「これから大きくなってくるから心配いらないわよ?」って、……別に大きくなりたいなんて言ったわけじゃないのに……。

 そんなに残念そうな顔してたのかなぁ? ボク。


 これからボクも胸が大きくなりたい……とか考えるようになっちゃうのかな?



 そして大事なところ……には、やっぱり付いてなかった。


 まぁ、自分の体だから最初のころと違って、しっかり感覚で無いことはわかってたし、体がある程度動くようになってからは、興味本位でそこに触れてみたこともあったけど。


 でも実際目で見るとやっぱり、違う……よね。



 香織さんは、温かいタオルで体を拭いてくれながらも、体に慣れず恥ずかしそうにしてるボクに話しをする。


「蒼空ちゃん、女の子の体はね? とってもデリケートなの。 だから赤ちゃんの肌を扱うような気持ちで……大事に、やさしく扱わなきゃだめなのよ?」


 そういいながらやさしく拭いてくれてる……、あぁ、暖かいタオルが気持ちいい。



* * * * * *



 そして今日。

 目が覚めてから初めてお風呂に入れてもらえるのだ!


 この病院のお風呂はかなり大きくて、10人くらいは余裕で入れるらしい。


 でもボクは、立ち上がることはまだまだ難しいのでそっちには入れず、一人で入る浴槽での入浴になるみたいだけど。


 入れてくれるのはお母さんと、香織さんだ。


 春奈も手伝いたがったけど、歩けないボクをサポートするには春奈じゃ無理だし。

 春奈には悪いけど、ボクもそのほうが安心だし……ハダカ見られるのもやっぱまだ恥ずかしいし。


「お姉ちゃん、今日はあきらめるけど……。 いつか、リハビリが進んで歩けるようになったら……、一緒にお風呂、入ろうね? 約束だよ!」

 春奈がけなげ? に言う。


 そんなこと言われると、恥ずかしいからいや……、なんて言えない。

「うん、わかった。 約束する」

 と答えるしかなかった。 ……男の子のままだったらそんなこと、この歳でありえないはずなのに。



* * * * * *



「蒼空、お風呂の準備、できたようだから入りましょう」


 お母さんがそう言いながら、ボクの服を脱がしにかかる。 香織さんは、浴槽の方で準備をしてくれてたようだ。

 ハダカになったボクをお母さんが抱きかかえて、香織さんの待つ浴槽へと向かう。

 ちょっと恥ずかしい。

 でも一人でボクを抱き抱えるなんて、お母さんスゴイ! と、変なところで感心してしまうボク。


 浴槽は一人入っただけでもういっぱいいっぱいの小さなもので、家にあるユニットバスよりもかなり狭い。

 シャワーで体の汚れを流してもらったあと、お母さんと香織さんが二人でゆっくり浴槽に入れてくれる。


 いつからお風呂に入ってなかったんだろう?


 久しぶりのお風呂はホントに気持ちよくって……。


「蒼空、どう? 気持ちいい?」

「うん!」

 気持ちいいよっ! とお母さんに満面の笑みで答えるボク。


「蒼空ちゃんに気に入ってもらえて良かったわ! 準備した甲斐があったよ」

 香織さんもそんなボクを見てうれしそう。


 ボクは恥ずかしい……なんて気持ちは、とうの昔にどっかに消え去ってしまっていて、久しぶりのお風呂を心ゆくまで楽しんだ。


「お母さん、香織さん、お風呂に入れてくれてありがとう! とっても気持ちよくってサイコーな気分だよっ」


 感謝の気持ちを言葉にした。

 二人は目を合わせてニッコリと笑った。 そしてお母さんはボクのアタマをやさしくなでてくれた。



* * * * * *



 これからは、1週間に1度くらいらしいけどお風呂に入れるようにしてもらえるみたい。

 回数が少ないのが残念だけど、楽しみが増えてウレシイ。



 お風呂から出てさっぱりした気分で、香織さんに車イスを押してもらい病室に戻ると、春奈が待ってくれていた。

 お母さんは携帯に着信があったらしく、確認しに行くため別行動だ。


「お姉ちゃん、お風呂どうだった? 気持ちよかった?」

 春奈が戻ってきたボクに早速声をかけてきた。

「うん! とっても気持ちよかった~」

 ボクはもちろん満面の笑みでもってそう答えた。

「ふふっ、よかったね!」

 春奈もうれしそうな顔をして喜んでくれた。


 ボクはベッドに寝かせてもらい、ゆったりした気分……、春奈はそれ見てまた笑顔を浮かべる。


 香織さんは用があるからと、病室を出て行き……、入れ違いくらいのタイミングでお母さんが戻ってきた。

 お母さんと春奈は軽く目を合わせて頷きあっていた……、なんなんだろ?


 そしてお母さんがボクに向かって言った。

「蒼空、明日はここにお客さまが来るの」

「お客さま? ボクに?」

「そうよ。 とは言っても蒼空は会ったことない人なんだけどね」

「へぇ、そうなんだぁ」

 そう言いながらもボクは何しにくるんだろ? と疑問に思う。


「その時、お話しもあるから明日のリハビリは無しにしましょうね」

「は~い」

 疲れてお客さまの相手するのも失礼かな? と思い、ボクもそう答えた。


 それにしてもお話しってなんだろ?


 ……お母さんと春奈の目配せも気になるし。



 お客さまってどんな人なんだろ? と考えながらも、お風呂に入って心地のよい気分だったこともあり……、いつしか眠りに落ちていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ