勝負の行方
「負けたぁッ!」
アシュリーが控え室に帰ってきてからの第一声。決闘に負けて悔しそうにしていたが、どこか楽しそうでもあった。久々に本気で勝てない相手に出会えたからであろう。
(精霊も使わずにランキング上位にいれば当然か……)
気持ちはわからないでもないとアリスも納得する。
それでアシュリーの決闘だが、”ダークブラスト”を刃の形状に変えるという高等技術を披露したのだが、祐斗も”ダークブラスト”の形状をなぞるように精霊武装を振って相殺した。その後、精霊武装を投げるという前代未聞の行動を取り、投げた精霊武装は正確にアシュリーの精霊武装をとらえ、はじき飛ばした。
そして、祐斗はアシュリーに無言で右手を向ける。別に手を向けなくても魔法を放てるが、恐らくはいつでも撃てるぞという維持表示であったのだろう。そんなことをしなくても、勝機がないことを悟ったアシュリーは潔く降参した。これが今回の決闘の結果である。
しかし、アシュリーの実力であれば降参などしなくてもよかったのではと思ったが――
「アイツ、中級魔法しか使ってなかったのよ。実力は私の方が上と思っていたけど、そうじゃなかったわ。流石だったわ」
思い返してみると、祐斗はアシュリーに対して中級魔法しか使っていなかった。実力のみのではアシュリーの方が上だと思っていたが、そうでもなかったらしい。一応、手加減をしていたらしい。もっとも、中級魔法の威力ではなかったが。
しかし、アシュリーが負けたのは事実だ。これでこちらの一敗。あと二試合、負けてしまえばアリスたちの負けが決定する。そして次は――
「さてと、次は私の番かぁ……」
軽くあくびをして全く緊張感を感じさせない少女、リンであった。仮にも次に負けてしまえば後がないというのに気楽なものだ。
「あなた、そんな調子で大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私には伝家の宝刀、詠唱破棄があるんだから!」
「この前、使えたばかりでしょうが……」
リンに呆れた視線を送るミュア。確かに今のリンは浮かれているようにしか見えない。そんな状態であれば足下がすくわれるが――
(恐らくはチームの雰囲気を下げないようにするためだな……多分)
リンのバカらしいノリはチームの雰囲気をよくするためであってほしい。そう願うアリス。一応、このチームのリーダーであるのだから、せめてそうであってほしい。
「まあ、行ってきますわ。軽く勝利を取ってくるからよろしくねー」
「はいはい。油断だけはしないでね」
軽く手を振りながらこの場を去るリン。その様子を見てアリスは不安しか浮かばなかった。そんなアリスの気持ちを察したのか、ミュアが隣から――
「大丈夫よ。本番はしっかりする子だから」
しかし、ミュアの助言があっても、アリスの不安は消えないのであった。
アリスたちと別れてしばらくして――
(さて、おふざけはこれくらいにするか)
リンは気持ちを切り替える。その雰囲気は先ほどとは全く異なり、一切の無駄を排除していた。
(まぁ、アシュリーがあそこまで出来るのは予想外だったけど、相手が悪かったわね。でも問題ではないわ。私とミュア、そしてアリス。この三人が勝てば問題ないからね。リーゼロッテも実力はあるけど、多分、今回は負けるんじゃないかしら? でも、これを経験にしてくれればいいかな?)
リンがふざけた雰囲気を見せていたのは、アリスの予想通り、チームの雰囲気を下げないようにするためであった。もっと言えば、リーゼロッテが緊張しないようにと配慮してのことであった。
リンはチーム全員で勝つというわけではなく最低限、つまりは三人だけが勝てばよいと考えていた。これは無謀にも見えるが、来年のことも考えると、一人でも多くの交流戦経験者を出したかったのであろう。仮にリーゼロッテの枠を通年通り三年生でいけば、翌年の経験者は二人となり、残りの三人は初めての交流戦となるわけだ。
しかし、今年はリーゼロッテが参加することで来年はアリス、アシュリー、そしてリーゼロッテと最低限、勝利に必要な人数がそろうわけだ。このこともあり、リンはリーゼロッテの参加も認めていた。だから実際にはアシュリーが仕組んでアリスとリーゼロッテの同時参加を促したと言うことはなく、むしろリンが仕組んでいたと考えてもいい。つまりはアリスの勘違いというわけであった。
(では、やりますか――!)




