28 気に入られた王子
タクト(……996……997……998……999……1000!)
1日の筋トレルーティーン(と言っても、砂入りペットボトルを持ち上げるだけ)を終わらせ、俺は壁を頼りにベッドへと戻る。
すでに夜中の2時だ。すぐにでも寝てしまおうと横になる。そこで、ベランダに誰かいることに気づいた。
首だけをベランダに向ける。そこにはたくさんの高級お菓子を持った中学生くらいの少年がいた。
誰かと尋ねようと口を開くが、上手く舌が回らない。おかげで、パクパク言葉しか喋れないが少年は察したようで、口を開いた。
政明「よお、俺の名前は【神村 政明】。このお菓子は貰ったやつだ」
朝に入城したのに、夜中まで由美とのおしゃべりに付き合わされた政明は、目の下にクマを作りながら話し始める。
政明「別に俺は敵じゃない。お前を勧誘しにきた」
タクト(いや、怪しいだろ!? こんな夜中に俺に勧誘とか……、敵国のスパイか?)
だが、その疑念は政明の次の行動で吹き飛ばされる。
なんと、目の前の少年からホルダーの反応をキャッチしたのだ。時間にして1秒にも満たないが、確かに一瞬だけ、彼から気配を感じた。
慌てて(と言っても数秒かかったが)ベッドから身を起こし、少年を観察する。
政明「他国の間者はこんな不合理なことしねぇだろ? 信じてくれたなら、2回瞬きしろ」
タクトは2回瞬きする。
政明「よし、実は俺はある人にお前の観察と勧誘を命令されてここにいる。正直、あいつがお前を気に入るのも理解できる」
遠くから双眼鏡を用いて、一週間ほどタクトの行動を確認したが『驚嘆』という言葉以外出てこないほど壮絶だった。
起きたらすぐにカロリーを摂取しトレーニングに勤しむ。誰にも頼ることなく部屋を歩きトイレをし寝る。
素人が見ても、その行為自体がかなり負荷のあるものだと分かった。
だが、それをしているタクトに絶望や不安の表情はない。常に希望をたたえた勇ましい顔で日々を過ごしている。
政明「普通に生きるだけでもムズイ称号を、お前は上手く付き合っていこうと努力してる。クールフェスティバルだ」
タクト(…………何当然のこと言ってんだ?)
この程度、努力とも何とも思っていないタクトは首を傾げるが、政明はさらに笑顔をこぼす。
政明「まあ、気にすんな。でだ、そんなお前のために俺なりに色々調べてみた。
まずは、最初から説明しようか。俺はホルダーになってから今までずっとわからねえことが1つあった。それは、クラウンゲームのルールついてだ」
『ゲーム名【クラウンゲーム】
9の規約
1 称号の恩恵を受けた者は【ホルダー】としてゲームに絶対参加すること
2 ホルダーはある一定の条件を持つ者全てから完全公正なランダムで決定する
3 ホルダーにはそれぞれに特殊能力と高い身体能力を与える
4 ホルダー、または【宝具】によるゲームへの介入は全て正当行為と判断する
5 1人のホルダーが世界各地に存在する13の宝具を全て集めることによりゲームの終了とする
6 このゲームの勝者は【?】になることが可能となる
7 ゲームには原則として死亡以外に脱落を認めない(なお、宝具・ホルダーの特殊能力により脱退する場合、その限りではない)
8 ゲームとしての公平性、存続性を著しく脅かした場合、ペナルティを与える
9 以上を持って【クラウンゲーム】のルールの全てとする』
政明「この中で、もっとも謎だったのが
『ルール8 ゲームとしての公平性、存続性を著しく脅かした場合、ペナルティを与える』だ。
もともとルール4でホルダーや宝具の介入は正当行為つってんのに、なぜかペナルティだ」
ベランダから部屋に侵入しながら政明は話を続ける。
政明「でだ、多分このペナルティはホルダー以外の一般参加者のことを指してる。
そこで問題になるのはクラウンゲームへの参加方法だ。ホルダーは全員強制参加。
だが、一般の奴らは違う。恐らくだが、クラウンゲームに参加する条件はこの9つの規約を把握してるやつ。違うか?」
タクトは驚いた顔で、政明を見つめた。
政明「あってそうだな。
次にペナルティの内容。これは今までの【劣等者】(仮呼称)の逸話を見れば分かる。やれ、王国最強が死んだだの、大剣豪が寝たきりになる、武道を極めた奴が転んで死ぬだの―――どれもこれも圧倒的な強さを持った奴の逸話ばっかだ。
つまり、このペナルティは強い奴ほど条件を満たしやすい。お前、その称号をゲットしたとき誰かのホルダーに協力するやら支えるやら言ったんじゃねぇのか? だから、ペナルティに引っかかってホルダーになった。
まあ、一般人でホルダー並みに強い奴がいたら確かにゲーム性はねぇわな。暗殺でも仕掛けりゃ一発だ」
タクトは驚愕した。それと同時にあの日、校舎裏で静香に告白しようとした時を思い出す。
タクト「……静香、俺はこのままの関係で終わりたくない」
静香「……と申しますと?」
タクト「俺は、できる限り全力で静香を支えて助けあっていきたい。もっと長く一緒にいたいし、終わりまで隣にいたい」
タクトは心臓がバンバン鳴っているのを感じた。昨日さんざん練習したセリフをしっかりいえるよう必死に平静になろうとする。
タクト「静香……俺は静香のことがす……」
そこまで言った辺りで、脳内に誰かの声が響いた。
??『クラウンゲーム内で重大な違反行為を感知しました。このままでは公平性を著しく脅かすと判断。【菅原 タクト】にペナルティを与えます』
刹那の内に聞こえたその声とともに、脳内にクラウンゲームのルールと称号の内容が流れ込んでくる。
それに耐えきれず、地面に倒れた俺はその衝撃で気絶したのだった。
称号
あなたは【違反者】のホルダーになりました。
称号取得条件
規約8に背くこと。
特殊能力
自身の身体能力を究極的に低下させます。
専用宝具
白銀の杖
政明「―――称号名は【違反者】ってとこか。この推理なにか間違ってれば3回瞬きしな。で、あってんなら2回瞬きしろ」
タクトは2回瞬きをする。
政明「そうか、んならハッピーフェスティバルだ。
さて、今度はそっちが答えてもらう番だ。俺たちのチームに入らないか? 入るならお前の称号をなんとかできるかもしれねぇ。それ以外でもなにかとサポートできる。もちろん、このチームはお前の大事な人や物に危害は加えないと約束できる。
今、決めろ」
タクト(…………怪しさしかなくね?)
タクトは少し考える。
確かに目の前の少年の言ってることは合っている。
俺は【違反者】だし、取得条件も間違っていない。
だが、目の前の彼は底が知れない。
なんというのだろうか? 仲間は大事にするが敵と判断した者に関しては容赦なく切り捨てるような…………自分とそれ以外の区別がはっきりしすぎているような気がする。
悪いことだとは思わないが、多感なこの時期に凝り固まった思考に囚われるのはどうなのだろう。
だが、それとは別に彼が【裏切者】の称号を明かし、俺に協力を求めたのも事実だ。
俺のような人間に正体を明かすことも会いに来ることも何のメリットもないはず。なのに彼は来た。
なら、答えは決まっている。
俺は2回瞬きをした。
タクト(今までの傾向的にこれが『yes』だ)
俺の解答を確認した政明は微笑む。
政明「ふっ……ようこそチーム【カーニバル】へ」
先ほど、涼斗が適当に決めたチーム名を告げながら俺はタクトに近づく。
政明「ほらよタクト、プレゼントだ」
タクトのベッドにいくつかのグミの袋が散らばる。
政明「咬合力ってのは馬鹿にできねぇ要素だ。今のところお前の課題は歩けるようになることだろ? なら、とにかく何か噛め。ちゃんと上下で噛めば重心動揺は安定するし、軸も定まる」
よく見れば、袋にもグミの弾力性が表示されているものばかりだ。アルデンデな噛み応えからジューシーな噛み応えまで――違いはよく分からないが。
政明「あばよ。時間ができたらまた来る」
政明はそれだけ言って夜の闇へと消えていった。
残ったのは大量のグミだけ。最近、俺の体調に合わせて静香が柔らかいものしか食わせてくれなかったので嬉しくはあるの。
だが、一つだけ問題があった。
タクト(……どうやって袋あけよう)




