アシュリーの実力
早々に相手の切り札である”神無月”の一人を相手に引いたアシュリー。正直言って、誰もがアシュリーの敗北を覚悟していたが――
「”貫けぇッ”!」
「――ちぃッ! ”消えろ”!」
今まさに、アシュリーは祐斗と同等に戦っていた。初めこそ祐斗はアシュリーを問題視していなかったようだが、アシュリーの実力を知って、本気を出さざる状況になってしまった。とはいえ、流石に普通の生徒相手に精霊武装を使うのはためらったのか、素手のまま戦っていた。
「アシュリーがあそこまで戦えるなんて……」
アシュリーの奮闘ぶりを見て、リンは唖然としていた。
アリスが気になって聞いてみると、なんとアシュリーは今日まで一度も精霊武装を見せたことがなかったらしい。今のアシュリーの右手には、漆黒の槍が握られている。
精霊武装は戦いにおいて必須となるものだ。アシュリーは最大の武器となる精霊武装を使わずに、自身の実力のみでランキング三位を維持している。それは並大抵のことではない。もし精霊武装なしの実力のみの戦いであれば――
(間違いなく学園最強か……)
もちろん、リンたちも他の生徒たちとは比べものにならないくらいの実力を持っている。そうでなければ実力主義のこの学園で頂点である生徒会に入ることは出来なかっただろう。しかし、それも精霊の力ありきの実力。もし精霊の力が使えないとしたら、彼女たちではアシュリーに勝てない可能性の方が高い。それだけ今の人間は精霊の力を頼りにしていた。
(勝てる可能性も十分にあり得るか……)
楓の話によると祐斗の実力は楓より劣るらしい。楓は精霊無しでも桁外れの実力を持っていたので参考にならないが、今の決闘を観ている辺り、あれが祐斗の純粋な実力であろう。それならば十分に勝てる可能性がある。
精霊武装を使わなければ――
「――焦れったい! 来い! ”バハムート”!」
祐斗がそう叫ぶと同時に、祐斗は光に包まれる。アシュリーも警戒して一端、祐斗から距離を取る。
光が収まり始めると、そこには一本の槍を持った祐斗が――
祐斗が持つ槍は白銀に輝き、それから溢れる魔力も尋常ではない。見るからに、ただの武器ではない。これが意味することは――
(あれがアイツの精霊武装……)
アリスは訝しげに祐斗の持つ精霊武装を見つめる。情報からして光の神獣精霊バハムート。そして象徴は――
(すべてのものを”破壊”する、か――)
恐らくメーティスと似た能力で打ち消しに特化した能力のはずだ。もしそうならば、まともに撃ち合えば魔法を祐斗に当てることは困難であろう。
しかし、希望もある。王級精霊、神獣精霊は精霊の頂点に君臨する存在だ――ただし、各属性の、である。
(見る限り、アシュリーさんの精霊は闇属性のはずだ。そうであれば精霊の格次第で勝機がある)
王級精霊たちが頂点に君臨する存在なのは、その属性にはない能力を持つからである。例えば”消滅”を持つメーティス。光属性では唯一無二の存在だが、この能力は火、風属性の精霊も持っている。
つまりこれが意味することは、自分の属性を束ねるためには自分の属性にはない特徴を持って制さなければならない。それも自分が有利になるような。それを踏まえて、防御や回復に長けている光属性の精霊たちを抑えるために王級、神獣精霊の能力がそれぞれ”消滅”、”破壊”と攻撃的な能力になっているわけだ。
だが、例外も存在しており、そもそも存在自体が特徴的な闇属性では、何を持ってクロノスが王となり、”吸収”の能力でまとめているかは不明だ。もしかしたら、反抗してくる精霊の魔力を吸収して無理矢理押さえつけているのかもしれないが。
そう言った意味では、実力があるアシュリーにも勝機があった。
(そろそろ勝負も決まるか……)
アリスはアシュリーの結果を期待しながら、再び決闘に意識を向けるのであった。
「あれはまずくない……?」
祐斗が握る精霊武装。明らかに学生が持つものではない、異様な魔力を放っている。
(この魔力も怖いけど、全く感じさせないアリスも怖いなぁ……)
母親から聞いたアリスの情報――それが正しければ、アリスと祐斗が契約している精霊は頂点に君臨する者。同じ位の精霊でも、これだけ迫力が違うものかと、アシュリーは額から汗を流していた。しかし、相手が誰であれ、アシュリーのやることは変わらない。
「……勝つって約束したものね。やってやるよ!」
アシュリーは全魔力を精霊武装にこめる。チャンスは一度。ミスすれば負け。そのことはアシュリー自身が一番わかっている。そして、精霊武装を振るう――
「”ぶっ飛べぇッ”!」
アシュリーの精霊武装から漆黒の刃が放たれ――




