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3-21【カストール】

「やれやれ、アレだけヒントを与えたというのに、思ったよりかかりましたね、時間。随分待ちましたよ」


 暗がりから現れたカストールが、やれやれといった表情でそう話しかけてくる。


「全部……お前の仕業なのか?」


「全部? その全部とは何処までを指すのでしょう? 貴方達に兵を仕向けた事? 賢人を殺した事? それとも――貴方を裏切った事ですの?」


 悪びれもなくそう言ってのけるカストール。だが、その姿は歪み、見覚えのある……いや、忘れもしない姿へと変わっていく。


「マリアベル……っ」


 口の中に、苦虫を潰したような嫌な味が広がっていく気がした。かつて共に生き、俺を弄んだかつての恋人……攻撃魔法のエキスパート、術の勇者マリアベル。


「お久しぶりですね、アレウス。平凡だった貴方が立派になりましたわね」


「そういうお前は何も変わらないな……」


 予想はしていたが、マリアベルもまた、当時から歳を取っていないような見た目だった。


「ええ、女たるものいつまでも若さは保ちたいものでしょう? 醜く歳を重ねるなんてお断りですわ」


 妖艶な笑みを浮かべ、簡単に言ってのけるマリアベル。その姿は旅をしていた時より、なお磨かれているようだ。


「……いつからだ。いつからカストールと入れ替わっていたんだ」


「いつからと言われましても……覚えてませんわ。あぁでも……私だと気付かずに話す貴方は中々に滑稽でしたわ」


 つまり最初から、という事だろう。初めてあった時からカストールと言う男は既に始末されていたわけだ。

 ギュッと握った拳に力が入り、血が滴り落ちる。また騙され弄ばれている……その悔しさからか、視界が狭くなり、平常ではいられなくなっていく。


「ふむ……お主が妙にカストールを信じておったのもその辺りが影響しておったのかのぅ。しかしお主よ……」


 そんな俺を横目に魔王もまた、軽い調子で話しかけてくる。


「女を見る目が無いのぅ。あんな年増の何が良いんじゃ? 醜く纏った厚化粧でほれ、目が腐り落ちそうじゃ」


「あ゛あ゛!?」


「ほれ、本性が漏れ出たぞ。あんな年増なんぞ相手にせんでも、お主にはわしらがいるじゃろうに。可愛い可愛いわしらがの」


「そ、そうですよ! アレウスさんには私達がいますよ!」


 そう言ってくれる魔王とティナを見て、怒りに我を忘れそうになった自分が、冷静になっていく。


「……すまん、助かった」


「ふふん。お主もまだまだじゃのぅ。ほれ、ティナを見てみよ。自分で勢い良く言っておいて、耳まで真っ赤じゃ。初々しいのぅ」


「あぅぅ……」


 あえてふざけることで、余計な緊張や怒りを抑えてくれたようだ。まったく……。


「ふ、ふんっ! 貴方も趣味が変わりましたねアレウス。そんな幼女や貧相なお子様が良いだなんて」


「なんぞ年増が負け惜しみを言っておるぞ。若さとは可能性じゃ。それを諦め過去に固執したお主なんぞ、相手にされるわけ無かろう」


 的確な発言で魔王がマリアベルを攻撃していく。なんと言うか、女とは怖いものだな……ちなみに年増年増と言ってるが、魔王も見た目に反して歳は……おっとこれ以上は考えまい。


 そんな事を考えている内にも、魔王とマリアベルの舌戦?は激しさを増していた。



「ちんちくりんに言われたくないわよ! この壁乳!」


「はっ! 無駄な脂肪になんの価値があると言うのじゃ! わしはまだまだ余地が残っておる! お主はどうじゃ? 後は垂れて萎むだけじゃろうが!」


「んなっ!? アンタがこれ以上成長する訳無いでしょうが! 一生絶壁を背負って生きていくのよ!」


「シワシワになるよりはマシじゃのう。中身だけでは無く外見も醜くなれば、お主も自分の分というものが理解出来るじゃろうよ!」



「アレウスさん……」


「言うな、巻き込まれるぞ……」


 聞くに耐えない罵詈雑言が飛び交い、聞いてるだけで頭痛がしてくる。なんだろう、肩書としては勇者と魔王の対決なんだが、けして後世に残せるものじゃないな……。



「あぁもう、憎たらしい! また封印してあげるわ! 一生そのまま囚われてなさいな!」


「たわけ! 真っ向から封印なんぞされるものか!」


 我慢の限界が来たのか、マリアベルが実力行使に出た。しかし出会った時は封印を望んでいた魔王が拒否するなんて、なんだか感慨深いものがあるな……。


「なんせまだまだ、美味いものを食い足りんのでな!」



 ……前言撤回。感動を返せ。



 ふざけた罵り合いでいささか空気がおかしくなったが、マリアベルがやり手なのは違いない。術の、特に攻撃魔法を使わせたら随一だ。


「すんなり封印してもツマラナイわね。その前にイジメてあげようかしら」


 マリアベルのかざした手のひらから、黒い液体が零れ落ちる。ソレは床に落ちるとモゾモゾと蠢きだし、魔王と同じ位まで立ち上がった。まるで子供が作った泥人形のような、不均等で醜悪な姿でユラユラと動いている。


「なんぞ、作り手と同じく醜いのぅ」


「貴方の相手には丁度いいでしょう? 子供はお人形遊びでもしてなさいな」


「ギギ……ギョ……ギャギャッ!」


 その言葉が終わるや否や、泥人形は雄叫びを上げながら魔王に向かって飛びかかる。


「ふん。生憎人形遊びなんぞ、既に卒業しておるわ」


 掴みかかろうとする泥人形が魔王に触れる直前、魔力を纏った手刀が泥人形を真っ二つに切り裂く――



「ばぁーか」



 ――その刹那、泥人形は激しい爆発を起こし魔王を豪炎の中に飲み込んでいった。


ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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