1-29:【求めていた日常】
剣の勇者について、すっかり抜けていたので加筆修正しました。
ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m
城から戻りはや数日。俺達は隠れ家――いや、もう隠れる必要は無いんだが――で、のんびりしていた。
あれから城で起こった事を語ろう……。多分あそこまで城で好き勝手したのは俺達が初めてだろうな。いや、断っておくと俺とティナはおとなしくしていた。多分マナーもそこまで破っちゃいない……筈だ。
問題なのはコイツ……もう昼過ぎだというのに今だグースカ寝ている魔王だ。
まぁ、城で何があったか簡単に言うと、宮廷料理人が泣いた。恐らく持て成す、といった点では最高峰に居る彼らが、許してくれと。泣いて頭を下げてきた。
彼らの名誉の為に言っておくと料理はとびきり美味かった。暫くは舌が市井の料理を受け付けるか不安な程に。
じゃあ何が問題だったのか……量だ。
魔王曰く、魔族の料理はそこまで凝ったものはないらしく良く言えば豪快な、悪く言えば大雑把な物が多いらしい。そこに味も見た目も突き詰めた料理だ。気に入らない訳がない。
何処にその量が収まっているのかと疑問視する程、魔王は食った。食って食って、食い尽くした。俺の料理も横からつまんだ挙句、最後には待てぬと、調理場まで直接食いに行った。
このまま行くと材料のまま食うんじゃないかと思うほどの勢いに、疲労困憊の料理長から限界だと泣き付かれた訳だ。
まだまだ食えるが許してやろうと、かなり上から告げた魔王はあてがわれた客室に戻ると爆睡。結局朝どころか、オルデンが見送りに来てもそのまま起きる事は無かった。
いつでも来るが良い、とはオルデンの言だが、大臣を初め他の家臣達は渋い顔をしていた。多分料理長としては二度と来てほしくない相手だろう。まぁ、暫くは行く事もないだろうが。
そうして家に帰ってきて、今に至るというわけだ。
そうそう、オルデンと言えば、国王に復帰するとの事だ。王子二人はあのままだし、オルデンの息子達にはこの混乱を任せるにはちと荷が重い。
なにより事情を知っているという点でも、他に選択肢は無かった。
ジルベルトに関しては魔王が何か知ってるようだったので聞いてみたが、本人も確証は無いようだった。
ただ、あんな事が出来る魔族を、知っていると。かつて居た、と。
魔族は魔王封印によって全て居なくなった為、ありえん事じゃと言っていたが。
それからアリシア達についてだ。あの時、アリシアは西の大陸に行くと言っていた。だが、具体的な目的地までは分からない。闇雲に探すより、オルデンの近くに居た方が情報も入ってきやすいだろうとの事で、何か動きや情勢の変化があれば知らせてくれるらしい。その為今は目下新しい情報も無く、のんびりしている訳だ。
「リリィちゃん、起きませんねー」
魔王は、「ワシは今までに無いほど働いた!暫くは休みじゃ!満喫するのじゃ!」そう言って寝室に引きこもっている。
一応、置いてある飯は食っているから、完全に寝続けている訳では無いらしいが、ここ数日動いている魔王は見た覚えがない。
「まぁ、飯は食ってるみたいだし、そのうち出て来るだろう」
急ぎ魔王に用事がある訳でもない。いや、ジルベルトの変化とか、聞きたい事はあるんだが。
「それよりティナ、良かったな亜人族の事」
「はい。まだまだ嫌な目で見てくる人も居ますが、以前に比べたらずっとマシです!」
亜人族……ティナがオルデンをはじめ城の人間を救った一員と言う事で、亜人族も人間と同じ扱いをするよう、国令が出た。
城に誰もいない、戻って来ないと言うのは皆疑問に思っていたらしい。そこにあの騒動だ。城から聞こえた爆発音や、天に登る魔王の魔法は皆が見ていたらしく、何かが起こり、何かが解決したと皆理解した。
とりわけティナは、直接名指しで伝えられた為、街の人達からの受けも良い。本人はしきりに、何もしていないと訂正していたが。
お陰で認識阻害の魔法をかけることもなく、街を歩く事が出来ている。
亜人族全体に対する偏見はすぐには無くならないだろうが、少しずつ変わっていけば良い。今ではそう思う。
俺の事? 俺は前にも言ったとおり極秘の任に就いていた事にしたので、逃げ出した云々は無くなった。オルデンからは今からでも勇者の称号を与えようかと打診されたが、辞退しておいた。
今更な部分も大きいが、ジルベルトを倒したのも、皆を救ったのも魔王だ。あいつは勇者の称号なんぞ要らんだろうが、かと言って俺が貰う気にもなれなかった。
結果、俺は元に戻ったくらいだ。いや、精神面では少し成長出来たかもな。随分遅い成長だが。
それからさらに数日後、ついに引きこもるのにも飽きたのか、魔王が寝室から這い出してきた。
「よう、なんか久しぶりだな。というか、お前酷い見た目になってるぞ……顔洗って整えて来い……」
どんな態勢で寝たのか、髪はボサボサに寝癖がついており、シャツはよれよれで半分ズリ落ちており、小さい肩が剥き出しである。まだ眠気が取れていないのか、目をしょぼしょぼさせながらヨロヨロと歩いてくる。
「うぅ……日が目に刺さるのじゃ……」
とぼとぼと、顔を洗いに行く魔王。向こうではティナが必死に魔王の寝癖と戦っている。
15年前に始まった復讐の旅。何も知らず、何も見えず、ただ胸に溜まった黒いモノをぶち撒けたかった旅。
それまでに比べればあっという間の日々だったが、魔王を見つけたあの日から、得るものは多かった。
本当に信じられる、俺を助けてくれる仲間も出来た。
俺自身も、少しは強くなれたんじゃないかと思う。
まだ全てが終わった訳ではないが、事はもう俺個人で収まる話でも無くなってきた。
無論、アリシアとマリアベル……あの二人には直接言いたい事が山ほどあるが、今は束の間訪れた休息に、身を委ねようと思う。
魔王とティナの騒ぎ声が聞こえる。どうやら街に出る話をしているらしい。
何処で飯を食うだの、何を買うだの、独りの時では考えられなかった日常だ。
だが今は――この日常を、ごく普通の日常を仲間と満喫したいと思う。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて一章完結です。
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m




