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3人と1匹になって裏から正面へと戻っていく。

先輩たちは私が駆けだした時とそう変わらない場所で、私たちのことを待ってくれていた。

リュドミラ先輩は私の無事そうな様子に安堵の表情を浮かべ、アンドリ先輩も同様の表情を見せていたのだがどこか浮かないようにも見える。

その原因は、おそらくアンドリ先輩の横で僅かに顔色を悪くさせているマルクル先輩がいるからだろう。

あんなマルクル先輩は初めて見た。それが何だか心配になって、急いでマルクル先輩の方に戻り声をかける。


「先輩、大丈夫ですか?」

「…あぁ」


これは、ダメそうだ。隣のアンドリ先輩に伺う意味で視線を向けてみれば、静かに首を振るだけで何故こんな状態になっているのか分かっていないらしい。

勝手に行ってしまった私を心配してこうなっている、とは思えない。

心配はしてくれていただろうが、それなら私が戻って来た時点でもっと安堵の表情を浮かべていてもいいはずだ。

なら、何だろう?

私と一緒に着いて来ていたサンもマルクル先輩の様子を心配そうに見上げていた。


「もう、帰りましょう」

「そうすっかー。こいつも、こんな感じだし」


私の言葉に乗ってくれたアンドリ先輩がマルクル先輩の背中を叩いてから、元の道へと踵を返す。

その後をリュドミラ先輩が私に微笑みかけてから続いていった。ただマルクル先輩は荒廃した家屋を見たまま動こうとしない。

そんなマルクル先輩のことを心配してか、イリーナとプルーストがどうするかを迷っていたようなので「先に行ってて」と私から言えば気にしつつも元の道へ向かっていった。


「先輩、どうしたんですか?」

「…」


皆が見えなくなったのを確認してからマルクル先輩にまた声をかけてみるが、先輩は何も答えない。

どことなく先輩自身も困惑しているようにも見えた。

自分でも何でこうなっているのか分からない、とか?そんな、よく分かんないことで顔色を悪くさせてるようじゃ世話ないですよ。

とりあえず私は先輩の視線の先を邪魔するように、自分の手を翳した。

すると先輩の目が私のことを捉えて、瞬く。


「何だか分かりませんけど、私はこの通り元気ですよ」

「ワンッワンッ!」

「ほら、サンも先輩のこと心配してくれてます」


サンは私と先輩の周りをぐるぐると回って、尻尾だけでなく耳まで下げて先輩のことを心配しているようだった。

世にも珍しい廃墟恐怖症とか、かな?そんなものがあるのかは知らないけれど。


「それに、あの家も荒れているだけで結構いいところでしたよ」


廃墟が怖いのであれば、そう思わないようになればいいのでは?なんて適当に考えながら。あの家で見たものを思い出していた。

まぁ壊れていたりで多くは見れていないのだけど、全体的な雰囲気は悪くなかった。

何よりサンのいた部屋は、私の好みに近かったこともあって良かったとさえ言えるくらい。

サンだってあの家の人と一緒に住んでいる時は幸せだったのだろうと思う。

そうでもなければ、あの家に留まろうとは思わないだろうし何より名前の彫られたタグを失くさないよう机の上にわざわざ置いておくこともしないはずだ。


「あの家に住んでいた人は、きっと幸せだったでしょうね」

「ワンッ!」


サンも私の言葉に同意するかのように、元気よく吠えてくれた。よしよし、サンはいい子だねぇ。


「サンもこう言ってることですし、早く戻りましょ」

「…なんて言ってるんだ」

「ぅえ、それは、あれですね…」


まさか、そこを聞かれるとは。サンのことを見てから多分これで間違いはないだろうと確信して、改めてマルクル先輩に視線を合わせる。


「幸せだった、って」

「なら…良かった」


マルクル先輩の表情が少し晴れたようで良かった。

別に先輩がこの家のことを覚えているのさえも辛いと言うのなら、別に忘れてしまえばいいと思う。

個人的にはサンの住んでいたところでもあるし忘れてしまうのは残念だと思ってしまうけど、それは私の我が儘だしね。

それに今はサンがここに、私の元に来てくれたことの方が大切なんじゃないかと思う。


「ワフ?」

「すまなかった、戻ろう」


先輩がサンの頭を撫でてから、先に踵を返して歩き出した。私もその後を追って、横に並ぶ。


「先輩にも怖いものがあるんですね」

「そうだな。ある」


随分、素直に認めたな…。

先輩の視線は前を向いていたので今、何を考えているのかは分からなかった。

本当に廃墟恐怖症だったのかも、結局のところ分かってないんだよなぁ。別にそれが本当だったとして、弱みをゲットだぜ!とか言うつもりはないにせよ、本当のところがどうなのかは気になるよね。

先に行った皆は少し行った道の先で全員、待ってくれていた。

合流した私たちを笑顔で迎えてくれる中でアンドリ先輩だけはマルクル先輩の方を一瞥して「バーカ」とだけ言ってさっさと歩いていってしまう。


「クラウス。あまり無理はしないようにねぇ」

「問題ない。心配かけたな」

「私よりもエヴが、ね。ふふっ」


アンドリ先輩が一番に心配していたというのは、間違いじゃないだろう。それは私が戻って来た時の、あの表情からも窺えた。

普段は軽薄な態度が多いしリュドミラ先輩第一なのは変わらないけど、なんだかんだ言って幼馴染ですもんね。


「あいつには、いつも迷惑をかけられてるからな。たまにはいいだろ」

「はぁ!?俺も十分に迷惑かけられてますけどー!あと心配もしてないから!俺が心配するのはリューダだけだからー!!」

「あらあらぁ」


そんなキレ気味に返さなくとも…。照れているのか何なのか、アンドリ先輩は先頭を歩いているので分からなかったがリュドミラ先輩だけは微笑まし気にその様子を見ていた。

来た道を辿っていくと、ある木に印のついた場所まで来た。どうやらどこから元の場所に戻れるか分かるように、いつの間にやら印をつけていたらしい。

抜かりないな、と感心しながら元の場所まで全員で帰ってくることが出来た。


「別荘まで戻って、そいつ洗ってやるかー」

「いいんですか?」

「おうよー」


アンドリ先輩はサンのことを指差しながら、そう提案してくれた。これは有難い。

一度、全身を綺麗に洗いたいとは思っていたので気前よく引き受けてくれたアンドリ先輩には礼を述べておく。


「私も!私も洗いたい!」

「デレルは大人しくしてようね」

「ええぇぇぇ」


イリーナが諸手を挙げて志願していたが、あえなくプルーストによって阻止されていた。

サンはこの後、洗われることが分かっているのかいないのか弾むような足取りを見せている。

放置したままだった荷物を片付けて、別荘まで戻る道すがらでサンのことを説明した。

サンの存在を知っていたこと、あの家にいるのが見えて心配になって駆けだしてしまったこと、など…。


「ご迷惑おかけしました」

「私の可愛い子が無事で、本当に良かったわぁ。でも、次からは何か言ってからにして頂戴。お願いよ」

「はい。以後、気を付けます」


果たして次があるかはさておき、意識には留めておこうと思う。

別荘まで戻ってくると、使用人に石鹸だけ借りてアンドリ先輩が靴を脱ぎ裸足になろうとしていた。

場所はどうやら別荘から少し離れた外で洗うようだ。


「よーし!ジャコブ、やるぞ!」

「あ、僕もですか?」

「なら私も!「貴方はこっちよぉ」えぇぇ…」


まだ諦めていなかったらしいイリーナが、また手を挙げていたが今度はリュドミラ先輩に引き留められていた。

ズボンの裾を折って準備万端な様子のアンドリ先輩のところへ「行っておいで」とサンを押し出せば、素直にそっちまで行って行儀よくお座りをする。

プルーストがアンドリ先輩と同じように準備しているのだが、その完了を待たず魔法で水を出してサンのことを洗い始めた。


「そいや、こいつ名前はー?」

「サン、って言いますー」

「サン、ね。よーしよし、ぐっぼーい」


私たち、洗うのを手伝わない組は水がかからない離れた位置で洗われている様子を見守っている。

サンは水に濡れても嫌がる様子はなく、大人しく洗われていた。


「マルクル先輩は手伝わないんですか?」

「もう2人もいるのにか?」

「それもそうですね」


アンドリ先輩とプルーストによって順調に洗われているサンは今、石鹸で全身があわあわになっている。

そんなサンのことをイリーナが手をわきわきとさせながら、じっと見ていた。

そんなに洗いたかったのか…。乾かした後だったらいくらでも触っていいから、それまで我慢してね。

泡だらけのサンは、また水で全身を綺麗に洗い流されると体毛に含んだ水気を飛ばそうと思い切り体を振る。

こっちにまで飛んできた水しぶきは、マルクル先輩が魔法で防いでくれたので私たちの服が濡れることはなかった。

その代わり、サンのことを洗っていた2人は水しぶきを全身に浴びたようで服が濡れてしまっていた。


「やるだろうな、とは思ってたけどね…」

「いやー、濡れたなー」


プルーストは眉を下げ分かっていたと、諦めたように笑っている。それとは反対にアンドリ先輩は服が濡れたことに笑いながらサンの頭を撫でていた。

プルースト、なんかごめんね。

その後、魔法を使って全身を乾かされたサンの小麦色の毛並みは先ほどまでよりもふわふわ感が増していて非常に触り心地がよさそうだ。

もふもふのサンは私のところまで来ると、綺麗になったことを自慢したいのか私の前に自信満々に座る。

そんなサンのことを柔らかく抱きしめて大きな背を撫でた。乾かされたばかりで、あったかい。


「良かったね、サン」

「ワンッ!」


これは、いいふわふわ。暫し堪能してから離れて、今か今かと待っていたイリーナのことを手で招いた。


「触ってもいい?大丈夫?」

「大丈夫よ。でも、優しくしてあげてね」


イリーナも私と同じように抱きしめたかったのか、恐る恐る抱き着くと毛並みに顔を埋めていた。

存分にもふもふしていきなさいな。


「アンドリ先輩、プルースト。ありがとうございます」

「いいよー、楽しかったし」

「気にしないで」


自分たちの濡れた服も乾かし終わった2人に改めて、お礼を言っておく。

今のサンは絶賛、両手に花状態になっていた。リュドミラ先輩とイリーナに挟まれて左右から可愛がられている。


「あの子、飼うんだよね?マルティネスが帰るまでは、ここで過ごすの?」

「そうさせてもらおうかと、思ってるけど…」


プルーストはサンのことを見ている。何か思う節がありそうだ。

それが何なのかを私が聞く前に、今度はアンドリ先輩から声がかかった。


「それなんだけど、俺たちが先に連れ帰っておこうか?」

「え、いや。そこまで、して頂かなくとも」


洗ってもらっただけでも有難いのに、そこまでサンの面倒を見てもらうのは流石に悪い。

私が遠慮していると、今度はマルクル先輩も話に入って来るではないか。


「早めに医者に見せた方がいいと思うが」

「それは、そうなんでしょうけど…」


マルクル先輩の言葉に否定するところはない。

あそこにずっと居たというのなら、何か病気を持っている可能性も考えられる。もしかしたら怪我をしているなんてことも。

だから早めに医者に見せることには、賛成なのだが…。私が悩んでいると、マルクル先輩が言葉を続ける。


「医者に見せたらそこで1日、面倒を見てもらう。俺たちが世話をするわけでもないから、手間を気にする必要はない」

「まぁ、それなら?」


サンのことを見ながら、考える。サンのことを思うなら傍にいてやりたい気持ちは山々なのだが、今回は安心を取っておこうかな。

そう決めてサンのことを呼ぶと、撫でられている途中ではあったがこっちまで来てくれた。


「サン。少しの間だけ離れてしまうけれど、お医者様に体が大丈夫か見てもらいましょうか」

「クゥーン…」


あぁ、サンが悲しそうにこっちを見て来る。さっき傾いたはずの天秤が、再びグラグラと揺れ始めた。

やっぱりサンにとっては、私と一緒にいることが一番の喜びなのだろうか。そう思ってくれてることは嬉しいのだが、サン自身のことも気がかりではあるし…。


「サン」


マルクル先輩がサンの名前を呼ぶと、垂れていた耳をピンと立てて今度はマルクル先輩の足元にきっちりと座る。

まるで、そう躾けられたかのような反応の良さに首を傾げた。

いつの間に、そんな上下関係を築いたんですか?


「我慢、出来るな?」

「ワンッ!」


あれぇ?私よりご主人様してないかい、あれ?おかしい…。

マルクル先輩の足元でキリッとしているサンに、僅かな寂しさを感じているとマルクル先輩が私に視線を寄越した。


「大丈夫そうだ。先に連れ帰るが、問題ないな?」

「…はぁい」

「何故、不満そうなんだ?」


気にしないで下さい。ちょっと嫉妬してるだけなので。

私では、どうしてもサンのことを甘やかしてしまうからマルクル先輩のように接するのは難しい。

そんなわけで、サンのことは一時的にマルクル先輩に任せることが決定。詳しいことを話し合って、夕食まで食べたところで男子組はリュドミラ先輩の声かけで帰ることとなった。

サンとアンドリ先輩が名残惜し気に窓から覗いていたことに、笑えばいいやら悲しめばいいやら…。

1日ほど離れてしまうけど、サンとはまた直ぐに会えるから最終的には笑顔で見送った。待っててねー!


100話記念と言うことで日ごろの感謝を述べさせていただきます。

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