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卒業

7.卒業


退院して、卒業しても、うつ病は完治する物では無い。

多くの場合、ストレスを抱えたままでいると、誰でも自分が一番弱いと思っている、胃や腰など、どの部位でも原因の分からない痛みが出る。それが最初の警鐘だ。

一般には自律神経失調症から始まり、身体の色々な部位の神経が異常を来たし、スイッチの切り替えが上手くいかなくなる事によって分かるが、足が痛い時に初めに精神病を疑う事はありえないだろう。外科に行くのが普通だ。だから発症しても自分でも気付かない事が多く、そのまま悪化し、うつ病に発展するのが主だ。

僕は手汗を異常にかくようになり、ペンが滑る事も多かった。手掌多汗症を併発した事が後で分かった。胃もとても弱かったが、今では全く痛まないし汗もかかない。

が、うつ病の治療は年単位で、回復こそしているものの、障害者手帳3級を取得し、現在も投薬による治療を続けながら大学に通っている。頭が重くなる事は今でも多く、勉強を続けると頭痛がしたり、集中力の低下により単純な計算も間違えやすくなる為、他の学生よりハンデを背負って通学している。

そのため学生の場合、殆どは退学を選ぶそうだが、入院で出会った人達を思い出し、僕は今でも生きている。いや、一度は死んだのだろう。その自分と決別して、気持ちを新たにして、歩いている。今が生きている実感がある。

世間の目は相変わらずだ。バイト先にうつ病の話をしたら、その日からシフトが1日も入らなくなった。間接的に解雇されたのだ。

大学も休学を許可してくれたものの、1年間のみで完治せず、今も体力と気力の限界をやりくりしながら通学せざるを得ない。

中高、大学の友達も減った。性格が変わったから。元々顔が広かったがうつ病になりコミュニケーションは今でも前の様には行かない、冗談も言えなくなった。口を開けば、どっかで覚えた知識をまんま口ずさむか、病気と薬の事をだらだら話すだけだから交友関係はかなり狭まる。話しても分かる人がいない。休学をしていれば人と会う事など病院に行く時以外に無いだろう。精神が不安定な上、社会的に孤独になりやすい。

うつ病は完治しない上、再発率は5割。心の病が一生付いて回る。就職などでも不利になるだろう。が働けるならうつ病である事を隠して働く権利がある。それでも辛い事には変わりない。死にたくなる事、自殺を考える事は今でも起こる。


後で調べたが、躁鬱と言う、うつ病に似た病気もある。これは、躁と言う、鬱とは別のベクトルを持つ、イライラした感情が制御出来なくなる。それとうつ病が交互に発症する病気で、完治はせず、うつ病より治療が成功する割合も低い。

パニック障害、PTSD、閉所恐怖症などを併発する人も多い。

うつ病の経験が無い人には、「自分だけ辛い」と、サボっている様に見えるが、立派な精神病である。軽い気持ちでも悪口や中傷は、その患者の心を踏み躙り、自殺に追いやるだけの暴力性を持つ。

うつ病以外の、認知症などにも当てはまるが、どの病気であっても、人と同じ、若しくはそれより敏感な感情を持っている。

経験則だが、理解の無い人の言葉は、自殺をする事よりも痛みを感じる。だから自殺を選ぶ。

知らない人は縁が無いだろうが、そう言った人がいる世間が今の日本の文化であり社会を作っている。

暴力を振るうと犯罪になるが、誹謗中傷は犯罪になりにくい。

日本の文化は勤勉であり仕事もしっかりとこなす。そのイメージが日本人を苦しめる。それに沿わない人は実力がない人、努力が足りない人はもちろんいるだろうが、精神病を抱えている場合も多分に存在する。

その人に対してどう接するべきかは、皆まで言わずと分かるだろう。

元々真面目な人や勤勉な人ほど、失敗を経験すると精神病を患いやすい。誰にでも起こりうる。それを知らない事は、非常識であり、社会人として恥ずべき事である。

でもやはりうつ病の辛さは経験者にしか分からない。

思考、理性を奪われる事、これが恐ろしい事は僕のこの文章を読めば、もしくは薬物濫用の事件を見ればすぐ分かるだろう。

もう「人間ではない」からだ。

思考が普通の人間ではなくなる。自分の意思が分からなくなるが、身を守る為に死を選ぶ。それを止める事が出来るのは、側で見守っている家族でなければ難しい。

「うつ病で死ぬ事はない」と言うのも大嘘だと言うのは考えるのも容易い。心を病んだ人は常に死と隣り合わせにある事、それを認識して欲しい。


電車で人身事故が起こった時、それぞれがどう思うか、かなり違いが出ると思う。想像するとどうだろうか。

電車の出る時間の遅延する事ににイライラする者は、「自殺するなら場所を選べ」など思うだろう。他人の迷惑を考えれば当然であるが、倫理観からは最低の解答だ。

死ぬことしかない人にとっては死に方を選ぶ精神的余裕などない。絶望だけだ。せめてもの死後の安楽を願う。想像さえつかないだろうが、うつ病の僕達から見たら「死ぬ決断ができて羨ましい」とさえ思う。

遺族は多額の請求を受ける為、かなりの負担を負うことになる。この人達は自分達の責任もあるだろうが、イライラ程度で済むか?

轢き殺した電車の運転士はどう思うだろう。事故とはいえ「自分が人を殺した」と言う事実に苦しまざるを得ない。心を病む人も出るだろう。

轢かれた遺体を見た人は何を思うだろう。恐怖を感じる人は決して少なくない。

遺体を片付ける人は何とも思わないだろうか?

死んだ本人はただの迷惑をかけるだけの死ぬべき存在だったろうか?

報道する人は人の死をどう思っているだろうか?

それでも、他人の迷惑を考えろと、上から言えるだろうか?

考えてみて欲しい。

壊れたコンピュータは使えないし場所を取るから捨てる。

うつ病患者は社会にとって足かせになるから切り捨てる。

同じだろうか?仮に自分が切り捨てられる側の立場なら素直に捨てられることを受け入れられるだろうか?

受け入れられないと思う。だから足掻く。それがコンピュータと人の違いだ。

うつ病になって死を選ぶ人もいれば、死なずに済む人もいる。うつ病は社会的立場で非常に不利だ。でも乗り越えて生きる人もいる。どうか、見捨てないで欲しい。「うつ病」と言うハンディキャップを抱えた人がいる事を理解して欲しい。知識として知るのではなく、心に刻んで欲しい。

僕は生きる事で乗り越えられる事を証明し、これを書く事でうつ病を知ってもらい、苦しむ患者の周りにいる人へ、優しさを持って少しだけ歩み寄ってくれる事を切に願う。



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