2-4【エドラスの兵士】
目の前に見えるのは巨大な市壁。街の周囲をぐるりと囲んだ壁は、一切の侵入を拒むようにそびえ立っていた。
大国エドラス。かつて魔族の大侵攻を受けたものの、今は見事に復興した国だ。
俺達は入国するため、入り口に並ぶ大勢の列の中にいた。
国柄か最近の影響か、やたらと審査が厳しいらしく、列の進みは遅い。ついたのは真昼頃だったが、この分では夕方ぐらいまでかかるかも知れない。
「進みませんねー……」
そう、ティナが呟いた。ティナには念の為、認識阻害の魔法をかけ人に見せかけている。
「他国を恫喝してるみたいだし、色々警戒してるんだろうな」
オルデン国王から聞かされた情勢。他国に無茶な要求をしているこの国は、当然敵も増える。自国内部から切り崩されるのを恐れてか、警戒が厳しいんだろう。
「まぁ、ここまで来て焦っても仕方ない。のんびり待とう。横になってても良いぞ」
すでに魔王は待ちくたびれてスヤスヤと寝息を立てている。まぁ、起きて暇だと喚かれるよりはマシか。
「いえ、大丈夫ですよ。アレウスさんこそ、少し休んではどうです? お疲れでしょう」
朝から馬車を動かしてもう随分立つ。確かに座りっぱなしでそろそろ腰が痛くなってきていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて少し横になるか。何かあったらすぐに言ってくれ」
「はい。お疲れ様でした」
ティナに手綱を渡し、ゴロリと横になる。思ったより疲れていたのか、すぐに意識が無くなっていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……さん! 起きてくださいアレウスさん!」
ティナの慌てた声に目が覚める。急いで馬車から顔を出すと、あたりはすっかり夕暮れ時だったが、そんな事より遠くで起こっている事の方が衝撃的だった。
「あれは……翼竜か?」
翼竜。竜と付くが本物の竜種とは違い、どちらかというと鳥寄りな大型生物だ。
気性は荒く、好戦的である。以前、あれを手懐ければ戦力になると挑戦した部隊もあったらしいが、失敗に終わったと聞く。
それが、十頭程、徒党を組んでこちらへ向かって来ている。いずれここに到着するだろう。入国待ちの人々はまだまだ多い。このままでは襲いかかって来るのは目に見えていた。
「国からの動きはないのか?」
「いえ……先程から門へ駆け寄る人は多いんですが、向こうからは何も……」
中には自国民も居るだろうに、外の人間は見捨てるのか? いや、翼竜が自国近くまで来ているなんてただ事じゃ無いだろうに。
そうこうしている内に翼竜はどんどん近づいて来る。別に殲滅する事は容易いだろうが、ここでそんな事をしたら目立ってしょうがない。怪我人を出すつもりも無いが、出来れば戦闘もしたくはなかった。
「ティナ、馬車の中に入っておけ。最悪、一気に殲滅する」
「はい、アレウスさんもお気をつけて!」
さて、理想はエドラス側で対応してくれる事なんだが……。そう思っていると、にわかに門のあたりが騒がしくなった。どうやらエドラス側から兵が出て来るみたいだな。
人々が横に避け、まるで花道となった間を十人程の兵士が悠々と歩いてくる。
俺も邪魔にならないよう、馬車を横に避け対応を見ていた。
先頭に立つ男……恐らく隊長が何か指示を出すと、残りの兵士が等間隔に配置につく。腰に剣は吊るしているが、相手は翼竜。空を飛ぶ相手にはさほど役に立たない。そうなると皆、魔法使いか。
魔法で隙間なく殲滅か、と思っていると隊長の指示で全員剣を抜いた。ボンヤリと青白く光るその剣を、まるで自分の体を弓に見立てるように引き絞り、一斉に投擲する。
「はあっ!?」
あまりの出来事に開いた口が塞がらない。空を飛ぶ翼竜相手に、地上から剣を投擲。当たるはずがない。仮に当たったとしても所詮人の手による投擲。威力はさほど期待できない……そう思っていた。
「ウソ……だろ」
一斉に放たれた剣は、到底人の手では成し得ない程の速度で翼竜達に迫っていく。前方からの投擲物に気付いた翼竜が回避行動に移るが、剣はまるで意思を持つかのように、軌道を変え、全て翼竜を追いかけて行った。
そのまま翼竜と剣の切っ先が触れたと思った矢先、剣は突き刺さる事も、貫通する事もなく、ただ爆ぜた。
爆音と共に衝撃がこちらにまで響いてくる。見ると翼竜は一頭残らず消え失せ、剣もまた戻って来ることは無かった。
「剣が爆ぜて翼竜が爆ぜて……はは、なんの冗談だこれは……」
役目は終わったと言わんばかりに、兵士達は無言で帰っていく。助かった人々は思い思いに兵士達を讃え、感謝している。
翼竜をものともしない投擲兵。本人達の不可思議な膂力や、誘導、爆発する謎の剣。確かにこれだけの力があれば、他国へ高圧的なのも頷ける。何処まで飛距離が出せるのかは分からないが、最悪自国から他国への爆撃も考えられる。
それは、一方的な破壊だ。殆どの国がなすすべ無く蹂躙されるだろう。
こんな事が出来るのはアイツラしかいない……。俺はアリシア達の関与を確信しつつ、エドラスの入り口へ向け、馬車を進めだした。
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