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22.ダンジョンであれこれ

 何故か、レイはダンジョンに来ていた。


 時を少し戻そう。


 「レイ様、商売の手続き等は、全て終わらせてまいりました。会頭よりこちらに行くように言われました。スリーラックと申します。今後ともよろしくお願いいたします」

 青のスカートに、白のブラウス。細身の美人さんでした。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。俺が、レイです。お店のオーナー的な立ち位置ですかね。メインでは、俺の執事のアンバーが対応します」

 レイの後ろで、アンバーが御辞儀をした。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。アンバーとお呼びください」

 「早速ですが、売り物の野菜と果物は、地下に保存しております。一度で、どれくらい用意しましょうか?」

 結構な量を保存しているつもりだが。

 スリラックは、帳面を取り出して、何かを書き込んでいる。

 「一度見せていただいても、よろしいですか」

 「ええ、構いませんよ。アーバン、案内を頼むよ」

 執務室の扉を開けて、二人は出て行った。

 レイは、パールにお茶を用意させた。ダンジョン産のお茶だ。

 今のままだと、おそらく農地が足らなくなる。何処か1階層を農地にするべきかもしれない。作業はゴーレムに任せれば大丈夫だろう。シラサギ城周辺の農地は宿屋用にして、お店に出すやつは、別で作るべきだろうか。まだ、下の階層が余っているはずだ。ダンジョンに帰って、相談する必要があるかな。勝手に決めたら、ダンジョンマスターのクリムに怒られそうだ。

 まあ、ケーキを渡せば、ちょろいのだが。

 

 「レイ様、あれだけ在庫があれば、一週間は大丈夫だと思われます。続けて、納品がありますでしょうか?」

 スリラックは少し興奮しているようだ。多過ぎたかな。

 「ええ、大丈夫です。ただ、この状態が続いていくと、品薄になりそうなので、農地が増やせないか、検討している所です」

 「何とかなりそうですか?」

 スリラックは、少し不安そうである。一度農地を見せた方が、良いだろうか。

 「ええ、多分」

 どれくらい売れるか、わからないので、こちらも不安ではある。

 「そうしますと、後は目玉になる商品が欲しいですね。やはり、野菜では目玉商品にはなりませんので」

 「やはり、そう思いますか。俺もそれをずっと悩んでいたんですよ」

 顎に手を当てて、考えるレイ。簡単には、良い案は浮かんで来ない。

 「ダンジョンに行って、何か探して来ましょうか。肉とか、魔石とか、何か良いものが見つかるかもしれないので」

 「そうですね。私も何かないか、考えてみますね」

 「それでは、後はお任せして。何かあれば、アンバーに言ってもらえれば大丈夫ですから」

 

 そんなわけで、レイはダンジョンに来ていた。もちろん、まだ来たことのなかったダンジョンだ。主要な四つのダンジョン以外にも、小、中ダンジョンが色んな所にあるのだ。小さい所ほど、魔物が弱い傾向にあるのだ。

 だから、今まで行ったことが無かった。

 そのせいもあって、あっという間に、20階まで来ていた。出て来る魔物が弱いせいもあって、苦も無く、ここまで来てしまっていた。

 さて、今度は何が出て来るかな。

 

 突如、草原が揺れた。

 現れたのは、巨大な牛の魔物、ジャイアント・バッファローだ。

 肉の色が見てみたい。

 霜降りの入り方を確認したい。

 黒毛ダンジョン種と呼びたい。

 「美味そうな魔物だ。これなら、イケるかも」

 刀を取り出して、首筋を狙う。

 突進してくる魔物。頭部の角は、凶器そのものだ。当たれば、ひとたまりも無い。当たれば、だが。

 すれ違いざまに、斬る。

 魔物は、通り過ぎると、向きを変える。その勢いで、すでに斬られていた首が、転がっていった。残された身体も、スローモーションで倒れた。

 ドスン、と、物凄い音だ。

 ブランクカードを投げて、魔物を回収する。

 「もう、二、三匹いてくれると、助かるのだが」


 心配の必要はなかった。

 すでに、10匹以上、カード化されていた。

 ここには、いくらでもいるようだ。

 もしかすると、誰も知らないダンジョンかも。でも、取り過ぎはダメだな。

 レイは、階段を見つけると、そのまま下に向かうことにした。

 下の階に居たのは、豚の魔物だった。丸々と太った豚の魔物、ジャイアント・ボアだった。真っ赤な身体には、恐怖さえ憶えた。

 歩くだけで、大地が揺れた。

 デカ過ぎだろ。全長で、10メートルくらいあるかも。豚だけに、何トンあるのだろうか。

 突進して来るジャイアント・ボアを避けると、刀を斬り下ろす。

 斬れない。少し傷が付いただけだった。硬いのではなく、油で跳ね返っているようだ。うまそうだろ。

 「困った。どうするかな」

 最近、アリスを含めて、みんなが強くなっている。しかも、異常にだ。

 「宿屋やお店の件で、運動不足なんだよな。こんな時だから、色々試してみるかな」

 再び、突進して来るジャイアント・ボア。

 跳ね上がって、右に避ける。

 腕を前に突き出して、手に光を貯める。

 その腕を、左右に広げると、光の刃が発動する。

 光刃は、ジャイアント・ボアに向かって行き、左足根元から切断した。

 「狙いが難しいな。それに、身体がデカいから、横だと傷しか付けられないかな。それなら」

 もう一度光を貯めると、ジャイアント・ボアに向かって走る。走りながら、すれ違い、狙いを決める。

 「光刃斬」

 腕を縦に広げると、光刃が巨大豚の首筋に向かって、飛んで行く。


 キュイーン。


 光刃は擦り抜けるように、首筋を通り過ぎる。

 動きが固まるジャイアント・ボア。ずれるように、首が落ちた。

 地響きを立てて、ジャイアント・ボアは倒れた。

 「うん、これは使えるね。威力を上げるために、もう少しアイディアが必要かな」

 そう言いながら、レイは、下の階への入り口を探しながら、ジャイアント・ボアを倒しまくった。


 「色々と狩り過ぎたかな」

 レイは、自分でも気が付かないうちに、30階に達しようとしていた。

 「この階が終わったら、一度帰ろうかな」

 階段を下りると、扉があった。30と書いてある。何と親切なことか。

 扉を開けると、何も無い空間だった。ただ広いだけの空間だ。

 中央に、黒いシミがあった。

 ブクブクと、泡を吹いていた。

 「何が出るのかな」

 レイは、中央から何が出て来るのか、眺めていた。そろそろ、強敵が出て来て欲しい所だが。

 黒いシミから現れたのは、闇より黒いドラゴンだった。高さは、5メートルくらいあるだろうか。翼を広げると、10メートルを越えそうだ。

 「おー、良いねえ。戦い甲斐があるねえ」

 レイも知らず知らずのうちに、戦鬪狂になっていたようだ。もうアリスに戦闘狂とは言えないレベルだ。

 「まずは、こちらから攻撃させて頂きますよ」

 レイは、ドラゴンの首に向けて、光刃斬を放つ。

 ドラゴンは、それを爪で受け止めた。ニヤリと笑った気がした。

 口を大きく開けて、ブレスを放つ。黒い炎の塊が撃ち出された。

 レイは、それを光波シールドで受けると、ドラゴンに向かって駆け出した。

 あの攻撃をされると、遠くにいると標的になる。尾さえ気を付ければ、近くの方が良さそうだ。攻撃を喰らわなければと言う条件付きだが。

 近くからもう一度、光刃斬を放つ。


 ガツン。


 また爪で遮られてしまった。どんだけ硬いんだ。少しは傷が付いているようだ。効いていないわけではない。

 巨大な爪が迫って来た。あんなのに当たったら、溜まったものでは無い。しゃがんで、爪を躱す。風圧で、飛ばされそうだ。

 レイは、手に光を集めて、横に腕を広げる。

 「光刃斬」

 打ち終わったら、直ぐにもう一度光を集めて、腕を上下に広げた。

 「もう一発、光刃斬」

 後から放った光の刃が先に放った光の刃にクロスして、十文字のまま、ドラゴンに迫る。

 ドラゴンは、手で払おうとする。

 が、今度は腕が斬れる。そのままの勢いで、首に迫り、斬る。

 驚いているような表情のまま、首が落ちた。コロリと。

 時間差で、巨大な身体も倒れた。


 「ふー、疲れたー。やっぱり連発は、キツイなあ」

 ブランクカードに、ドラゴンを収納する。

 中央の黒いシミから、光が溢れ出した。

 何かが、出て来る。

 「宝箱だよね。こんな出方は、初めてだな。何か、良いものが入っているかな」

 レイは、ゆっくりと宝箱に近づいて行った。

 光が消えた。同時に、黒いシミも消えていた。あるのは、宝箱だけだ。

 罠が無いか、見回すが、そんな気配はなかった。

 蓋に手をかけて、ゆっくりと開ける。

 「ほお、刀かあ。それと、これは何かな?手提金庫?今は、マジックバックに仕舞って、後で検証だな。もうひとつは、指輪かな。これも、後で検証だな」

 中身を取り出して、空になった宝箱は、煙となって、消えた。

 奥に扉が見えた。下へと向かうための入り口だろうか。帰るつもりだったレイだが、何となく下に降りてみることにした。何だか、その方がいいような気がしていた。誰かが、呼んでいるような気がするのだ。


 扉を開けて、下に降りて行く。

 今までで、一番長いような気がした。

 降りた所にも、扉があった。

 重い扉を押し開ける。

 中は、8畳程の部屋だった。

 中央に、巨大な水晶が浮いている。他には、何も無い部屋だ。

 「この部屋、何処かで見たな。そうだ、ダンジョンマスターの部屋だ。すると、ここは最後の階なのかな」

 「その通りです。ここが、最下層です。よくぞ、いらっしゃいました。私は、ここのダンジョンマスターです」

 声は、中央の水晶から聞こえて来た。

 「と言うことは、貴方を壊せば、このダンジョンは無くなるのですか?」

 「その通りです。私を、このダンジョンを、壊すも残すも、貴方様次第ですが」

 「ダンジョンが無くなるってことは、貴方が死ぬって事ですよね。合ってますか?」

 「合ってます」

 困った。壊すのは勿体無いし、どうするかなあ。美味しそうな魔物が沢山いるから、残したいんだよね。

 「困りましたね。ここを無くすのは、惜しいですね。お互いがウィンウィンになるようなよい方法、ありませんか?」

 「あら、貴方様は、ここを攻略しに来たのではないのですか?」

 「まあ、時間潰しで」

 「時間潰しで、攻略されたわけですか。面白い方ですね」

 「すみません」

 「いえいえ、私も何百年もここに居ますから、少し飽きた所でしたので、もういいかなあと思ってましたものですから。いっその事、壊されても良いかななんて思っておりました」

 レイは、頭を掻いて、思案する。

 「困りましたねえ」

 「それではひとつ、提案させて頂いても、よろしいでしょうか?」

 「ええ、構いませんよ」


 暫しの沈黙。

 意を決したように、水晶は話し始めた。

 「私を連れて行って貰えませんか?先ほど、宝箱から出たもので、ハコニハがあったと思いますが、そこに私を移してもらえませんか?」

 「ハコニハですか?手提金庫みたいなあれですか?」

 「そうです。あのハコニハは、生きたものを入れて、育てることが可能なのです」

 「チート過ぎやしませんか?でも、ここは、どうなるのですか?」

 「私の分身を残していきます。ここに何かあっても、私には影響ありませんし、問題ないかと。如何でしょうか?」

 レイは悩んだ。すでに、ダンジョンマスターの知り合いがいるし、これ以上はと言う気もする。でも、色々とやってみたいこともあるし、仲間は多い方がいい。

 「わかりました」

 「ありがとうございます。それでは、これから準備しますので、少しお待ちください」

 それだけ言うと、水晶は輝き始めた。

 赤になったり、青になったり、色んな絵の具を混ぜているような感じだ。

 水晶の上から、玉が分裂して、小さな水晶が生まれた。まだ光が弱い。

 「あとは、この子が大きくなるのを見守るだけです」

 「えっ、大丈夫なの。誰か、攻略する者が現れたりしない?」

 「御主人様が強過ぎたのです。このダンジョンが生まれてこの方、攻略出来る者など現れておりませんし、黒竜王もすぐに復活するでしょうから」

 さっきの強いドラゴンのことだな。あいつがいれば、大丈夫だろう。

 「そうなのー」

 知らないうちに、御主人呼びに変わっていた。

 「御主人様、ハコニハニワを開けていただけませんか?」

 「ああ、そうだね」

 マジックバックから、ハコニハを取り出して、蓋を開ける。中には、小さな森があった。小さいけれどお城みたいな建物まであった。中央には川も流れていた。この水は、何処から来て、何処に行くのだろうか?

 「そこに入れていただけますか?」

 「どうすれば、いいの?」

 「入れたいものに触れて、入れと、念じて貰えれば、大丈夫かと」


 ダンジョンマスターは、呆気なく、ハコニハに入ってしまった。

 「君は、ママが居なくなっても大丈夫かい」

 「大丈夫ですよ。ママの記憶もあるから、とりあえず困らないかな」

 「何かあれば、呼ぶんだよ。おじさんが、何処にいても、飛んで来てやるから」

 「うん、わかったよ、パパ」 

 「いや、パパではないから。名前が無いと呼び辛いかな。君はシリーにしよう。彼女はサリーね」

 ハコニハの中で、サリーが笑っているような気がした。

 「パパ、名前を付けてくれて、ありがとう」

 まだ小さな水晶がキラキラしていた。

 「まあ、また来るよ。ここには、美味しそうな魔物が一杯いるから」

 頭を擦るように、水晶のシリーを撫でる。

 とても嬉しそうだ。

 「うん。外まで送ろうか、パパ」

 「ああ、お願いしようかな。でも、パパではないからね」

 

 外は、夜だった。

 時間の感覚が全くなかった。

 「ダンジョンで、遊び過ぎたかな」

 レイはタートル君を取り出すと、中で寝ることにした。

 「少し休むから、ゆっくりとしてて、いいよ」

 タートル君が笑っている気がした。

 




 


 偶には、息抜きも必要だ。

 タートル君は、敵を蹴散らし、何処までも行く。

 さあ、行け、タートル君。君の未来のために。

 天下御免のピンチも何のその、次回、タートル君のお散歩、みんなで応援しよう!!

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