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48 美味しい物、ください

「穴、でっかくなっちゃったなあ」

「そうですねえ。これはまずい大きさになっちゃいましたね」


 夏帆は苦笑いを浮かべ、穴を指さした。


「私くらいだったら、なんとか通れちゃいそうですね。試してみます?」

「絶対ダメ! 危険すぎる」


 テオが慌てて首を横に振る。こんな不確かな存在のものに夏帆を通させるわけにはいかない。


「向こうに行って、穴が閉じちゃったらどうするの」

「わ、それは困りますね」


 夏帆は少し考え、にこっと笑みを浮かべた。


「じゃあ、テオさんがあちらに戻った時に試してみましょうか」

「!」


 思いもしない言葉に、テオは目を瞠った。


「万が一、穴が塞がってしまっても……テオさんが居るなら安心ですし」

「……本当にそうかな」

「え?」


 二人の世界がまた分かたれて。夏帆と遠く離れてから自分の元へと彼女が転がり込んで来たら。


(……オレ、カホちゃんを返せる自信ないんだけど)


「冗談だよ。そうだね、オレがあっちに戻った時に実験してみよっか」


 内心などおくびにも出さずに、テオは明るく笑ってみせた。


「ふふふ、お父さんとおじちゃんが行った世界……。私も見てみたいです」

「そうだね。オレも、カホちゃんに見せてあげたい」


 この世界とは違って少し不便だけれど、どこか人情味の溢れる市場。二人で並んで歩けたらどんなに楽しいだろうか。彼女は結構好奇心が旺盛だから、いろんなものに興味を示すだろう。そうしたら色々と教えてあげるのだ。彼女が自分にそうしてくれたように。


◇◇◇


 玄関口での押し問答は意外とあっさりと終わったようだ。

 そして、心配いらないと言ったテオの言葉通り、ロディは飄々とした様子で穴の前へと戻ってきた。


「ロディ、出て行くときには扉をちゃんと付けていけよな」

「うん大丈夫。オレ特製の凍てつく扉を付けておくからさ」

「ふふふ、なんだか触ったら凍ってしまいそうな扉ですね」

「うん。本当に凍るから凍てつく扉なんだよ! よく分かったね」


 夏帆の冗談に真顔で返すロディ。顔を引き攣らせた夏帆にテオも真顔で頷いた。


「オレの部屋に無断で入るのは機密を狙うことと同義だからね」


(そっか。テオさんは副団長さんだもんね) 


 氷でできた無人の部屋へと侵入しようものなら、あっという間に氷漬けというわけだ。どうやら、あちらの世界には恐ろしいセキュリティシステムがあるようだ。竜騎士限定だろうけど。

 

「なあなあ! オレにも何か美味しい物、食わせて」


 穴の向こうから、キラキラと輝く金色の瞳が覗く。テオの薄いアイスブルーがそんな輝きを持って覗いていたっけと懐かしさを感じた。


「ええっと……。そうは言っても、お買い物してないから何もなくって」


 夏帆は困った様子で首を竦め、ちらりとクロゼットの外を見る。掛け時計は二時半を指している。そろそろオヤツの時間だ。


「そうだ。クレープで良かったら作れるけど」

「!」

「!」


 夏帆の言葉に、穴の向こうの金色の瞳と……何故かテオの瞳がきらきらと輝く。


「え!? じゃ、じゃあ。テオさんも食べますか?」


 こくこくとテオの頭が上下した。さっき昼食を取ったくせに、どうやら食べたいらしい。


「テオさん、もうお腹空いちゃったんですか?」

「言うほどお腹は空いてないんだけど……食べたいな」


 テオの言葉に、夏帆は仕方ないですねと笑う。


「じゃあ、みんなで食べましょう! ちょっと準備してくるので、待っててください」

「ありがとう、カホちゃん」


 夏帆は一旦クロゼットの外へと出て行った。キッチンの方へと歩いて行き、物を取り出す音に水を使う音が聞こえ始めたのを確認して、テオは穴の向こうの相棒へと話しかけた。


「ロディ。柘榴に動きはあったか?」

「何も」

「……本当に?」

「本当だよ。一応、テオの代わりってことで頑張ってるんだけどー」


 ロディは不満そうに口を尖らせた。


「オレがこんなにがんばってるのに。テオは女の子といちゃいちゃしてるし」

「……いちゃいちゃしてるように、見える?」

「そう見えない人が居たら、オレが会って視力を検査してやる」


 そっか。いちゃいちゃしてるように見えるのか……。なんだかしみじみと呟く相棒を見て、少年竜は首を傾げた。


「リアムは?」

「ああ。団長はここには居ないんだ。ここは彼女の……カホちゃんの住まいだから」

「へー。この穴ってさ、ずっと前から繋がってたんだろ」


 ロディの言葉にテオは渋々と頷いた。


「あの美味しい匂いがした時に、きちんと確かめておけば良かったなあ。そうしたら、もっと早く食べれたのかもしれかったのに」


 悔しそうなロディにテオは苦笑いを零す。


(そう言うと思っていたから教えなかったんだけどね)


「オレ、カホちゃんを手伝ってくるよ」

「いってらっさーい」

「……ロディ。くれぐれも。くれぐれもっ!! オレの部屋の備品は破壊しないでくれよ」


 もう扉に関しては5度目なので正直諦めている。しかし、ロディが今いる場所はテオの居室なのだ。なるべくならそのままを保って欲しいものだ。


 テオはロディに何度もしつこく何度も念押しをして、キッチンへと向かった。



飼い主と竜は似るって、よく聞きますよね!

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