表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
品質バカと笑われた錬金術師の極上ポーションが、閑古鳥の工房から王都を救う  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

エピローグ「琥珀色の約束」

 あれから、三年という月日が流れた。

 王都ルクセリアの風景も少しずつ変わり、新しい建物が増え、人々の服装も洗練されてきた。

 しかし、下町の路地裏にあるその場所だけは、変わらぬ温かさを保ち続けていた。


 「工房アロマドロップ」。

 かつては小さな木造の建物だったが、今では隣の土地まで拡張され、立派なレンガ造りの工房兼店舗になっている。

 入り口には、王家から授与された「王室御用達」の盾が飾られているが、それはあくまで控えめな位置にあった。

 店主のアルドが、「威張りたくないから」と言って目立たない場所に飾らせたのだ。


「先生、第3釜の温度が安定しました!」


「よし、じゃあ魔力充填を開始してくれ。ゆっくりだぞ、焦るなよ」


 工房の中では、十名ほどの若いスタッフがきびきびと働いていた。

 かつてソラリスで働いていた職人や、地方からアルドに憧れてやってきた弟子たちだ。

 アルドは白衣の袖をまくり、彼らの作業を一人ひとり丁寧に見て回っている。

 その顔つきは、三年前よりも精悍になり、指導者としての威厳が備わっていた。


「アルド、ちょっと休憩にしない?」


 奥の居住スペースから、エプロン姿のミナが顔を出した。

 彼女の左手の薬指には、銀色の指輪が光っている。

 そして、その腕には、生後半年になる赤ん坊が抱かれていた。


「おお、ごめんごめん。もうそんな時間か」


 アルドは相好を崩し、急いで手を洗ってミナの元へ駆け寄った。

 赤ん坊――二人の息子であるノアが、アルドの顔を見てキャッキャと笑う。


「よしよし、いい子にしてたか? 父ちゃんは仕事頑張ったぞ」


「ふふ、ノアったら、アルドが釜を混ぜるマネをすると喜ぶのよ。将来はパパみたいな錬金術師になるかもね」


「それは頼もしいな。でも、もう少し大きくなったら、まずは薬草洗いからだぞ。基礎が大事だからな」


 アルドが真面目な顔で言うと、ミナは可笑しそうに吹き出した。


「もう、気が早いわよ。……でも、嬉しいわ。この子が大きくなる頃には、もっといい世界になってるといいわね」


 三年前、アルドが王女に願った「品質第一の業界」。

 その願いは、着実に現実のものとなっていた。

 帝国との技術交流も進み、今では王都のどの薬屋でも、安全で高品質なポーションが手に入るようになっている。

 無理な価格競争はなくなり、職人たちは誇りを持って仕事をしている。


「なるさ。僕たちが作り続ける限り」


 アルドはノアの小さな手をそっと握った。

 温かくて、柔らかい手。

 この手の中に、未来がある。

 かつて父から受け継いだバトンを、今度は自分が次の世代へと渡していくのだ。


「ありがとう、ミナ。君がいてくれたから、ここまで来られた」


「何を今さら。これからもずーっと一緒よ、パートナーさん」


 二人は微笑み合い、窓の外を見た。

 夕日が街を黄金色に染めている。

 ショーウィンドウに並んだポーションが、その光を受けてキラキラと輝いていた。

 まるで、二人の未来を祝福するかのような、美しい琥珀色の光だった。


 工房アロマドロップの物語は、ここで一区切りとなる。

 だが、彼らの営みはこれからも続いていく。

 誠実に、丁寧に、心を込めて。

 その一滴が、誰かの明日を救うことを信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ