1-22:【兵の不在】
「して、お主よ。なんぞ良い手は思いついたかの?」
飯も終わり少し食休みしていると魔王が聞いてきた。食いながら色々考えてみたが、中々良い案は出て来なかった。
「いや……まだだな。如何せんアイツの魔法が厄介すぎる」
俺を捨てた妹――アリシアにかかれば、認識阻害もチャームも、破られてしまう。何とかしてアリシアの目を掻い潜り王に会えれば、チャンスもあるだろうが……。
「王妃が城を出るタイミングとかは無いんですかね?」
「公務の際には王や兵も一緒だしな……」
「夜に忍び込むのはどうじゃ?」
確かに夜なら兵も少ないだろうし、王も無防備だろう。だが王妃達が一緒にいないとも限らない。――王妃達が一緒?
「あぁ、難しく考えすぎてたのか」
「何か思いついたんですか?」
見知らぬ女だとアリシアにバレるのは、チェックされるからだ。なら、アリシア自身なら?
「俺がアリシアに化ければ、兵にも疑われないだろうし、チェックもされないんじゃないか?」
「ふむ……。本人に出くわさなければ大丈夫かの。細かい所は認識阻害でフォローも出来よう」
もちろん色々詰めないと危険だろうが、王妃であれば城に居てもそうそう不審がられることもない。後は王が独りになる時を狙えば……。
「ひとまずその線でいくかの」
こうして、城への潜入方法は決まった。後は準備と決行だけだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は今、認識阻害の魔法をかけ、念の為魔王に姿も変えてもらい、城の近くまで来ている。
と言っても今すぐ潜入する訳じゃなく、今日は下見だ。ぶつけ本番で城に潜入するほどの大胆さは無い……のだが。
「兵が……居ない?」
遠目に見る限りでは、門番が居ない。それどころか、門の向こうにも居る気配が無い。
「妙だな……。ここまで人の気配が無いのは、罠か?」
先日、王子二人にかけた呪い。あれによって脅威が近くにいる……と思われているのかもしれん。
恐らく解呪を試みただろうから、アリシアでも解けない術者――魔王の復活がバレたか。
「しかしそれなら警備を厳重にするんじゃないか? わざわざ誘い込むような……」
以前は三人で魔王を封じる事が出来た。その慢心からあえて誘っている、とも取れるが。
「一旦戻るか。ちょっと練り直しだな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「という訳だ。恐らく罠だとは思うが……」
家に戻り二人に事情を説明する。
「ふむ……躾とはいえやり過ぎたかの」
珍しく申し訳なさそうな顔をして魔王が呟いた。
「いや、アイツラはアイツラでやりたい放題だったしな」
アイツラがしていた事を考えれば、魔王を責める謂れはない。
しかしこうなれば少し時間を置くべきか……。
「ふむ……ワシにも責任がありそうじゃの。良いじゃろう、その罠、あえて乗ってやろうぞ」
「なに?」
火中の栗をあえて拾いに行くと、そう宣言する魔王。
「ワシ自ら城へ出向いてやろうではないか。無論、お主の邪魔はせぬがの」
確かに魔王が一緒ならほぼ間違いなく成功するだろう。やる気を出したコイツを止められる存在など居ないのだから。
「良いのか?」
「誘われておるのは恐らくワシじゃろう? ならば招待に呼ばれようではないか。なぁに、お主が邪魔されぬよう、つゆ払いくらいはしてやろうぞ」
せっかく魔王が乗り気なんだ、断る理由は無いか。
「わかった。頼らせてもらう」
「うむ。お主は大船に乗った気で居れば良いぞ」
こうして大船どころか、もはや規格外の船に乗った気分だ。
待っていろ勇者共。15年越しの恨み、晴らさせてもらうぞ。
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