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祝祭の開幕 ~抽象のパレイドリア~  作者: 不覚たん
整然編

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37/42

ヘルプ

 数日後、ヴィーナスをターゲットとした仕事が回ってきた。

 対応したのは鐘捲雛子とジョン・グッドマン。

 俺は留守番だ。


 惑星プラネットがこうしてみんな死ぬべきだったのか、それは分からない。ただ、ガイアという脅威に対処しようと思ったら、やはり彼女たちを排除する必要があった。


 朝の十時に出かけた二人は、午後の二時には戻ってきた。

 対策本部の官僚宅に潜伏していたらしい。その際、ヴィーナスをかばった官僚も死亡したとのことだが、その件は不問とされた。まあ不問と判断したのは主流派と世界派だけで、教団派はまた違った判断をしたのだろうけれど。

 ここでも派閥がモノを言ったというわけだ。


 しかし楽観できる状況ではなかった。

 立て続けに仕事が回ってきたのだ。

 ターゲットは「サターン」。


 もちろん俺は猛抗議した。各務珠璃も拒否した。

 佐々木双葉は今回の件と無関係だ。

 消す必要がない。

 だが、こういうときの常として、俺たちが断れば浪人が動き出すはずだった。

 このところ佐々木双葉はセンターに姿を見せていない。どこにいるのかも分からない。しかし対策本部は情報をつかんでいる。放っておけば殺されてしまう。


「助けに向かおう」

 俺は鐘捲雛子とともに執務室へ詰めかけた。

 しかし各務珠璃は頭を抱えるばかりだ。

「でも、どこに行けばいいか分からないんですよ?」

「誰か知ってるヤツはいないのか?」

「島田さんなら……」

「電話してくれ。俺が説得する」

「いえ、さっきから何度かかけてるんです。でも出なくて」

「クソ……」

 アテもなく車を出したところで、いたずらに時間を浪費するだけだ。それに、ヘタすると目的地から遠ざかることさえありうる。

 なぜこんなことになってしまうのだろう。目的も分からない。彼女はなにも悪いことはしていないのだ。なのに命を奪うなんて……。

 いや、俺たちだって、特に恨みもない人間を消してきた。こんなときだけ被害者面するのはおかしい。

 それでも、佐々木双葉は死ぬべきではない。


 機械の姉妹が衛星で探索しているが、屋内までは見通せない。あるいは、もし浪人の集団を発見できれば、そこから進路を割り出せる。

 どちらかでもいい。見つけてくれさえすれば。


 スマホが鳴った。

 見ると、登録したおぼえのないIDから、座標のようなものが送られていた。いったいなんなのだろうか。スパムか?

 俺のスマホを監視していたとおぼしき機械の姉妹からメッセージが来た。

「座標周辺の様子を監視したところ、浪人と思われる集団を発見しました。おそらくそこに佐々木さんがいると思われます」

「なんなんだ? 協力者か?」

「それはのちほど」

 もったいぶりやがって。

 いや、いい。場所が分かっただけで十分だ。


「特定できた。行こう」

 俺がそう告げると、各務珠璃が立ち上がった。

「あ、でも……。でもこれ、対策本部に対する妨害じゃ……」

「仲間が攻撃されてるんだ。つまりは俺たちへの攻撃ってことだぜ。行かせてもらう」

「……」

 俺は彼女の返事も待たず、外へ飛び出した。

 鐘捲雛子も来た。


 *


 ジョン・グッドマンはすぐさまバンを出してくれた。

 法定速度を厳守しているとは言い難いが、警察にパクられない程度のスピードで。なにせ緊急事態だ。人の命がかかってる。


 到着したのは郊外の家屋だ。二階建て。誰かの別荘だろうか。

 路上にはいかつい車とバイクがある。

 浪人どもはとっくに家の中に入り込んでいるらしく、やかましい音を立てて荒らし回っていた。しかしこれだけ威勢がいいということは、まだ佐々木双葉は見つかっていないということだ。

 俺たちはバンからおりて、なるべく静かに家へ接近した。

「ラァ! 出て来いボケェ!」

「ビビってんじゃねーぞ、クソが」

 どいつもこいつも口調が荒い。こんなことでは社会に適応できないぞ。

 サイキック・ウェーブは感じられない。

 きっと敵がセンサーを持っていることを警戒して、できるだけ気配を消しているのだろう。まあ波は感じずとも、どこにいるかは経験で分かるが。


 さて、どう援護に回ったものか。

 映像ヴィジョンで攪乱してもいい。しかし敵がビーストを持ち込んでいる場合、余計な仕事が増える。

 サイキック・ブラスターで一部だけ攻撃するか。いや、これも微妙にリスクがある。例の老人みたいに、とんでもない動きをするかもしれない。ヘタするとただのチンピラがパワーアップしてしまう。

 やはり文明の利器である銃を使うか。

 俺はCz75を抜き、銃口を家の中へ向けた。

「なるべく下狙ってください。彼女、おそらく屋根裏にいるんで」

「合点承知」

 ジョン・グッドマンもグロック19を構えた。

 射撃開始だ。

 トリガーを引くと、パァンと火薬が爆ぜた。弾丸が飛翔する。

 浪人たちの音がやんだ。

「は? なんだいまの?」

「タイヤ、パンクしたんじゃね?」

「おめー見て来い」

「うす」

 のこのこ姿を現した男の頭部を、ジョン・グッドマンの銃弾が撃ち抜いた。

「えっ?」

「いるいる! 敵! 囲まれてんぞ!」

「ざけんなボケ!」

 勘違いしてるところ悪いが、囲めるような人数ではない。

 俺たちは彼らの車を盾に使い、その陰から発砲した。浪人どもはクロスボウを持っている。撃たれたら危ない。

 鐘捲雛子が小声で告げた。

「裏口から奇襲する」

「あまり踏み込み過ぎないで」

「分かってる」

 すると彼女は足音も立てず、風のように疾駆した。どこかの自称忍者よりはるかに忍者っぽい。

 チンピラどもは弱気な声を出した。

「いや、やべーって! 銃持ってんもん!」

「逃げたほうがよくね?」

「バカ! あいつら車ンとこいんだぞ! どうやって逃げんだよ!」

 その通り。逃げ場はない。周囲は山だ。

「タケシが斬られた! もう中まで来てんぞ!」

「なんで見張ってねーんだよ! 殺すぞ!」

「来てる来てる! 来てるってぇ!」

 まるで武田信玄のキツツキだな。裏を叩いて表から追い出す。そしてサバく。

 あの危ない家に単騎で乗り込む度胸は見習いたいものだ。いや、俺がやったら死ぬから、見習わないでおくか。

 とにかく俺たちは、出てきた連中を片っ端から撃ち抜いた。全部で十数名はいただろうか。ターゲットが惑星プラネットということもあり、だいぶ気合を入れて仕事に臨んだものと思われる。

 ま、全部死体になってしまったが。


 終わったと思ったが、中からまた声がした。

「待って待って! あたし! あたし! 殺さないで!」

 屋根裏から出てきた佐々木双葉が、鐘捲雛子と遭遇したらしい。

 まあ驚くよな、普通。

 俺たちは銃を構えたまま、中へ向かった。

「佐々木さん、迎えに来たよ」

「いやー、絶対来るって信じてた。もう、みんな大好き」

 ジャージ姿なのはいいとして、体じゅうが蜘蛛の巣だらけだ。あまりきれいな屋根裏じゃなかったんだろう。

 俺は銃をホルスターへ戻した。

「この家は? 借りたの?」

「お爺ちゃんの別荘。使っていいっていうから、隠れてたんだ。そしたら急に来てさ。ひどくない? テレビまだ途中だったのに」

「今後はセンターで寝泊まりしてくれ。あそこなら安全だから」

「そうするね」

 さて、目的は達成できた。

 だが出発前に各務珠璃が言った通り、この行動は問題になるだろう。ま、怒るのは俺たちであって、あいつらではないが。


 *


 センターに戻ると、各務珠璃がゲッソリした顔で出迎えた。

「あ、よかった。無事だったんですね」

「君は無事じゃなさそうだな」

「分かります? なんだかすごく怒られちゃいまして……」

 彼女は力なく笑った。

 だが、しょげることはない。

「あいつらがなんと言おうと、これは正当防衛だ。文句があるならそれでもいい。ただ、俺たちだって黙っちゃいない。やるならとことんやる。必要なら言ってくれ。俺も交渉の席につく」

 すると彼女は目をパチクリさせた。

「あ、いえ、大丈夫です。今回は目をつむってくれるそうです」

「はい?」

「風間さんが仲裁に入ってくれたそうで。今回は、風間さんの顔を立てて水に流すと……」

 どの風間さんだ?

 議員か官僚か投資家かは分からないが、まあ済んだならいい。

 佐々木双葉も申し訳なさそうな顔だ。

「ごめんね、あたしのせいで」

「いえ、佐々木さんは悪くありません。悪いのは対策本部ですから」

 その通りだ。

 どうせ派閥争いの前哨戦として、とりあえず惑星プラネットを消しておけということになったのだろう。狙い撃ちにされたのは教団派だ。

 内部でケンカするのは結構だが、他人を巻き込まないで欲しいものだ。


 *


 生活スペースに入ると、機械の姉妹がやってきた。

「あのあと、青村さんも駆けつけたようですね」

「え、そうなの? 会わなかったけど」

「ええ。到着したのは皆さんが撤収したあとです。ずいぶん出遅れたようですね」

 それでもいちおう正確な場所は特定できたということか。

 彼女は表情も変えずこう続けた。

「外部に漏れるといけないので、オンラインではお伝えできませんでしたが、協力者の正体はつかめました」

「優秀だな」

「例のディープスロートです」

「ああ、早川さんか。これまでの恩返しってことかな」

 情けは人の為ならず。巡り巡って自分に返ってくるというわけだ。やはり普段から人には優しくしておくものだな。

 すると佐々木双葉が機械の姉妹に抱きついた。

「機械ちゃん、ありがとー! みんなもありがとー! 双葉ちゃん、死ぬかと思っちゃった!」

「まあ、あと少しで死んでた可能性はありますね」

「そういうこと言わないの。あー、でも安心したらおしっこしたくなっちゃった。トイレ行くね」

「……」

 許可をとる必要はない。自由に行ってくれ。

 鐘捲雛子も苦笑いだ。

「また騒がしくなるわね」

 結構なことだ。しんと静まり返っているよりは活気があっていい。


 だが、今回の件は、たぶん俺たちもよくない。

 このところ、センターは一丸となって惑星プラネットと戦ってきた。佐々木双葉としては、部屋にいづらかったのだろう。

 もっと早く気づいて、互いに話し合っておくべきだった。


 もちろん一番悪いのは対策本部だ。あいつらは、他人の命が消し飛ぶことなど、派閥争いの余波くらいにしか考えていない。誰かが再教育すべきだ。連中の倫理観は幼稚園児にも劣る。

 いっそ「ママ」でも送り込んで、バブみに目覚めてもらうか。

 いや、これは冗談でない。彼女は赤羽義晴を落とした逸材だ。ガキのころから勉強ばかりで、大人になっても出身校の話ししかできない連中には、あの手の攻撃が一番効く。

 人は「憎悪」とはいつでも戦えるが、「愛」にはなかなか抗えないものだ。

 銃をぶっ放すだけが戦闘じゃない。こちらには逸材が揃っている。いつまでも愚かでいるつもりなら、修正する準備がある。

 対策本部の連中も、そのことを肝に銘じておいて欲しいものだ。


(つづく)

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