2-12【魔王の帰還】
「アレウスさん! 大丈夫ですか!?」
花瓶の割れた音を聞きつけ、ティナが部屋に駆け込んでくる。床に散らばった花瓶を見て驚いていたが、そんな事は後回しとこちらに駆け寄ってくる。
「目が覚めたんですね……良かった……」
「ああ、スマン。心配かけたな……」
ティナには余程心配をかけたんだろう。目には涙が浮かんでいる。
それを拭って笑顔で話しかけてくる。
「本当にびっくりしました……。急に倒れて、そのまま三日も起きなかったんですよ」
どうやらアレから随分と寝込んでいたらしい。ひとまず何がどうなったか、ティナに聞いてみる。
「本当にスマン。それで、アレからどうなったんだ? 魔王は?」
「えーと、順番にお話しますね」
それからしばらく、事の顛末についてティナから説明を受ける。まとめるとこんな感じだ。
アレから俺がぶっ倒れた後、城内から王子らしき人物がやって来て浮足立った兵士達をまとめ上げた。
俺はそのままこの部屋に運ばれ、出来る限りの手当をして寝させていたとの事。
その間に王子は国王が死んだ事を発表。表向きはドラゴンと勇敢に戦い、力及ばず……といった形にしたらしい。そのまま王子は国を継ぐことを宣言。ドラゴンを倒したのは俺だと発表し、国民には脅威が去ったと告げた。
これでアリシアの言うとおり、俺はこの国にとってドラゴンを屠る、救国の勇者として祭り上げられた訳だ。
ティナも俺の仲間として、国賓扱いを受けているとの事。城に囚われていた鍛冶師達は王子……いや、新王の名のもとに解放され、皆、街に戻って行った。十分な謝罪と謝礼を受け取って。
だが、その中にも肝心の魔王は見つからなかったそうだ。今は急ピッチで城の復旧が進んでいるらしいが、依然見つかっていない。
アリシアについては、またも王子達の記憶からは消えたが、王が死んだ事により有耶無耶になってしまった。さっきまで部屋に居たのも、誰も気付いていなかったそうだ。何でも部屋に入ると言う事を考えられなかったとか。
そうして隣の部屋で休んでいたところ、急に俺の居る部屋から音が聞こえ、やって来たという訳だ。
「そうか……結局アリシアにしてやられたという訳だな」
「さっきまでこの部屋にいたんですよね……すみません、気がつかなくて……」
「いや、仕方ないさ。それより魔王だ。アイツ……何処に行ったんだ」
何を考えてわざと捕まったのかもさっぱり分からない。いったい何処で何をして――ちょっと待て……どうしてソレがここにある!
「ティナ!」
「は、はいっ! ど、どうしました?」
急に声を荒げた俺に、ティナが驚いている。
「あ、いや…その服、どうしたんだ?」
ティナが着てる服は、普段は見ない様な豪華な服だった。上は白を基調とした上質な生地で、V字にカットされた襟ぐりにはフリルの様なものが沢山付いている。大きく開いたために見える鎖骨が可愛さの中に色気を出していた。
袖は手首のあたりで一度絞り、そこから自然に広がっている。こちらにもフリル付きだ。
そして足首まで隠すスカートは一転して黒一色だが、生地が良いのか染め方が良いのか、あまり光を反射しない、上品な色に抑えられていた。
「あ、これですか? 起きたら置いてあったので、折角ですし着てみたんですが……似合いませんか?」
「いや、良く似合ってるよ。ただ…その胸元に付いている十字架は――」
そう、ティナの胸元には見覚えのある十字架がぶら下がっていた……。
「あ、これですか。服に縫い付けてるのか、外れないんですよ。ちょっと浮きますよね……」
ティナはそう言って十字架を触っているが、肝心なのはそこじゃ無い。
見覚えのある十字架……俺がそれを見たのは、魔王の封印を解いた時だ。
「ティナ……それは封印された魔王だ」
「え?」
ただの模造品の可能性もあるが、どれだけ探しても見つからない魔王。そして俺が気付くよう、露骨に用意された十字架。恐らく偽物ではないだろう。
「俺が魔王を見つけ出した時……そんな風に十字架に封印されていたんだよ」
「コレが……リリィちゃん……?」
封印されているなら再び解けばいい。言いたい事や聞きたい事が色々あるし、今は封印を解くのが先決だろう――そう思い、そのまま封印を解く呪文を唱えていく。
やはり本物だったようで、十字を模したその鍵は、以前と同じ様にひび割れ、砕け――あれ? なんかティナの服まで……。
「えっ!? えっ!? きゃああ!?」
ティナの前に魔王が形作られていく。徐々に暗い光は消え、魔王がその姿を表した。やっぱり全裸で。
ついでに言うと、どうやらティナの着ていた服も鍵の一部だったようで、一緒に消えてしまった。
「うーん……まだ起きとうないのじゃ……」
「みみみみ、見ないでくださいアレウスさんー!?」
魔王は平然と寝ているが、ティナはそうもいかない。
咄嗟にしゃがみ込んで色々隠したが、耳まで真っ赤で涙ぐんでいる。
現状この部屋に居るのは、あまりの事に開いた口が塞がらない俺と、全裸で寝ている幼女、そして下着姿のティナと言う、なかなかに説明のし難い状況だ。
「どうしました! 何か起きましたか!?」
ティナの悲鳴を聞きつけ、城の兵士らしき人物が部屋に飛び込んでくる。
さて、どう説明したもんかな――。
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