1-9:【ティナ】
「おい、そこの男」
俺は亜人の女を助ける為、姿を表す。別に声もかけずに一息で男を殺しても良かったんだが、女に恐れられ過ぎても後で面倒だ。
「あん?何だおっさん。……あぁ、お前も混ざりたいのか?俺の後なら好きにして良いぜぇ」
男は俺の事を自分と同類と思ったようで、ロクに俺を気にもかけず続きを楽しもうとしている。
「た、助けて!お願い!」
女が一縷の望みを託すかのように、助けを求めてくる。
「はっ!亜人を助ける奴なんている訳ねぇだろうが!おら、おっさん。ボーッと突っ立ってないでお前も手伝えや」
男にとって亜人族はその程度の存在なのだろう。都合が良い。女が境遇に絶望すればする程、こちらの株が上がる。
「悪いが……俺は亜人族が好きなんでね。許せないんだよ、お前みたいな人間が」
「あぁ!?コイツは笑えるぜ!獣混じりが好きとはなぁ!ゲテモノ趣味かよ!」
もう充分かな。これ以上付き合う必要は無いだろう。俺は無言で男に近づき呪文を唱える。
「何だおい――」
男は苦しむ暇も無かったろう。何をされたかも分からないまま、その命を散らした。
「大丈夫か?」
まだ呆然としている女に手を差し出し声をかける。幸い大した外傷は無いようだ。
「あ……ありがとう……ございます」
「気にするな。間に合って良かった」
突然の出来事に頭の整理が出来ないんだろう。今の内に畳み掛けるか。
「家は?家族は居るのか?」
「あ……家族はいません……亜人狩りで……。家は……その……」
ふむ。何か事情がありそうだな。恩も売りやすいしちょうどいい。隠れ家に連れて帰るか。魔王は……まだ居るかな。
「そうか。言いたくないならそれでも良い。取り敢えず俺の――」
まてまて、さっき乱暴されかけた女が、助けてもらったとは言え知らない男の家に着いてくるか?
「あの……?どうかしましたか?」
急に口をつぐんだ俺を、不思議そうな目で見ている。ええい、ままよ。
「あーその、何だ。行く宛が無いなら取り敢えず家にでも……と思ったんだが、この状況で家に誘うのもどうかと思ってな……」
とっさに良い案が思い浮かばず、そのまま口にしてしまう。
女は少しポカン、とした後、目に涙を浮かべながらクスクスと笑いだした。
「なんだよ……」
「いえ……。貴方はきっと、良い人なんですね」
そんな訳があるか。復讐しか考えず、今もお前を利用しようと企んでいる。そんな男だ。
「あの、私、ティナと言います。どうか貴方の家まで、連れて行ってください」
こうして新たに掴み直した復讐への道……。しかし、そう簡単には進ませて貰えないのであった。
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