2-10【VSドラゴン その2】
上空に浮かぶレッド・ドラゴン。
空という、人間には不可侵の領域から、悠然と己を傷付けた存在である俺を見下ろしてくる。
ここからは一方的な展開だと言わんばかりに、連続して火球を吐き出し攻め立てるドラゴン。
俺は襲い来る業火を右へ左へと避けながら前進するが、その都度ドラゴンは距離を取り近づかせまいとする。
「ちっ、やっかいなっ……!」
頭上をかすめる炎弾。着弾と同時に爆発するそれは、城内を無残な姿に変え、あたりを燃やし始める。
わらわらと建物から兵士が出てくるが、ドラゴンを確認すると皆、一目散に逃げてしまう。
お前らちっとは手伝えよと、心の中で毒づくが、正直逃げてくれてたほうがありがたい。こいつ相手だと、余計な犠牲が増えるだけだろう。
チラリとティナのいる方を横目に見るが、無事のようだ。こちらをじっと見ながら心配してくれている。
「こんな時にあいつはどこに行ったんだよ! っと、あぶねぇ!」
未だ姿を見せない魔王が気になるが、ティナに探しに行かせる余裕もない。
「まさかこいつが実は魔王って事はないよな……」
ボソリと呟いた俺の声は着弾の轟音にかき消される。
いい加減チョロチョロ動きまわる俺に腹が立ってきたのか、段々と狙いが雑になってくる。そろそろか?
避けながら魔法を両手両足にそれぞれセットし、タイミングを伺う。一発勝負だ。
ドラゴンがしびれを切らし、ぐっと首を後ろに下げ特大の炎弾を吐き出そうとする。
「今だっ!」
左手にセットした魔法を展開。吐き出す瞬間、ドラゴンの目の前に光球が飛んでいき、爆ぜる。
次に訪れるのは昼かと見間違うほどの光――。
突如訪れた光の暴力に、さすがのドラゴンも目が眩み頭を振り回す。
「古典的だが……効いただろ!」
そのまま右手にセットした魔法を使い、ドラゴンより高く、高く飛び上がる。
あいにく自由に空を飛ぶなんて出来ないが、瞬間的に飛び上がるくらいなら訳はない。
そのまま重力に従うように、落下。そこへ両足に仕込んだ魔法を上乗せして行く。
高高度からの突撃……落下速度に加え、両足の魔法――射程を犠牲にした高威力の雷魔法を叩きこむ!
「魔王も目覚めた魔法だっ! 落ちろ!!」
狙うは今だ口腔内に炎弾を残す頭部。
接触した瞬間、狙い通り口腔内の炎弾が爆発し、今までにない轟音と大爆発がドラゴンの頭部を襲う。
爆発の反動で俺も吹き飛ばされるが、難なく着地し眼前を見据える。
さすがのドラゴンも耐え切れず、大地を揺らす轟音と共に建物を破壊しながら地に落ちた。
「ふぅ……これで終わると良いんだが……」
両足に感じた手応えに、瞬間気が緩む。しかしそれは、失策だと言わんばかりに、細く伸びた炎が俺の左肩を貫く。
「がっ! ぐぁぁぁ!!」
油断した……相手は災厄と呼ばれる存在。気を抜いていい相手じゃなかった。
「左手は……駄目だな使い物にならないか」
肩にはポッカリと穴が開いており、そこからドクドクと血が流れ落ちる。痛みが思考を遮り、上手く考えが纏まらない。
続けざまに放ってくる熱線を、時にかわし、時にそらしなんとか距離をとる。
「ハッ、ハッ、ハッ……」
学習したのか、やたらと貫通力が高い熱線を連射してくる。炎弾と違い速度が速いからか避け難い。
直撃こそ無いものの、いくつかの熱線が身体をかすり、徐々に傷が増えていく。
さっきまでとはうって変わって形勢が悪いのは俺の方だった。ドラゴンも随分ボロボロだが、何せ竜種。体力が違う。
「幸いなのは視力が戻ってない事だな……」
閃光と爆発の余波だろう、ヤツの視力は回復していないようだ。畳み掛けるなら今なんだが……。
おおよその目安で連射される熱線。こいつを掻い潜るか止めるかしなきゃ迂闊に攻めにも回れない。
「何か手段は……あれは?」
地面に落ちている剣……それは翼竜を容易く屠る爆剣。投擲前に持ち主が死んだか逃げたのか、無造作に横たわっている。
使い方を考える。量産していたからには複雑な使い方じゃ無いだろう。剣を手に取りじっと見つめる。
どうやら魔力を込めるだけで良さそうだ。
しかしそのまま爆剣を投げても奴には効果が無い。なら、囮に使うか? 手に取ったもののイマイチ使い道が無いな。
「まぁ良い。目隠し位にはなるだろ」
いい加減出血で身体が辛い。そろそろ決着をつけないと……。
爆剣に魔力を込め、いつでも投げられるよう準備を終える。狙うは傷ついた奴の頭部。
「どっせい!」
大きく振りかぶり、爆剣を放つ。魔力の乗った爆剣は狙い違わず一直線にドラゴンの頭部へ突き進む。
ドラゴンは迫り来る爆剣を意にも介さずブレスを撃とうとして来る。
その刹那――。
今までにない爆発がドラゴンを覆い隠した。
「な、なんだ!?」
爆剣にそこまでの威力は無かったはず。爆剣隊とやらが一斉に投げた時でさえ、ここまでの威力は無かった。
見るとドラゴンの頭部は抉れ、半分ほど欠けてしまっている。なんにせよ、これは好機だろう。ここを逃す手は無い。
右腕を前に突き出し、集中していく。全力で……頭部だけで良い。障壁も何もかも吹き飛ばす威力を。
「吹っ飛べぇぇ!!」
手の先から放たれる光の奔流。空間すら裂くように、捻れながらも真っ直ぐに突き進む光。後の事さえ考えない全力の光は、ドラゴンの頭部を呑み込み、そのまま空へ消えていった――。
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