表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/59

47 長生きでも、子どもは子どもでした

「なあテオ。そっちはお前の行った世界なんだろ」


 ロディの言葉に頷いたテオだったが、相棒の金色の瞳が好奇心に煌めくのを見て嫌そうな表情になる。


「オレも、ちょっとだけそっちに行きたいな」

「いや、無理でしょ」

「この穴をくぐれば、行けるんだろ」


 とんでもないことを言いだしたロディに、成り行きを見守るしかない夏帆はおろおろとテオと穴の向こうの少年を見比べる。ちなみに手はがっしりと握られていることも加わり、彼女はもういっぱいいっぱいだ。


「テオに行けたんだ。俺にも行けないはずはない」

「や、お前がそっちに居ないと、オレは戻れないからね」


 何故、契約竜を置いて竜騎士が二人も世界を渡ったのか思い出せと、テオが呆れたように諭す。


「うーん、でもさ! 試してみるくらいいいじゃん」


 そう言って、穴から少年の水色の頭がぴょこんと出てくる。


「!」

「や、テオのつがいで、賢者サマの娘さん」


(だからツガイって……! でもなんかこの男の子、テオさんに似てる)


 見た目は全然違うのだけれど、喋り方とか振る舞いとか……テオが子どもの頃はこんな感じだったんじゃないかなと想像して、夏帆は笑みを浮かべた。


「ふふふ、こんにちはロディくん。カホです。お父さんとおじちゃんが、いつもお世話になってます」

「こんにちは、カホ。テオとリアムが世話になってます」

「ロディ、呼び捨てなのか」


 挨拶をし、夏帆がぺこりと頭を下げる。つられてロディも穴に頭を突っ込んだままぺこりと頭を下げ、テオがなんだか悔しそうに呟いた。


 ロディは少年とはいえ、夏帆より大きくテオより小さい。穴を通ってこちらに来るのはとても無理そうに見えた。少年が穴から頭だけひょっこりと出している姿はなんだかとても可愛らしい。


「な、テオ。カホって美味しい匂いがするな!」

「え」


 ロディの笑顔満面の物騒な発言に、夏帆はブルリと身震いをする。


(竜って、人間食べちゃうんだっけ…?)


「……! そうか。なあロディ、オレからも美味しそうな匂いする?」

「んー。おんなじ美味しそうな匂いがする。なんだろう、トマの実みたいな……」


 食べてから結構時間が経ったのに。洋服に匂いでも付いているのだろうか……。不安になった夏帆は繋がれていない方の腕を鼻先に持って行って臭いをチェックするが、いつもの洗剤と柔軟剤を混ぜた香りしかしない。自分の匂いとは自分には分からないものなのだろうか。


「その表面だけの匂いだけじゃなくって。一番最初に美味しそうな匂いがするって言った時と同じかな」

「一番最初っていつ?」

「ああ、えーっと。食堂のオバ……お姉さま方にロディがスジ肉を貰っていた日」


 ロディの顔がぱっと輝く。スジ肉を貰った時のことを思い出したのだろう。


「ああ、その時は魚の匂いだったけど。そうだなー、同じ優しい……心が満たされるいい匂いだ」

「そっか」


(もしかして腹持ちがいいのは、オレに作用しているのではなくって、竜に関連しているのかも)


 不思議な料理の糸口が見えたような気がしてテオは笑みを浮かべた。帰ったらリアムに報告しなくては。この異世界出張は実りが多いものになりそうだ。


「あの、テオさん」

「?」


 遠慮がちな声が聞こえてきて、我に返る。そんなテオに、なんだか頬を染めた夏帆がもじもじと告げた。


「そ、そろそろ、手を離してもいいでしょうか」

「!」


 ずっと手を繋いでいたことに今更ながら気付いて、慌ててぱっと離す。夏帆はほっとしたように繋がれていた右手を胸の前にそっと抱き込んだ。


「ごめん、カホちゃん。うっかり握ったまんまだったね。痛くなかった?」

「いえ、痛くはなかったですけど」


 ちょっとだけ、恥ずかしかったですけど。と、消え入りそうな声で告げられると我ながら恥ずかしくなってきてテオは頬をポリポリと掻いた。


「なー、オレもその美味しいもの食べたい」

 

 すっかり忘れ去られていたロディが恨めし気な声を出す。頭が小刻みに動いている所を見ると、壁の向こう側でジタバタしているようだ。


(百年近く生きているのに、中身は子どものまんまだよね)


 心は、体に引きずられるものだと言ったのはリアムだっただろうか。


「わ、あんまり暴れちゃうと怪我しますよ。ギリギリで頭が通っているんですから」


 夏帆の心配そうな言葉にロディは笑い飛ばした。


「大丈夫だよ。カホは心配性なんだなあ。オレって竜なんだぞ」


 知識としては知っているけれど、夏帆から見たロディは完全に少年だ。庇護すべき対象にしか見えない。


「こうやって、ここで竜化すれば穴が広がってそっちに行けるようになるんじゃないか?」

「!」


 ロディの姿が歪み、少し膨らむ。音のない軋みが聞こえて、穴がぎゅうっと広げられた。

 彼が竜の本性へと姿を変えようとしていることにテオが気付き、慌てて声を上げた。


「よせ、ロディ! その穴はお前が考えているよりずっと脆いぞ! だいたい、部屋が壊れるからやめてくれ!」


(お前の壊す物はことごとく高い物ばっかりなんだってば!)


 テオの心よりの叫びが届いたのか、それとも諦めたのか。ロディの姿は元の少年の姿へと定まったが……。 

「穴が……だいぶ、広がりました、ね」


 幼児向けのトンネルくらいの大きさに成長してしまった穴を見つめて、夏帆がぼんやりと呟く。いまいち現実を受け止めきれないが、ロディが穴を広げてしまったのは間違いないだろう。


 テオは通れないだろうけれど、夏帆なら通れそうだ。ロディは……通れるかどうか微妙な所に見える。


「ロディ…お前は!」

「おおー。オレもそっちに行きたい……」


 怒るテオの気など知らず、好奇心を満たしたい少年の姿をした契約竜は、嬉々として穴をくぐれるか確かめようとして……眉を顰めた。

 頭を引っ込めて部屋の奥のほうへと視線を向ける。ざわざわとした大勢の話す声が夏帆の耳にも僅かに届いた。


「なんか、玄関で大騒ぎしてる」

「……だろうね。あれだけ派手にドアを壊したんだから。これでお咎め無しだったら、団の規律の見直しをしないといけないよ」

「この穴のこと、まだ知られたくないな。オレだって通ってないんだから。ちょっと行ってくるねー」


 面倒くさいけど、仕方ないっか。そう言って気まぐれな竜は大きくなった穴を置いて、夏帆とテオの視界から消えた。


「大丈夫ですかね、ロディくん」

「大丈夫だよ。あいつ、そういう誤魔化すことに関しては天下一品だから」


 残された夏帆は不安そうにテオを見上げ、テオは肩を竦めて苦笑いを零す。


『ロディ殿! また扉を破壊されたんですか』

『だって、鍵持ってなかったから』

『ファイエット副団長殿より預けたと聞き及んでおりますが…!』


 遠くから聞こえる話し声に、破壊に関しては初犯じゃなくて常習犯なんだなと。そんなどうでもいいことを夏帆は考えていた。

▼ ロディの穴への攻撃……

▼ 穴は広がってしまった……!


次話、ロディも美味しいものを食べたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ