29 ぽかぽかマートに到着です
「ね、カホちゃんて料理する時に何か特殊なことしてる?」
「え? 特殊なって、どんなですか」
先ほどまで母が乗っていた軽自動車の助手席。今はテオが座っているからなんだか不思議な気がする。壁を隔てていないほうが当たり前なのに。
だいぶ日が落ちてきた。運転する身には夕日が眩しくて少しだけサンシェードを下ろすと、気付いたテオも真似て日除けをしている。
「…あ、これすごい便利だ。ほら、パストーリ団長にご飯作ってあげたんでしょ」
「ああ! 聞いたんですね。お恥ずかしいことに作ったっていっても、インスタントラーメンをごくごく普通に作っただけですよ」
オレも食べたかった。という言葉は飲み込んだテオの言葉に、視線はしっかりと前方を見据えたまま、夏帆は苦笑いを浮かべた。いつも無人の農道だけどこの時間帯は気を付けなくてはならない。犬の散歩の時間帯なので急に人が増えるのだ。
「団長がね、昼食を食べきれなくてオレにくれたんだよね」
「あの後にお昼食べに行ったんですか!」
(日本昔話級のライスも付いてたのに!?)
それは残すはずだと、夏帆は笑い出す。
「ふふふ、だってラーメンを丸々一杯食べて、しかもあの量のご飯まで食べたんですもん。さすがにお腹に入りきりませんよ」
そんな真面目に不思議がるなんて、と笑う夏帆にテオは首をかしげた。
(食事を取って二時間後なら、本来の団長だったら余裕で完食するはず)
「団長が食べ物を他人にあげるっていうのは異常事態なんだよね」
「ええっ! そんなに食いしん坊なんですか……」
(そういえば、あの量のご飯を見ても普通だったっけ)
驚く夏帆に、そういえば竜騎士の説明をしていないことをテオは思い出す。不思議な料理のことは彼女自身も自覚が無いようだし、食べた団長にそれとなく聞いてみることにする。
(とりあえず、食いしん坊の汚名を返上しないと、ね)
「オレと団長が竜騎士なのは説明したよね」
「はい。竜に乗る騎士さん、ですよね。テオさん一押しのカップケーキに乗ってた竜みたいな感じですか?」
テオにもらった可愛いカップケーキ。そこに乗っていた竜を思い出す。よもぎ色のスポンジの上に水色の小さな竜が乗っていた。
返事がなくて、夏帆がチラリとテオに視線を走らせるとテオは右手で顔を覆っていた。夕日のせいだろうか、頬が赤いようにも見える。
「あ、あれ? テオさん、どうしたんですか?」
「や、なんでもないよ……。そう、そんな感じの竜だよ。大きさはだいぶ違うけどね」
テオは手を外し、何事もなかったかのように話し始めた。夏帆は前を見ているので気付かないが頬が赤い。
(改めて言われると、竜のカップケーキをゴリ押ししたのすっごい恥ずかしいな)
今この場に相棒が居なくてよかった。絶対に見られたくない。
あのカップケーキは竜騎士団の竜たちをモデルに作られているそうで数種類残っていた。ショーケースに並ぶ見知った小さな竜たちの中から自分の相棒であり、自分の瞳と同じ竜を選んだのはごく自然なことだった。あの時は無意識だったのだけれど。
「ええっと、そう。竜という生き物は基本的に他者に対する興味が薄い生き物なんだけど、中には変わった竜もいて人間に興味を持つ者もいる。人間もそれを受け入れると“契約”というものが発生して竜の魔力の影響を受けたり、騎乗することもできるし……お互いの考えていることが、なんとなく分かるようになるんだ」
テオの説明を真面目に聞いていた夏帆は、顔を輝かせて興奮気味に返事をする。
「すごい! テレパシーみたいですね」
「てれぱし?」
知らない単語に首を傾げたテオだったが、言葉を続ける。
「ええと、でも便利なことばかりじゃなくってね。契約すると力の弱い方は影響を受けるんだ。オレの場合は髪の毛先が濃い青色になった」
「ああ、メッシュが入ってましたもんね。今は色が……」
何かを察したように言葉を濁した夏帆に、テオが慌てて手を振る。
「大丈夫! ロディは元気だよ。あ、オレの契約竜なんだけど」
「!……良かったです。ああ、もしかして違う世界にいるからですか」
「そうそう。オレもこんなに離れたことなかったからこうなるなんて知らなかった」
会えなかった三週間を埋めるように二人は話し続けた。
契約の代償に腹が減ることを説明すると、夏帆は不思議そうだったけれど合点がいった様子だった。便利なだけではないんですねとしみじみと呟いていた。
◇
あっという間に外の景色は流れて、川沿いに田んぼが延々と続く道を抜けて民家が増え、コンビニが増え……目的地のスーパーが見えてきた。二階建ての大きな建物に呆れるくらい広い駐車場。
「あっと言う間でしたね。 もうぽかぽかマートに着きましたよ」
「昼前にジロキッサンと来た所とは違うね。もっと大きい」
「はい。田舎なので土地はたくさんあるんですよ」
土曜の夕方とあって買い物客はなかなか多く、広い駐車場の店舗から少し離れた場所へと車を止めた。夏帆の住んでいる場所とは違い、一台分のスペースがとっても広くて駐車しやすい。
エンジンを停止してからスマホをチェックすると、母からお買い物リストが届いていた。
「ええっと、今晩のご飯はお鍋かな?」
「……それは、斬新な料理だね」
何か勘違いをしている様子のテオを見て、夏帆はドアノブに手を掛けて笑った。
「お鍋を食べるんじゃないですよ。見てのお楽しみですね」
買い物まで、辿りつきませんでした。スーパーは思っていたより遠かったです。
次郎吉とテオが寄ったホームセンターにはあまり食品が無いので少し遠い大きなスーパーまで行きました。エスカレーターもエレベーターもあるよ!




