真の“精霊殺し”
(他愛ない。これで“精霊殺し”を名乗ろうだなんて――)
自分と同じ二つ名故に興味を持った。“精霊殺し”――彼はどれだけの実力者なのだろうと。だが結果はどうだ。
(たった一撃でこの有様だ――)
全力ではなかったが、そこそこの力はこめた。だが、これだけで精一杯に見える姿を目にして興が冷める。
(もう飽きた。さっさと終わりにしよう――)
期待外れだった。これ以上、意味はない。つまらない戦いはここで終わりにしよう。
サクヤがアリスの心臓めがけて大剣を構えたその時――
「……ッ!」
突如、放たれた光線によって、それは中断される。サクヤは光線を避けるためにその場から飛び退いた。
突然の攻撃にサクヤは冷や汗をかく。
(あれは”ライトニングスピア”!)
殺傷能力が高い光属性の上級魔法。ただでさえ、あたるだけで致命的なダメージを受ける魔法。その魔法が――
(私の頭を狙っていた……)
頭――すなわち脳だ。人間、もっといえば生物は攻撃を与えることによって即死する部位がある。心臓なども候補に挙がるが即死ではない。確かに死ぬのだが、反射で攻撃してくることがあるのだ。
魔法を唱えないと魔法が使えない人間はいい。だが無詠唱で唱えることが出来る人間は心臓を打ち抜かれた際、反射で魔法を使ってくる場合がある。
だから相手に攻撃させない戦いの場合での即死と呼ばれる場所は脳など首から上の部分だけなのだ。
(……ッ! アリス――ッ!)
思わずサクヤはアリスを睨めつける。
サクヤは今までアリスに舐めてかかっていたことに気づく。でなければ、これほど恐怖することはなかったのだ。
サクヤの攻撃によって座り込んでいたアリスはゆらりと立ち上がる。俯き加減だが、目はしっかりとサクヤの姿を捕らえている。
(……ッ! やっぱり面白いよアリスッ! そうこなくては面白くない!)
無意識にサクヤの気分が高鳴る。
アリスの目――感情を感じさせない目。ただ殺すことだけ。それ以外の感情はいらない。本当にただ殺すだけ……
その目にサクヤは感動する。そして確信する。彼こそが自分と対を為す“精霊殺し”。そして自分が殺すべき人間だと――
「――君に出会えてよかったよ――アリス――」
出会ってはいけない二人――互いに“精霊殺し”と呼ばれる人間の出会った瞬間であった。
(……久しぶりだな。この感覚……)
長らく忘れていた感情。恐らくガイアに拾われて以来、感じることがなかった感情であった。
(案外、出来るものだな……)
サクヤに向けて放った”ライトニングスピア”。意識がはっきりしている中で、ためらうことなくサクヤの頭めがけて撃った。だが全く罪悪感を感じなかった。それが当然だったとばかりに。
(少しは何か思うことがあると思ったが、そんなことはなかったな……)
そもそも、その頃は何も感じることはなかった。今のアリスはその時と同じような感じだ。だとすれば何も感じることはないだろう。
(そんなことはどうでもいいか。今やることはただ一つ……)
ゆったりと立ち上がる。その最中に無詠唱でアリスの精霊武装の片割れ――〈闇を貫く王剣〉も呼び出す。
〈闇を貫く王剣〉と〈光を滅する王剣〉、そしてアリス――これらすべてがそろってこそが――
(――殺すことだけだ――ッ!)
――“精霊殺し”なのだ――
先に攻撃を仕掛けたのはアリスだ。アリスはサクヤとの距離を一瞬で詰めて自分の得意なレンジに持ち込もうとする。
サクヤの精霊武装は大剣、アリスの精霊武装は短剣。どちらが近距離で有利か言うまでもない。
サクヤも黙ってアリスを近づけることはない。サクヤも懐に入られると危険なことくらいは理解している。よって、この戦いはいかにして自分の得意なレンジで戦うかが勝負の分かれ目だとサクヤは思っている。
ただ大剣だといっても元は精霊武装。本来の大剣よりは重さを感じない。サクヤが大剣を軽々と振り回すことが出来るのはそのためだ。
上手く精霊武装を使うことによってアリスが近づくのを防ぐサクヤ。交流戦でも楓の対処によって苦戦を強いられたアリス。今回も同じように苦戦させられている……はずだった。
「――”グロリアス・レイ”」
アリスは〈光を滅する王剣〉に魔力をこめて軽く振るう。振るわれた〈#光を滅する王剣〉からは高熱の光が放たれた。
「……ッ!? こんなところで本気!? ケツァルッ!」
サクヤが驚愕するが、この魔法は避けることが出来ないと判断して契約精霊の力を借りて防ごうとする。
(――くっ! あれは王級精霊魔法! あの魔法は多数の敵に対して撃つ、広範囲殲滅魔法のはず――ッ!?)
少なくとも、このような街中で放つ魔法ではない。現にアリスが放った”グロリアス・レイ”の余波でいくつもの建物の外装が次々と剥がれていく。
なんとかしてアリスの魔法を防いだサクヤは周囲を見て絶句する。
“グロリアス・レイ”の光が収まった頃には周囲は酷い光景であった。建物は崩壊し、道は“グロリアス・レイ”の熱量によって溶け始めている。
――戦場――その言葉しか浮かばない。いや、戦っているのだから間違っていないのだが、アリスの攻撃一つでこの有様だ。
これでは近くの人間は怪我では済まないだろう。仮にも”エルフリーデ”という称号を持ち、本来は国民を守らなければならないであろう存在――だがアリスは躊躇することもなくサクヤを殺しに来ている。それ以外の結果はいらないといわんばかりに――
(けど、それでいい――ッ!)
サクヤは続々と何かがこみ上げてくるのを必死に抑えているように笑う。
(それでこそ、私が倒すべき相手――たかが人に気を遣っている偽善者とは違う! 己が正しいと思ったことをやり通す意思――そしてそれを実現する実行力! それでこそ“精霊殺し”だ!)
人を殺すことをためらわない。周囲のことはどうなってもいい。自分の思うように行動する孤高の存在。それこそが――
(やっぱりアリスはこちら側の人間だ。君は表に立つ人間ではない。だから“精霊殺し”と名乗れるのだろう?)
アリスは自分を殺す気だ。だったら自分も殺す気で行かなければ失礼だろう。
(見せてあげるよ――これが私の戦い方だ――)
瞬間、サクヤを強大な闇が包み込んだ。
「……ッ?」
突然の事態にアリスは驚くことはなかった。今のアリスは“精霊殺し”――感覚が極限まで研ぎ澄まされていた。
(薄々わかっていたことだがアイツの精霊は闇属性。だが、ただの精霊ではないな。少なくとも上級……幻獣や竜の可能性があるか……)
はっきりと精霊の階級はわからない。だがアリスの感覚では幻獣精霊か竜精霊と同等の魔力を感じられた。つまりは、それらの精霊のいずれかと判断していいだろう。
(そういえば“グロリアス・レイ”を正面から受け止めていたな。王級精霊魔法を受けるとは、なかなか厄介な精霊だな……)
“グロリアス・レイ”を正面から防ぐことが出来る人間はほぼいない。それを止めることが出来るのはメーティスと同等の精霊の契約者――王級精霊か神獣精霊しかいない。
闇の王級精霊はアリスが契約している。神獣精霊は封印されている。つまりは闇の精霊で階級が同等の精霊は存在しないのだ。
(早急に殺す必要があるな)
謎が深まるサクヤの契約精霊。だが、その力を発揮させる前に決着をつければいい。
アリスは身体に微弱の”ソウルイータ-”を纏わせてサクヤの接近を心がける。
(精霊のことは後でゆっくりと調べればいい……)
アリスは地面を蹴ってサクヤとの距離を詰めて――
「”ソウルイータ-”」
攻撃を仕掛けるのであった。




