表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/100

40.再会の記憶

 「久しぶりですね」

 見覚えのある顔だ。俺は忘れていない。初めて負けた相手だし。

 魔人は首を傾けて、目を細める。

 「悪いな、記憶が無いぞ。本当に、会ったことがあるのかい」

 ニヤける魔人。記憶が消えてる?本当に憶えていないようだ。おいおい、本当の魔物に変化してるのではないだろうな。

 「そうですか、憶えていませんか。もしかすると、人としての記憶もありませんか?」

 「残念だな。俺は生まれた時から魔人なんだよ。お前らとは、生まれが違うんだよ」

 やはり、強くなるにつれて、人だった頃の記憶が無くなるようだ。あの時は確かに人だったはずだ。いったい、何が原因なのか、ヒントのひとつでもわかれば良いのだが。

 「そろそろ、おっ始めようか。そのために、来たんだろう」

 「そうですね。このままあなたを放置と言うわけにもいきませんしね。決着を付けるとしますかね」

 対峙する俺と魔人。

 魔人は、闇より黒い剣を持っていた。長い剣は、3メートルくらいはあるだろうか。

 「その剣は、何処で手に入れたのですか?」

 「何処だったかなあ。元々、俺の剣だったはずだ」

 見る限り、あれは魔剣だ。何かの魔法が隠されているのか、それとも魔剣自体が変化でもするのか。

 俺が先に動いた。

 刀を取り出すと、正面から斬りかかる。

 魔人は逃げることなく、正面から受け止めると、嬉しそうに笑った。

 魔剣から闇が溢れ出す。

 魔剣から溢れた闇が、俺の刀を伝って、俺を包み込む。

 

 「ふん、動けまい。お前の魔力を吸い取っているからな。身体から、力が抜けるだろう。俺に堂々と挑むなど、百年早いわ」

 

 俺は、そのまま、魔人を斬った。

 刀ごと腕が落ちる。


 「ああ、何も変わらないけど」

 魔人は当然驚いていた。本来、この世界に魔力のない者などいないのだから。

 「何故だ。何故動けるんだ。お前は、本当に人間なのか?」

 驚いているうちに、俺は刀を一閃。反対の腕も肩から落ちていく。

 「何故だろうね。不思議だねえ」

 既に、右腕が生えていた。異常な再生能力だ。

 「相変わらず、その再生能力は異常だねえ。何処で手に入れたの?」

 「何処だったかねえ。ああ、頭がスッキリし過ぎて、憶えてないなあ。お前こそ、何で何とも無いんだよ。おかしいだろ」

 魔人はゆっくりと、魔剣を拾い上げた。その頃には、反対の腕も生えていた。

 「まあ、あれ位で終わってしまうと、面白くないからなあ」

 言い終わらないうちに、魔人が動いた。

 下から、斬り上げて来る。

 俺は回避するために、下がる。

 が、魔剣は伸びて来た。

 それを刀で受けて、勢いのまま飛び上がる。後方回転で、距離を取る。

 魔人は一度魔剣を元に戻すと、突き上げた。そのまま伸びていく魔剣。

 「シールド」

 魔剣の勢いを止めると、魔剣に飛び乗った。

 俺は魔剣の上を駆けていく。

 勢いのまま、首に斬りかかる。

 「流石にそれは無理があるだろう」

 魔人は左腕を硬化させて、盾のように刀を止めた。

 俺はそのままの勢いで跳ねた。魔人の上を宙返りして、背中に斬りかかる。

 斬った所から、青い血が噴き出した。

 だが、それも、すぐに止まって、肌が瞬間に再生した。


 「面倒くさい再生能力だね。でも、それ、永遠ってことはないよね」

 魔人が振り向く前に、右脚を根本から斬る。

 「お前こそ、ちょこまかと面倒くさいなあ」

 片脚で駒のように回る。魔剣を水平に斬りかかる。その時に、当然魔剣を伸ばして来た。

 うつ伏せになってかわすと、百メートル走のスタートのように、ダッシュする。

 左脚の膝を斬りつける。

 再生する右脚も速い。それでも、カカシの状態は変わらなかった。

 回転しながら、魔剣を鞭のようにしならせてくる。

 「シールド10」

 シールドを魔剣で、あっという間に壊される。10枚のシールドも、あまり役に立っていない。

 俺は、回避するのが精一杯だった。

 一度距離をとって、思案する。


 「あの魔剣と硬化能力は、厄介ですねえ。それでも、限界が来るまで倒すだけなのですがね」

  俺は、もう一本刀を取り出した。

 「さーて、どういう風に攻撃しますかね。まあ、思う通りにはいきませんかねえ」

 真正面から向かっていく。

 刀を逆手に持ち、背後に隠すようにして、突撃する。身体を左右に振って、刀の出所がわからないように工夫をしてみる。

「おお、考えましたね。でも、俺も二刀流みたいなものだぞ」

 右手に魔剣、左手は硬化をして、尖った槍の様な形状に変化させていた。

 振り下ろす魔剣を潜り、槍を交わして、右を抜けるようにして、斬る。

 右腕が落ちる。当然一緒に落ちる魔剣を蹴り飛ばす。

 これで少しは楽になるかな。

 「甘いわ」

 すぐさま、右腕が生えた。その腕が伸びる。

 顔に向かって来る腕を交わすと、腕はさらに伸びて、蹴飛ばした魔剣を掴むのだった。

 「そっちが狙いか」

 俺は、魔剣が戻る前に前方に跳ねた。宙返りをしながら、首を狙う。

 

 カチーン。


 「首を硬化させましたか。器用ですね」

 着地する所を魔剣で狙われた。

 「シールド2」

 1枚は魔剣を受け、1枚は俺が向きを変えるために蹴って、左に跳ぶと、三角跳びのように、前方に向きを変える。

 今後は速度を上げて、光の速さで切り付ける。

 硬化する前に、左腕を斬る。

 硬化されたままの腕が、地面に落ちる。

 しかし、腕は再生する。

 その腕で、落ちた腕を拾い上げる。すると、腕が剣の形に変わった。硬化したままの剣だ。

 「剣の代わりに使うかな」

 

 自分の腕を持って、魔人が切り掛かって来た。

 刀をクロスさせて受ける。

 さらに、魔剣が伸びて来た。

 逃げられない。

 「シールド20」

 次々と割れて行くシールド。押される勢いで、後方に跳ねる。

 「ヤバい、ヤバい。どんどん強くなっている気がするのだが。気のせいかな」

 全てのシールドを破って、さらに伸びて来る魔剣。その速さに、交わしきれなくなっているようだ。擦り傷が、徐々に増えていく。

 「ちょこまかと、よく逃げる奴だなあ。傷が増えている所を見ると、限界かー。ひひひ、どうした、どうした」

 伸びてくる魔剣をジグザグに交わしつつ、接近する。再生能力が落ちるまで、攻撃するしか無い。現状、それしか弱点がないのだから。

 しかし、近付くと、硬化剣が邪魔をする。

 厄介この上ない。

 左手の刀で、硬化剣を薙いで、右手の剣で斬りつける。

 どうやら、身体中が硬化しつつあるようで、傷程度しか付かなくなった。

 その時、急に、魔人の身体が闇に包まれた。新しい力だろうか。


 暫くして、闇が晴れた。いや、消えたと言うべきか。魔人の身体に吸い込まれる様に、消えてしまった。

 後には、銀色に光る魔人がいた。

 全身が銀色の鱗のようなもので覆われていた。

 手には、ギザギザの刃の剣を持っていた、身体の倍くらいの長さがあろうかと言うくらい巨大な剣だ。それを片手で持っている。魔剣が変化したのだろうか。

 ヤバい感じがビンビンして来る。


 「うおー、俺はついに進化したぞ。仮初の魔人では無く、本物の魔人になったのだ。これで俺は無敵だ」

 巨大な剣を大きく振り回し始めた。まるで、竜巻だ。

 刀を合わせただけで、飛ばされそうな勢いだ。魔人だけで無く、魔剣さえ進化しているとすれば、刀が耐えれるだろうか。

 俺は右に左に交わしていく。

 「どうした、どうした。逃げてばかりだと、勝てないぞ」

 ヒヒヒと笑う魔人。

 竜巻のように、剣を振り回す。

 周りの大木が、豆腐のように斬れて、倒れていく。

 気づけば、倒れた大木に囲まれていた。逃げるのも限界か。

 身体のあちこちに傷が付いていた。上手く逃げているつもりが、避けきれていないようだ。

 「流石にヤバいか」

 

 仕方ない。テストも兼ねて、バトルスーツを使ってみようか。

 俺は指輪に向かって喋る。サリーに繋げた。

 「バトルスーツ、転送できるか?」

 <問題ありませんよ。主人の位置さえわかれば、転送可能です>

 「それでは、転送の用意を頼む」

 <いつでも構いません>

 

 「転送」

 それがスイッチ代わりの言葉だ。

 瞬間、身体の周囲に、膜が張り始めた。

 幾重にも重なる膜は、突如、鎧化した。

 頭を覆うシルバーのマスク。脚、手、そして身体をシルバーの鎧が覆い尽くす。

 右手には漆黒の刀が、握られていた。

 まだ見た目は今ひとつだ。これから改良していく予定だ。まあ、その辺りは、サリー任せではあるが。


 「何だ、それは?」

 魔人の動きが止まった。

 「ああ、開発中の鎧です。バトルスーツ、もしくはゴーレムスーツとも言えますかね」

 手や脚を動かしてみる。良好だ、問題無い。視界も、よく見える。これなら、傷を気にせず戦えそうだ。強度的なことは、戦ってみれば、わかるだろう。

 「今度は、こちらの番ですね。行きますよ。データを取るまでは、我慢してくださいね」

 「何だ?バトルスーツや、データとか。俺の聞いたことのないような言葉ばかりだなあ。俺は楽しめれば、問題ないぞ」

 「それでは、こちらから行きましょう」


 飛び出した瞬間、消えた。ように、魔人には見えたはずだ。同時に、キーンと言う音がして、耳が痛い。

 そのために、構えたまま、魔人は動き出せていない。

 「うん?」

 魔人の身体が勝手に傾き始めた。

 「何だ、何が起きた?」

 また耳が痛くなった。

 痛みを堪えて、傾く身体を止める為、手を突こうとした。が、傾きが止まらない。

 よく見ると、右腕と右脚が無くなっていた。いや、ふたつとも、目の前に転がっていた。

 ドスンと倒れる魔人。

 目の前の空間が揺れて、バトルスーツのレイが現れた。

 「どうですか、バトルスーツの性能は。それに、この漆黒の刀の切れ味は最高でしょう。あなたの硬さも相当ですが、この刀には勝てませんよ。これでも、妖刀の部類ですがね」

 「何故それを最初からださなかった」

 「それは簡単ですよ。普通でも勝てると思っていましたからね。まさか進化するなんて、思っていませんでしたからね。想定外ってやつですね」

 片脚で立とうとする魔人だが、進化したばかりで、身体が上手く動かないようだ。

 「そう言えば、再生しなくなりましたね。限界が来たのですか、それとも進化すると再生出来なくなるのですか?」

 「・・・・・」

 「何も言わないと言うことは、ご自分でも、わかっていないのでしょうか」

 「・・・・・」

 左腕を上手く使って、何とか立ち上がる魔人。右手だった物から魔剣を取り返して、それを杖にして、姿勢を保っている。

 「お前の馬鹿みたいな速さは何だ。その鎧のせいか」

 「それは言えませんよ。企業秘密と言うやつですね」

 「そうか。まあ、どっちにしろ、やり合うしかないよなあ。言わなかったが、再生は無理だが、数は増やせるからな」

 同時に、腰から脚が生えてきた。蜘蛛ような歪な脚だ。脚の次は、背中から腕も生えてきた。それも、4本だ。どうやら、同じ所からは生やせないようだ。文字通り、再生はダメだが、増やすことは出来るということなのかもしれない。

 「今度は、先に仕掛けさせてもらうぞ」

 元の脚とは違うせいか、身体を揺らしながら、腕を振って来た。気付けば、どの手にも剣が握られていた。剣まで増やせるのは厄介だが、その性能がわからないのは、更に厄介だ。まさか、全てが魔剣なのだろうか。

 1本受けると、次が迫ってくる。やはり、厄介この上ない。

 一度下がって、加速する。さっきの速さの理由は、足の裏から、風を吹き出しているからだった、ジェット機のように。

 種を明かせば、瞬間的に加速するため、一瞬消えて見えるだけだ。

 魔人の視界が追い付かないうちに、背中の腕を3本斬り飛ばす。が、さらに2本生えてきた。限界が来るのだろうか。生える場所が無くなれば、生えて来ないのだろうか。それと、硬さが増して来たような気がする。4本斬ったつもりが、3本しか斬れていないのがその証明だろう。

 少し考えている間に、脚が8本に増えていた。まるで蜘蛛だな。

 動きが異常に速くなっている。もう、その身体に慣れてしまったと言うのか。

 「やっと、この身体にも慣れてきたわい。そろそろ仕舞いにするかのう」

 漆黒の魔剣を取り巻く闇がさらに濃くなる。それぞれが、闇で強化されているようだ。

 「仕方ありませんね。こちらも、少し無理をしますかね。・・・ゴーレム君、起きてますか。脚の操作をお願いします。私は腕に集中します」

 <リョウカイデス、マスター>

 実は、バトルスーツはゴーレムで作っているため、頭脳は生きている。身体にスペースを作り、そこに、入って動かしているのだ。そのため、いざという時には、ゴーレムの方で動かすことが可能だ。


 攻める魔人。魔剣の斬撃が、縦横無尽に飛んで来る。

 避けるゴーレム。風を纏って、交わし続ける。


 「ゴーレム君に避けてもらったお陰で、刀に光を集めることが出来たよ。ゴーレム君、そろそろ決着を付けましょうか」

 <マスターノノゾムママニ>

 レイは、刀を右上に構える。

 「そろそろ決着を付けましょうか」

 「こっちは、いつでもいいぜ」

 魔人も、蜘蛛のような脚を上手く使って、ジリジリと前進してくる。魔剣を八方で構えて、その時の為に準備している。

 レイは、水平に構えを変える。

 「行きますよ」

 駆け出すレイ。実は普通に走る方が速い。光になれるから。

 速さが更に上がる為、相手は対応できない。

 そのままの勢いで、刀を水平に振り、次に縦に斬る。刀に光を載せて。

 「シャイニング・クロス」

 魔人は気が付かぬうちに、横に斬られ、縦に斬られていた。何も出来ないまま。

 速さは、武器になるのですよ。

 頭を斬られ、腹を斬られれば、流石の魔人も、倒されるしかなかった。

 「は・・・や・・・」

 魔人は、そのまま後ろに倒れた。

 闇に揺めきながら、増えていたものは消え、縮小して、人の残骸になった。カスのような残骸だ。

 「もう復活したりしないよな。バトルスーツも、まだまだ改造が必要だな」

 まだ強い魔人が現れたらと思うと、もっと強化しないと、駄目だな。俺は、そう感じていた。他にも進化する奴が、必ず現れそうだ。

 「サリー、スーツを解除してくれ。助かったよ、ありがとうな」

 <了解しました。バトルスーツを解除します>

 銀粉が散るように、スーツが徐々に消えていった。

 暫くすると、元の姿に戻る。

 「ああ、身体中がボロボロだなあ」

 回復薬を取り出して、一気飲みする。血は止まり、傷口が消えて行った。

 そこに、カプセル達が帰って来た。そのまま、ベルト横のケースに入って行った。

 「お前達も倒すことが出来たみたいだな。初の戦闘だったから少し心配してたよ。まあ、ゆっくり休め」

 そう伝えた後、俺は、残骸の中に、光るものを見つけた。

 「魔石?」

 人から魔石など取れるはずはないのだが。もしかすると、進化すると、一種の魔物になるのかな?その為、記憶が無くなるのだろうか?

 「拾っておくか」

 他に何も無いことを確認して、魔石を拾い上げた。後で、サリーに調べてもらおうかな。



 「レイ、大丈夫だったなの?」

 アリスが一番にやって来た。タイミングが良過ぎるから、遠目に見てたようだ。

 遅れて、肩にティンクを乗せたジェームズ侯爵がやって来た。流石に、女王様は居ないようだ。

 「主人のことですから、心配はしておりませんでしたが、余程の魔人だったようですね」

 「ああ、流石に疲れたよ」

 「レイ殿、御苦労様でしたな。色々と聞きたい事もありますが、とりあえず一度帰りましょう。私も疲れましたよ」

 「そうしましょう」

 俺達は、一人も欠けることなく、来た道を戻って行った。

 

 




 


 

 


 一様の幕が降りて、平穏が戻って来たが、謎は深まるばかりだ。

 さあ、みんなで謎の解明だ。真実は、あるのか。

 次回、〔事後報告とそれぞれの想い〕、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ