3-2【白狐族のシロウ】
「……亜人族、だったのか」
眼前に居る男……頭に特徴的な耳を生やしたその男はニヤリと笑って応えてくる。
「白狐族のシロウだ。アンタは?」
「ああ、俺はアレウス。こっちの娘がティナ。ついでに背中で寝てるのがリリィだ」
魔王に関しては本名は伏せておく。下手に勘ぐられても面倒だしな。
「猫豹族のティナです。あの……他にもいらっしゃるんですか?」
やはりティナは気になる様だ。信じられないと言った目でシロウを見ている。
「ああ、俺の他にも居るぜ。協力してくれるなら合わせてやるよ」
「お前だけでも珍しいのに他にも居るのか」
ただでさえ見る事の少ない亜人族が他にもいる……ちょっときな臭いな。
シュヴァーメントみたいに、国を挙げて探さなければそうそう見ることは無い種族だ。概ね隠れて暮らしているか、表に出せないような扱いだからな……。
「さぁ、どうする? 俺達に協力するならアストラには向かえるぞ。言っとくが、それ以外で行けると思うなよ?」
「あなたは船が出ない理由をご存知なんですか?」
「ああ、勿論知ってるさ。今は教える事は出来ないけどな」
こっちの弱みを握っていると思ってか、ニヤニヤと強気に出るシロウ。利用されるのはシャクだが、他に手が無いのも事実か……。
「……わかった、協力しよう。ただし――」
「ただし?」
「――罠に嵌めたり裏切る様なら……覚悟しておけ」
ヘラヘラと掴みどころの無い男だが、コチラも少しは強気に出ておかないとな。
俺の気迫に少し後ずさりするシロウだが、表情は変わっていない。
「オーライ、じゃあ協力成立だ。そうだな……今日はもう遅いし俺も色々準備がある。明日の朝一番に、岬灯台に来てくれ。道はわかるな?」
岬灯台……船着場の端にあった灯台か。なんでまたあんな目立つ所なんだか。
「ああ、大丈夫だ」
「んじゃな。また明日……待ってるぜ――勇者様よ」
そう言ってシロウはフードを被り直し、暗い路地へと消えていく。
……やられたな。こっちの事はお見通しか。最悪、これもアリシア達の手の内だろうか。そう思いながら、宿へ帰ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、朝早くから出発の準備をしていたんだが、ティナ達が起きてこない。ティナと魔王を二人部屋にしたが、どうせ魔王が起きないんだろう。
「ティナ、起きてるか?」
コンコンとドアをノックし、ティナの返事を待つ。ややあって、「どうぞ」と返事が返ってきたので部屋に入ると、困った表情のティナと、青白い顔をした魔王が待っていた。
「珍しいな、お前が起きてるなんて」
からかう様に言ってみるが、反応が薄い。
「うるさいのじゃ……頭に響くから静かにしておくれ……」
「リリィちゃん、朝早くに目が覚めたと思ったらずっとこんな調子なんですよ」
これはアレだな、完璧に二日酔いだな。俺も若い頃に経験がある。この世の終わりみたいな頭痛と吐き気、全身のダルさが抜けないんだよな。
「……自業自得だろ。飲めないのに飲むからだ」
「たわけ……人の酒が魔王に合わなかっただけじゃ……うぅ……集中さえ出来れば自分で治すものを……」
魔王なら人も魔族も問わず飲み干すくらいの器が欲しい所だがな。まぁ、コイツだしな……。
「ほら、じっとしてろ。いま治してやるから」
古文書には治癒系の魔法も収録されている。とはいえ、広まっている魔法とは毛色が違うし、アリシア程強力ではないが。
「んー……コイツが良いかな」
古文書に載っている治癒魔法。即効性はないが、徐々に癒してくれる魔法だ。難点は効率が悪い事と、怪我なんかには効果がない。
魔王の頭に手を乗せ、呪文を唱えていく。古文書を書いた人物が苦手分野なのか、やたらと長い。攻撃系はほぼ無詠唱なんだが。
青い光が手のひらを中心に輝き、魔王の顔色を少し良くする。一発で回復出来るようなのがあれば良かったんだがな。
「これでよし。直ぐには効かないが徐々に良くなるはずだ。それまではまぁ、我慢しろ」
「ありがとうなのじゃ……お陰で少し楽になった……」
「えっ!?」
魔王の発言にティナがびっくりした声を上げる。
「リリィちゃんが素直にお礼を言うなんて……」
確かに珍しいが、そこまで言ってあげなくても良くないか、ティナ……。
「ふん……今だけじゃ。この頭痛が収まるなら頭の一つくらい下げるのじゃ……」
本格的に弱ってるな。魔王は酒に弱い。後世、コイツが暴れた時の為に残しておこうか……そんなくだらない事まで考える。
「今から人に合うんだが、動けるか?」
「寝ておきたいのは山々じゃが、どうせ痛みで寝れもせん……。ならばついて行ったほうがマシじゃろ」
「そうか。とりあえず水だけはしっかり取っておけ。多少はマシになる」
半死人みたいな魔王を連れ、俺達は約束の岬灯台へ向かう。道中、あまりにも魔王の歩みが遅かった為、エドラスで作った例の車輪付き靴、あれを履かせ手を引いて進む事にした。
周りから犬の散歩のようだと笑われていた事は、あえて魔王には言うまい……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
岬灯台に着くと、シロウは壁にもたれかかるようにして待っていた。
「遅かったな……って、なんだそりゃ。新手の遊びか?」
シロウが魔王の手を引いた俺を見て笑う。まぁ、誰が見てもおかしいだろうな。
「あぁ、気にしないでくれ。ただの二日酔いだ」
「二日酔い? おいおい、こんな子供に酒を飲ませたのかオマエ。悪い保護者だなぁ」
「勝手に飲んだんだよ……。まぁ気にしないでくれ、徐々に良くなるはずだ」
先ほどよりは少し顔色が良い。この感じなら、数時間もすれば治るだろう。
「それで……アストラに渡る方法っていうのはなんだ」
「まぁそう焦るなって。とりあえず仲間に紹介するからよ、着いて来てくれ。詳しい話はそれからだ」
そう言うとシロウは岬灯台の中に入っていく。こんな所に仲間が居るのか? 疑問に思いながら着いて行く。
灯台の中は部屋がある訳でもなく、上に続く階段と、何かが仕舞われているのだろう木箱がいくつか置いてあるだけだった。
シロウはその箱をヒョイと持ち上げ、次々と横にずらしていく。
「お前、見かけによらず力持ちなんだな」
木箱は人ひとりが入れそうなサイズだ。中に物が入っていたら結構な重さだと思うんだが。
「そう思うか? 残念、空箱なんだなコレは」
「なんだ……見直して損したな」
空箱なら持ち上げられるのも頷けるが、なんで空箱がこんなに置いてあるんだ。
「空箱だとは思われないのがミソでな。積み上げておけば誰も触らないのさ」
そう言っていくつか空箱をのけた床には、しかし何もない。
なんの為に……と思っていると、シロウはしゃがみ込み何やら床を触りだした。
「よっと……ほら、こっちだ」
シロウが床板を上げると、そこに現れたのは地下へ続く階段。後から作るのは難しいだろうから、灯台が作られた当初からあるんだろうが、なんだってこんなものを用意したのか。
「暗いから足元気をつけろよ。コケたら痛いぞ」
「まるでコケたことがあるような言い方だな」
俺の返しに答えることはなく、シロウは下へ降りていく。確かに言っていたとおり暗く、階段自体も湿っているのか滑りやすい。
降りた先は秘密基地とでも呼べるような小部屋になっていて、そこには一組の男女が机を挟んで向き合い、こちらを伺っていた。
「ようこそ秘密結社へ……同士の合流を心から歓迎する」
先に口を開いたのは男の方……笑うことは無いんじゃないかと言うくらい固い表情で、そう告げてきた。見た目はとにかくデカイ、その一言に尽きる。俺より頭一つ分くらいはデカイんじゃないだろうか。それに比例するように体躯も優れ、かっちりとした服にその身を包んだ様は、まさに壁と言うのがふさわしい。そんな男だった。
「なによ、ワタシはまだあなた達を、同士だと認めた訳じゃないわ」
反対意見を告げるのは、赤茶色の髪を伸ばし、耳のあたりから一本だけ三つ編みを作った少女。ティナより少し背が低いか?港町らしく露出の多い服を着ているが、いかんせん色々な部分が残念な少女である。まぁ、今後に期待してるんだろう……。
双方から異なる意見を告げられる俺達だが、俺はそんな話はロクに聞いておらず、ただ目の前の二人組をじっと見ていた。
そう、この二人もまた亜人族。男のこめかみからは天を衝くように一対の角が、少女の方は犬のように垂れた耳がついている。
他にも居ると言っていたが二人も居るなんて驚きだな。
男の言葉に異を唱えるように、少女は姦しくまくし立てているが、男はそれを軽く受け流し、淡々と言葉を返している。
ちらりとシロウを見ると、やれやれといった様子で壁にもたれかかり、黙って見ていた。
協力するとは言ったものの、このメンツは果たして大丈夫なのか? 俺達のことなど忘れたかのように討論する二人を見て俺は、失敗だったかな……そう思ってしまうのであった――。
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