最終話:伝統芸とともに。
「すみませんでしたっ!」
ソファの上で目覚めた瞬間、レンブラント様に東方の伝統謝罪芸『土下座』を披露された。
床に座り込み、上半身を折りたたんで、頭を床に付ける勢いでの謝罪。
寝起きで頭がボーッとしていたのに、一瞬で脳が覚醒した。
「なにを……」
「くっ、これ以上だと土下寝だが、そちらの方がよかったか!?」
土下寝は、土下座の上位互換らしい。
いや、別にその謝罪はいらない。というか、なぜ謝罪されているのか。
本当に意味がわからないから、とりあえず座って説明してほしいとお願いすると、なぜか頬を赤らめて隣に座られた。
「それで、なぜ土下座を?」
「限度が分からず……気絶させました」
「まぁ…………はい。そうですね……」
それ以上、何も言えなかった。気持ちよかったとか諸々や諸々、余計なことを口走りそうで。
「それよりも、妹様のこと――」
「クリステル」
柔らかく微笑んだレンブラント様が、ゆっくりと顔を横に振った。
「犯人は既に捕まっているし、クリステルが負い目に感じる必要はない。いいね?」
「っ、はい」
そっと抱きしめられ、額にキスをされた。
あぁ、本当にこの人はなんて優しいんだろうか。
せめてお墓に手を合わせさせてくださいとお願いすると、更に強く抱きしめられ、耳元でありがとうと囁かれた。
「あの……」
「ん?」
約束していたお墓参りの日、なぜかレンブラント様は大きなバスケットを持っていた。しかも、調子っぱずれの鼻歌。
いったいなんなんだと思っていたら、お墓はレンブラント様の家が所有している少し高台にある野原にあるそうで、妹様に私を紹介できることと、両思いだとハッキリと分かってから初デートだからと頬を染めて言われた。
――――何この人、可愛すぎない?
お墓にレンブラント様から聞いていた妹様の好きだったというお花とクッキーを添え、祈る。
はじめましてと、ごめんなさい。そして、どうか、ちょっとどころじゃなくドジなレンブラント様を見守ってあげてくださいと。
ふわりと優しい風が吹き、頬を撫でられたような気がした。
「何をそんなに話しかけていたんだい?」
顔を上げると、レンブラント様が柔らかく微笑みながら聞いてきた。
右手では妹様のお墓をそっと撫でている。
「二人だけの内緒です」
「ふふっ。そっか」
楽しそうにくすくすと笑いながら、少しだけ離れたところにある木のところでランチにしようと手を引かれていった。
木陰に厚手の布を敷き、バスケットを開くと、パニーニやサンドイッチ、焼き菓子やフルーツなども入っていた。
「凄い……沢山ですね」
「今日は日差しが丁度いいからね、少し長く過ごせたらと思ってね?」
レンブラント様がちゅっと軽く頬にキスをすると、手際よくカトラリーなどを出して準備を終えてしまった。
ただ、私にはナイフ二本、レンブラント様にはフォーク二本だけども。
「クリステル、どれを食べる?」
「申し訳ございません。そこまで器用ではないので、ナイフ二本では難しいかと」
「…………クッ」
がっくりと項垂れるレンブラント様を見て、本当にこの人は可愛いなと胸が熱くなるというか、お腹が震えるというか。
「っ……あはっ。あははは!」
あまりにも可笑しくて、声を出して笑ったら、レンブラント様が目を見開いて停止してしまった。
「あ、すみません……つい」
「もっと!」
「え?」
「もっと、そうやって笑ってくれ。いつもクールな君も好きだから、私の前だけでそうやって笑ってくれたのなら、嬉し――――まて、なんでそこで真顔になるんだ……」
レンブラント様の言葉があまりにも嬉しすぎて、ニヤけそうな顔を叱咤していたら、いつもの真顔に戻っていたらしい。
無意識とは怖いものだ。
「努力します」
「ぬぐぅ……なんか違う…………」
レンブラント様がしょんぼりしながら、さぁ食べようと言うので再度ツッコミ。
フォークをください。
顔を真っ赤にしたレンブラント様と楽しく食事をしたあとは、カトラリー類を片付けのんびりおしゃべり。
レンブラント様は敷布の上に寝転がり、目を瞑って昔のことを話してくれた。
妹様とケンカしたとき、いたずらされて叱ったら大泣きされてご両親に『妹を泣かすな』と怒られたけれど、大泣きは声だけで涙なんて出ていなかったらしい。
「私が怒られている間、母のスカートに抱き着いてハラハラとこっちを見ていてな。たぶん大ごとになってしまったことと、バレたら怒られるって顔―――うわっぷ」
急に風が吹いて、どこからか飛んできた大きな葉っぱが、レンブラント様の顔にベシリと当たった。
「急に。いいところで……」
「ふふっ。妹様が怒っているのかもしれませんね?」
「ばらすなって? っ、ははは。やりそうだ」
少し起き上がって葉っぱをペイッと横に捨てると、レンブラント様が私の膝の上に頭を乗せた。
そっと頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めてくれたのが、なんだか大型犬みたいだった。
「クリステル」
「はい」
「君といつまでも、こうやって過ごしたい」
「はい、私もです。レンブラント様……ズボンのファスナーが開いてます」
「…………いつから?」
「お迎えに来られたときからです」
「もっと早く言ってくれ!」
「あはははっ」
きっと、私たちはこうやって、穏やかにレンブラント様の伝統芸になりつつあるドジを笑い倒して過ごして行くのだろう。
恥ずかしそうに、ファスナーを閉めるレンブラント様の頭をよしよしと撫でると、ちょっと睨まれてしまったけれど。
―― fin ――
ということで、最終回!急に!
最後までお付き合いありがとうございました&おまたせしましたぁぁぁぁ(土下座)




