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28 お久しぶりです

いつも夏帆が車を止める場所ではなくて、玄関に面した道路に車を一旦止めた。稲刈りが終わり通る車など平田家の者か次郎吉の軽トラックくらいなのだから短時間であれば問題ない。

 

 夏帆の家の駐車場は二台分。父の白い乗用車と母の軽自動車だ。夏帆と兄は必然的に少し離れた草地に駐車するのが常だ。


 なかなか大荷物になってしまったので、母が玄関に行きドアを開けてくれた。庭のほうからは帰宅を喜ぶクロの甘えた鳴き声が聞こえてくる。


 撫でくり回したいのは山々だが、積み重なった荷物の上にあった母と自分の服の紙袋を持ってまず玄関への短い石階段を登る。母が父と話していて通路が塞がってしまっている。


「お母さん、どいてー」

「あ、ごめんね」

「ああ、毛布も買ったんだったね。手伝おうか」


 父が申し出てくれたが、廊下の奥から慌てて出てくる足音が近づく。


「荷物運びはオレが手伝いますよ!」


 家の中を横に伸びる廊下から慌ただしく玄関に現れたのは、アッシュグレーの髪の毛に薄いアイスブルーの瞳の青年。とっても若く見えるけれど、彼が二十六歳だということを夏帆は知っている。


「!」

「!」


 荷物を両手にぶら下げた夏帆、パンくずを口の端に付けたテオはあんぐりと口を開いて固まった。


「テ、テオさん!?」

「カホちゃん、だよね?」


 夏帆はテオを見つめる。髪の毛の青いメッシュが無くなっているけれど間違いなくテオだ。こうやって対面するのは初めてだけれど、間違いないと言える。彼は三週間ほど会っていない、住所不明の隣人だ。


「あれ? 夏帆はテオくんと知り合いなの」


 父が興味深そうに、メガネをくいっと上げた。


(お父さんこそ、知り合いなの!?)


 驚きすぎて言葉が出てこずに口をぱくぱくとすると、母も面白そうにテオと夏帆を見比べている。

 当のテオはというと驚いてはいたものの、頭を軽く掻いて口を開いた。


「ええと、カホちゃん久しぶり。とりあえず荷物運ぶよ」


 夏帆も頷き、からからの喉から声を振り絞る。


「ありがとうございます。……えっと、テオさん。パンくずついてますよ」


 人間、混乱するとどうでもいいことが気になるものなのだなと、荷物を渡しながら夏帆は思った。



◇◇◇


「と、いうわけでオレはこの世界に来たんだ。黙っててごめんね」

 

 荷物を運びこみ、車を移動させて。炬燵に入って紅茶の入ったカップを手に抱えたまま、一通りの説明を聞いた夏帆は深く息を吐いた。口を付けなかったカップの中身はすっかり冷めてしまっている。


「テオ、何故報告を怠った」

「いえ……彼女には害悪を感じられなかったので。それにまさかミノルさんの娘だとは思ってませんでしたから」

「次元の穴だということは気付いていたんだろうに」


 呆れた様子で団長は部下を見つめ、溜息をもらす。


 テーブルの上には食べかけであろうメロンパンが2つ置いてある。十中八九さっきまでテオが食べていたのだろう。リアムも真面目な顔をして話をしているが口の端にパンくずが着いている。


(異世界の人って、みんな食いしん坊なのかな)


「えと、テオさんとリアムさんが別の世界の人というのは分かりました。そして、大変だったことも。お疲れ様です」


 夏帆はテオとリアムに向かってぺこりと頭を下げた。あの穴のことでテオが叱られてしまうのはすごく申し訳ない。それに、彼が報告していたらあの穴は塞がれていたのだろうし。


 穴の繋がる先が別の世界だと分かってはいても、夏帆を信頼して黙っていてくれたんだったら……なんだかとても嬉しく思った。


 本当は聞きたいことは山程あるけれど、何よりも穴ごしではなくて同じ炬燵に入ってテオとお話しできることはとっても嬉しい。


 しかし、再会の喜びを吹き飛ばすような聞き流せない話もあった。


「お父さんが賢者で、花田のおじちゃんが勇者っていうのがちょっと、よく分からないんですけど」


 夏帆の言葉に父は苦笑いを零し、母は不満げに口を尖らせた。


「あら。お母さんだって元魔王だもん。あんまり覚えていないけどね」


「!?」

「!?」


 母のポロリと零した言葉に夏帆の口があんぐりと開き、テオはアイスブルーの瞳を見開いた。リアムは顔をしかめ、父は困ったような笑みを浮かべている。


 二人の視線を集めて得意げな母はどう見ても普通の日本人だ。

 炬燵でみかんを食べて、ストーブの上でお餅を焼いて、時々はおでんの鍋もでんと乗せる。太ってきたことを気にして服選びのアドバイスを娘にもらう、ごくごく普通の……。


(ふ、普通って何だっけ)


 夏帆の頭がくらりとしてきた頃、父が困った顔で口を開いた。


「正確には、小夜子さんの体に魔王が入っていたんだけど……この話は長くなってしまうから一旦切ろう」


 父はパンと手を叩き、立ち上がる。


「もうすぐいつきの仕事も終わる頃だろう。買い物やら準備やらしないと」

「そうね。スーパーは遠いから急がないと」


 母も立ち上がり、引出を開けて紙とペンを取り出す。


「お買い物リスト書いておくから。荷物運搬係テオくん連れて行ってきてくれる?」


お母さんは魔王★(体だけ)


スッキリしないまま、次話は晩御飯のお買い物です。

もうすぐご飯食べるので、もうしばしお待ちください!


団長の「あれ? 腹が減らない…」話は、長くなったので次話に持越しです。ごめんなさい

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