第百十八話 亡都魔界決戦(3)
長めです。
「「「「ハヤテさん!?」」」」
阿修羅地蔵の背面で黒頭巾腐肉族たちの叫びが重なる。
その声が向けられた者――彼らを率いる頭のハヤテは、地中から飛び出した触手モドキの痛烈な一撃を受けて吹き飛ばされてしまった。
そして二十メートル近く離れた位置に落下して……ピクリとも動かない。
武器を挟むことで多少、受けられたのか? まだ生きているのか死んでいるのか?
状況は正確には分からないが、確実に言えるのは戦闘不能になったということだ。
そんなハヤテの詳しい状態を確認するヒマなどない。
背面にいるほかの者たちへの苛烈な攻撃は、すでに始まっているのだから。
「何で、僕を……っ!?」
ハヤテに庇われたガガクは驚きつつも、阿修羅地蔵から視線を切らずに戦闘を続行する。
彼が間に入っていなければ、自分が少なくとも戦闘不能になっていたことはガガクも理解していた。
ただまさかハヤテが助けてくれるとは夢にも思わなかったのだ。
だからこそガガクは驚き、戸惑ってしまう。冷や汗をかきながら感謝もしつつ、新たな仲間の身を案じてしまう。
「……さすがはヒノモト王国軍にして元『青龍騎士団』か。しっかり子供を守るとは――おっさんは見直したぞ!」
ただの嫌味なヤツが、大切な仲間の命の恩人に。
最後方でその一部始終を見ていたヨシくんは叫び、阿修羅地蔵の攻撃がほかの者に集中した隙を狙って動く。
――まずはハヤテの戦場からの離脱を。
吹き飛ばされても位置的には追撃を受ける可能性は充分あるのだ。
ゆえにヨシくんは全速力でハヤテに駆け寄って状態を確認する。
幸い欠損は見られず、まだ命はあると信じて阿修羅地蔵から離れていく。
「お前ら! あのおっさんの方に触手を行かせるなよ!」
「了解だ!」
「よっしゃ、任せろ!」
それを察した黒頭巾腐肉族たちも即座に動く。
彼ら背面にいる仲間たちのサポートもあり、ヨシくんは狙われることなく五十メートルほど後退することに成功する。
……あとはモモヒメに任せるだけだ。
待機していた頼れる回復担当の堕天使族が転移で飛んできたのを確認。
ヨシくんは「頼む」と一言告げると、またすぐに戦場へと戻っていく。
それら一連の動きは正面で戦うテンドウとニゴマルには見えていない。
阿修羅地蔵の巨体と最も苛烈な攻撃により、何も確認できてはいなかったが――。
「!? くそ! これはマズイぞ……!」
そのテンドウから焦りの声が漏れる。
理由はほとんど見えない背面ではなく、右側面だ。
テンドウから見ると左手側の戦いで――恐れていたことが発生していた。
担当するロッポウがついに被弾してしまったのだ。
まともに直撃することは免れたものの、触手モドキの一撃でどうやら右脚を負傷してしまったらしい。
速度が売りのロッポウの動きが完全に止まり、その場で片膝をついてしまっている。
「……チィ! こんなことならガガクやカグラと一緒に走り込みでもしとくんだったぜ……!」
そう悔んだロッポウはゼェハァ、と肩で息をしている状態だ。
つまりは疲労困憊、受けたダメージこそ右脚だけだが、体力面で尽きかけている。
吸血鬼族という種族的に速度や攻撃力に優れる一方、これほど動き回る長期戦はかつてなかったため……決して高くない持久力の面で危機に陥ってしまったのだ。
――そこへ襲い来る白い獄縄触手による魔法攻撃。
イマタイらの妨害によって発動は遅れているも、今のロッポウに回避することは困難だ。
「させるか! だべ!」
が、間一髪でロッポウを守ったのはヒュウガだった。
右側面を担当していたもう一人の重戦士が間に入り、防御態勢へ。
亀のごとく丸まって低く構え、放たれた亡霊騎王の【斬竜剣】を受け止めてみせた。
それを可能としたのは、ほかでもない『深冥岩の鎧』のおかげだ。
セイカの魔力が限界まで注入されて強化された、世界一硬いヒュウガ専用の防具。
強烈な一撃を受けても表面が欠けただけで、装備者の命をしっかりと守ってくれた。
(ッぐゥ!?)
――が、しかし。それでも完璧には止められないのは……さすがは『不死の三傑』の魔法攻撃か。
バキィン! と、派手に砕け散った球体状の鎚矛。
こちらもガードに使っていたことで、ヒュウガは武器を失ってしまう。
「っく! 一発で武器がお釈迦になるとは……! とにかくロッポウは一旦、下がるべよ! ここはしばらく引き受けたべ!」
「だ、だが一人じゃさすがヤベーだろーよ!?」
「やむを得ないべな! とにかく早くモモヒメの回復を、だべ!」
「わ、悪いヒュウガ……! 急いで戻るからちーっと待ってろ!」
何とか脚を引きずりながらも、ロッポウは【蝙蝠黒道】で道を敷いて滑るように戦線を離脱する。
そして右側面で一人になってしまったヒュウガだったが、すぐさまその状況を見て動いたのが――。
「ヤツが戻るまでは我らが加勢する!」
「さすがに盾役とはいえ一人で滅多打ちは無謀だからな!」
「それに俺らは二十年以上先輩だからな。頼ってかまわんぞ!」
三体の黒頭巾腐肉族、もとい同じヒノモト王国軍に在籍していた先輩兵士たちが右側面へ。
ヒュウガを含めた四人体制となった彼らは、指示がなくとも瞬時に陣形を整えた。
……そこにはもう不快だった『つっかかりファミリー』の面影はない。
どこか懐かしく感じる、頼りになる小隊となって右側面に加わってくれていた。
「た、助かったべ! これでロッポウが戻るまで耐え凌いで――」
が、そのヒュウガの言葉が最後まで紡がれることはなかった。
ここから四人で耐え抜いて、何とか戦線を維持しようと意気込んだ矢先。
――ボゴォオン! という突然の爆発が発生。
加勢してくれた一体の黒頭巾腐肉族の足元からそれは生まれ――激しい爆風と土煙とともに、いくつもの肉片が飛び散っていく。
「「「なッ!?」」」
その不測の事態にヒュウガたちが戦慄する。
ついさっきまで近くにいた一体が爆発に巻き込まれ、残された者たちの全身には爆散した仲間の血肉が付着していた。
……爆発したのはついさっき、触手モドキが叩きつけの攻撃をした場所だ。
だがなぜ? 火薬の臭いなど微塵もないのに、なぜ急に爆発などが起きたのか?
その答えは自由自在に宙で荒ぶる、四本の触手モドキの先端にあった。
獄縄触手と違って手ではなく、ただの塊である先端が赤熱していたのだ。
また瓦礫や捲れ上がった地面で分かりづらいが、戦場にはわずかに赤熱した箇所がポツポツと点在している。
「設置型――だべか!」
そこでヒュウガたちは理解した。
もしアレを踏んだ瞬間、さっきのような爆発が生まれると。
少なくとも中位魔法級の威力があるそれに巻き込まれて、高い防御力を誇るヒュウガ以外は確実に死ぬ、と。
「!? ここにきてまた何か余計な能力を……! 白くなった獄縄触手だけじゃないのか!?」
「コノ爆発ハ……マサカ我ガファミリーノ者ノ能力カ!」
と、右側面だけでなく正面で戦うテンドウとニゴマルもそれに気づく。
とくにニゴマルの方は身に覚えがあるらしい。
戦場に設置されている赤熱した地雷(?)を見て、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
ただ純粋な、鞭のようにしなる大質量の打撃を繰り出すだけ、と思われた触手モドキ。
どうやらそっちも獄縄触手のように、生贄にしたアンデッドの能力を使えるようだ。
「ったく、厄介な……! とはいえ所詮は偽物だ。使える能力に限界はあるはずで……『不死の三傑』の魔法はないはずだ!」
四本ある触手モドキの魔力を見て、何となくそう判断するテンドウ。
――事実、その読みは当たっていた。
上位魔法級の威力の魔法を放てるのは、特別な白い獄縄触手の方だけだ。
ただそれが分かったところで……残念ながら戦況が好転することはない。
足場が狭まりこれまでよりも苦しくなり、敵の巨体も相まって感じる圧迫感。
けれど邪魔な地雷をすべて処理しているヒマなどないのだ。
「「「「――ッ……!」」」」
そしてそれは前後左右、すべての戦場で起きている。
その厄介な地雷が影響したのかは定かではないが、ここでついに崩れたのは――これまで最も危なげなく戦っていた阿修羅地蔵の左側面だ。
「こ、これが混沌の世界の王の力でござるか……!」
「ぬぐゥ! 俺が力負けするとは予想外でい……!」
前衛を務めていたゴザエモンとギュウベエの二体。
種族的にもタフな怒髪天族たちが、揃ってダウンしてしまっている。
己の力への過信か、はたまた惚れた女へのアピールか。
どちらにせよ触手モドキと不必要に打ち合いすぎた結果、手痛い反撃を喰らってしまい、拳を砕かれ腕をへし折られてしまっていた。
「……くッ……!」
――さらには、もう一体。
後衛を担当していた羽織袴の亡霊族の強者、ジンロウタまでもが地面の上に片膝をついてしまっている。
半霊体な体ゆえにダメージは分かりにくいが……体を構成する靄のようなものに大きな揺らぎが出ていた。
それが看過できない傷であることは、本人自身が最も理解しているだろう。
ロッポウと同じく種族的に打たれ強くはないのだ。
ここまで完璧な回避からの反撃をしていたジンロウタだったが、きっかけは前衛二体が崩れたことだ。
仲間への追撃の【氷帝の逆鉾】。
遅延はされても発動された致命的なそれを、正確無比な黄金の一射で喰い止めた一方で、
四本ある触手モドキのうち二本に集中的に狙われて――捌ききれずに被弾してしまったのだ。
(これは……本気でマズイな)
破滅的な魔力砲をクロちゃんに回避してもらい、きっちりと余波を攻撃で相殺しながら、
馬上のテンドウの額からは滝のような汗が噴き出していた。
戦いの流れが大きく動いている。……それも悪い方向に。
確実に阿修羅地蔵の体力は削れてはいるも、それ以上に同盟側が削られている感覚だ。
敵は動き回らず常にドスンと構える形で、表情も修羅のまま変わらないのも……心理的にはキツイものがあった。
こちらが削りきる前に壊滅させられる――。
勝利ではなく敗北の二文字が、ひたひたと同盟側に近づいてきていた。
◆
「…………、」
重傷を負ったジンロウタは静かに立ち上がった。
そして阿修羅地蔵を睨むように見上げながら――誰にも聞こえない声で呟いた。
「やむを得ないか」と。
次にジンロウタが取った行動は素早かった。
中、遠距離型ゆえに阿修羅地蔵とは離れていた距離をさらにあけると、百メートルほどの位置まで下がったのだ。
「サラサ。……来い」
ジンロウタはまた静かに言う。
重傷を負った半霊体な体を必死に動かして戦線を離脱し、仲間たちに攻撃が向いたのを確認してから指示を出した。
「――ジンロウタ様!」
そこへ十秒とかからず配下のサラサが駆け寄ってきた。
カンナギ城にいるセイカたちとは別の場所に待機していた女児亡霊族は、片膝をついているジンロウタを心配する。
「酷いダメージ……。やっぱりやっぱり、私の『よろしく魔法』を使って保険をかけておけば……!」
「いや、それは無理な話だ。あの『炎の剣士』……テンドウじゃあるまいし、無尽蔵に撃ち続けられはしないからな。万全の魔力状態で挑まんと話にならん」
首を横に振り、忌まわしそうに阿修羅地蔵を見る。
遠目から観察していた時から分かっていたが、いざ勝負を仕掛けて戦ったことで、改めて敵の脅威を痛感していた。
そのジンロウタはとある方向に手を向けて制止のようなポーズを取っている。
その先にいるのは……回復担当のモモヒメだ。
一度、下がったゴザエモンとギュウベエに簡易的な回復を行い、次にジンロウタのもとに転移しようとしていたのを寸前で止めたのだ。
「…………、」
――すなわち、回復魔法の拒絶。
この時すでに、ジンロウタはモモヒメに回復してもらう考えは微塵もなかった。
もしダメージを全快させたとて、肝心の魔力の方は有限なのだ。
一応、モモヒメは【黒天充魔】という特殊な魔法で魔力を回復させることはできる。
それでも、この戦いが持久戦だということを考えれば……あまり得策とは言えない。
いかんせんジンロウタが消費する魔力が多すぎるからだ。
魔力を補充してもらったとしても、またすぐに空になるだけ。
その結果、モモヒメが肝心の回復魔法に魔力を回せなくなるのは本末転倒である。
(かといって、あの怪物相手に魔力を抑えた攻撃など無意味。そして全力でやっても削りきれないとなれば――)
もとから鋭いジンロウタの目つきがさらに鋭くなる。
ここまで散々、黄金の矢を撃ち込んできたからこそ分かる。
阿修羅地蔵という強大な存在を本当に倒すのなら――もうここで特大の一撃を入れた方が可能性はある、と。
「……サラサ、世話になったな。俺は先に逝く。お前はこれから……好きに生きていけ」
そしてジンロウタは唐突に別れの言葉を口にした。
だがサラサはそれを予想していたのだろう。決して驚くことはなく、けれど悲し気な顔となって俯いてしまった。
――一度、こうと決めたら絶対に曲げない頑固者。
人間時代からの長い付き合いもあって、ジンロウタを説得できないことはサラサが一番、分かっている。
「……ありがとう、ジンロウタ様。お金、苦しかったのに……私を妹にしてくれて」
「……フッ、何度も言わせるな。ただ俺が好きでやったことだからな」
仲間たちの命懸けの戦闘音が響く中、ジンロウタとサラサが思い出すのは――長すぎたアンデッド時代ではなく、遥か昔の人間時代のことだ。
日銭暮らしの貧乏人と、魔物が原因で親を亡くした孤児。
どこにでもいる二人は偶然に出会い、力を合わせてこの街で生き抜いてきたのだ。
年が二十ほど離れていたとしても、性格が正反対であっても関係はない。
大規模発生の犠牲になるその時まで、本当の兄妹のように仲良く暮らしてきたのだ。
流れる血こそ繋がりはなくとも……その絆はたしかなものだった。
アンデッドに生まれ変わった日時も、場所も、種族も、すべてがまったく同じ。
さらに手を取り合った状態のまま目覚めたのは――その証明と言ってもいいだろう。
「混沌の世界の王だったか? ……最期は我が妹の前で派手に散らせてもらうとしようか」
言って、『黄金弓』と恐れられた強者は獰猛に笑う。
そして最後にサラサの頭を撫でると、今度はまるで正反対となる、彼女だけに見せる優しい笑みを浮かべてから。
亡霊な両脚に力を入れて立ち上がり――距離は詰めずにその立ち位置のまま構えを取った。
ただそれは弓を射る体勢ではない。
ほとんど棒立ちに近い体勢で、祈るように両手を胸の前で合わせたものだ。
「――!?」
そのジンロウタの変化に真っ先に気づいたのは――テンドウだった。
回避はクロちゃんに任せているためほかの者よりも余裕はある。
ゆえに戦場から離れた位置にいるジンロウタにも気づけていた。
……あの時は千体以上のアンデッドが生贄に捧げられるという異常な状況だったのだ。
だから気づくことができなかったが……今なら手に取るようにハッキリと分かる。
まるでそのまま爆散してしまいそうなほどの魔力の荒らぶりと危うさ。
それは異形アンデッドにあった不自然な揺らぎの比ではない。
ジンロウタの亡霊な体の中にそれが渦巻き、今まさに解放されようとしているのだ。
(!? まさかアレが……! 以前、サラサが言っていた特攻ってやつか!?)
そうテンドウが理解したと同時。
阿修羅地蔵の左側面、百メートルほど離れた位置から――。
「【一矢神風】」
瞬間、ジンロウタ自身が黄金に輝く大きな一本の矢に変化した。
人型から矢の形へと姿を変えて、爆散しそうだった魔力も一つの強固な塊となる。
そして、弓幹や弦がないにもかかわず――音速を超える速度で射出された。
ジンロウタが最後の最後に放った奥の手。――その一瞬だけは、戦場の空気が彼のものとなった。
それは瞬く間に戦場の中心へと到達し――ドゴォオン! と。
弓矢というより砲撃のようなけたたましい轟音とともに、阿修羅地蔵の側頭部に直撃する。
『――! ――、――!』
直後、初めて阿修羅地蔵が呻いた。
声帯がないからか声こそないものの、間違いなく苦しそうに呻いたのだ。
……これまでいくら削ろうともなかった反応である。
もちろん、皆が総力を挙げて削り続けた結果でもあるのは間違いない。
だがテンドウ、ニゴマル、ジンロウタの一撃が重なった時にもなかった、極めて大きな反応を示したのだ。
「「「「!」」」」
――さらには、側頭部の表面が砕け散ったことで露出した、人間でいう脳ミソの部分。
とはいえ錆色の体表の下にあったのは、臓物といった類のものではない。
何千何万もの闇の大蛇がとぐろを巻いたような集合体――。
得体の知れない何とも気味の悪いものが、阿修羅地蔵の内側には存在していた。
「あれは物体……じゃなくて霊体か!? どうなってやがんだアイツの中は!? ……意味不明です!」
「だな。……まあ何にしろ、だ。しっかりとお前の覚悟は見届けさせてもらったぞ――ジンロウタ!」
叫んだドンチンとテンドウの重なる視線の先。
そこでは阿修羅地蔵の足元で半霊体な体が霧散していくジンロウタの姿があった。
すでに意識もなく絶命しているように見えるが……残されたテンドウたちは感謝せずにはいられない。
文字通り命を賭して繰り出した決死の一撃――。
その威力に一切の偽りはなく、瞬間的な火力は【米文字斬り】やニゴマルの【断罪罰刀】をも凌駕していた。
結果、硬くぶ厚い表皮が砕け落ちて露出した、明らかに狙うべき弱点。
防御が薄いそこへ攻撃を撃ち込めば、確実に段違いなダメージが期待できるはずだ。
(ここまでお膳立てしてもらって……! 応えられなきゃ俺は! 男でも兵士でも何でもないだろ!)
だからこその本気の感謝である。
それは相手が人間だろうとアンデッドだろうと関係ない。
自分たちが押しきれなかった申し訳なさも感じつつ、託されたテンドウとしては、ジンロウタの行動を決して無駄にはできないのだ。
「やるぞ、ニゴマル! あそこを交互に狙う――」
終わりが見えそうで見えなかった戦いに差した、たしかな光。
テンドウは隣に並ぶ相方に声をかけていた途中で――ふと別の方へと意識が向いた。
その先にいるのは……女児亡霊族のサラサだ。
なぜかは分からない。だが吸い寄せられるように彼女の方に意識と視線が向いたのである。
自らを犠牲にしたジンロウタの死。その事実に悲し気な顔をしていた彼女は、テンドウ(と兜化したドンチン)の視線に気づくと――突然、ウィンクをしてきた。
「?」
……彼女もまた、何かをしようとしている。
そのウィンクの意味がただの無邪気な子供のそれでないことを、テンドウは瞬時に理解した。
直後、大ダメージを負って動きが止まりかけていた阿修羅地蔵に向けて。
再びテンドウたちが動き出す前に――戦場から離れていたサラサが先に動く。
「何も命懸けの特攻ができるのは……ジンロウタ様だけじゃないんだよ?」
誰にも聞こえない声で、そう呟きながら。




