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49 あるものだけで作りましょう

 テオがキッチンへと行くと、夏帆がガラスボウル入った牛乳に卵を割り入れ、泡だて器を持っている所だった。


「カホちゃん、オレも混ぜようか」

「あ、テオさん。ロディくんは大丈夫ですか?」


 夏帆の驚いた様子にテオは頷き返す。


「おとなしく待ってろって言ったからね」


 言いながら泡だて器を受け取り、ボウルを抱え込む。


「ええっと、こんな感じで混ぜればいいのかな」


 ぎこちない手つきで混ぜ始めたテオを見て夏帆は微笑んだ。


「はい。お兄ちゃんより全然上手です」

「……あの話を聞いた後で、イツキさんと比べられるとちょっとへこむよ」

「え!? あ、ごめんなさい」

「ははは、でもオレも料理なんてずっとしてないけどね」


 牛乳と卵が混ざったので、一旦手を止めてもらう。量っていた分量の小麦粉と砂糖をそっと入れ、サラダ油も少し入れた。この小麦粉はそのまま使ってもダマにならない商品で、量もそんなに大量に入っていないので買うときも重たくない。夏帆の愛用品の一つだ。


「テオさんは、普段はいつも外食なんですか?」


 あんなに食べるのだ。外食ばかりしていてはお金がかかるだろうし、添加物があるのか分からないけれどやはり体にはあまり良くなさそうに思える。


「そうだね。普段は屋台で買ったりとか、ビン詰めだとか……そんな感じかな」

「そうですか……」


 予想通りの返事が返ってきて、夏帆は困った様に首を傾げた。

 ガラスボウルと泡だて器が擦れて、カチャカチャとリズミカルな音がする。夏帆はこの音を聞くのが好きだ。台所に立つ祖母と、その隣に立って手際の良い調理を興味津々で見守っていた幼い頃を思い出す。


「もう大丈夫です。ありがとうございます」


 夏帆の言葉にテオが手を止める。夏帆はボウルを受け取り、泡だて器の代わりにお玉を入れた。フライパンは先ほど一旦熱したので弱火にかける。


「本当に、ガスって青い炎が綺麗だよね」

「ああ! テオさん! あんまり顔を寄せると危ないですよ」


 夏帆の先輩が、前髪が極端に短くなったことを思い出した夏帆は慌ててテオに注意した。

 先輩は、タバコに火を付けようとしたらライターが見当たらなかったそうだ。面倒臭がった彼は口にタバコを加えたまま……あろうことか、コンロで火を付けてしまったそうだ。もちろん、前髪は焼け焦げてしまった。


「こんなに綺麗なのに、ちゃんと燃えるから不思議だね」

「青い炎は、赤い炎よりも温度が高いそうですよ」


 テオと話をしながら、夏帆はお玉にクレープ液を少しすくってフライパンへと薄く広げた。薄い生地だからすぐに火が通る。


「ああ、いい香りだね」


 生地の焼ける甘い香りにテオが目を細めた。


 その熱々の生地の上に、あらかじめ切り分けておいたバターを一切れ滑らせた。バターはすーっと溶けていく。塗り終わったら、今度はコーヒー用のグラニュー糖を1本振りかけ、レモン汁を少しだけ振りかけたら折りたたむ。


「本当は、トッピングとかあれば良かったんでしょうけど」


 興味深そうに見ているテオに残念そうに夏帆は告げた。

 今現在、夏帆の家にはフルーツも生クリームも無いのだ。


「これだけでもう十分美味しそうだけど」


 そう返したテオの瞳はキラキラと煌めいていて、気を使って言っている様子は全くない。夏帆はほっとしたように笑みを浮かべた。


 並んだ三枚の平皿にはそれぞれ三角に折られたクレープ生地が並ぶ。焼き立ての生地からはほんわりと湯気が漂い、それと同時に甘い香りも立ち込めている。


 温かいおかず以外のクレープならば、炒ったスライスアーモンドを散らして。その上からチョコレートソースをかけるのも大好きだけれど、生憎とスライスアーモンドなんて常備はしていない。


「はい。できましたよ」

「!」


 本当に簡単なもので申し訳ない気持ちだったが、テオの嬉しそうな表情は素直で夏帆もなんだか嬉しくなってくる。


「運びましょう」


 ロディの分をラップで包まないと……と思ったが、ついさっき、穴は広がってしまったのだった。恐らくこの平皿程度なら簡単に通れるだろう。


「オレが持っていくよ」


 そう言ってテオが皿を2つ持ち上げた。にこにこと嬉しそうに2皿を構える彼を見て、全部ぺろりと平らげてしまいそうだと思い、夏帆は密やかに笑みを零したのだった。


少し短めです。すいません。


次話、ロディくんもぐもぐ。時間が少し進みます。

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