崩れ去る平穏2
(クソッ! もう始まったか!)
爆発が起こった場所がリーゼロッテたちの近くだということはすでに理解している。すぐにリーゼロッテたちを助けようと振り返ったアリスだが、思い出したかのように動きを止める。
(アイツは自分が出来ることをやるといった。だったら俺も自分がやるべきことをするべきだな)
なんだかんだ言っておきながら結局はリーゼロッテには甘い。だが、今はそんなことを考えている暇はなく、自分の為すべきことを再確認する。
アリスは”身体強化”を使って屋根の上を学生とは思えないほどの速度で移動する。
(さっきの爆発で住民も焦りだしているか……)
屋根の上から見える光景は、爆発によって逃げ惑う人々の姿。突然の出来事のことで街の警備員たちもうまく機能していなかった。
(”神無月”の人間も間に合っていないか……それは仕方ない。俺も急ぐか……)
アリスは移動速度をさらに高める。
「あっ、アリス!」
祠の場所に向かう途中、偶然にも楓たちと出会った。楓たちも先程の爆発を聞いて慌てて祠のところに向かっているようだった。
「今の状況はどうなっている?」
「さっきの爆発を聞いたでしょ? あれは精獣が起こした爆発らしいよ」
「精獣か……なかなか厄介な相手だな。それで精獣のところには誰が行ったんだ?」
「とりあえず“青龍”が向かったわ。それよりアリスはその格好のままでいいの?」
楓が言っているのはアリアの姿でなくてもいいのかということであろう。
「そんなことをしている余裕はない。一応、魔法で姿を変えれるが魔力の無駄だ。それにバレたところで大した問題ではない」
「それもそうね……」
それからはアリスたちは一言も話すことはなかった。何故なら目的の場所に近づいてきたからだ。
(先程まではわからなかったが、ここまで来ると異常な魔力を感じるな……)
クロノスの”ソウルイータ-”によって周囲を警戒していたアリスだが、かなり接近しなければ敵がいると感じることが出来なかった。
アリスでさえ、ここまで来なければ察することが出来なかった。楓たちは敵の存在すら確認できていないだろう。
「……楓。この先に敵がいる。恐らく俺たちが探している奴らだ。気を引き締めろ」
アリスの言葉に楓たちは驚愕する。自分たちでは敵の存在など確認できなかったからだ。これでも魔力察知には自信がある。だが、全くもって機能しなかったのである。
「……ッ! 止まれ」
アリスが物陰から出る一歩手前で楓を制止させる。そしてゆっくりと祠の位置を確認する。
(あれが祠だな。それに祠の近くにいる男……この状況で落ち着いて、ここにいるなんておかしい。つまりはアイツが……)
一人呆然と祠の前で立っている男――彼こそがアリスが追い求めていた敵であろう。しかし、妙に思うところがあった。
(だが、おかしい。どうしてアイツからは魔力が漏れていないんだ?)
アリスが察知した魔力。それは間違いなく、この付近から出ているものである。しかし、目の前の男からは全くといってもいいほど感じなかった。
(……ッ! まさか!)
どこか嫌な予感がして反射的に上空を見る。
本来はイーストの夕焼けが見えるはず。しかし今は剣を振りかぶった少女の姿が――
「……ッ! 避けろ!」
「えっ、ちょっとアリス――」
楓が何かを言いかけていたが、そんな余裕はなく、アリスは思いっきり楓を突き飛ばし、自身も転がるようにして、その場から離れる。
ドゴオオオオーーーーン!
強烈な音とともにアリスたちがいた場所は巨大なクレーターが出来上がっていた。そしてクレーターの中心には剣を振り下ろした少女が立っていた。
自分たちが少女に気づいていなければ今頃はどうなっていたか。考えるだけでもゾッとする。楓も同じことを考えているようで顔を青くしている。
「クックックックッ……」
祠の前で立っている男がこちらを見ずに可笑しなものを見たときのように笑いを漏らす。まるで最初からアリスたちの存在を知っていたかのように。
「いやぁ、その攻撃を避けるとはなぁ……明らかに俺に注意を向けていたはずだったんだが。流石、ファフニールを倒しただけあるか」
男がふと、こちらを見る。
――隙だらけだ。アリスが全力で距離を詰めれば仕留めることが出来るかもしれない。
しかし、アリスの視界に映るもう一人の少女が睨みを利かしている。隙を見せれば逆にこちらが狩られてしまう。それだけの実力をあの少女は持っているとアリスは察する。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はザック。以後、よろしく」
全く緊張感を感じさせないような態度でアリスたちに接する。
「で、今お前たちを襲ったのがサクヤだ」
淡々と自己紹介をしていくが、アリスにとってはどうでもいいことだ。アリスが知りたいことはただ一つ。それは――
「お前たちの目的はなんだ?」
暗躍する正体不明の人物。彼らが何を目的としているかがアリスの必要としている情報だ。
当然、素直に教えてくれるとは思っていない。すぐに捕らえて――
「――俺たちの目的? そんなこと決まっている。この理不尽な世界を壊すことだ」
秘匿することはなく、ザックは素直に自分たちの目的を答えた。まるで知られても問題ないといわんばかりに。
(世界の破壊? そんなことをして一体、なんの意味がある?)
ザックたちはすでに何度か破壊活動を行っている。サウスのファフニールにしろ、祠の破壊にしろだ。しかし、それが目的というのは疑問が残る。少なくともザックたちはかなりの実力を持っている。そんな彼らが破壊だけを目的に活動しているとは思えなかった。
アリスの考えを読み取ったのか、ザックが言葉を続ける。
「あくまで俺たちの目的が世界の破壊だ……いや、俺の目的がっといったところか。つまりは俺しか破壊活動を望んでいないわけだ。お前たちはすでにわかっているとは思うが、俺たちは組織で行動している。その組織の目的こそが――新世界の創造だ」
アリスが考えうる最悪の形となってしまった。
(やはり組織か。予測できていたが、いざとなるとキツいな……)
組織――何人いるかはわからない。だが、明らかに個人よりかは厄介だ。下手をすれば国単位で相手をしなければならない組織の可能性もあるのだから。
「ま、新世界の創造なんてどうでもいい。俺は破壊できたらそれでいい。だってそうだろ? 人間ってものは常に戦いを求めているんだ。殺し、破壊衝動。これが人間……いや、生物の本能だろ? なんらおかしいことじゃない。だが今の世界はどうだ? 他国同士で手を取り合おう? ふざけているのか? 破壊してこその生物! 殺してこその人間! それこそが世界の真理! そう思わないか!」
感極まったかのようにザックは盛大に熱弁する。
(コイツはイカれている……!)
ザックを一言で表すなら狂人。それ以外に表す言葉がない。
狂ったかのように叫ぶザックを見て楓は拒絶反応を起こすかのようにザックから距離を取り、祐斗も不快な表情をしている。しかし、ザックの言葉でわかったこともある。
(少なくともコイツは組織の目的に従っているわけじゃない。つまりは……)
利害が一致した人間の集まり――アリスはそう結論づける。それは組織とは言わない。ただの人数が集まっただけの集団だ。組織よりかははるかに劣る。そのことが知れただけでも十分だ。
(後はこいつらを倒せば俺たちの――)
アリスがザックを仕留めようと魔力をこめた――その時――
「なっ! ”メーティスッ”!」
突然、アリスに襲いかかったサクヤの攻撃を、咄嗟に具現化した〈光を滅する王剣〉で防ぐ。
「悪いが俺の相手はお前じゃないんだ――”精霊殺し”。お前の相手はサクヤがしたいそうだ。珍しくコイツが感情を表したんだ。悪いがつきやってくれや」
ザックはのんきに語るがサクヤの攻撃は少女のものとは思えないほどの重みがある攻撃であった。
「くっ! クソッ!」
滅多に正面から攻撃を受け止めないアリス。だが不覚にも正面から受け止めてしまった。
(本当に女の子なのか!? こんな馬鹿力、”エルフリーデ”にもいないぞ!)
最強を冠する”エルフリーデ”。知っているメンバーだけでも、これ程の力を持った者はいない。もはや人間の域ではない。
そもそもがおかしいのだ。サクヤは自身の身長をも軽々と超える大剣を重さを感じさせないように振り回している。あの大剣が軽いわけではない。攻撃を防いだとき、確かに重みを感じたのだ。あの衝撃はサクヤの力と大剣の重さによるものだ。
「……余計なことを考えていると――死ぬよ、”精霊殺し”?」
瞬間、アリスの中で何かが覚醒する。
(そうだ……アイツは敵……倒すべき敵……)
最近はアリス本来の戦い方をしていなかった。平和な日常に慣れすぎていたのだ。それをサクヤの言葉で思い出した。
(いや、倒すべき敵ではないな……)
短いながら生きてきた15年間。散々、嫌な思いをして経験してきたはずだ。その中で失ったものもある。
(ファフニールはただの雑魚……麒麟は敵対のつもりはなかった……楓はただの決闘だ……だが、アイツは……)
”エルフリーデ”に入る前……ガイアに拾われる前のアリス。その時のアリス――アリス・ロードと名乗る前のアリスこそが――
(――殺すべき敵だ――!)
――真の”精霊殺し”なのだ――




