2-15【魔王の思惑】
ちょっと時系列が戻ります。そして視点が変わりますm(_ _)m
「それで……何があったのか、そろそろ話してくれないか?」
二人揃ってティナに謝った後、俺は魔王にそう切り出した。
ふらりと何処かへ行って、しれっと帰ってきたならまだしも、魔王は再度封印されていた。つまりアリシアはマリアベルと二人で……あるいは単独で魔王を封印出来るという事だ。
今の魔王が、自ら進んで封印されたとは思いたくない。
「ううむ……己の恥じゃから話したくはないんじゃが、そういう訳にもいかんか」
魔王の恥なんて、今更一つや二つ増えても変わらん気もするがあえて言うまい。
「そうだな。封印までされたんだ、軽い話でもないだろう?」
「そうですよリリィちゃん。私達、とっても心配したんですからね」
それを聞いて魔王はコホン、と軽く咳をして、真剣な表情でこちらに向き直る。
「わかった。ならば話すとするかの……まずはお主達と別れたところからじゃ――」
そうして魔王は俺達と別れてからのことを話しだした――。
◇◆◇◆◇◆◇◆
少し時間を遡り、城に連行された時のこと――。
ワシこと、魔王リリアルデ・フローエは今、薄暗い地下牢の中で考えにふけっておった。
無論、脱走や救出などについてではない。ワシがその気になればここを出る事など容易いし、放っておいてもアヤツは迎えに来るじゃろう。別れ際、軽く挑発もしておいたしの。
この国に起こっている事も気にならんではないが、そこはアヤツの領分。手伝いはしてもワシ自ら解決する気はない。
問題はここより以前……剣の勇者とやらに起こった出来事のほうじゃ。
人の身を捨てた変化……あの男がとった行動は、とある魔族を思い出させていた。
ワシが勇者達に封印される前、魔王として過ごしていた時に、側近として仕えていた魔族の男。
魔族はワシが封印された結果、全てこの世界から消えていった。これは魔族という種の核……すなわち魔王からの魔力が途絶えた事が原因じゃ。
しかし勇者が行った変化……あれは間違いなくあの男の秘術。居るはずのない男の術が使われた。それが何を意味するのか、推測は出来ても確証は未だ持てないでいた。
そんなワシの考えを遮るように、一人の女が牢にやって来る。確かアリシアとか言ったか。アヤツの妹で、ワシを封印した勇者の一人……。
ちょうどよい、こちらから探す気じゃったが、来てくれたのなら話は早い。色々と問いただしたい事がある。そう思い、口を割って貰おうと立ち上がった時じゃった。
アリシアの影から、ヌルリと人影が立ち上がる。フードで覆われた顔は影になりよく見えん。が、もう一人の勇者――マリアベルとか言ったか――とも違うようじゃった。
そやつは何やらボソリとアリシアに囁くと、牢全体へ何やら魔法をかける。とたん、他の人間の気配が消える。結界かの?
人影はそのままワシを一瞥し、影へと消えていった。確認は出来なんだが、ワシを睨んでいた様にも思える。
「こんにちは、魔王さん。元気〜?」
「はっ、気安いのぅ。お主とワシはそんな関係じゃなかろう」
随分と馴れ馴れしく話しかけてくる。見た目通り、精神も幼いのかのぅ。
「え〜、でもお兄ちゃんのお友達でしょう〜? なら、私のお友達でもあるよね?」
何がでもなのか、さっぱりわからんがここは合わせておいたほうが都合が良さそうじゃ。
「ふむ、そういう事ならお主とワシは友でも良かろう。して、なんの用じゃ?」
「折角だからご挨拶をしておこうと思って〜。それに聞きたい事もあるのよねっ! あなた、お兄ちゃんの事どう思ってるの?」
聞きたい事だと言うから何かと思えば、アヤツの事じゃと?
「アヤツか? そうじゃのぅ……手のかかる子供みたいなもんかの」
ワシの返答にアリシアの顔は一層笑顔になり目を輝かせ始める。
「そうなの! お兄ちゃんったらいつまで経っても手がかかるんだから! 妹としても心配で放っておけないのよね〜」
「……だからお主はアレコレ動いておるのか」
「そうよ〜、一人じゃ何も出来ないお兄ちゃんに、私が道を作ってあげてるの。お膳立てしないと何にも出来ないんだから」
散々な言われようじゃのう。どれ、少しはアヤツの面目も保ってやるかの。
「じゃが最近はそうでも無いようじゃぞ。そろそろ放っておいてやっても大丈夫じゃろ。世の中にはありがた迷惑という言葉もあるからの」
「なにそれ、偉そうに……。私が居るから大丈夫とでも言いたいわけ? あなたにお兄ちゃんの何がわかるって言うのよ。ぽっと出てきて理解した風に語ってるんじゃないわよ」
「そんなつもりはないんじゃが……まぁ良い。それよりお主には聞きたい事が山ほどあるのでな。次はワシの問疑問に答えてもらおうか」
「は? 答える訳ないでしょ、馬鹿なの? 質問するのはこっちよ。アナタは黙って答えなさいよ。それで、お兄ちゃんと将来どうなるつもりなの?」
さっきからお兄ちゃんお兄ちゃんうるさいのぅ。アヤツとどうなるなんぞ、考えた事もないわい。
「もしかして結婚でもする気なの? 駄目よ、お兄ちゃんが好きなのは私なんだから。アナタは精々遊ばれて捨てられるのが落ちよ。今のうちに離れなさいよ」
「いや、お主の思い込みも随分と極まっておるのぅ……」
「思い込みじゃ無いわよ。だって約束したんだから。大きくなったらお嫁さんにしてくれるって。誰と付き合っても最後には私のところに来てくれなきゃ」
「子供の頃の約束なんぞ、無効じゃろう。ましてや肉親。ハナから無理な話じゃろ」
その言葉にアリシアは癇癪を立てた子供のように喚き出す。
「うるさい! 約束は絶対なのよ! 他の女なんて皆邪魔なのよ!」
ならばどうしてあの時アヤツを捨てたんじゃろうのぅ……。考えがよく分からん奴じゃの。
「ねぇ魔王、アナタは私の味方? それとも敵? 一緒にお兄ちゃんを立派にするなら仲間にしてあげても良いよ? でも結婚は駄目だからね。愛人程度なら……ううん、やっぱりそれも駄目ね」
「お断りじゃ。敵か味方かと言われれば敵じゃろうしの。アヤツとの結婚なんぞも考えておらんよ」
「頭固いのね〜。まぁ良いわ、今はお友達って事にしておいてあげる」
「いや、やはりお主とは友にもなれんな。それもお断りじゃよ」
その言葉に、アリシアの表情が変わる。まるで感情が抜けた人形の様な顔で、静かに喋り出した。
「……そう、なら良いわ。もうアナタに用事も興味も無くなったし。大人しく封印されてくれるかしら」
「断る。かつてのワシなら封印されても良かったが、生憎ワシにはやる事が出来たんでの」
言い終わるか否や、魔法を発動する。これ以上話しても無駄じゃろうし、アレウスには悪いがコヤツには少し痛い目にあってもらおうかの。
無挙動で不意打ち気味に放たれた魔法は、アリシアに何の反応も取らせることなく、その腹部を貫いていく。
まぁ、剣の勇者も勝手に再生しておった。コヤツもそうじゃろうが、少し動きを封じる事位は出来よう。
そう思った矢先――
「ゴフッ!」
間違いなく貫いたアリシアの腹部。まるでそれと鏡写しの様に、ワシにも同じ傷が出来ておった。
「いた〜い。もうっ、乱暴なんだから〜」
そう言いながらも、すでにアリシアの傷は癒え、真白い肌が破れた服から見え隠れしていた。
「悪い子ねぇ……。でも残念、あなたはもう私には手出し出来ないわ」
アリシアが再び感情の消えた声で語りかけてくる。
何が起こったのか検討もつかないワシを、更に混乱させる一言が静かに発せられた。
「ルーデウス、もう良いわよ」
突然放たれた一言に虚を突かれた瞬間、ワシの意識は覚えのある感覚に捕らわれていた。
そう、これはあの時感じた感覚と同じ――。
背に感じる気配に振り向こうとするが、それは叶わず、深く暗い封印の闇へとワシの意識は沈んでいった――。
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