20.王都の屋敷
「こちらが、今回購入可能なお屋敷になります」
商人ギルドの担当者が、そう説明する。
「お庭付きの御屋敷に、商売可能なお店が隣にありますのは、今はこちらの物件だけで御座います。御屋敷だけとか、商売可能なお店だけでしたら、他にもあるのですが、お客様の御希望に添えれるのは、今はこちらの物件です。いかがでしょうか?」
「良いんじゃないかな。お店も結構な広さがあるし、裏には倉庫もあるんでしょ。屋敷の方も、庭が結構広そうだし、特に問題ないんじゃないかな。うん、ここにしよう」
「ありがとうございます」
「お金の方は、どうすれば良いのですか?」
「それでしたら、アンバー様より戴いております」
レイは、驚いて、振り返った。
「おそらく気に入られると思いまして、支払いの方は済ましております」
「よくそんな大金持ってたねえ」
「それでしたら、アリス様とのレベル上げの際の魔石を売ったお金が、かなりありましたので、特に問題はございませんでした」
そんなに、よく貯めたねえ。
「あったね、そんなこと」
レイは笑うしかなかった。知らないうちに、色んなことが進歩しているようだ。まあ、アンバー達に任せておけば大丈夫だってことのようだ。
「いつから住めるのかな」
「本日からでも大丈夫でございます」
頭を下げる商人ギルドの担当者。
「了解。お店の方は、アンバーに任せるよ。屋敷はこっちで色々と改造させてもらうよ。そうだ、イート達にも手伝ってもらおうか」
「そうでございますね。宿屋の方も、かなり落ち着いて来てるようですので。イート様に、ご相談させていただきましょう」
「それでは、よろしくお願いします」
それだけ言うと、俺のサインだけもらって、担当者は帰って行った。
「レイ様が、お屋敷を改造するところを見せていただいても、よろしいでしょうか?」
アンバーがそう言った。
「ああ、構わないよ」
そう言えば、見せたこと無かったね。
門を開けて、ふたりで入って行く。
「塀が所々傷んでいるようだから、修理するついでにお店も一緒に、塀で囲っちゃうかな。屋敷とお店の間には塀で分けといて、行き来出来るように専用の扉を付けようか」
レイはメガミフォンを取り出して、建築アプリを開く。
木塀・・・100P(1m辺り)
強度(大)・・・1000P
周囲は400メートルくらいだろうか。ポチッと押す。
あら不思議。周囲の塀が新品のようになりましたとさ。
「屋敷は、外見を少し綺麗にしようかな。併せて、強度を上げたいな」
建物清掃(大)・・・1000P
建物強度アップ・・・1000P
「こんなものかな。内装は、中を見てからだな」
驚いて見ているアンバー。
「本来なら、何日もかかるようなことを。いやはや、驚きです」
俺って、やり過ぎかな。
屋敷の中は、思ったより傷んでいなかった。ギルドの方で、定期的に清掃していたらしいから、そのおかげだと思われる。
部屋は、使い勝手で考えようか。
1階には、リビングとキッチン、あとお風呂だ。トイレも魔道水洗にして、快適になるようにしたいね。
メイドや使用人の部屋もいるのか。部屋数だけは沢山あるから、大丈夫だろう。
2階に、執務室や僕達の部屋がいる。アンバー達には、こっちをメインに生活してもらった方が便利かな。ダンジョンの方は、ゴーレムの睦月達に任せておけば、大丈夫だよね。あと、転送ドアもいるね。間違えて、開けないように、それ用の部屋をひと部屋作った方がいいだろう。そこに、転送ドアを取付けよう。
そうすると、シラサギ城はどうするかな。でも、作物を作ってもらわないといけないから、そのままでいいかな。あっちは、あっちで、大変だろうからね。睦月とイート君達に任せておけば、大丈夫だろう。
さあ、一度にやってしまおうか。
「流石、レイ様ですな。御屋敷が見違える様になりましたな」
感動に、アンバーの目が見開かれている。
「俺が直接したわけではないからね。言うなれば、スキルみたいなものだから、大したことではないよ」
「それでもでございます。他の方では、不可能でございます」
好感度、上がり過ぎじゃない。
「後は、アンバーに任せるよ。メイドゴーレムと使用人ゴーレムは、近々用意するよ。5人ずつくらい居れば、大丈夫かな。足りないようなら、追々用意するよ」
「それが良いでしょうな。まだ、様子がわかりませんから」
「庭の片隅に小屋を建てるからね。蜂達の巣箱にするつもり。蜂達に王都の情報を仕入れてもらう予定だからね。これが、本来の目的だから」
レイは懐から、エメラを出すと、外に放してやった。
「この小屋を巣にしてもらって大丈夫だから、あとはよろしくね。定期的に情報を流してくれると、ありがたいね」
「お任せください」
エメラは、そのまま小屋に飛んで行った。
「その周りに、花畑を作っておくからね。蜂蜜もお願いね」
「わかりましたー」
花畑(大)・・・5000P
果樹園(小)・・・5000P
日陰がないから、樹木の代わりに、果樹園を作っておこう。暑過ぎても、エメラ達が可哀想だからね。
果物も育って、エメラ達の日陰にもなって、一石二鳥だね。
土地だけはやたら広いから、工房のひとつでも作っておくかな。
地下室を用意しておこうか。何もかもマジックバックに入れてると整理出来ないからね。珠には出して、整理整頓と。
工房(大)・・・5000P
地下室・・・2000P
「レイ様、馬車を1台、用意しておいて貰えますでしょうか?歩いてばかりですと、相手により下に見られますので、必ず必要かと」
「それなら、ちょうど良いのがあるよ」
レイは、マジックバックから馬車を取り出した。
「以前作った奴なんだけど、今は使ってないから、これを使ってよ」
「わかりました。使わせていただきます」
ついでに、御者ゴーレムと出しといた。マジックバックの中だけだと、退屈だろうしね。ここなら、色々とすることもあるだろう。
「衛兵ゴーレムだけ造って、一度城に帰ろうか。向こうで、皆んなにも話しとかないといけないし」
「宿屋の方は、問題ありませんよ。もちろん、食堂の方もね。調理ゴーレムの3人が居るから、厨房は大丈夫ですよ。ミールとディッシュに給仕をしてもらって、問題なく出来てますし、他のメンバーには宿屋の方を担当してもらっています。皆んな、頑張ってますから、凄い順調ですよ」
「ミレーヌさんは、どうしてますか?」
「そろそろ養護施設の方に、帰ってもらっても、問題ないかと。手伝って貰いたいですけど、本職の方もあるでしょうから」
「本人に聞いてみましょうか」
パールにミレーヌさんを呼んで来てもらう。
「今度、王都で商売を始めようかと思いましてね」
「良いですね。最近は野菜が出来すぎてるから、何とかならないかと、睦月さんから相談を受けているんですよ。倉庫も一杯のようでですし」
どうやら、早めに商売を始めないとまずいようだ。
「私のこと、呼びました?」
ニコニコして、ミレーユがやって来た。
「ええ、そろそろ養護施設の方に帰らなくて良いのかなって」
「そうなんですよね。流石に、そろそろ帰らないとまずいかなと、思ってはいるのですが。楽しすぎちゃって。食べ物が美味しいし、帰りたくないんですよね」
「流石にそれは不味くないですか?」
「美味し過ぎて、ヤバくて。このままだと、不味いですよね」
少し顔が引き攣って見えるのは、気のせいだろうか。
「そこで相談なのですが、王都にお店を出そうかと思ってるんですよ。それで、ミレーユさん、手伝ってもらえないかなと思ってるんですが、どうでしょうか?」
「王都ですか?」
「ええ、王都なら、時間の空いた時に、ちょっと手伝ってもらえたりするんじゃあないかと」
ミレーユは思案しているようだ。ダンジョンの中より良いと思うのだが。
「少し考えさせて貰ってもよろしいですか?私ひとりの判断では、何とも言えないので」
「構いませんよ。まだ準備もあるので、ゆっくりと考えていただいても」
一度養護施設の方に帰ってもらって、それからだね。
「イート君は、どう思う?野菜とか売って、王都の商人さんが困ったりしないかな」
「ガッチャードさんに相談してみたら、どうですか?あの人なら、王都のことや商売のこと、詳しいんじゃないですか?」
そう言えば、あれは売れたんだろうか。聞きに行ってみようかな。
「ミレーユさんを送りがてら、王都に寄って来るよ」
「わかりました」
イートに留守を頼んで、王都の屋敷に戻ることにした。
ドアを開けると、景色が変わった。王都にある屋敷の俺の部屋だ。
「えっ、もう着いたんですか?」
ミレーユは口を開けたままだ。涎が出ても、知らないよ。
「何かあれば、ここを尋ねてよ。執事のアンバーが居るはずだから」
それを聞いて、見て、また驚いていた。
「こんな大きな屋敷、どうしたんですか?」
「いろいろあって、買いました。隣に、お店もあります」
ミレーユは、こめかみを押さえている。
「レイさんって、本当は凄いお金持ちですか?それとも、何処かの貴族様でしょうか?」
「ただの人間ですが」
嘘と言わんばかりに、ミレーユは固まっていた。
「そんなことより、そのお店を手伝って欲しいのですが」
「そ、そうでしたね。これから戻って、上司と相談して来ます」
「養護施設まで送ります」
レイは、アンバーにひと言伝えると、そのまま養護施設に向かった。
「何をメインで売ろうかと、思案しているところです」
ミレーユが質問を投げかけて来た。
「野菜や果物だけを売るのですか?」
直球である。
「そのつもりです。あくまでもそれをメインでいこうかと考えています。他にも考えてはいるのですが、良いものがなくて困ってます」
だから、ガッチャードさんの所に相談に行くのだが。
石畳の道を歩きながら、色々と考えてみる。やはり、わからない。商売の才能は無いのかもしれない。
「そのダンジョン産の野菜を使って、レストランとかすれば、良いのでしょうけど。今は人手が足りませんものね」
ミレーユが痛いところを突いてくる。剛速球である。それが一番手っ取り早いのだけどね。
「あっ、ここで良いですよ。角を曲がったら、養護施設ですから」
「了解。何かあれば、アンバーに伝えといてくださいね。色々とお世話になりました。それでは、また」
手を振りながら、ミレーユが角を曲がって行くのを見届ける。
姿が見えなくなったのを確認して、ガッチャードさんのお店に向かった。ここからだと、三十分くらい歩かないといけない。
ひとりになったので、少し早足で歩く。
落ち着いて、周りを気にすると、レストランや、冒険者向けの防具屋や武器屋、パン屋まであった。あまりゆっくりと周りを見ることもなかったので、いろんな事に気づく。
一般人向けの洋服屋もあるようだ。流石に、コンビニみたいな店はないようだ。
おー、怪しい本屋があった。魔法書が置いてあるようだ。
本好きな俺としては、見てみたいけれど、魔法が使えないからな。
気がつくと、ガッチャードさんのお店の前に着いていた。
扉を開けて、店に入る。
「いらっしゃいませ」
店員の元気な声が響く。
「ガッチャードさん、いらっしゃいますか?」
「少々お待ちください、聞いてまいりますので」
そう言うと、店員さんは、階段を駆け上がって行った。元気過ぎないか。
「お会いするそうですので、ついて来てください」
五階まで上がると、奥の部屋に通された。
「お久しぶりです、レイさん。そろそろ、お呼びしようかと思っていた所です」
ガッチャードさんは、いい笑顔だった。
「売れたんですか?」
「ええ、凄い値段で売れましたよ。今、現金をお持ちします」
「それって、ギルドカードに振り込めますか?」
「それだと、明日になりますが、よろしいですか?」
「問題ありません」
「それでしたら、明日一番に振り込まさせていただきます」
「そうしてください。金額はその時に見て、びっくりすることにします。それよりも、お願いがあって来ました」
対面で、ソファに座る。
「何でございましょう?」
ガッチャードさんが、身を乗り出して来る。まだまだ落ち着いて欲しい。
「実はですね、王都でお店を開こうかと思っているのですが、何か良い売り物はないでしょうか?」
「ほお、今は、どんな物を売る予定でしょうか?」
「野菜や果物が出来すぎちゃいまして、とりあえず、それを売ろうかと考えています。他にも何か売れる物はないかと思い、アドバイスをいただきに参りました」
がチャードさんの圧が一層上がった。満面の笑顔だ。
「何か不味いでしょうか?」
「いえいえ、商売の許可証さえ貰えば良いので、問題ないと思いますよ。出来れば、我が商会と被らないものであれば、嬉しいですね」
流石に商人である。街の噂でも、この店はかなり質が良くて、値段もお手頃らしい。喧嘩をする気はないので、仲良く出来ればと思う。
「許可証は、何処で取れば良いのでしょうか?」
「それでしたら、ひとつ提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「提案ですか?」
「はい、あくまでも提案です。うちの者をひとり出向させていただけませんか。店が軌道に乗るまでで構いません」
「良いんですか?うちに利があり過ぎませんか?」
商売に詳しい人材のいないうちには、良い事づくめではないか。気のせいだろうか。
「いえいえ、我が商会から、堂々とスパイを送り込むのと同じですよ。それでも、良いのですか?」
「それなら問題ないかと。お願いしても構いませんか?」
「こちらこそ、よろしくお願いします。誰を派遣するかは、これから相談して決めさせていただきます」
これだと、早々に店を立ち上げれそうだ。ワクワクするな。
「詳しいことは、後ほど執事を来させますので、相談してください。俺は本格的に、お店立ち上げの準備をしようと思います」
レイは立ち上がって、深く頭を下げた。良い出会いに感謝だ。
御礼に、マジックバックに残っていたチョコレートケーキをホールごと、置いてきた。
目玉が飛び出しそうなくらい、驚いていた。
後で聞いたら、チョコレートは高級品なのだとか。
また、俺はやってしまったようだ。
レイは忙し過ぎて、マリアの面倒が見れなくなったぞー
さあ、一大事だ
初めてのひとりダンジョンだ、危機迫るマリアにチャンネルを合わせてくれー
次回、マリアの大冒険、よろしく!!