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3-10【疑惑】

 アストラにある宿、海鳴亭。


 大きな貝殻が、目印のこの宿は、普段から大陸の客が多く利用している宿らしい。

 今は祭りの時期だったが、大陸からの客が来る時期ではない為、問題なく部屋は取れた。


 部屋割りは俺と魔王とティナで一部屋、ウォルナックとフィーナで一部屋だ。


 部屋で一息ついた後、今日の出来事についてティナに聞いてみる事にした。


「それで、ティナの考えを聞かせてもらえないか?」


「考え……ですか?」


「ああ。どうしてあの場で俺達を止めたんだ。俺達の目的は分かっているだろう?」


 ティナが裏切っているなんて、そんな考えは微塵もない。おそらくこれが、アリシアやマリアベルの仕業である事は容易に予想できる。



 問題は、いつ、何をされたかだ。


「だって、暴れるのは良くない事じゃないですか」


「それも時と場合によるだろう? アリシアを見逃す事で被害が増えるなら、ここで問題を起こしてでも止めるべきじゃないか?」


「いえ、暴れるのは駄目ですよ。問題が起こるならそうですね……話し合いで解決すべきです」


 真面目な顔で、そう言ってくるティナ。そこには、自分の意見は何も間違っていない。そんなふうに思っている気配すらあった。


「暴れるのは駄目……か」


 ティナだけではなく、ウォルナックやフィーナもその言葉を口にしていた。頑なに暴れる事は駄目だと連呼する。


「どう思う?」


「ワシやお主には影響は無いようじゃ。恐らくこの国……いや、亜人族のみに影響する何かじゃな。それが勇者共の仕業なのか、この国にもともとある何かが原因か……それはわからんがの」


 頑なに中立を保つのはそういう事か? しかしあの住人達の目、あれはそんな優しい目でも無かったが。


「ちなみに、今まで勇者達がしてきた事について、ティナはどう思う?」


「えと……許される事では無いと思います。出来るならちゃんと罪を償って欲しいですね」


「俺はその為には痛い目にあってもらう必要があると思っているが――」


「暴力的なのは駄目です」


 俺の言葉を遮るように、ティナが告げる。


「これは厄介な事になったのぅ」


 会話で事が解決するなら、どれだけ楽な事だろうか。少なくとも俺とあいつらの間には、もうどうする事も出来ない溝がある。

 この国での行動は、俺と魔王だけで済ますか……いや、それは悪手かも知れない。まずは原因を探る事が先か。


「取り敢えずアリシア達の居場所がわからないか、街で聞いてみるか。この街で人間族なら、目立つだろう」


「ついでに亜人族達についても、じゃな」


「ついでに屋台飯、の間違いじゃないのか? ヨダレ出てるぞ」


 ゴシゴシと口元を拭く魔王をからかいながら、俺達は街に繰り出すことにした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 アストラ大通り。祭りを楽しむ人で賑わう通りで、色々聞き込みを終えた俺達は、中央にある噴水広場で一休みしていた。


 話を聞くために屋台に顔を出したが、その都度魔王が大量の注文をぺろりと平らげるため、変な方向に有名になっていた気がする。



「というか、黙って出て行くとかアンタやっぱり性格悪いわね!」


 置いて行かれたことに気付き、後から合流したフィーナが、蒸し返すように文句を言ってくる。


「悪かったよ。ちゃんと詫びもしただろう?」


「まだまだ誠意が足りないわよ!」


 散々奢らせておいて、これ以上どうしろと言うのか。


「ほんとにすみませんフィーナさん……」


 声をかけそびれた事を、ティナが謝っている。このあたりの感じはいつものティナだな。


「ティナのせいじゃないわよ。悪いのはこの男よ」


「ほんとしつこいなお前……」


 フィーナの文句を聞き流しながら、街で聞けた情報を整理する。とはいえ、残念ながらたいした話は聞くことが出来なかった。


 そもそもアリシア達の事を、街の住人が知らないのだ。というより、騒ぎを起こしかけた俺達の事すら覚えていなかった。


 亜人族の問題についても、ここ最近物騒な話は聞かないと言った程度だ。とはいえ、ここ最近という事は以前は喧嘩や揉め事があったという事で、やはりアリシア達が何かをしているのだろう。



 そんなふうに考えながら、街ゆく人を見ていると、見知った姿を見た気がした。


「ん、今のは……」


「ちょっ、どこ行くのよ!」


 フィーナの文句もよそに、立ち上がり小走りで近付こうとするが、住人に紛れ中々近付けない。



 そいつは俺が追ってきているのに気付いているのか、人混みをすいすいと抜けながら、細い路地へと入っていく。


「っと、すまん!」


 急いだあまり通行人にぶつかり、そいつの酒が音を立て地面へと落ちる。「気にするな」と笑い許してくれたが、その間に見失ってしまった。


「はぁっはぁっ……ちょっと、急にどうしたのよ!」


 フィーナ達が遅れて追いつき、急に走りだした俺に訳を聞いてきた。


「ああ、すまん。いやな、さっきシロウを見かけた気がしてな」


 船の上から忽然と姿を消したシロウ。ちらりと見えた後ろ姿が、アイツそっくりだった。


「シロウが? アイツここに辿り着いてたの?」


 確かに泳いで行くには距離があった。だが、海に落ちたとか、船に隠れていたとは到底考えられない。何らかの方法で、アストラに着いたと考えるべきだろう。


「シロウ? 今シロウって言ったか? それは白狐族のシロウか?」


 さっきぶつかった男が、驚いたように訪ねてくる。


「ああ、そうだが……知ってるのか?」


「おうよ、ちょっとあいつとは訳有りでな。良かったら話、聞かせてくれねぇか?」


 そう言って男は酒の入った器を突き出す。


「俺は、白狐族のツグモリ。シロウの――兄だ」



 真剣な表情でこちらを見てくる男、ツグモリ。シロウの兄だというその男に誘われ、俺達は近くの店に入る事にした――。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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