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数日後、ヴィーナスをターゲットとした仕事が回ってきた。
対応したのは鐘捲雛子とジョン・グッドマン。
俺は留守番だ。
惑星がこうしてみんな死ぬべきだったのか、それは分からない。ただ、ガイアという脅威に対処しようと思ったら、やはり彼女たちを排除する必要があった。
朝の十時に出かけた二人は、午後の二時には戻ってきた。
対策本部の官僚宅に潜伏していたらしい。その際、ヴィーナスをかばった官僚も死亡したとのことだが、その件は不問とされた。まあ不問と判断したのは主流派と世界派だけで、教団派はまた違った判断をしたのだろうけれど。
ここでも派閥がモノを言ったというわけだ。
しかし楽観できる状況ではなかった。
立て続けに仕事が回ってきたのだ。
ターゲットは「サターン」。
もちろん俺は猛抗議した。各務珠璃も拒否した。
佐々木双葉は今回の件と無関係だ。
消す必要がない。
だが、こういうときの常として、俺たちが断れば浪人が動き出すはずだった。
このところ佐々木双葉はセンターに姿を見せていない。どこにいるのかも分からない。しかし対策本部は情報をつかんでいる。放っておけば殺されてしまう。
「助けに向かおう」
俺は鐘捲雛子とともに執務室へ詰めかけた。
しかし各務珠璃は頭を抱えるばかりだ。
「でも、どこに行けばいいか分からないんですよ?」
「誰か知ってるヤツはいないのか?」
「島田さんなら……」
「電話してくれ。俺が説得する」
「いえ、さっきから何度かかけてるんです。でも出なくて」
「クソ……」
アテもなく車を出したところで、いたずらに時間を浪費するだけだ。それに、ヘタすると目的地から遠ざかることさえありうる。
なぜこんなことになってしまうのだろう。目的も分からない。彼女はなにも悪いことはしていないのだ。なのに命を奪うなんて……。
いや、俺たちだって、特に恨みもない人間を消してきた。こんなときだけ被害者面するのはおかしい。
それでも、佐々木双葉は死ぬべきではない。
機械の姉妹が衛星で探索しているが、屋内までは見通せない。あるいは、もし浪人の集団を発見できれば、そこから進路を割り出せる。
どちらかでもいい。見つけてくれさえすれば。
スマホが鳴った。
見ると、登録したおぼえのないIDから、座標のようなものが送られていた。いったいなんなのだろうか。スパムか?
俺のスマホを監視していたとおぼしき機械の姉妹からメッセージが来た。
「座標周辺の様子を監視したところ、浪人と思われる集団を発見しました。おそらくそこに佐々木さんがいると思われます」
「なんなんだ? 協力者か?」
「それはのちほど」
もったいぶりやがって。
いや、いい。場所が分かっただけで十分だ。
「特定できた。行こう」
俺がそう告げると、各務珠璃が立ち上がった。
「あ、でも……。でもこれ、対策本部に対する妨害じゃ……」
「仲間が攻撃されてるんだ。つまりは俺たちへの攻撃ってことだぜ。行かせてもらう」
「……」
俺は彼女の返事も待たず、外へ飛び出した。
鐘捲雛子も来た。
*
ジョン・グッドマンはすぐさまバンを出してくれた。
法定速度を厳守しているとは言い難いが、警察にパクられない程度のスピードで。なにせ緊急事態だ。人の命がかかってる。
到着したのは郊外の家屋だ。二階建て。誰かの別荘だろうか。
路上にはいかつい車とバイクがある。
浪人どもはとっくに家の中に入り込んでいるらしく、やかましい音を立てて荒らし回っていた。しかしこれだけ威勢がいいということは、まだ佐々木双葉は見つかっていないということだ。
俺たちはバンからおりて、なるべく静かに家へ接近した。
「ラァ! 出て来いボケェ!」
「ビビってんじゃねーぞ、クソが」
どいつもこいつも口調が荒い。こんなことでは社会に適応できないぞ。
サイキック・ウェーブは感じられない。
きっと敵がセンサーを持っていることを警戒して、できるだけ気配を消しているのだろう。まあ波は感じずとも、どこにいるかは経験で分かるが。
さて、どう援護に回ったものか。
映像で攪乱してもいい。しかし敵がビーストを持ち込んでいる場合、余計な仕事が増える。
サイキック・ブラスターで一部だけ攻撃するか。いや、これも微妙にリスクがある。例の老人みたいに、とんでもない動きをするかもしれない。ヘタするとただのチンピラがパワーアップしてしまう。
やはり文明の利器である銃を使うか。
俺はCz75を抜き、銃口を家の中へ向けた。
「なるべく下狙ってください。彼女、おそらく屋根裏にいるんで」
「合点承知」
ジョン・グッドマンもグロック19を構えた。
射撃開始だ。
トリガーを引くと、パァンと火薬が爆ぜた。弾丸が飛翔する。
浪人たちの音がやんだ。
「は? なんだいまの?」
「タイヤ、パンクしたんじゃね?」
「おめー見て来い」
「うす」
のこのこ姿を現した男の頭部を、ジョン・グッドマンの銃弾が撃ち抜いた。
「えっ?」
「いるいる! 敵! 囲まれてんぞ!」
「ざけんなボケ!」
勘違いしてるところ悪いが、囲めるような人数ではない。
俺たちは彼らの車を盾に使い、その陰から発砲した。浪人どもはクロスボウを持っている。撃たれたら危ない。
鐘捲雛子が小声で告げた。
「裏口から奇襲する」
「あまり踏み込み過ぎないで」
「分かってる」
すると彼女は足音も立てず、風のように疾駆した。どこかの自称忍者よりはるかに忍者っぽい。
チンピラどもは弱気な声を出した。
「いや、やべーって! 銃持ってんもん!」
「逃げたほうがよくね?」
「バカ! あいつら車ンとこいんだぞ! どうやって逃げんだよ!」
その通り。逃げ場はない。周囲は山だ。
「タケシが斬られた! もう中まで来てんぞ!」
「なんで見張ってねーんだよ! 殺すぞ!」
「来てる来てる! 来てるってぇ!」
まるで武田信玄のキツツキだな。裏を叩いて表から追い出す。そしてサバく。
あの危ない家に単騎で乗り込む度胸は見習いたいものだ。いや、俺がやったら死ぬから、見習わないでおくか。
とにかく俺たちは、出てきた連中を片っ端から撃ち抜いた。全部で十数名はいただろうか。ターゲットが惑星ということもあり、だいぶ気合を入れて仕事に臨んだものと思われる。
ま、全部死体になってしまったが。
終わったと思ったが、中からまた声がした。
「待って待って! あたし! あたし! 殺さないで!」
屋根裏から出てきた佐々木双葉が、鐘捲雛子と遭遇したらしい。
まあ驚くよな、普通。
俺たちは銃を構えたまま、中へ向かった。
「佐々木さん、迎えに来たよ」
「いやー、絶対来るって信じてた。もう、みんな大好き」
ジャージ姿なのはいいとして、体じゅうが蜘蛛の巣だらけだ。あまりきれいな屋根裏じゃなかったんだろう。
俺は銃をホルスターへ戻した。
「この家は? 借りたの?」
「お爺ちゃんの別荘。使っていいっていうから、隠れてたんだ。そしたら急に来てさ。ひどくない? テレビまだ途中だったのに」
「今後はセンターで寝泊まりしてくれ。あそこなら安全だから」
「そうするね」
さて、目的は達成できた。
だが出発前に各務珠璃が言った通り、この行動は問題になるだろう。ま、怒るのは俺たちであって、あいつらではないが。
*
センターに戻ると、各務珠璃がゲッソリした顔で出迎えた。
「あ、よかった。無事だったんですね」
「君は無事じゃなさそうだな」
「分かります? なんだかすごく怒られちゃいまして……」
彼女は力なく笑った。
だが、しょげることはない。
「あいつらがなんと言おうと、これは正当防衛だ。文句があるならそれでもいい。ただ、俺たちだって黙っちゃいない。やるならとことんやる。必要なら言ってくれ。俺も交渉の席につく」
すると彼女は目をパチクリさせた。
「あ、いえ、大丈夫です。今回は目をつむってくれるそうです」
「はい?」
「風間さんが仲裁に入ってくれたそうで。今回は、風間さんの顔を立てて水に流すと……」
どの風間さんだ?
議員か官僚か投資家かは分からないが、まあ済んだならいい。
佐々木双葉も申し訳なさそうな顔だ。
「ごめんね、あたしのせいで」
「いえ、佐々木さんは悪くありません。悪いのは対策本部ですから」
その通りだ。
どうせ派閥争いの前哨戦として、とりあえず惑星を消しておけということになったのだろう。狙い撃ちにされたのは教団派だ。
内部でケンカするのは結構だが、他人を巻き込まないで欲しいものだ。
*
生活スペースに入ると、機械の姉妹がやってきた。
「あのあと、青村さんも駆けつけたようですね」
「え、そうなの? 会わなかったけど」
「ええ。到着したのは皆さんが撤収したあとです。ずいぶん出遅れたようですね」
それでもいちおう正確な場所は特定できたということか。
彼女は表情も変えずこう続けた。
「外部に漏れるといけないので、オンラインではお伝えできませんでしたが、協力者の正体はつかめました」
「優秀だな」
「例のディープスロートです」
「ああ、早川さんか。これまでの恩返しってことかな」
情けは人の為ならず。巡り巡って自分に返ってくるというわけだ。やはり普段から人には優しくしておくものだな。
すると佐々木双葉が機械の姉妹に抱きついた。
「機械ちゃん、ありがとー! みんなもありがとー! 双葉ちゃん、死ぬかと思っちゃった!」
「まあ、あと少しで死んでた可能性はありますね」
「そういうこと言わないの。あー、でも安心したらおしっこしたくなっちゃった。トイレ行くね」
「……」
許可をとる必要はない。自由に行ってくれ。
鐘捲雛子も苦笑いだ。
「また騒がしくなるわね」
結構なことだ。しんと静まり返っているよりは活気があっていい。
だが、今回の件は、たぶん俺たちもよくない。
このところ、センターは一丸となって惑星と戦ってきた。佐々木双葉としては、部屋にいづらかったのだろう。
もっと早く気づいて、互いに話し合っておくべきだった。
もちろん一番悪いのは対策本部だ。あいつらは、他人の命が消し飛ぶことなど、派閥争いの余波くらいにしか考えていない。誰かが再教育すべきだ。連中の倫理観は幼稚園児にも劣る。
いっそ「ママ」でも送り込んで、バブみに目覚めてもらうか。
いや、これは冗談でない。彼女は赤羽義晴を落とした逸材だ。ガキのころから勉強ばかりで、大人になっても出身校の話ししかできない連中には、あの手の攻撃が一番効く。
人は「憎悪」とはいつでも戦えるが、「愛」にはなかなか抗えないものだ。
銃をぶっ放すだけが戦闘じゃない。こちらには逸材が揃っている。いつまでも愚かでいるつもりなら、修正する準備がある。
対策本部の連中も、そのことを肝に銘じておいて欲しいものだ。
(つづく)




