39.カプセルの魔物達
「俺の相手は、お前らか。数が多ければ良いってものではないぞ」
4本ある腕を器用に動かしながら、魔人は文句を言った。
「ふん、4本腕のあるやつに言われたく無い台詞ですね」
焔の魔神クレナイが、そう言うと、焔の剣を構えた。人型の魔神だ。全身を赤の鎧が覆っている。
「防御は任せて欲しいの」
プルプル揺れながら、スライムのブルーが言った。体長2メートル程のスライムだ。澄んだ蒼色をしている。
「早く終わらせましょう。レイ様が心配です」
3メートルくらいあるだろうか。巨大なクイーンアントだった。黄金色した身体は見るものに恐怖を与える。喋りながら、凄い速さで卵を産んでいるようだ。産まれては孵化して、次第に数が増えていた。
あっという間に、100体くらいは、いるだろうか。
100体は、すぐさま地中に潜って行った。何をしようと言うのか。
「クイーン、用意は良いか?」
白狼のシルバが、皆をまとめる。体長は2メートル位だが、白い毛が銀色に輝いて、凄い威圧感だ。
「問題ありません。いつでもいけますよ」
彼らは、レイに名前を付けてもらったことで、異様なほどに進化していた。
「クレナイは正面から突破。ブルーは、クレナイの盾になりつつ攻撃。クイーンは足下を壊してくれ。俺は背後から攻める」
「了解です」
まず、クレナイが突っ込んで行く。
真正面から、ぶちかますのみ。
魔人は、右腕で受ける。腕が硬化して、刀の代わりをしているようだ。
クレナイの刀が紅に光る。
「俺の刀をその辺の刀と一緒にしてもらっては困るぜ」
全体から焔を噴き出して、相手ごと、燃やし尽くそうとする。
「無駄無駄、俺の腕はお前の刀以上に燃えているのだから」
その言葉通り、魔人の腕が発光していた。その腕は燃やされることなく、対抗していた。しかも、腕は他にも3本あるのだ。
左腕が伸びて来る。
クレナイに当たる直前に、透明な盾が防ぐ。
ブルーの身体が部分的に伸びて、攻撃を防いだ。プルプルした柔らかい身体の反面、部分的に強度を上げることが出来た。同時に柔らかな状態に戻り、魔人の腕を包み動けなくする。柔らかいはずなのに、腕が抜けない。
「どうして抜けないのだ」
「君には抜けないよ。細胞同士が、チェーンのように繋ぎ合っているからね。君の力では、無理だね」
そうこうしている間に、白狼のシルバが魔人の背後から音もなく忍び寄る。
しかし、魔人の2本目の右腕が伸びる。
シルバも右脚で対応する。生物同士だと言うのに、火花が飛ぶ。
そのままの勢いで、咆哮を飛ばす。
それを3本目、4本目の腕で防御する。
「今だ」
シルバが叫ぶと、クイーンが子供達に合図を送る。
キュキュキュキュ。
蟻達の会話のようだ。
突然、魔人の足元が窪む。穴が開いたと言う方が、分かり良いだろうか。
当然、その穴に落ちる魔人。
下半身が落ちると同時に、土が下半身を抱え込んだ。さらに、土が硬化する。
蟻達の吐く唾液に、その効果があるようだ。
かなりの強度があるのか、魔人は身動きが取れない。上半身だけで、対応している。
が、対応が間に合わなくなっていく。
腕が1本、また1本と斬られ、最後には達磨のようになっていた。
魔物達は、交互に斬りかかる。
だが、斬られる度に、腕が生えてきた。斬られる速度と、生える速度が変わらない。どちらが速い訳でも無く、どちらが遅い訳でも無い。
だが、それも、いつまでも続かない。
「畜生。再生速度が追い付かない」
魔人が達磨のまま嘆く。
「四対一だからなあ、仕方ないよ。ひとりで、よく勝てると思ったなあ」
クレナイは、生えかけた右腕を再度斬り飛ばす。
「俺は最強なんだ。お前らなんかに、負けるわけがねえ」
「そんなことを言ってるうちは、勝てねえよ。それに、再生速度も少し遅くなって来たようだぜ」
「くそ、くそ、何で足が抜けないんだよ。自由に動ければ、お前らなんか、まとめて握り潰してやるのに。何でだよ、いったい」
魔人は抜け出そうと足掻く。
達磨状態だから、足掻き用も無いが。
「まあ、それが作戦てもんだからな」
それからは、簡単だった。
ひたすら、腕を斬るだけだ。
間違っても胴体を斬ってはいけない。復活する可能性があるからだ。今のままなら動くにも動きようが無いから、反撃しようがないのだ。
達磨では、何も出来ない。
どれくらい経っただろうか。
とうとう、腕が再生しなくなった。どんなに待っても、腕は生えて来なかった。
「そろそろ限界みたいだな」
魔人は力無く、口も開かなくなった。これが演技ならば、最優秀俳優賞だ。
「クレナイよー、とどめを刺してくれるかな」
シルバの言葉に、皆がうなづく。
シュン。
クレナイの刀が、魔人の首辺りを通過する。
同時に、魔人が溶けていった。
後には、デカい魔石だけが残った。
「ブルー、この魔石、主人に渡しといて」
ブルーは、了解と言わんばかりに、プルプルと震えていた。
「よし、主人の所に急ぐぞ。万が一という事もあるから、そばにいた方が良いだろう」
「それが良かろう」
「主人に万が一など無かろうが、主人のそばが落ち着くからな」
「プルルル」
「あなた達は、このダンジョンを守りなさい。おそらく、新しいマスターが現れる筈だから。マスターの居ないダンジョンなど存在しません。それが、この世界の理ですから」
〈わかったよ、ママ〉
〈ママに負けないように、僕たち、頑張るからね〉
〈うん、頑張る〉
子供蟻たちは、一斉に地中に潜っていった。
「主人の元に、戻るとしよう」
話がまとまると、瞬間、魔物達はカプセルに戻る。そのまま、主人であるレイ目指して、飛んで行った。
四つのカプセルが螺旋を描くように、飛んで行く。
まるで、虹の螺旋である。
「何だ、あれは」
ジェームズ侯爵は、驚いてばかりだ。
「あれは、反則だろう」
「あれは、相手にしちゃ、ダメな奴なの」
それは、全員一緒だった
誰も何も答えない。
答えを知らないからだ。
「レイ様と会議ですね、これは」
ティンクは、自分がレイのことを放っておいたことなど、忘れているかの様に言う。
「おそらく、アイツら1体ずつでのタイマン勝負でも、勝てたんじゃないか。あの4体は、それくらい強いと思うぞ」
「侯爵様の言う通りですね。いつの間に、あのようなモノ達を従えたのでしょうか」
「ティンク殿も知らないのかい。全く、秘密が多すぎるぞ、レイ殿は」
ジェームズ侯爵の言う事ももっともだった。だが、ティンク自体、何も知らなのだから、どうしようもなかった。
「レイ殿は、とんでもないやつだなあ。女王に報告せんと、何を言われるかわからんな。おかげで、救われたのだがな」
「侯爵様、あまり言いふらさない様にお願いします」
「わかっているよ、ティンク殿」
「とりあえず、追いかけて、レイの所に行くなの」
アリスは大剣をマジックバックに入れて、走り出していた。
「我らも、置いて行かれないように追いかけましょう」
「そうだな。あとひとりまで来たと言って、油断しないようにせんとな。このままだと、足手纏いだ。一から鍛え直す必要があるな」
どうやら、ジェームズ侯爵は戦闘狂のようだ。
「あとひとりとは言え、きっととんでもなく強いのでしょうね。今までの敵とは比較にならないくらい。それでも、レイ様が何とかしてくださるのでしょうが」
「行くぞ、ティンク殿」
「ええ、参りましょう」
ティンクは、侯爵の肩に乗った。
それを合図に、侯爵は走り始める。
ティンクは振り落とされないように、しっかりと捕まっていた。
遂にその時はやって来た。
最後の魔人に、本当に勝てるのか。ー
次回、〔再会の記憶〕、乞うご期待。




