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2-3【食糧危機】

 出発から二十日程経った頃、俺達は途方に暮れていた。いつもは健気に笑みを絶やさないティナも、落ち込んだ顔をしてクロを撫でている。魔王に至っては絶望からか、現実を見たくないと夢の中へ旅立っていった。いや……魔王はいつも通りだな。



 国王オルデンが用意した足――二頭立ての馬車は目立たないよう外装はそこそこに、車輪周りや内装に力を入れた新型らしい。お陰で快適に進むことができた。

 並の馬車とは比べ物にならない性能のおかげもあり、これまでは特に問題もなく、目的地まであと数日という所で、それは起こった。



 オルデンが準備してくれた物は馬車だけに留まらず、路銀や食料、その他旅に必要な物が一通り揃っていた。

 その中で俺達にとって一番重要な物……そう、食料だ。


 自慢じゃ無いが俺達の中に、料理が出来る人間はいない。それはオルデンも周知の事なので、荷物の大半が食料だった。それも調理の必要がない、パンや干し肉等のそのままで大丈夫な物ばかりだ。


 その食料が入っていた、今は底の木板が見えている。明らかに分量を間違えた結果、全て食い尽くしてしまった。主に魔王が。お陰で今日は朝から何も食っていない。


「さて、このままでは俺達は飢え死にだな」


 何度木箱を見ても無いものは無い。パンの欠片一つ無かった。


「街までは……持たないですよね?」


「ああ……最終手段は引いている馬を処分するとかかな」


 俺達に用意されたとはいえ、王が用意した馬車だ。馬もそんじょそこらの馬とは違うし、まさか腹が減ったから食ったなどとは言えたもんじゃない。


「仕方ない……野生動物を狩るしかないか」


 今は左右を森に囲まれた街道を進んでいる。少し道を逸れ森に入れば、獣の一匹や二匹は居るだろう。量さえ我慢すれば何とかなるんじゃないか。


「でも……私達だと調理が……」


「その点は大丈夫だ、秘策がある。だから心配するな」


 なんだろうと言った表情で、ティナが首を傾げる。まぁ、それは後のお楽しみという事で今は食料だ。


「じゃあ、ちょっと獲ってくる。こんな所で野盗なんか出ないと思うが一応注意だけしておいてくれ」


「はい。リリィちゃんもクロちゃんも居るから大丈夫ですよ」


 そうして俺は森の中へ入っていく。出来ればすぐに見つかると良いんだが。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふぅ。これで三頭目、と」


 食料調達は順調だった。とはいえ、野兎なんかの小動物ばかりなので、少々物足りない。これでは魔王があっという間に平らげてしまうだろう。


「大型動物がいれば良いんだかなぁ」


 鹿とか猪みたいな大型がいれば助かる。馬は……馬車を使っておいて、馬を食うのは出来れば避けたい。熊は流石に居ないと思うが、不意打ちを食らうとまずいかもな。


 他に居ないかと周りを見回すと、少し遠いが何か影が見えた。どうやら鹿のようだな。

 幸いこちらは風下だ。念の為バレないうちに気配遮断の魔法を使っておく。


 のんびり草を食っている鹿目掛け、魔法で狙いをつけていく。規模と音を極端に小さくし、その代わり飛距離を伸ばした魔法弾だ。まぁ、凄い矢みたいなもんだな。


 静かに発動した魔法弾が鹿の頭部を突き抜け、一撃で仕留める。そのまま近寄り背に担ぎ馬車まで戻る事にする。本当は血抜きやら色々あるらしいが、詳しく知らないのでそのままだ。まぁ、食べられたら良いだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 ティナ達も特に問題は無く、元の場所で待っていた。肉を獲ってきたと言うと、魔王がガバッと起き上がり、早く食べさせろと催促してくる。ならお前も手伝えよと、思わなくもないが、どうせ言わぬが吉だろう。


「沢山穫れましたね! うわぁ! 鹿まで!」


「これで少しは持つだろう。早速飯にするか」



 適当に捌いていき、部位ごとの塊にする。本当は保存用に残せば良いんだろうが、あまりの空腹に全て食べる事にした。


「それで……どうするんですか? 秘策があるって言ってましたけど……」


「それはな……こうするのさ」


 俺は火をおこし、そこへ棒に刺した肉を適当に並べていく。時折塩を振りかけてやる。


「えっと……終わり、ですか?」


「ああ、余計な事をしなければ不味くなる筈がない。料理の様に複雑な味はしないが、単純だが確実な調理方法だな」


「あー……そ、そうですよね。焼くだけなら美味しい筈です……よね」


 何故かティナが落ち込んでいるが、もしかしてがっかりさせたか? しかし俺達にはこれがベストだろう。

 実は出発の際、城の料理長から念を押された。


 曰く、もし、万が一調理が必要となった際には俺が担当する様にと。その際に余計な事はせず、肉なら塩を振って焼くだけにしろと。それ以外の食材は諦めろと言われた。

 特にティナと魔王には絶対に手を出させるなと、何度も何度も念を押された。あいつら、何やったんだ……。



「よし、焼けたな。じゃあ食うか」


 そう言って目の前の肉に手を伸ばしたが、俺が摑むより早く、横から小さな手がサッと伸びてきた。

 俺の手は虚しく空を切る。伸びてきた先を見ると、魔王が両手に肉を持ち、口にも肉を咥えていた。


「おい……どういうつもりだ?」


「はひほひふひゃ!」


 いや、口の中の物を飲み込んでから喋れよ。何言ってるかさっぱりわからん。

 そうこうしている内に魔王は次々と肉を食っていく。口が開けば口に、手が開けば新しい肉をと、止まることなく食っていく。気が付けば肉はひと切れも俺に渡ることなく、全て食いつくされていた。


「おまっ! 一人で全部食ってんじゃねーよ!」


「ふはいほう……ほれはふはいほひゃ」


 そうして最後のひと切れを飲み込む魔王。ふと見ると、ティナが申し訳無さそうな顔をして手の肉を見ていた。


「あー、ティナ。遠慮せず食っていいぞ。俺はちょっとコイツと話を付けてくる……」


「ご、ごめんなさいアレウスさん……」


 空腹の前には誰も勝てない。ティナは仕切りに謝りながら食べている。だがティナよ……せめてクロに持たせたその肉は隠してくれ。



 俺は悪びれもせず、食った食ったと横になった魔王の首根っこを掴み、再び食料を求め森の中へ入っていった……。


ここまでお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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